余韻こそ映画の醍醐味。記憶に残る楽曲も魅力の映画【春篇】

2017.04.20
邦画

映画も音楽も本も好き。

みずき

映画の主題歌や挿入歌は、その作品に余韻を残します。
音楽は記憶や記録の再生装置だと個人的には思うのですが、それは映画の音楽だと、さらに顕著だなと感じます。みなさんも映画のサントラや主題歌を聴いたときに、その映画のシーンがパッと頭に浮かぶことがあるのではないでしょうか。

今回は、春に観たい映画をテーマに楽曲にも注目の作品を選びました。
ぜひ、音楽と合わせてお楽しみください!

『ソラニン』

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主人公・芽衣子と、種田の恋愛を軸に、音楽に青春を捧げた若者たちの葛藤を描いた物語です。厳密には春の映画というよりも、新しい一歩を踏み出す、新生活のシーズンにふさわしい作品です。しかも、まっさらなスタートというよりは、リスタートという印象でしょうか。青春映画っぽいのですが、将来に希望が見出せないとか、モラトリアムから抜け出せない社会人に薦めたい一本です。

原作は、浅野いにおさんの同名漫画『ソラニン』。劇中歌と主題歌を手がけるのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカンと表記)。筆者は二十代後半なのですが、中高生のときにアジカンにハマり、原作の『ソラニン』は大学生のときに読みました。筆者と同世代で日本のバンドに傾倒した方は、浅野いにおさんの漫画、アジカンの音楽の両方に触れてる方は多いかもしれませんね。

タイトルは、アジカンのアルバム『ソルファ』のタイトルを『ソラニン』と間違えたことに由来。ソラニンは、ジャガイモの芽に含まれる毒のことですが、浅野いにおさんはそれも気に入り、タイトルに決めたらしいです。歌詞にも「たとえばゆるい幸せがだらっと続いたとする きっと悪い種が芽を出して もう さよならなんだ」という一節があります。

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」

今作で注目の楽曲はタイトルと同名の「ソラニン」でしょう。この楽曲の歌詞は原作にも登場するもので、つまり作詞は浅野いにおさん。そこにアジカンの後藤正文さんが曲をつけたものです。これが見事にはまり、アジカンのオリジナルの楽曲のように聴こえるほど。ファンの投票でも上位に選ばれました。

映画『ソラニン』は、これまでの自身との決別の物語です。ゆるゆると続いた幸せも若いうちは楽しく、それでもなんとかなると思うのですが、人生のある瞬間に達したときに、これまでの生き方では歯車が噛み合わなくなることに気づきます。それが、前述の「たとえばゆるい幸せがだらっと続いたとする きっと悪い種が芽を出して もう さよならなんだ」に込められた想いでしょう。

そして、さいごは「さよなら それもいいさ どこかで元気でやれよ 俺もどーにかやるさ そうするよ」と締め括ります。過去の自身にエールを送り、現在の自身は一歩を踏み出す。主人公の芽衣子はもちろん、感情移入している視聴者の背中を後押しするような歌詞と、主演の宮崎あおいさんがクライマックスで覚束ないながらも、必死に歌うシーンには胸を打たれます。

『あん』

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(C)2015映画『あん』製作委員会/COMMEDESCINEMAS/TWENTYTWENTYVISION/ZDF-ARTE

ハンセン病の元患者・徳江と、中年のどら焼き職人・千太郎の交流を描いた物語です。監督は世界的にも有名な河瀬直美監督。5月27日には『』の公開も控えてますね。原作は、詩人や作家、ミュージシャンとして活動するドリアン助川さん。ハンセン病というテーマを描いた作品としては異例のヒットを記録しました。

「そこに実在する」と思わせる圧倒的なリアリティ

河瀬直美監督は非常にアート性の強い映画監督です。それは、監督自身の作家性が色濃く反映されてるとも言えます。筆者も『萌の朱雀』と『殯の森』を見てますが、「非常に受け手を選ぶ監督だな」と思ったのが率直な感想でした。しかし、映像から漂う生々しさは非常に印象的で、役者の演技はもちろん、木々や草花を映した映像にすら、そこに実在することを強く感じられるものでした。

咲きほこる桜の木には季節感の説得力があり、小豆を炊いてるときの湯気には、そこでどら焼き屋を営む人間の説得力がありました。それもそのはずで、永瀬正敏さんは千太郎と同様の安アパートに住み、樹木希林さんはハンセン病患者の国立療養所で生活を送り、撮影中以外も役柄に没入できるように過ごしていたとのことです。

また、『あん』で描かれるのは「人はどのように生きるのか」という普遍的なもの。これまでの河瀬直美監督の作品よりはとっつきやすいでしょう。登場人物たちも、それぞれが生き方を考えます。過去の過ちを背負った千太郎。差別のために働きたくとも働けなかった徳江。これからの未来に希望を見出せるのに、どこかでかげりを感じるワカナ。それぞれの会話はユーモアを交えながらも、偏見や差別、ハンセン病などの今作が孕んだテーマに鋭く切り込みます。

物語はフィクションですが、スクリーンに映しだされる人物たちは、確かにそこに息づいていると感じられます。千太郎というどら焼き屋の男も、ワカナという中学生も、徳江という元ハンセン病の女性もそこにいる、と。圧倒的なリアリティで、今作のようなテーマを描いた作品に宿る力強さは凄まじいと思います。

秦基博「水彩の月」

主題歌は秦基博さんの「水彩の月」。秦基博さんの声は映画の余韻をスーッと身体に残すように優しいなと思います。『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌も素敵な楽曲でした。今作は、書き下ろしの楽曲らしく、歌詞からも『あん』の物語を汲み取れますね。

秦基博さんは「水彩の月」に込めた意味を以下のように語ってます。

人って「もっとこんな風に言えたらよかった」と思うこと、言えずにいたことや言葉で伝えきれないことって普段からたくさんあって、それを毎日抱えながら過ごしているような気がするんですね。そこが人間味のあるリアルな部分じゃないかと思っています。

出典:秦基博さん「ニューシングル「水彩の月」に込めた想い」

千太郎は無口というわけではありませんが、不器用な男です。「話せなかったことがたくさんあるんだ」という歌詞からは、千太郎の徳江への想いはもちろん、わたしたちが日々を生きるなかでも共感する部分があると思います。生き方を問う今作を「ただ そこにある それだけでいい 君が教えてくれた美しさ 生きてくことに 意味があるなら ただひたむきであれたら」と締め括る秦基博さんの声は多種多様な生き方への肯定的な読後感を残してくれます。

『百万円と苦虫女』

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ひょんなことから前科持ちとなった主人公の鈴子は、勢いで実家を離れることになる。様々な土地で働きつつ、100万が貯まるたびに引越しを繰り返す生活を描いた異色の青春ロードムービー。主人公の鈴子を演じるのは、蒼井優さん。監督はタナダユキ監督。

本作の主人公・鈴子と、前述の『ソラニン』の主人公らは二十代の前半くらいで、どちらも若い世代が抱くモヤモヤとした部分を描いてるのは共通項かなと思います。何者にもなれない自身だとか、先行きの不安だとか。それが共感を呼ぶポイントなのでしょう。

青春モノのロードムービーは、いわゆる「自分探し」の映画だと思いますが、この作品は真逆です。

「いや、むしろ探したくないんです。探さなくたって、イヤでもここにいますから」

これは、主人公・鈴子の印象的な台詞です。人間関係の構築が嫌だから(怖いから)各地を転々としてるにもかかわらず、先々でその土地の人間と出会い、面倒ごとに巻き込まれてしまう。「人間関係を築く」ということは「お互いを知る」ということです。相手のことはもちろん、他者とのコミュニケーションは自身の内側を知るキッカケにもなる。鈴子はそれが怖いから、100万円が貯まったことを理由に逃げ出します。

出会いと別れをさらりと描く

『百万円と苦虫女』は出会いと別れを前向きに描いた物語です。人間関係を築くことに後ろ向きだった鈴子は、各地の人たちと別れが前提の出会いを繰り返します。「どうせ、別れるのだから」という気持ちで出会えば気持ちは楽ですが、これでは鈴子はこの暮らしを脱することはできず、この先もこのままでしょう。
しかし、鈴子は「出会うために別れる」と考えられるようになります。出会いを恐れず、人間関係を築くことを恐れずに、つぎの土地では暮らそう、と。今作のラストは清々しく、前向きな気持ちになれるかと思います。

原田郁子『やわらかくて きもちいい風』

主題歌は原田郁子さんの「やわらかくて きもちいい風」。ポップバンド・クラムボンのボーカルです。バンドではポップスから激しめの楽曲まで、多彩な楽曲がありますが、ソロではピアノがメイン。伸びやかな歌声に心を奪われます。

ラストシーンの鈴子は前向きで、清々しい。エンドロールで流れる原田郁子さんの歌声はそんな彼女を支えるように優しく、まさに楽曲のタイトルと同じような心地よさ。また、演出なのか、偶然なのかはわかりませんが、最後に風が吹くのですよね。髪の毛とスカートがふわっと揺れて、イントロが流れるのが素晴らしいなと思います。

歌詞をじっくりと聞くと、今作の物語のことを歌ってるというよりも、鈴子のこれからのことを歌ってるのかなと感じます。それはもちろん、新たな土地で、新たな生活を始めた人たちにも響くものだと思います。

さいごに

主題歌や挿入歌は、その映画の余韻に浸らせてくれる大切な役割を果たします。今回は春をテーマに作品を選びましたが、自然と前向きな印象を残す楽曲ばかりになりました。いまの季節にぴったりだと思いますので、この機会にぜひ!

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