知れば知るほど解らなくなる映画の話(5)~「ホラー映画を観る」ということ~

2017.04.21
映画

Why So Serious ?

侍功夫

どうも、侍功夫です。

つい先ごろ、80年代に公開されたホラー映画の予告ばかりを7時間以上にわたって収録したブルーレイソフトがリリースされた。人間が様々な理由で殺される映画の予告が延々と続いていく大変素晴らしいもので、一家に1枚(2枚組だけど)あると、とても楽しい生活が送れるハズだ。

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出典元:輸入DVD&ブルーレイ専門店ビデオマーケット「トラウマ映画予告編集 3 : 80年代ホラー特集」より
※写真はホラー映画ファンの聖地、新宿ビデオマーケットさんよりご提供いただきました。

というようなことを言ったり書いたりしていると「わざわざお金を払ってまで怖い思いや不快な気持ちになろうという人の気が知れない!」などと、侮蔑の視線と共に吐き捨てられることが、ままある。そこで、「ホラー映画を観る」ということについて書いてみる。本題に入る前に、いきなり結論めいたことを言ってしまおう。

レ・ミゼラブルってタイトル直訳すると「悲惨な人たち」だし、タイタニックは1,000人以上の人が死ぬ話だけど、みなさん好きでしょ?

モラル・テール

童話の「かちかち山」を覚えているだろうか?

畑を荒らすタヌキを捕まえた老夫婦。タヌキはおじいさんのいない間におばあさんに泣きついて自由になるや即座におばあさんを撲殺。その遺体を味噌汁の具材にし、おじいさんに飲ませる。という本当に酷い展開をしていく。おじいさんは悪がしこいタヌキを前に、太刀打ちできない怒りを仲良しのウサギに打ち明けると、今度は数日に渡るウサギのタヌキいじめが始まる。

タヌキの背負った薪に火をつけて火傷を負わせ、薬だと偽って唐辛子入りの味噌を塗り込み、お詫びにと泥の船に乗せ、溺れかけたタヌキをオールで水中に押し込み溺死させる。

このように「悪いことをする奴は酷い目に会う」といった物語のテンプレートは「訓話(モラル・テール)」と呼ばれ、子供向けの物語に数多く存在する。そこには、もちろん道徳教育的な意味合いを含んでいるが、その根底には「モラルを無視する者はひどい目に会うのが当然の報い」という迷信めいた刷り込みから生まれる爽快感がある。

13日の金曜日シリーズはホッケーマスクの殺人鬼“ジェイソン”と共にホラー映画を代表する存在だと言っても過言では無いだろう。しかし、その一方で「ホラー映画なんて、ただ残酷なだけで中身はカラッポ」といった言説の礎になってもいる。

しかし「享楽的なセックスを楽しみ、マリファナを燻らせ、酒を飲んで浮かれて騒ぐ学生が、かつてそんな学生に放っておかれて死んだ少年によって殺されていく。」という訓話の側面を鑑みれば「ただ残酷なだけ」では無いことも浮かび上がってくる。そして、多くの訓話がそうであるように、チャラ男やギャルたちをザックザックと殺していくジェイソンの姿には、喝采を上げたくなる爽快感も孕んでいるのだ。

「中身がカラッポ」であることは特に否定しない。

ファンタジーとしてのホラー

ハリー・ポッターシリーズにはドラゴンやペガサスにケルベロス、大蛇など、現実にはありえない生物が登場し、スクリーンを彩っていく。それら、実際には見たこともない生物の活躍は鑑賞する私たちを高揚させるものだ。

また「トランスフォーマーシリーズでは見慣れた車や飛行機がガシャガシャと変形し巨大な人型ロボットとなっていく。そのイマジネーション溢れる様子には問答無用に感嘆せざるをえない。

これらの例には多くの賛同をしてもらえるだろう。では、全く同じ理由で次の作品を紹介したい。

1982年の作品遊星からの物体Xだ。

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凍える寒さと猛吹雪で孤立無援となった南極観測隊を謎の物体が襲うホラー映画である。この「謎の物体」の生態が揮っている。どうやら宇宙からやって来た、その物体は地球上の生物に入り込むとその外見や記憶、行動様式を保ったまま体内で増殖し、乗っ取ってしまう。しかも、細胞単位で生息が可能なため、人間であれば致命傷であるハズの脳や心臓への攻撃でも、損傷部分を切り離すなどして生き延びてしまう。

乗っ取りに気付かれ体を燃やされるも頭を切り離し、カニのようなグロテスクな姿に変形して逃げていく場面は本作の名場面のひとつだ。

あらぬ方向へ体が捻じ曲がり、想像もつかない姿に形を変えていく。そのイマジネーション豊かな様子は大いなる高揚と心地よい感嘆を捧げずにはいられない。

娯楽としてのツラさ

ネイティブ・アメリカンのある部族には、こんな遊びがあるそうだ。

テントの中で焚き火を炊いて煙で充満したところに篭り、煙たさを我慢し、もはやこれ以上ダメだ! というところでテントから飛び出し、“空気”を楽しむ。

これと似たような遊びは私たちの日常にもある。たとえばサウナは、100℃を越える熱くて蒸した小部屋に篭り、ダクダクと汗を流し、もはやこれ以上ダメだ! というところで飛び出して水風呂に浸かる。

また、「適度な運動」は健康に良いとされているが、趣味でフルマラソンをする人は、私の理解の外側にいる存在だ。絶叫マシンと呼ばれる遊園地の乗り物や、人気の激辛料理店なども“門外漢”にとっては理解不能なものだ。

では、セルビアン・フィルムという作品の存在はどうだろうか?

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ヤクザな生活に嫌気がさし始めたポルノ男優が高額なギャラに釣られ、最後の仕事として「金持ちの変態が個人的な欲望を満たすためだけに作られるポルノ」の出演を承諾してしまう。始めのうちこそ、いわゆるポルノ映画の範疇にある撮影だったが要求は次第にエスカレートしていき、もはや付き合いきれないと逃げ出そうとする。

ここから先、映画は文章化するのもはばかれる空前絶後の最悪な展開をしていく。

本作はホステルあたりから端を発した、いわゆる「トーチャー・ポルノ」と呼ばれるホラー作品群の、ある種の到達点と言っても良いであろう。モラルを破壊し、人間の尊厳を踏みにじる様子は、それが過激であればあるほど、寂寥としたやるせなさが募っていく。

普通に生活していれば、滅多に味わうことのない感覚や感情は「フルマラソン」や「絶叫マシン」「激辛料理」と同じように「娯楽性」を孕んでいるのだ。

人生にホラー映画を!

上記した以外にも、ホラー映画には様々なスタイルがある。謎解きミステリーや、サスペンス、スリラーとの相性は抜群で数多くの傑作があるし、エイリアン2を筆頭にSFやアクションの姿を纏ったホラー映画も多い。シャイニング羊たちの沈黙のように文学性を持った作品だってある。黒沢清監督のホラー作品には映画研究者ですら解釈の海へ突き落とす深遠ささえある。

「ホラー映画」の作品群はひとつのジャンルではくくれない多種多様さを孕んでいる。とは、以前に「カンフー映画」について書いた時と同様である。

そして「ホラー映画を観る」のも「カンフー映画を観る」のも「恋愛映画を観る」のですら、同じ理由がある。

面白いからだ。

趣味でフルマラソンを走る人だって、全身から汗が噴出し舌が熱く燃えるような感覚になる激辛料理も、死ぬんじゃないだろうか? と思うようなジェットコースターも、好きな人にとっては「面白いから」としか言いようが無いのでは無いだろうか?

ホラー映画。面白いよ!

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  • エルドレッド
    4.2
    去年DVDからBlu-rayに買い換えて放置してたのを鑑賞。 何かとグロやエロばかりにスポットが当たったり。 あまり褒め過ぎると犯罪者予備軍に認定されそうなアレなんですが。 中身はちゃんとしてます。 脚本とかも良く出来てて、サスペンスモンとして好きな映画です。 グロはハッキリ言って他にもっと酷いのが有るよね?。 だからソレ目的だけでの鑑賞なら肩スカシくらっちゃう。 けど、この映画の魅力の一つでもあるインモラルな表現とグロとの合わせ技で観る人によっては不快感ハンパなくなるのかも。 二人で競い合う様なラストのファッ○ンバトルは衝撃度マックス。 さすが伝説のAV男優。イチモツでさえも凶器にしてしまう。 チンは剣よりも強し。
  • ShigekiTomio
    3.0
    まだシアターNがあった頃、”20際未満鑑賞不可”の触れ込みがされていたのを当時13歳だった自分は観て、とても興味を持ったことを今でも覚えている。初見時は17だったがw では内容はどうか。ゴア好きの自分でも正直嫌悪感をあらわにせざるおえ無い描写のオンパレード。ただ、どこか楽しんでいる自分もいる。話はそこまで面白くも無いのに.....。 終盤のあのF**Kシーンの相手が分かるシーンの厭さは凄まじく、ラストも結局なんだかなと思いつつ、時々思い出す作品の一本ではある。
  • neoko
    4.4
    やっと観れた~😆 噂には聞いてたけど、これはヒドイ!って言うかスゴイよ...。 でもある意味ファンタスティック🌠 こういう映画は久しぶりやったから、私耐えれるかな?ってちょっと心配してたけど、そこは大丈夫でした。 思い出したくないようなシーン満載ですが、また観たくなりそうな気もします。
  • 豚肉
    2.8
    ハードゴアとして高評価されてたので期待しすぎたかも。 もっと殺しまくる血みどろゴアファック祭りなのかと思ったらグロシーン自体それほど多くもなく… 新生児ポルノと息子とヤッていたのはやばかったけど衝撃はそれだけかなぁ、モザイクがあったのも残念だった。
  • horahuki
    3.7
    倫理的にやったらあかんことを山盛り詰め込んだエログロ映画を撮ろうとしてるヤバイ集団にスカウトされた、伝説のAV男優を描くキワモノホラー。 恥ずかしながら初見です。エログロはホラーの中でもそこまで好きじゃない(誰も信じてくれなさそう…)んで、こういうのは後回しにしちゃうんですが、機会があったので見てみたら、予想以上に面白かったです! あらすじ… ヤッた女は二度と彼のことを忘れないという伝説のAV男優の主人公。今は結婚して幼い子どももいるがお金がない。そんな中、仲の良いAV女優から、大金が手に入る仕事を紹介される。依頼主はポルノ映画を撮ろうとしているようで、生きる伝説である主人公に是非出演して欲しいという。危なそうだから断ろうとしてたが、妻や子どもに不自由させたくないあまり承諾する主人公だったが… 他の方も書いてますが、すごくしっかりとした映画になっててビックリ!こういうキワモノ系の映画って物語も演出もテキトーで、ヤバイシーンだけ力入れときゃ良いだろって感じのものが多いと思うんですけど、本作はドラマパートに時間を割くことで、異常が日常を少しずつ侵食して行く怖さと一歩踏み入れてしまうと決して後には戻れない閉塞感を対比的に強烈に演出している。そんで普通に面白い! キワモノイメージが付いてる本作ですが、実際にそういったシーンが入るのは後半に差し掛かるくらいから。前半は妻子ある主人公が、2人を守るために彼方側に足を踏み入れるか否かを迷う姿が時間を使って描かれる。この主人公がものすごくマトモな人で、しっかりした倫理観を持ってるので、彼方側に踏み入れる時も、いざそのやばさに気づいた時も「ざまーみろ」というような感情は一切抱かせず、家族を守るためという理由がどうしようもないやり切れなさを残す。 そんで肝心のキワモノシーンですが、ここに書くとその倫理的に完全にアウトな数々のシーンの魅力が無くなってしまうので、興味がある人は是非情報を入れずに見て欲しい!もちろんオススメはしませんが。でも、直接的なシーンは少なめなので見る人によってはソフトに映るかも。そういうこと考えると、もしかしたら案外見やすい作品なのかもしれません…いや、んなわけないか(笑) 見せ方が巧みで、ジャケ画像にもあるような「俺の身に、一体何が起こったのか」的な演出をしていて、結果はすでに確定してしまっている状態で、観客と一緒に悪い予感しかしない答え合わせを後追いでして行くという見せ方がニクい。 映画の主役って脚本の通り動くわけだけど、観客からしたら主体性のある行動をしてる生身の人間として捉えられるものだと思います。でも、本作では製作者と主役を同じ画面の中で動かすことによって、主役の主体性すら否定する。そしてそれが圧倒的な絶望感を生み出す。そんな感じで、キワモノの一言で敬遠するには惜しいくらいしっかりした映画だと思いました。キワモノだけど…。
「セルビアン・フィルム」
のレビュー(502件)