2つの「アイヒマン」映画からひも解く、ナチスの大罪を追及&探究した2人の男とは?

2017.01.17
洋画

気づいたら映画ファンになっていた

松平光冬

終戦70年を過ぎても、さまざまな形で製作されるナチス・ドイツやホロコーストを題材にした映画。

日本でも昨年から、『サウルの息子』や『栄光のランナー 1936ベルリン』、『手紙は憶えている』といった作品が多数公開された(『手紙は憶えている』の詳細についてはこちらを)。

そして2017年にも、1月から2月にかけて2本の映画が公開される。

両方ともタイトルに「アイヒマン」を冠しており、アイヒマンとはユダヤ人らを虐殺したホロコーストの中心的人物となったナチス親衛隊中佐、アドルフ・アイヒマンを指す。

2本はそれぞれ異なるアプローチでナチスの大罪を描いた史実ものとなっている。

アドルフ・アイヒマンとはどんな人物?

イェルサレム

出典 : 「イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告 」 : ハンナ・アーレント : 本 : Amazon.co.jp

1906年生まれのアイヒマンは、ヒトラーの演説に感銘を受けて32年にナチス親衛隊入隊後、35年にユダヤ人担当課に配属され、ユダヤ人迫害のプロとして、ホロコーストにおけるユダヤ人列車移送の最高責任者を務めた。
終戦後に偽名を使ってイタリアに逃れたのち、50年にアルゼンチンに移って潜伏生活を送るも、60年にイスラエル諜報部(モサド)により捕らえられ、翌年エルサレムにて裁判(通称、アイヒマン裁判)にかけられた。

62年絞首刑に処されるも、虐殺については「大変遺憾には思うが、自分は命令に従ったまで」と、自身の罪を認めることはなかった。

なおアイヒマン裁判についての映画としては、『ハンナ・アーレント』や『アイヒマン・ショー/歴史を写した男たち』などがある。

『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』:ナチス戦犯を追う孤高な男の執念

アイヒマンを追え

(C)2015 zero one film / TERZ Film

最初に取り上げるアイヒマン映画は、1月7日より公開が始まっている『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』。

1960年に、アルゼンチンに潜伏しているアイヒマンの拘束に動いたドイツ人検事のフリッツ・バウアーだが、ドイツ政府や捜査機関にはナチスの残党がいるため十分な協力が得られない。そこで彼は単身イスラエルに渡り、現地の情報機関モサドの協力を仰ごうとする。下手すれば国家反逆罪に問われる恐れもありながらも、バウアーは戦争犯罪者追及に執念を燃やす(この作品の原題は「国家(人民)vsフリッツ・バウアー」)。

ドイツ本国でもあまり認知度が高くないというバウアーの、決して清廉潔白とは言い切れなかった人間性にもクローズアップしつつ(『グッバイ、レーニン!』の主人公の父親役などで知られるブルクハルト・クラウスナーが熱演)、ナチス残党の影響力がまだ色濃かった西ドイツの情勢も反映したサスペンスドラマにもなっている。

ちなみに本作の後日談としては、63年のアウシュビッツ裁判までの道程を描く『顔のないヒトラーたち』がある。

(c)2015 zero one film / TERZ Film

『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』:人は誰しもアイヒマンになりうるのか?

ミルグラム

(C)2014 Experimenter Productions, LLC. All rights reserved.

そして2月25日から公開のもう一本のアイヒマン映画は、『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』。

1961年8月、大量のユダヤ人を死に追いやったのに、風貌からは残虐性が感じられない凡庸な中年男というアイヒマンを不思議に思ったアメリカ・エール大学の心理学者スタンレー・ミルグラムは、ある仮説の下で実験を開始する。

のちに「アイヒマン(ミルグラム)実験」と呼ばれることとなるそれは、2人の被験者が先生と生徒役となり(実は本当の被験者は先生役の人物のみ)、生徒が誤答をした際に、先生は試験官の指示通りに生徒に電気発生器(当然ニセモノ)でショックを与えなければならない、というもの。

つまりこの実験は、ためらいながらも試験官の言う通り電気ショックを与える被験者を通して、「一定の条件下(試験官)で命令されれば、人(被験者)は誰でもアイヒマンのような残虐行為をするのか」を検証するものである。

この作品では、モラルを逸脱した実験だと周囲の非難を浴びるも、学者としてナチスによるホロコーストのメカニズムを明らかにしようとするミルグラムに迫る。重いテーマだからといってシリアス一辺倒な作りではなく、カメラを通して観客に語りかける、いわゆる“第四の壁”を破る演出も取り入れるなど、ジワジワとにじみ出るユーモア要素もあるのがポイント。

冷静ながら強い情熱を持つミルグラム役のピーター・サースガード(『マグニフィセント・セブン』での非道な敵役も必見)を筆頭に、彼を支える妻サシャ役のウィノナ・ライダーや、昨年惜しくも夭折してしまった被験者役のアントン・イェルチンといったキャスト陣にも注目してほしい。

 

アイヒマンを「追及」した男と「探究」した男

アイヒマンという人物に異なる形で関わったフリッツ・バウアーとスタンレー・ミルグラムだが、晩年の両者は不遇だった。

バウアーはアウシュヴィッツ裁判以降、匿名電話や手紙で脅迫や中傷を受け続けており、そのせいか睡眠薬とアルコールが欠かせなかった。ついには68年にバスタブで溺死体で発見されたが、自殺によるものという見方もされている。

一方のミルグラムも、20代の若さで行ったアイヒマン実験のインパクトが強すぎてまともな評価が得られず、教鞭の場もエール大から徐々に規模が小さいニューヨーク市立大に移らざるを得なくなり、84年に51歳の若さで亡くなっている。

恵まれた余生を送れなかったという点でも共通してしまったというのは皮肉と言えるかもしれない。

しかし最大の共通点は、バウアーもミルグラムもユダヤ系の血筋の持ち主だったということ。

ドイツを真の民主国家にすべくアイヒマンを追及したバウアーと、アイヒマンの探究から人間が残虐行為に至る深層心理を突き詰めたミルグラム。ユダヤ系としての意地とプライドが、2人の行動の根底にあったのは間違いないだろう。

図らずも同時期公開となったのも何かの縁。「日本人だからあんまり興味が沸かない」なんて思わずに、戦争の記憶を風化させないという意味でも、この2本のアイヒマン映画をセットで触れてみてはいかがだろうか。

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  • eigajikou
    -
    ピーター・サースガード似合った役。権威への服従を(偽)電気ショックを使ったテストで証明した博士。被験者でジョン・レグザイモ、故アントン・イエルチン登場。ネットを介した権威への服従とポピュリズムが進む現代にも生きている告発。ジャック&ベティ
  • kyaname
    2.7
    まずポスターが最低。あんなダサいフォントでチープなタイトルという時点で観る気が起きない。しかし予告編を見て、自分の興味がある分野の話だと分かり観ることにした。同時に邦題がタイトル詐欺だと分かって逆に安心した。 ミルグラム博士の研究を追っていくという話だけど、最初の研究に関する話は基本的なことが多くてあまり新鮮味はなく、その後の博士の人生の話の方が楽しめた。ただ博士が観客に語りかける形なので映画館で観なくてもいいかなと思った。 ポスターと邦題で損しすぎているかわいそうな作品。 170329鑑賞
  • Minako
    2.5
    あれ? こんな映画だったの?感。 予告編よくできすぎ。
  • ip
    4.0
    本作で登場する実験は本当に電撃を与えているのかと思ってしまっていた。恥ずかしながら歴史に無知で… 被験者たちはそのスイッチが本物と思い込みながらも、服従し、残酷な行動を取っていく。 最後には実験のネタばらしがあるとはいえ、この実験には現実のものでも批判があったろう。 しかしながら、誰かがやらないと明らかにならなかった事実がある。半端な経験則や推測、常識では事実は突き止められない。
  • transfilm
    3.8
    人はなぜ”服従”してしまうのか? 人間の「服従」の心理を実験して、アメリカ国内から賛否両論を浴びた社会人類学者、ミルグラム博士の伝記映画です。 映画のテーマはものすごく好きで、映画の作り自体もかなり好きだったけど、微妙に同じような話を繰り返している気がしたのが少し気になったかな。そのためか、中盤が少し退屈に感じてしまった。実際に起こった出来事に基づいてるのだろうけど、ミルグラム博士の一生を100分に縮めた伝記映画として、本当にこれは重要なことなのかな?この映画で触れなきゃいけないのかな?と思うような内容も。 それより、もっと「服従の心理」についていろいろと深い答えがほしかったような気もした。 例えば・・「なぜ、被験者は好かれようとするのか?」など。 で、個人的には、人間の「服従」の心理がどこから生まれてくるかというと、そもそも人間が本来、群れを成す生物だから。というところに深く関係しているのだろうなと思う。 人が他人に同情したり、共感したりする能力を備えてるのも、人間が群れを成す生き物だからで、もし人間が群れを形成せずに生きる動物だったら、そんな能力は不要なのできっと備わっていないと思う。 集団社会を形成する生き物だからこそ、集団をまとめる長が生まれ、そして「服従」の心理は生まれてくるのだと思う。 ・・だけど、そんな「服従」の心こそ、第二次世界大戦時でホロコーストが起こった最大の原因であり、ドイツだけでなくすべての社会で生きる人間たちにそれがあることを警鐘したミルグラム博士の実験はとても面白いものだと思う。博士の実験から感じ取れたことは、 「服従」は人間の原始的な本質であるが、その原始的な本質に従う人間社会は知的とはいえない。ただ食欲や性欲に身を任せて動く人間が知的にみえないのと同じように。 社会人になったら、どこにも集団の長がいて、優秀な長ほど下の人間に「服従」の心理を迫るのが上手いと思う。この映画を見て、偉い人たちに服従するのは辞めようという気持ちになれたことがとてもよかったこと。 特別に面白かったわけじゃないけど、自分のためにはなった映画だった。
「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」
のレビュー(110件)