笑いと緊張の調和!ヘタくそだけど感動しちゃう音楽映画『東京ウィンドオーケストラ』

2017.01.23
邦画

映画系文筆/映画館勤め/映画祭好き

大久保渉

――このまま本物ってことでいきましょう。――

“作家主義”ד俳優発掘”を掲げて立ち上がった、松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクトの第3弾『東京ウィンドオーケストラ』が、2016年1月21日(土)より新宿武蔵野館ほか全国の劇場にて公開中である。

監督に抜擢されたのは、東京藝術大学大学院在学中に手掛けた『神奈川芸術大学映像学科研究室』が内外で高く評価された新鋭・坂下雄一郎

e

第1弾の沖田修一監督『滝を見にいく』(14)は、東京国際映画祭でスペシャルメンションを受賞し、全国50館以上の劇場でロングランを記録。

第2弾の橋口亮輔監督『恋人たち』(15)は、第89回キネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位を始め、数々の映画賞を受賞し、2015年の邦画を代表する作品となった。

“監督のやりたいこと”を最大限尊重した制作スタイルが貫く快作。勢いに乗る日本映画の注目作を、ぜひ劇場でご堪能いただきたい。

“勘違い”が巻き起こす笑いと緊張のハーモニー

<STORY>屋久島で日本有数の吹奏楽団を招いたコンサートが開催される。役場の担当職員・樋口は彼らを港まで出迎えに行くが、そこにいたのは観光気分の10人の楽団員たちだった。

sub5

いぶかしく思いつつも淡々と彼らをアテンドする樋口。その一方で、島をあげての大歓迎にだんだんと不審さを募らせていく楽団員たち。

実は彼らは有名楽団の名前と一字違いのアマチュア奏者たちであり、自分たちが手配ミスで島に招待されたということに気付き始める――。

sub8

――正直に話すか?しかしギャラはすでに使ってしまったし、島の人たちには期待させ過ぎてしまったし……、こっそりと島を逃げ出すことを決意する一同。

同じころ、ひょんなことから彼らが本物ではないと気付いた樋口は、会場の控室から忽然と姿を消した楽団員たちを追いかけ、すんでのところで引きとめる。

そして一言。「このまま本物ってことで行きましょう」。

自分のミスを隠蔽するためにも、未だ何も知らない周囲をだまし通そうと決意するのだが……彼らの演奏は地元中学校の吹奏楽部よりもへたくそで……。

注目の若手女優が“笑わない”主人公を好演

中西美帆

sub2

1988年12月5日神戸市生まれ。2009年「奇跡の人」で初舞台を踏む。2011年、NHKドラマ「神様の女房」で本格デビュー後、NHK大河ドラマ「八重の桜」(13)、映画『永遠の0』(13)等の話題作に出演。その他、2014年『喰女―クイメ―』、そして2017年公開予定『惑う After the Rain』では主演を務める。

本作では、ぶっきらぼうで笑わない役場の職員・樋口を好演。台詞の間を詰めた性急な喋り方で楽団員達を振り回し、演奏会の成功を画策する。

ワークショップから選抜された個性豊かな俳優達が、「プロのふりをするアマチュア」を熱演

sub1

“俳優発掘”というプロジェクトのテーマ通り、第一弾、第二弾と同様に、本作でもワークショップ経由で選抜された個性豊かな俳優達が商業映画デビューを飾る。

「物語は、なるべくそのときに置かれている状況とリンクさせた方が良い」という坂下監督の着想から生まれた配役―「プロのフリをするアマチュア楽団員」―を、緊張と興奮をにじませながら演じていく。

「いずれは本物みたいになれるように」――彼らが発する台詞の一つひとつが、まるで俳優達自身の言葉であるかのように語られるため、一生懸命な、なんとかやりおおそうとする姿に胸が熱くなってしまう。

sub4

とにかくセリフに「え?」が多い。登場人物達の詰まりがちで噛み合わない会話が、彼らの緊張と滑稽さをより一層引き立てる。

顔から顔へと細かく切り替わるショット。被写体にグイと詰めよるカメラの動き等、「え?」「え!」と様々な声音で喘ぐ登場人物達のすがたを小気味よく映しだすことで、彼らの煩悶から漏れ出る微かな一語が旋律となり、可笑しな調べが奏でられていく。

main

明日に向かって、一歩が踏み出せる。行進曲「キング・コットン」の豊かな音色

ふと仕事でミスをしてしまった瞬間の慌てる気持ち等、観ているものの日常にも巻き起こりがちな感情をキャラクター達が自然に代弁して演じてくれるため、彼らの一喜一憂につい自分を重ねてみてしまう。

日々の仕事以外にすることもない主人公。小言ばかりの上司。夢見がちな先輩社員。カルチャースクールに通って演奏の練習を続けてきた楽団員たち。

何かもの足りない日々を生きる彼らに訪れた、ほんのささいな人生の転機。彼らが奏でる行進曲「キング・コットン」の音色は、映画館を出る観客の足取りも軽くすることだろう。

■公式HP:『東京ウィンドオーケストラ』公式HP

(C)松竹ブロードキャスティング

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • 鎌谷
    3.8
    タイトルとイメージしていたものがいい意味で違っててよかったです。『恋人たち』『滝を見にいく』と同じクラウドファンディングで撮られた作品。2作とは規模も全く違うけれど、丁寧に作られた作品というのがとても伝わってきます。本作でデビューした坂下監督の次作も楽しみなぐらい。沖田監督に近いものを感じます。 一人の女性のちょっとした変化を描いているのですが、死んだ魚のような目をしているかと思えば、不倫相手を一喝するような表情だったり、中西さんの演技の幅に魅了される作品とも思ってます。オーケストラ騒動がアクセントだと思ってしまうほど。それはそれで面白いんだけど(笑) 小粒でも笑ったりほっこりさせてくれる良作。
  • モグタソ
    3.5
    DVDで観賞です。 有名な演者さんはほぼ出演していませんがアイディアと脚本で勝負な感じな映画です。 音楽が題材の映画は大好きでよく観ますが時間も短く気楽に見られる本作は暇つぶしには最高でした。 音楽経験の有無に関わらず、誰でも楽しめる作品です。 下手に有名俳優が出演していないからこそのリアル感があって面白かったです。 平均点以上は付けていいと思います。 DVDにはオーディオコメンタリーが収録されていて非常に面白かったです。 時間に余裕のある方はぜひどうぞ。
  • iD
    3.9
    「"死んだ魚のような目"とは、まさにこれです!」という見本のような、中西美帆の表情。痺れました。もっと他の映画でも見たい。 偽・東京ウィンドオーケストラの人たちが、どんどん引くにひけなくなっていく様子が非常に可笑しい。言葉の祖語。行き違い。脱走を謀ろうとしている所を樋口さんに見つけられてからの、偽物軍団の小物感が凄まじいです。 苦し紛れに、口パクで演奏した振りをするシーン。明らかに9人では不可能なレベルの音の厚みが出ているのはめちゃくちゃ笑いました。 最後の演奏のシーン。下手だから鳴る「ピーヒョロロロ...」という音が、なんだかそんな感じの「島の音楽」みたいに聞こえてくるのは狙ってるのかな?
  • まぁ
    4.0
    面白かった〜(笑) 屋久島に招かれた吹奏楽団…♪ 招かれた方(楽団側)は…何か「オカシイ」…と感じている…(笑) 招いた方(屋久島側)も…到着したメンバー(人数etc)を見て…何か「オカシイ」…と感じている…(笑) …実は…という物語…(笑) 音楽をやっていれば…舞台で演奏したい…その気持ちも分かるし…(笑) プロとアマの違い…やはり凄いな…って…♪ どうなるんだろう〜って…観ていたけれど…笑えました…(笑) …10年後…また…と…(笑) ずっと観たいと思っていた作品…♪ 音楽も大好きなので…やっと…♪ …本作…演奏より、人間模様がメインだけれど…(笑) サラッと観れて…後味は悪くない…☆ 日本語って…難しいね…(笑) 劇中、中学生の演奏…上手かった…♪(笑) 楽しい作品だった〜♪ 私は、好き、この作品…(o^^o)
  • たいき
    3.0
    無駄のないゆるさ
「東京ウィンドオーケストラ」
のレビュー(207件)