“お互いでよかった”石橋静河×池松壮亮、東京で生きるふたりを等身大で演じる『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』【インタビュー】

2017.05.12
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

舟を編む』で映画賞を総ナメにした石井裕也監督による待望の最新作が届いた。最果タヒの同名詩集を映画の世界に落とし込んだ『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ​』は、都会に息苦しく暮らす若い男女の満ち足りない日常と鬱屈した思い、柔らかい希望を、心地よい空気感で纏った逸作である。

いつもどことなく不機嫌で、そんな感情を隠そうともしない主人公の看護師・美香を映画初主演の石橋静河が瑞々しく演じ、そんな美香に計らずとも惹かれる慎二を、池松壮亮が繊細に寄り添った。作品同様、出会うべくして出会ったと思いたくなるような二人に、単独ロングインタビューを敢行した。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

――いよいよ公開になります。石橋さんは、脚本を読んでどの部分に惹かれたのでしょうか?

石橋:私は、どうやって脚本を読んだらいいのかということも、最初からすべて挑戦だったので、どこに惹かれたかというのは、自分の中で漠然としていました。ただ、石井監督に会ったとき、ある意味、自分の中の痛いところを突かれたような、今まで隠していたけど、自分の中で何とかしたいと思っていた部分を、真っすぐに掴まれた感じがしたんです。そこにしがみついたというか、一緒にやりたい、逃したくないなと思いました。

――石橋さんの熱量はスクリーンを通して感じるものがありました。主演ということに関しては、いかがでしたか?

石橋:やっぱりものすごくプレッシャーというか、不安の気持ちのほうが勝ってしまって、どうやって自分が立ったらいいのかも本当にわかりませんでした。ただ、段々と共演のみなさん、スタッフさんの顔が見られるようになってきたときに、「じゃあ、私は今ここで何ができるのか?」と思うようになりました。ものすごくあがきながらやってみて、「違う」と言われ、というトライアンドエラーの繰り返しで。苦しいけど、そこにすごく喜びがあったので、自分の出せるものは出したいと強く感じていました。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

――そんな石橋さんの姿は、池松さんの目にどのように映っていたのでしょう?

池松:素晴らしい女優さんでした。今回3週間ほど一緒にいましたけど、石橋さんでよかったなと、ものすごく感謝していました。

――具体的に、どういうところが、というのは?

池松:たくさんあるので難しいんですが、わかりやすいことを言うと、石橋さんの今ある状況と映画がものすごくリンクして、役として、映画として、ものすごくパワーになったということじゃないですかね。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

――池松さん自身は石井監督とは3度目のタッグになります。

池松:石橋さんが先ほどお話された内容は、石井さんに魅了された、石井さんと戦わなければならない、この人と一緒に映画をやらなければいけない、という思いにさせてもらったということだと思うんです。僕もそれは常日頃あります。ただ、今回、何に一番惹かれたかと言えば、シンプルに題材と企画です。あとは、もちろん石井さんともう一度やるということですね。

――題材と企画と言うと、お二人が演じられた美香と慎二の都会で生きていく心情のあたりでしょうか?

池松:僕が感じたのは、もちろんそこです。あとは今を生きる人、その奥にある社会、世界を描いていて、ちゃんと映画でやろうとしていたことです。本来、映画では当たり前のことだと思っているんですが。僕は最近のすべての表現において、表現と社会がリンクしていなくて、どんどん毛嫌いされているように思うんです。世界ではまだまだたくさんありますが、特に日本では作られなくなっている。そういうところにちゃんと切り込もうとしている、チャレンジングな香りがして、まだこんなことが日本映画でできるんだということに、ものすごく興味を持ちました。

――先日行われた第41回香港国際映画祭にも行かれていましたが、現地での反応も印象に残っています?

池松:今回、「今」の東京の物語をやっているので、世界の人に観てもらうのは、いつも以上に面白かったです。すごくいい反応をもらいましたし、やっぱり勇気づけられましたよ。「ああ、どこもこの感覚はあるんじゃないか」って思ったりして。

――どこの国でも、というか都市でも、というか。

池松:わかりませんが、はい(笑)。届いているんじゃないかな、という感覚は少しもらいました。すごくよかったです。一方で全然違うところもありますし。でも映画祭だからなのかはわからないですけど、親身になって想像してくれるような感じは、すごくありました。

――石橋さんは、こうしたパワーを持つ池松さんと一緒に撮影をされて、いかがでしたか?

石橋:池松さんが慎二をやられていなかったら……というか、池松さんがいなかったら、最後までできていないと思います。池松さんの見ている世界は広く、本当に私と比べものにならないくらいいろいろなことを経験されていますし、映画に対しては特にそうですし。でも、現場にいるときは、美香と慎二がいるように、「一緒に闘おうよ」というふうに隣で応援してくれたし、引っ張ってくれて、背中を押してくれました。私の中で、本当にこの作品で特別な存在です。

――作品や場面に関して、お二人でお話は重ねたんですか?

池松:監督と3人で話す機会は結構あったと思いますね。

石橋:撮影前もありましたね。

池松:石橋さんが時間を共有できる人だったんです。映画を一緒に作ることにおいて、ものすごく僕は重要だと思っていて。いろいろ言葉で共有しなくても、映画を作ることが共有できている感覚はありますね。

石橋:現場で、いつもどこにいるかを感じていたし、しゃべらなくても存在を感じていました。

池松:どんどん同じ方向に向かっている、同じ時間を共有し始めている感覚はありましたね。

――慎二以外に、智之(松田龍平演じる)にも想いを寄せられますが、美香の魅力はどこだと感じていましたか?

石橋:嘘がないところなのかな、と思います。美香は言葉がものすごく強いし、余計なことを言ってしまったり、ガールズバーでは居場所のない感じになっていたりして、本当に不器用な人だと思います。自分の感覚に正直であるからそうなってしまうわけですが、最初、私は台詞を読んだときに、「何でこんなことを言うんだろう」とわからなかったんです。でも、段々これは全部本心じゃないんだなということに少しずつ気づいてきたときに、一番美香をわかっている人でいたいと思って。もし、できなかったとしても、理解しようとし続けたいなとすごく感じたので、私自身もどんどん惹かれていきました。発する言葉はとても難しかったんですけど、美香の感覚はすごく素敵だなと思う瞬間は多々ありました。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

――慎二にとって、美香はどういう存在だったんでしょうか?

池松:素敵でしたね。皆は不器用とか、どうしようもないとか、醜いとか、きっとそういう印象のほうが強いんでしょうけど、僕はまったくそういう感覚はなくて。むしろ自分なんかよりもよっぽど素敵で、ちゃんと世界に向き合って立とうとしている。僕なんかは、もっともっとあらゆるものに目を塞いで、自分の損得で生きているなっていうことを思いました。この時代は、純粋なものが毒になるじゃないですか。それをわかっていながらも、純粋に、ときに誠実に生きようとする姿が輝かしかったです。だからこそ、慎二は「この人を助けたい」と思ったんだろうな、と。

――今、慎二としてと、池松さんとしてのお答えでしたが、美香のようにさらけ出せる人間自体を魅力的だと捉えていらっしゃるんですね。

池松:そうですね、そう思います。そうあることはものすごく生きづらいのは、子供でもわかることですからね。それでも、やっぱりなお、自分のどうしようもなさというか、世界の暗部を見つめてしまうような癖、感覚みたいなものを自分でわかっていながらも、目をつぶろうとしないという居方に、自分もすごく勇気づけられました。だから、慎二に響いたんだと思います。

――そこまで共鳴できると、慎二はもしかして演じやすかったんでしょうか?

池松:うー……。この感覚を伝えるのがすごく難しいんですけど、役をやることは楽ではないです(笑)。小手先やテクニックでやりこなすことは簡単ですけど、少なくとも映画ではしたくないと思っているので。ただ、今回の役に対して、ものすごく共鳴できるものを感じたのは確かです。石井さんの映画に出てくるキャラクターに対して、僕は昔から自分とリンクする部分、自分の想いをしゃべってくれているような感覚がほかの役よりも多少なりともあるので、そういう部分では楽というか、やっていて楽しいという感じはあります。

――聞くところによると、慎二は石井監督によるあて書きという話ですが。

池松:あて書きというのも難しいですけど、きっとそのまま(僕に)あてて書いたという意味ではなくて、こういうものを見たいというものをくれたというか。

――慎二の池松さんを見たいというか。

池松:そういう感覚だと思います。あて書きという言葉だけで言うと、僕なんかより、むしろ石井さんに近いような感覚を受け取りました。僕はあんなに自分の損得なしに自分よりも隣の人や目の前の人、世界のことを、という生き方はできていないので。口が裂けても平気で「確かに」とは、おこがましくて言えないです。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

――最後に、舞台は東京ですが、東京は今のお二人にとってどういう場所でしょうか?

石橋:自分の育ってきた街だし、自分の家族がいる場所で大切なものしかないようなところでもあるんですけど、やっぱり息苦しさを感じるというか。いろいろなことを封じ込めて見たいところだけを見ていたというか。でも、やっぱり嫌いになれない場所でもあるんです。そういう自分の中の東京に対する複雑な想いが、この映画でちょっとクリアに見えた気がします。

池松:東京は……難しいですけどね。別に楽しくないわけじゃないけど、楽しいわけでもないし。僕の故郷は別にあって、家族はそっちにいるんですけど、それでもやっぱり東京に来て8~9年経っていて。家族以外、自分の身の周りに大切な人たちがたくさんいて、それで自分が生きている場所。それでしかないですね。現在、自分が生きている場所、自分の周りの大切な人たちが暮らしている場所が東京、という。好きでもないし、嫌いでもないですね(笑)。

――ありがとうございました。Filmarksは映画好きユーザーが非常に多く、シネフィルのお二人が最近観た中で印象に残っている作品があれば、ぜひご紹介ください。

夜空はいつでも最高密度の青色だ

石橋:『名もなく貧しく美しく』を観たんですけど、知っていますか?

池松:ああ、3年くらい前のだ?

石橋:違います(笑)。

池松:違いました(笑)。

石橋:50年くらい前の松山善三監督の作品で、高峰秀子さんが出ていらして、すっごく面白かったです。ラピュタ阿佐ヶ谷で観たんです。

池松:ラピュタで? すごいね。

石橋:おじいちゃんとおばあちゃんしかいなくて。

池松:行くんだね~。

石橋:初めて行きました。すごくよかったです。最近、何か観ましたか?

池松:観ましたね。『人生タクシー』がよかった。僕たちがベルリン(国際映画祭)に行ったでしょう? その前の年のグランプリです。

石橋:へえ、どこの作品なんですか?

池松:イラン。ジャファル・パナヒ監督なんだけど。(アッバス・)キアロスタミとかはわかる?

石橋:はい。

池松:の直弟子で、20年くらい国から映画を撮ることを禁止されていて、こっそり撮った映画でグランプリを取ったの。面白かったよ。(取材・文・撮影:赤山恭子)

夜空はいつでも最高密度の青色だ

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は5月13日(土)より新宿ピカデリー、ユーロスペースにて先行公開、5月27日(土)より全国にて公開。

(C)「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

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    4.0
    「俺は、変だから」 「へぇ。じゃあ、私と一緒だ」 息苦しい東京という場所で、不安を抱えて生きている人々。自分の居場所を失った2人が、互いに向き合って見つける希望。不器用で、詩的で、乱雑としながらも、どこかエモさにさえ統一性がある。凝縮された恋愛映画が誕生。 この映画で描かれている恋愛は、うっとりするようなものではなく、キュンキュンするようなものでもない。ギリギリなまでに切羽詰まったようなささやかで、人によってはみっともなく見えるような人の姿・形。相手に感じる「何か」を本物の恋愛とするのか、それを見極めようとする恋を深堀していく。恋も愛も信じられない2人が「本物」を感じ当てる。 監督であり脚本も担当した石井裕也が語る本作の世界観は、「ラブストーリーであり、今の東京を男女で彷徨い歩くようなロードムービーであり、自ずとドキュメントになると考えていた」というものである。東京とはこういうものだという一般的な切り口からではなく、個人の印象を強く残した東京を描くことで、斬新かつ納得のいく東京が表現されているように感じだ。ゲリラ撮影されたという東京の様子は、生々しく日常的であった。 誰もが無理をする場所としても描かれ、息苦しさも含め窮屈な思いをしている。程度の違いこそあれ、誰もがそう感じているのではないか。東京とはそんなところだ。しかし、「何かがある」という期待感を持たせてくれる日本の大都市を描いた。逆に田舎は「何もない」という見せ方をし、開放的であるような対比も見せつけた。 詩集を映画化する。そんな挑戦は個性的で、あまりにも独特だった。運命の出会いを描くラブストーリーが多い中、現実的で、むしろ警戒心という鎧を身に纏って生きている人々の方が多いんじゃないかと思うリアリティーが強く印象づけられた。
  • 肉片
    2.0
    あらすじとタイトルに惹かれて観に行ったけど、社会不適合者と社会不適合者が延々と拗らせた中学2年生みたいなこと言い続けててキツかった 終始「お前生理中なのか?」って態度を見せられ続ける、しかも2日目だろ あとストリートシンガーの曲がびっくりするほどダサいのはわざとなんだろうか そして何なんだこの東京観…都会の孤独感みたいなのが押されてるけど、主人公達が都会じゃなくても孤独そうな人達過ぎてなんとも…
  • おかむー
    3.9
    主人公慎二の部屋の本棚に村上春樹の「アンダーグラウンド」があったのが気になった 思えば村上春樹はそれまで社会問題への関わりを避けていたのに、「アンダーグラウンド」では地下鉄サリン事件でオウムからもマスコミからも数としてしか扱われなかった人々に名前を与えて、都会の人々の「生」を伝えようとしたのだった。 この作品がやろうとしていることもきっとそれに近いのだと思う。 名前のない人たちの「生」が溢れ出しているような作品だった。
  • ミックン
    3.6
    当たり前だけど世の中は生きるか死ぬしかないのだなと考えさせられた。
  • ナナ
    4.1
    最高密度。
「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」
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