一瞬も目が離せない!劇中に没入しちゃう「長回し」が魅力的な映画3本

2017.06.26
まとめ

映画も音楽も本も好き。

みずき

みなさんは「長回し」という撮影の技法をご存知ですか?

長回しとはそのままの意味で、カットを入れず、撮影を途切れさせずにカメラを回し続ける撮影方法のこと。近ごろでは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が記憶に新しいですね。こちらの作品のことはのちほど。

カメラを回し続ける時間がどれほどなら長回しと呼べるのか、明確な定義はありませんが、數十分単位ならば、長回しと言えると思います。

長回しの特徴は、その臨場感と持続性。映像を切らずに観続けると、その場にいるのではと思わせるリアルタイムな感覚が生まれ、あたかもその場面に遭遇したかのように感じられます。ゆえに、目を背けたくなるシーンだったり、劇中の人物との空間の共有のために用いられることも。

また、撮影が途切れないことで役者の集中力が増すせいか、緊張感が観客にも伝わってきます

後述の『台風クラブ』の相米慎二監督は、長回しの効果から生まれる「俳優のまっさらな魅力を引き出す」ために、長回しを多用したようです。同作でその才能を見出された工藤夕貴。『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子など、役者の本質を際立たせる効果もあるのかもしれません。

今回は、全編長回しから、印象的な長回しのシーンなどをご紹介します!

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(2015)

birdman

リーガン・トムソンは落ち目のハリウッド俳優。かつては<バードマン>という作品で名を馳せたが、以降はヒットに恵まれず、現在は「かつてバードマンを演じた俳優」として惨めな生活を送る日々だ。失意のリーガンは自身が俳優を目指すきっかけとなった小説を舞台向けに脚色、自らで演出と主演も務め、再起をはかることに。落ち目の俳優が現実と妄想の狭間で追い込まれる姿を想天外なストーリーと独特の世界観で描く。

監督は、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ。代表作は『21グラム』や『レヴェナント:蘇りし者』など。非常にオリジナリティの強い手法を用いた撮影と演出が特徴で、どの作品でもそれは冴え渡ってます。

『バードマン』のワンカット風の撮影。『バベル』などの作品における時間軸の交錯。『レヴェナント:蘇りし者』の圧倒的な映像の力。いま、もっとも新作を待たれる監督のひとりではないのかなと思います。

今作の主演は、マイケル・キートン。直近の出演作は『スポットライト 世紀のスクープ』など。その役どころゆえに、哀愁と切なさ、迷いと葛藤、不甲斐なさ、自尊心など、さまざまな感情が入り乱れた演技を見せますが、それらはコミカルさに内包されているように見えます。素晴らしい演技。

全編をワンカット風で観せる意味

『バードマン』は全編ワンカットに見えますが、実際にはそうとは気づかせずに途切れさせているようです。初見ではまったくわかりません。

今作の撮影監督は、エマニュエル・ルベツキ。宇宙空間での緊迫を描いた『ゼロ・グラビティ』の撮影監督も彼だと知ったときは納得でした。あの作品も長回しと緊張感を生んだ作品でした。

全編をワンカットで撮った意図は何か。イニャリトゥ監督はこう語っています。「主人公がたどる迷路を観客にも通ってほしい」と。『バードマン』は主人公・リーガンの視点で描かれます。まさに迷路のように入り組んだステージの舞台裏を歩き回り、それは物理的にも彼を迷わせていると思わせ、彼の精神が放り込まれた状態とも重なります。前述の入り乱れた感情が長回しの効果と合わさり、中毒的な映像体験を味わえます。

また、それは音楽でも表され、今作の劇伴はシンプルなドラム。映画のサウンドトラックというよりも、感情表現の一端を担うように、映画を構成するために必須なものなのだと感じられます。情報量も多いので、一度では理解が追いつかないところもあるかとは思いますが、映像と音が渾然一体となり、それがワンカットの映像で一気に攻め立てるような快作です。

台風クラブ(1985)

taifuclub

台風の襲来をきっかけに、日ごろの鬱屈を爆発させる思春期の少年と少女の物語。
過激な描写も多く、現在では規制の対象と思しき表現も目立ちます。思春期特有の鬱屈(「学生生活特有」とも言えるのでしょうか)を描いた作品はどの時代にもありますが、今作はかなり異質でしょう。ただ、この時代を生きた学生にしかわからないことがあるのはもちろんなので、それぞれの時代の青春映画を観比べるのは楽しいと思います。

余談ですが、筆者の年齢だと『桐島、部活やめるってよ』で描かれた学生生活がリアルでした。

監督は、相米慎二。代表作は『セーラー服と機関銃』など。国内外を問わずに影響を与えた監督のひとりでしょう。細田守監督作品『おおかみこどもの雨と雪』も『台風クラブ』の影響があるとのことで、意外にも感じられますが、ご覧になれば「なるほど」と納得だと思います。どちらも台風の最中に校舎に取り残されるシーンがあるので。 

日本人の映画監督で長回しが有名なのは彼と溝口健二監督でしょうか。既述のように、俳優の魅力を最大限に引き出すという理由から長回しを多用。十数分のあいだ切らずにカメラを回すのはザラだったと言います。レールに乗せたカメラを台車から外し、手持ちで追いかける。つぎはトラックの荷台に乗り、さらに演者を追いかける。相米慎二監督の長回しにかける情熱が窺い知れます。

映像の衝撃を目に焼きつける長回しの魅力

映像を途切れさせずに観せることで、作品への集中力を高めたり、印象に残せるのが長回しの魅力。前述のように『台風クラブ』には規制の対象になりかねないシーンがいくつもあるのですが、それらのシーンは長回しで撮られていることが多いと思います。

とりわけ印象に残るのは台風真っ只中の校舎に取り残された生徒たちに起こる事態。
ひとつは台風の最中に起こる体育館での乱痴気騒ぎ。下着姿で踊り、降りしきる雨のなかで下着も脱ぎ捨てるという、非常に過激なシーンです。人物の顔が判別できないほどには遠くからその姿を映していますが、それでもこのシーンの鮮烈な印象は抜群。徐々にクローズアップする映像にも惹きつけられます。

もうひとつは、野球部の健と同級生の美智子のシーン。健は好意を寄せる美智子を追い回し、彼女を捕まえると制服をビリビリと破きます。そして、背中にはかつて健が負わせた硫酸による傷あとが。それを見た健は我に返ります。このシーンは目を背けたくなるほどにつらいのですが、映画への没入からか、目をそらすことができませんでした。物語をまざまざと見せつけられるような感覚は、長回しの効果特有のものだと思います。

ヴィクトリア(2015)

victoria

ベルリンの街で出会ったスペイン人の女性・ヴィクトリアと、4人の青年たちに巻き起こる一夜の出来事をワンカットで描いたサスペンス。監督は、セバスチャン・スキッパー全編140分ワンカット。脚本はわずか12ページ。俳優たちのセリフは即興で、撮影中のハプニングもカメラに収めつつ、ベルリンの街を奔走する姿をリアルタイムで追う。

前述の『バードマン』は長回し風ですが、今作は完全に全編長回し(公式の発表によれば)。メインビジュアルからもわかるように、それをがっつりと推してます。記事の冒頭で「長回しの特徴は、その臨場感と持続性」と述べましたが、今作はそれがすべてと言っても過言ではないです。ただ、これを長回しのメリットとするならば、デメリットはそれに伴う疲労感だとも思います。140分も映像が途切れずに続けば、さすがに観ている側も疲れますからね。

地続きで時間の流れを見せる長回しの妙

140分もの長尺を飽きずに観られたのは、物語の大半が屋外だからかなと個人的には思いました。ライトが瞬き、低音の響くクラブから、お酒を片手に静かなベルリンの街へ。深夜のとある事件を皮切りに夜のとばりを破り、徐々に白んだ夜明けへと物語は急速に進みます。

140分という時間を深夜から夜明けの絶妙な時間を映し出しているのが視覚的にも飽きさせずに観せているポイントだと思います。ヴィクトリアが出会う青年たちの行いは悪行ですし、夜明けと同時にすべてが白日のもとに晒されるであろうことは観ている側にもわかります。つまり、朝に近づくほどにヴィクトリアたちは窮地に追い込まれる。時間の進行が非常にスリリングです。

また、『ヴィクトリア』と似た風合いの作品で、クリスティアン・ムンジウ監督の『4ヶ月、3週と2日』という作品もおすすめです。こちらも張り詰めた時間を長回しで描いています。静けさと、主人公の息遣いや感情が作品全体に充満した作品ですが、こちらも長回しを堪能できるかと思います。

さいごに

長回しは、好みがバッサリと分かれる撮影の技法だと思います。ただ、重苦しい場面で使われることもあれば、ばかばかしいシーンを長々と映し出すなど(今回のご紹介は前者が多めですが)、さまざまなシーンで用いられています。
みなさんが好きな映画のなぜだか印象に残っているあのシーンも長回しかもしれませんよ!

 

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