「偏見をなくそう」という映画じゃない/『彼らが本気で編むときは、』荻上直子監督インタビュー

2017.02.23
インタビュー

FILMAGA編集部

フィルマーくま

かもめ食堂』や『めがね』などの作品で、たくさんの人たちに支持されてきた荻上直子監督。最新作『彼らが本気で編むときは、』は、自身にとっての「第2章」の幕開けの作品だと語ります。

「癒し系」や「スローライフ」という言葉でくくられることの多かった荻上作品ですが、監督本人はそれを意識して作ったことはなく、むしろそこから抜け出そうとし続けていたそうです。

そして遂に完成したのが、トランスジェンダーの女性・リンコ(生田斗真)が主人公の『彼らが本気で編むときは、』。「癒し」から見事に抜け出し、やりたいことを全部やったというこの作品について、荻上直子監督に話を聞きました。

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荻上直子監督1

日常の中に生きている人として描かれた「リンコ」

―今回、リンコ役に生田斗真さんを指名した理由は何ですか?

荻上直子監督(以下、荻上):リンコのモデルになっているのは、ある新聞に紹介されたトランスジェンダーの女性です。その方がとてもキレイだったので、女の子の格好にしたとき美しくなりうる人に…と思い、生田さんにオファーしました。

人間失格』で太宰治を演じたのを見たときに、「まあ、キレイな青年がいるわ」と印象に残っていたので。でも、きっと断られるだろうなと思っていました。

彼らが本気で編むときは、1

―そうなんですか。作品を見たとき、生田さんはリンコそのもので、別の作品で見せてきた生田さんの男性的なところを全く感じませんでした。役柄を自然に見せるという点で、何か工夫されたところはありますか?

荻上:リンコは介護士としてつつましく生きています。つまり、芸能界や夜の仕事の世界にいるキラキラした存在ではなく、日常の中に生きている人として描きたいと思ったんです。

それで、まずどうしたら自然な女性に見えるかということで、撮影が始まる3か月ぐらい前から私と生田さん、スタイリストさん、ヘアメイクさんで試行錯誤しました。

―見た目の演出ですね。

荻上:そうです。そして、リンコのなんということのない日常を丁寧に描くことで、その延長線上にある「誰もが持っている孤独感」を出せればと思いました。そういう普段の生活の中に溶け込んでいる人というところが、さらにリンコを自然に見せたのかもしれません。

―その点で言うと、今までの荻上作品の登場人物も、日常のどこかに閉塞感や生きづらさを感じて海外で生活したり、小さな島に出かけたり…と、本作ともつながりがあるように思います。

荻上:今回は、これまでと違うものを作りたいという思いはあったんですけど、「誰もが持っている孤独感」を描きたいという点では同じだと思います。

「癒し」から抜け出した「第2章」

―以前の作品は「癒し系」や「スローライフ」という言葉で語られることが多かったですね。

荻上:自分ではそんなつもりは一切なく、「癒し系」なものを作ろうという気もありませんでした。むしろ、女性が一人でしっかり立っている姿を描きたかったのですが、結果的に世間の評価として「癒される」とか、「スローライフ」とか言われて…。

あるイベントに呼ばれたとき「日本一ゆる~い映画を作る荻上監督」と書いてあったのは、ちょっと腹が立ちましたね。評価してもらえるのは喜ばしいことだったんですが、どこか抵抗している自分がいました。

―思わぬ形でカテゴライズされて、監督自身が映画の登場人物のように、動きづらさ生きづらさを感じる人になっていたんですね。

荻上:ここ数年はどうやって抜け出そうか、どうやったら違うところに行けるのかしか考えてなかった気がします。

―想いが伝わらないことに苛立っていた?

荻上:世間の評価としてはいいと思うんです。ただ、「癒し系」や「スローライフ」を期待されるのが嫌だったので、それを裏切りたかったという感じです。今作ではそこからうまく脱せられたなと思っています。

荻上直子監督2

―それが「第2章」なわけですね。

荻上:はい、違うステージの始まりです。生田さんにも「監督、前のめりでしたね」と言われたんですけど、『彼らが本気で編むときは、』では攻めの姿勢を貫いて、最後まで勝負した気がします。

今までの映画作りと比較しても、遠慮せず100パーセントわがままを言い、やりたいことを全部やりましたから。

―それは、今までわがままを言いにくかったということですか?

というわけではないんですが、今回は気が付いたら周りがみんな年下で、より物を言いやすかったり、気持ちの上でも失敗できないという想いがあったからきつく言ってしまったり…。それでも、みんな言うことを聞いてくれるんですよね。

私はうまく説明するのが苦手で「なんか違う」というときには、生田さんや桐谷さんと相談しながら進めていくことができました。

彼らが本気で編むときは、4

―話し合いをして作り上げたということですね。

荻上:そうです。遠慮なく言えたし、2人とも芸歴が長いのにおごったところがなく、相談しやすかったです。

「いろんな人がいていいよね」ということを確認したい

−生田さんはトランスジェンダーの女性役ということで、いろいろご苦労されたようですね。

荻上:所作指導の先生に来てもらって、コップの持ち方とか立ち方とかそういうことを指導してもらって、生田さんはすごく努力してました。

−それから、リンコに寄り添う恋人・マキオ役の桐谷健太さんも大変だったんじゃないかと思うんですが。

荻上:撮影が始まってすぐくらいのときに桐谷さんの中にマキオ像ができている感じがしたので、「この映画はリンコさんがかわいく見えないと意味がないから、どうかリンコさんを支えてね」と伝えたんです。そしたら、「はい、分かりました!」と素直におっしゃってくれて。本当に生田さんのことを支えてくれて、私自身も助けられました。

桐谷さんは、役柄のマキオくんとしても、桐谷さんご本人としても器の大きな方で、彼がいるだけで自然と現場が和むんです。積極的にコミュニケーションをとるというわけではないんですが、他の役者さんのことを考えてくれるムードメーカーでした。

彼らが本気で編むときは、3

−確かに、この作品の桐谷さんは一歩引いた役という印象を受けました。でも、マキオのような支える存在がいる一方で、リンコに嫌悪感を抱く人も登場します。

荻上:セクシュアル・マイノリティの人は、そう生まれようとして生まれてきたわけではないし、自分ではどうしようもないことですよね。でも、受け入れられないという人はどこにでもいるわけで、そういう人を出さないというのはファンタジックになってしまうと思ったんです。

彼らが本気で編むときは、5

−それによって、いろいろな考え方の人が浮き彫りになっていますね。最後に、この映画を見たい!と思わせる一言をいただけますか?

荻上:えーっ!そうですね…「いろんな人がいていいよね」って言いたいですね。別に「LGBTに対する偏見をなくしましょう」と大きな声を出して言いたくて作ったわけではなくて、「いろんな人がいていいんだよね」という確認をしたかったんです。

−そういう世界を見てほしいということですか。

荻上:というわけではなく、「いろんな人がいていいよね」ってことです。

−分かりました。確認ということですね。本日はありがとうございました。

『彼らが本気で編むときは、』は2017年2月25日(土)、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。

  • 第67回ベルリン国際映画祭
  • “テディ審査員特別賞”“観客賞(2nd place)”ダブル受賞!
  • (パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)

彼らが本気で編むときは、ポスター

■公式サイト:http://kareamu.com/ [リンク]​

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(取材・文・撮影:北舘和子

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