「これはマーベルでいう、最初のキャプテン・アメリカ」 『スレイブメン』井口昇監督インタビュー

2017.03.22
インタビュー

Filmarks編集部

フィルマーくま

ロボゲイシャ』(09)、『電人ザボーガー』(11)、『ヌイグルマーZ』(14)など国内のみならず海外映画祭での評価も高く、常に新作を待望され、独特な世界観のエンターテインメント作品を量産し続けている井口昇監督。その最新作、『スレイブメン』が公開になっている。

タイトルだけで期待を抱かずにはいられない本作は、サエない自主映画監督・しまだやすゆきが、悲劇のダークヒーロー“スレイブメン”となって戦う姿を描くヒーロー作品。まず報われない愛と過酷な運命に翻弄されながらも、ひとりの少女の運命を変えようと奮闘する“スレイブメン”の姿を観ていると、哀しみを軽々と通り越して清々しい気分にも。

もともと井口監督はカッコいいヒーローには惹かれず、どこか情けない男の悲哀にグッとくるそうで、それが今回の『スレイブメン』にも大炸裂! そして、井口監督が長年思っているテーマをも込めた本作について、知られざる秘話の数々とともに語ってもらった。

スレイブメン

――そもそもタイトルが強烈ですよね! 何を想って、こういう作品に至ったのですか?

言葉の意味を知らない方が意外に多くて驚いていますが、語感がカッコいいかなって(笑)。あとはマゾっぽいヒーローの話にしたかった。それで台本が上がった後に助監督さんに「スレイブメンって、SとMですよね?」と指摘され、意識していなかったので本当にびっくりしましたが、SとMにつながっていった背景には僕のSM心のせいだなあって感慨深いものがありましたね。これは偶然ではなくて、必然だったのかもしれませんね。

――どうして、SMなヒーローを作りたいと思ったのでしょう?

自主映画で『自傷戦士ダメージャー』という映画を3年前くらいに作ったのですが、その主人公は自分がやられることで強くなっていくんです。そこには世の中の男性へのエールがあり、カッコつけるだけじゃなくて、自分の体を犠牲にしてでも相手を守ろうというアプローチにした作品だったんですよ。その“ダメージャー”のコンセプトを更に追求したくて『スレイブメン』を作ったとも言えます。僕はカッコよすぎるヒーローがもともと好きじゃなくて、どこか情けない、哀愁があるルックスがいい。マーベルでいうと、1作目の虚弱体質の青年が自己犠牲でヒーローになる『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』が最高なんですよ。

――虚弱体質の主人公=キャプテン・アメリカが、注射を打ってムキムキになって、っていう(笑)。

そうです。最近の「アベンジャーズ」になってくるとかなり洗練されてしまいカッコよくなっていますが、単なるヘルメットに模様を描いただけみたいな状態がよくて、弱い人が一生懸命頑張る姿を観たくて、『スレイブメン』を撮ったということはあります。体を犠牲にして、自ら敵にやられに行くヒーローのほうがカッコいいと思っちゃうんですよね。

――ヒーロー像については、アベンジャーズの面々もシリアスに悩みまくりますよね。ただ、シリアスですが、スレイブメンの葛藤のほうがリアルに感じました。しかも日本人特有の(笑)。そういう意味では、観客の共感を集めると思います。

ありがとうございます。僕はマーベルのヒーロー同士の痴話喧嘩も好きなのですが、もっと身近なヒーロー像を描きたいと思いました。孤独な人間の心の中を覗き見るような切実な気持ちや自己犠牲を『スレイブメン』で描いていけたらとずっと考えてました。

スレイブメン

――今回『スレイブメン』を撮ったことで、自分の中で何か開けたこと、よかったなと思うようなことはありましたか?

この作品については、いろいろな自分の中の想いなどが重ねあっているところはありますね。僕はかって映画少年だったので自主映画を撮ることで女の子に近づけた。自分の中でカメラを手にすることで、ようやく武器を持てた感じがあったんです。当時は自画撮りをすることで、初めて自分を表現できる人たちがいた。それがこの数年ではSNSの普及で自画撮り動画を気軽に発信する普通の女の子やアイドルたちがたくさんいる。これはすごいなって。

――おっしゃるとおりですね。完全に取り上げられた感がありますよね。

それと今の時代を生きる人間にとって世界を乱す脅威はなんだろうと考えたら、悪の組織や怪人ではなくて、SNSであったり、簡単に映像や動画を発信出来るということではないかなと思ったんですよ。バカなアルバイトがコンビニの冷蔵庫に入って、その店が潰れてしまうみたいな、動画1本で、人の人生が簡単に変わる。SNSで容易に人を傷つけられて、逆に窮地に追い込まれることもある。その手軽な感じの恐怖感などを、ヒーローものに絡めたいと思いました。

――まさしくSとMなんですよね。表裏一体的でもある。『スレイブメン』は、実は現代社会が直面している課題について、一石を投じている映画だなとも思いました。

自分としては単純な正義とか悪とかではくくれない、一筋縄ではいかないヒーロー映画を撮ったつもりです。これはある意味ネタバレになってしまいますが、イタリアにだまし絵ってありますよね? 水が風車を上がっているように見えて、実は下がっているみたいな。それと似ていて、○○○の話かと思って感情移入して観ていたら、実は△△△の話だったみたいな物語の仕掛けを用意したつもりです。そういう所に乗って楽しんで貰えたら『スレイブメン』をもっと深く感じて頂けると思います。

――まさに先読みできない展開ですよね。

人の運命とはどういうものかということを、ヒーローが持つ能力を通して暗喩的に表現してみたかったんですよね。一種のおとぎ話みたいな作品が好きなんです。社会派みたいな作品も撮りたいと思いますが、映画を撮っている時はファンタジーの産物を作っているんだっていう意識は、つねにありますね。実は遊園地大好きなんですよ。そういう世界の住人になりたいし、今でも遊園地で働きたいと強く思っています。最近、道を誤ったのでは?と思うこともあるほどです(笑)。(取材・文:鴇田崇)

映画『スレイブメン』は現在公開中。

スレイブメン
(C)2016「スレイブメン」製作委員会

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