【ネタバレ考察】ゲイ映画として『マルホランド・ドライブ』を解説

2017.07.20
映画

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

2016年BBCカルチャーが発表した「21世紀の最も偉大な映画TOP100」で1位に選ばれるなど、世界で高く評価されており、リンチ映画の中で唯一同性愛が絡む作品『マルホランド・ドライブ』(2001)を考察。

マルホランド・ドライブ

デヴィッド・リンチならではの情け容赦のない謎だらけの構成に、多くの人が七転八倒しながらも大ハマリしたカルト作品でもあります。

『マルホランド・ドライブ』はまさにメビウスの輪

(以下は決定的なネタバレを含みますので、これから本作の謎解きにチャレンジしたい方は、観終わってからお読み下さい)
本作を一言で言えば、ストーリーそのものが「謎」の本体になっているサスペンス映画
クリストファー・ノーランの『メメント』同様に時系列がシャッフルされているだけでなく、「夢」と「現実」という2つの世界が絡んでいることで、謎解きの難易度はさらにワンランク上がっています。

大きく前半部と後半部に分けられる構成。
前半・後半ともナオミ・ワッツローラ・ハリングが登場し、「2人は恋人関係」「ナオミ演ずるキャラクターは女優」という設定は連続しています。

ただ、前半と後半で2人の名前が変わるうえ、前半で前途有望な女優だったナオミは後半では泣かず飛ばずの端役女優に。一方ローラは、前半では何者かに殺されかけたものの辛うじて助かり、その後遺症で記憶喪失に……という身の上だったのが、後半では前半のナオミ以上の人気女優に……前半と後半では2人の立場も逆転しています。

前半と後半で大きく物語がねじれ、なおかつ冒頭シーンと終盤の展開がつながっていることから、「メビウスの輪」と表現されることもあるこの作品。
デヴィット・リンチは、謎解きのヒントは示しているものの、答えは決して明かさない……巧みなリンチの戦略にまんまと乗せられてしまった感じですが、口惜しいけど面白い!!
文句は言えません。

もっとも、公開から16年、解釈については「前半はナオミ・ワッツ演じるダイアンの願望が詰まった夢、後半が彼女の不幸な現実」というところでおおむね決着しているようです
そう解釈すると、あら不思議、前後半の分裂したストーリーが、下のような一本の完結したストーリーに。

女優を目指してハリウッドにやってきたダイアンは、思うような成功を掴めず売れない女優のまま。
一方恋人のカミーラは監督に気に入られて大役を掴んだ上、ダイアンを捨てて監督と婚約する。裏切られた怒りと嫉妬に狂ったダイアンは、カミーラを殺そうとする(或いは殺した)が、警察の捜査の手が迫り、自殺。
死の直前にダイアンの脳裏をかけめぐった夢が、彼女もカミーラも別人になっている前半部。夢の中では前途有望な女優であるダイアンは、何者かに殺されかけたことで記憶喪失になり、彼女の家に迷い込んできたカミーラを助ける。

でも、謎が解ければ途端に色褪せてしまう月並みなサスペンス映画と違って、何度観ても面白いのが『マルホランド・ドライブ
謎が解けた瞬間、今度は「ハリウッドの舞台裏」を描いたストーリーそのものの魅力に憑かれ始めます。
心に響く物語があってこそ、映画。そういう意味でも、『マルホランド・ドライブ』は名作の要件を備えているんです。

ゲイ映画としての『マルホランド・ドライブ』

熾烈なモデルの世界を描いた『ネオン・デーモン』(16)など、美女と美女が火花を散らす物語には、人を惹きつける華やかな毒がありますよね。
この映画に登場する女性たちも、女の戦いの世界に生きる女優。しかし2人の間には、カミーラは大女優、ダイアンは稼げない端役女優という格差があります。
そんな現実に反して、自らの夢の中では注目の大型新人になっているダイアン……なんとも残酷な描写です。

しかも、2人はライバルというだけでなく、恋人同士でもあります。
同じ人物の間にこの2つの設定が成り立つのは、同性愛ならではかもしれません。
ダイアンはカミーラの成功を複雑な思いで眺めながら、彼女と距離ができることに不安と焦りを感じています。
後半=現実のシーンで、ダイアンことナオミ・ワッツが、カミーラを想って泣きながらマスターベーションをするシーンは、本作最大の見どころの一つ。
フレーム一杯に大写しになった中でパンティに手を突っ込むダイアン……限りなくポルノ的なシーンでありながら、エロティシズムよりも狂おしいほどの哀しみが伝わって、胸が締め付けられます。
このシーン、女優ナオミ・ワッツの演技へのすさまじい執念を見せつけられる場面でもあって、そういう意味でもこの女優達の光と影の物語にこれ以上ないほどの生々しさと凄みを加えてるんですよね。

実はこの作品は、当初はテレビドラマとして企画されたものだとか。
しかしパイロット版の評価が芳しくなくお蔵入り、後日映画化の話が持ち上がった時、まったく結末を考えていなかったリンチは慌ててストーリーを練り始めたのだそうです。

登場する2人の女優が同性愛関係という設定も、どうやら後から付け加えられたもの。
ただ、この設定が加わったことで、2人の関係はよりビビッドに。
大胆なベッドシーンなどセクシー度の面でも花まる! 
全体構想なく作り始めて、ここまで完成度の高い作品が出来あがるとは……当時のデヴィット・リンチは神がかっていたとしか思えません。

マルホランド・ドライブ2
劇中に登場するパラマウント・スタジオのゲート

ダイアンの夢では何故、カミーラは記憶喪失だったのか?

女優として成功を掴みたかったというダイアンの思いが滲み出た、前半部の夢。
彼女の夢にはまた、カミーラへの断ちきれない愛情も顔を覗かせています。
ダイアンはカミーラを殺したいほど憎みながらも、一方で、カミーラが過去の全てを水に流して自分の元に戻ってきてくれることを望んでいた……そのダイアンの想いを、前半部の顛末ははっきりと物語っています。

殺意は愛情と表裏一体。断末魔のダイアンの脳裏によみがえったのは、憎しみよりも愛でした。
『マルホランド・ドライブ』の世界観には、ミステリアスな空気とともになんとも言えない薄気味悪さが漂っているのですが、一旦ストーリーが見えてくると、それがハリウッド・ドリームも愛も失い死んでいった女の哀しい怨念に感じられてきます。

ダイアンは当時のナオミ・ワッツに重なる

この映画で描かれるハリウッドの舞台裏の物語に一層のリアリティーを添えているのが、ダイアン役を演じるナオミ・ワッツの当時の境遇。
十代から演劇学校に通い、女優を目指していたナオミ・ワッツは、同じオーストラリア出身のニコール・キッドマンとは1歳違い。2人は長年の親友として知られています。
21歳でハリウッド進出、その後まもなくトム・クルーズと結婚……と順風満帆にスターダムを駆け上がったニコール・キッドマンの経歴は、『マルホランド・ドライブ』のカミーラを思わせます。
一方、ナオミ・ワッツは挫折の連続……一時は女優の夢をあきらめかけた時期もあったとか。

『マルホランド・ドライブ』の主役に抜擢された時点では、ナオミ自身が売れない女優、まさにダイアンに近い立場でした。
勿論ナオミ・ワッツとニコール・キッドマンの関係は、映画の2人とは違って恋愛関係ではないものの、どことなく本作の2人の姿に重なる部分があります。

ハリウッドサイン
(C)Der Wolf im Wald

ナオミ・ワッツはこの作品で大ブレイク。
ハリウッドで成功を掴めず消えていった女優を演じて、ハリウッド・ドリームを叶えたナオミ……まるでハリウッドという陰影深い世界の縮図のような話ですね。

そして本作には、まだまだ解明されていない謎がいくつも……
年月を経ても古びることのない『マルホランド・ドライブ』、もう一度観直してみると、きっと前回観た時には気づかなかった新たな発見に出会えるのではないでしょうか。

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  • シネフィルmonk
    3.2
    三月末で閉館する京都みなみ会館でいま、デビッド・リンチ監督特集をやっている。「 #マルホランドドライブ 」もその中の一つ。公開当時、わからないシーンが多かったので昨日DVDで久々に鑑賞し、ほぼ謎は解けた。 しかし、夢か幻想か真実か…どこまでもとらえようがないのがさすが奇才Dリンチ監督である。この映画の日本公開時のキャッチコピーは「わたしのあたまはどうかしている」ー。いい得て妙なコピーだと思う。ナオミ・ワッツ、ローラ・ハリングが美しい(*^-^)
  • mikaho
    5.0
    ツインピークスの続編みてたら思い出して… 考察の余地がある。けど内容はシンプル。 でもリンチ先生はDUNEが好き。
  • メメ
    4.2
    やばい、クセになりそう、、、 久しぶりのデヴィッド・リンチ。 先日ビリー・ワイルダーのサンセット大通りを観たので、それをもとにつくったという今作を拝見。 レビュー見てても皆さんとにかく難解だ、と書いてて覚悟して観たけど、確かに難解。でもそれを上回るくらいグイグイ引き込まれる、ああ面白かった。 現在と過去の回想と空想、それらがなんの説明もなく入り混じってるわけなんですけど、すっごいよく出来てると思う。一回分かってしまえばそこまで難解でもないと思う。解説読んでもう一回観て、それでもまたもう一回観たくなる。 ナオミ・ワッツの出世作らしいのですが素晴らしかった!かわいいし!(泣きながらの自慰シーンとかかなり攻めてたし良かった) ハリウッド、成功をつかむ者もいれば、成功をつかめない者ももちろんいる。 哀しい愛と夢の物語。 あーもう一回観よ!
  • YukiTSUCHIKANE
    5.0
    完璧な映画
  • deenity
    2.5
    名作で評価が高く、極めて難解で、その上リンチ作品だということで予感はしてましたが、本当に難解ですよね。さっぱりわからんです。 何となく軸として前半と後半の時間軸のズレってのは見ててわかりましたし、夢というか願望の表出されているのはわかりましたけど、その程度が読み取れたところで何にもならないですね。よくわからん抽象的なシーンが多すぎてさっぱりで、多くの方があれやこれやと解釈をひねり出しているようですが、私にはその意欲も湧かなかったです。 だってそもそもあんまり面白くなかったんだもん(笑)そりゃ読み解いてやろうって気も起こりませんよ(笑)自分はかなり内容重視のところがあるんで、そういう感覚的・センス的な感性は疎いのは自覚してますし、「おお、この映画洒落てる」とか「なるほど、このシーンにはこんな意味が隠されていたなんて」というような要素はプラスアルファにはなりますが、それを中心に面白いとはなかなか思えない性格なのでこの手の作品とは相性が悪いんだと思います。 一応解釈のようなものは目を通しはしましたが、「ほーん、なるほどね」という感じ。またいつか見て照らし合わせたいとは思いますが、またいつか、って感じですね。 ノーランの『メメント』と比較されてるレビューをたまに見かけましたが、そもそもノーランのそれは散りばめられた伏線を最後に回収して意味を繋げるわけですが、本作は解釈の種を撒き散らして「さあ、どう読み取りますか?」と投げかけられているような作品だと思うので、また違った魅力だと思います。 つまりはこの作品の自分なりの解釈を持とうという気さえ持てたら楽しめるのかもしれないですが、自分はその気が起きなかったのでわけわからんまんまということです。 ただ、やたらと印象的なシーンはやっぱり多くて、正直この作品を見たのは2018年入ってすぐだったんですが今までレビューし忘れていて、たまたまクラブ・シレンシオってワードを聞いた時に聞き覚えがあって思い出したわけです。「あ、全然面白かったイメージないけど印象的だったんだな」ってことは最近気づいたことで、やはり印象に残るってことは名作たる所以というか力なのかもしれないですね。
「マルホランド・ドライブ」
のレビュー(8201件)