瀧内公美×高良健吾「役者の手柄にさせてくれる」廣木隆一作品で出会った、ふたりの想い【インタビュー】

2017.07.12
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

高良健吾は18歳のときに廣木隆一と出会い、その後、コンスタントに廣木監督作品に出演し続けている。「『その人』を撮るから怖い」、だからこそ、「役者の手柄にさせてくれる」監督であると表現し、全幅の信頼を寄せる高良は、最新作『彼女の人生は間違いじゃない』で実に6度目のタッグを組んだ。主演の瀧内公美は、廣木組には初参戦。高良が浴びた洗礼と似たものを受け、迷い、もがきながらも演じ切った。最終的には「怖いことがあまりなくなった」と、成長の跡とも取れる思いを、インタビューにて明かしてくれた瀧内の清々しい表情が印象的だった。

高良健吾×瀧内公美

同作は、福島県出身の廣木監督が、2011年3月11日の東日本大震災以来、その地で生き続けている人、その地へ思いを寄せる人の姿を描いた、いまの物語。震災により母親を亡くし、父と2人仮設住宅で閉塞的に暮らす主人公・金沢みゆきは、市役所勤めをしながら、週末になると東京に出て、三浦がドライバーを務めるデリヘル嬢として働いている。無常にときが過ぎてゆく中、少しずつ訪れる自分や周りの変化を受け入れ、何とか生きてゆこうとする人々の温かい力を感じる作品が、ここに誕生した。

――みゆきはオーディションを受けて射止めた役だと聞いています。当時のことを覚えていますか?

瀧内:はい。監督と色々とお話をしました。本当に何気ない会話で、「兄弟いるの?」、「ご両親は仲がいいの?」とか。例えば、「お母さんってどんな存在?」と聞かれて、「高校時代はちょっと好きじゃなかったけど、大学で東京に出たら、ありがたみを感じられました。母親のことが好きです」と答えたんです。そうしたら、「じゃあ、何で高校時代は嫌いだったの?」って話を重ねられて。どんどん自分の心の内が現れるような、そんなオーディションでした。

――主演ということで、決まってからのプレッシャーはありましたか?

瀧内:もちろんありました。私はやっぱり福島の人間ではないですし、デリヘルをやったこともないので気持ちもわからないですし……。そこはすごく考えるものがありました。けど、廣木監督と、廣木組と呼ばれるスタッフの方たちに、役へ向かっていく姿勢を教えていただいたので「怖い」という感覚はありませんでした。

高良健吾×瀧内公美

――高良さんは、廣木監督と何本も組まれています。本作への思いをお聞かせください。

高良:確か5年前くらいだったと思うんですけど、廣木さんと一緒に焼肉を食べているときに「小説を書こうと思ってる」と聞いたんです。最初の段階から、小説が完成して、この映画ができて、公開されるという流れを自分は知っているから、映画ができていくことにすごく感動しました。うれしかったです。

高良健吾×瀧内公美

――高良さんの役作りは、どのようにされていかれたんですか?

高良:僕は廣木さんに18歳のときから、「ちゃんとその場にいなさい」、「目の前にいる人に伝えなさい」、「カメラに向かって芝居しない」と、ずっと言われていたんです。それはすごく短いようでいて、とてもありがたい言葉なんです。ほかの言葉を足さずに、そう言ってくれた廣木さんへの感謝があるので、今回の現場でも昔と変わらずにやらなければ、と思っていました。とはいえ、ほかの現場もいろいろ踏ませてもらってきたから、そこで学んだこととかも、少ないながらやりたいなと思っていました。

高良健吾×瀧内公美

――瀧内さんも、その廣木メソッドを受けたんですよね?

瀧内:撮影のときに、高良さんが「廣木さんは、役者の手柄にしてくれるから」みたいなことを言っていたんですけど、撮影に入っているときは、手柄とかそんなことよりも必死でした。「わけわかんない!」というような状態で、「『その場にいる』って何?」みたいな感じでした。

――すごく苦労があったんですね。

瀧内:リハーサルのときから、廣木監督に「お前、自分に甘いんだよ」と、ずっと言われていたんです。その後、親に「『甘い』と言われた」と泣いて電話しました。そうしたら、母親に「お母さんに電話している時点で甘いわ」と(笑)。「あんた、そんな自信あるんやね。自信あるから泣けるんやね。何もないんだよ、あんた」と、言われたんです。廣木監督はそんなきつい言い方ではないですけど、同じようなことをおっしゃって。でも、それって「何でも受け入れてくれる」ことだと気づきました。

――一方では廣木監督から、もう一方ではお母さまからの叱咤激励があった。なかなかない経験です。

瀧内:廣木組に入ると、本当にいろいろなものをはぎ取られるんです。今までやっぱり自分をつくろって見せていたところもある。そうした隠しているようなこととかを、全部取られるんです。「そういうの、いいから、ほんとにいいから、いらないよ」と、ずっと言われていました。

けど、はぎ取られるんですけど、表現を否定されるわけではないんです。廣木監督と一緒にいると、「あなた、そのままでいいんだよ」と本当に認められているような気持ちになれます。「だって、いいじゃん、それで」と普通にサラッと言える方でありながら、人一倍繊細で、すごくいろいろなところを見てくださいました。ありのままでいることも、何か……怖いのがあまりなくなりました。

高良健吾×瀧内公美

――高良さんは、今の瀧内さんの話を「うんうん」と頷きながら聞いていましたね。

高良:僕は、オーディションで『M』という作品に決まった18歳のときに、廣木さんに「芝居を見ているのではなく、その人を見ている。だから18歳のお前を見せてくれ」と言っていましたし、23歳で廣木さんと仕事したときも、「23歳のお前を見せてくれ」と言われました。廣木さんは本当にその人が生きてきた人生や、その人がやろうとしていることを、まず受け入れようとしてくれる。認めてくれるし、肯定してくれるんです。だから、今瀧内さんが言っていることを「自分もすごくそうだよな」と思いながら聞いていました。

高良健吾×瀧内公美

――そうして、完成作を御覧になっていかがでしたか?

瀧内:そんな状態だったので、誤解を恐れずに言えば、観るときもそんなに自分に期待していなかったんです。でも、いざ観たら「ああ、こんなに映してもらっている」と思って、ありがたいというか、作品としてすごく感動しました。普通にお客さんとして泣いていました。いつも自分の出ている作品を初めて観るときは、「ああー」、「ここ、ああー!」と反省点を追うような感じだったんですけど、今回は一切思いませんでした。

高良健吾×瀧内公美

高良:僕は試写室を出たときに、(柄本)時生と会ったんです。それで、「やっぱり廣木さんの映画は怖いですね」、「怖いよね」という話をしました。出ている人たちが、何を考えていて、何を感じているかというのが、廣木さんの映画は何となくわかるんです。廣木さんは「その人」を撮るから、やっぱり怖いなと思いました。同時に、役者の手柄になっているところもあるんです。

――高良さんのように、ご自身のことを最初からずっと見てくれている方とのお仕事だと、どういう感情が生まれるんですか?

高良:「うれしい」と思えるようになったのが、僕が成長したことなんだろうなと思います。やっぱり、怖かったっすよね、今まで。今までだったら、ちょっとプレッシャーでしたし、それに対してちょっと逃げたい気持ちがあったと思うんです。でも今回は、やっぱり廣木さんとやれることがうれしかったし、それに対してプレッシャーを感じていることがうれしいと思えていた自分がうれしかったです。

高良健吾×瀧内公美

――改めて、おふたりは初共演ですが、共演前後で印象は変わりましたか?

瀧内:高良さんの作品を観ているときは、メッセージが強い人だなっていう印象がすごくありました。音楽で言うと、パンクみたいな(笑)! カメラにたたきつけているわけじゃなくて、そこにいる人に対して投げかけるような印象でした。

私、福島で撮影をしていたときに、この作品のリズムがわからなくて、すごく不安定だったんです。けど、後半を撮るために東京へ行って、高良さんとお芝居をしたときに、空気と投げかけてくる思いみたいなのが、すごいスッと入ってきたんです。そのときに、「ああ、これがこの映画のリズムなのかな」ってつかめました。だからか、スッと引っ張っていってくれるイメージがあります。だけど、先日、試写でお会いしたときは、全然普通で、強い感じじゃなくて、すごいやさしい感じだったんです。今日もまた顔が違って、お会いするたびに毎回顔が違う方で、すごく不思議なイメージなんです。撮影のときはもっと違う顔ですし(笑)。

高良健吾×瀧内公美

高良:毎日過ぎるから、1日1日変わっていっているんでしょうね(笑)。

――高良さんは、撮影中、撮影後で瀧内さんへの印象の変化はありましたか?

高良:やっぱり(撮影中に)会ったときは、「ああ、廣木さんにやられてんだな」とは思いました。でも、自分もやられたので、そこに対してすごく戦っているのもわかりました。当時、僕は「人としゃべんな。お前、ひとりでいろ」と言われて、ずっと現場中、人ともしゃべらず、ひとりでずっといなければいけなかったんです。本当は言ってくれること、聞いてくれることに対して、「自分は答えなきゃいけないのかな」とか「こうしたらいいんじゃないのかな」という気持ちはありました。でも、自分はどこかそういう育てられ方をしたから、瀧内さんが傷ついていたり、苦しんでいるときに、距離を置いた瞬間はあります。ただ、それは、何と言うか……、そういうことだから。でも、試写で会ったときに、すごい笑顔がかわいくて、すごい顔色も良くて。

高良健吾×瀧内公美

瀧内:(笑)。

高良:現場中は、やつれていたから、とにかく。で、また今日会ったら笑顔が増えていて、すごい元気そうだったから、良かったなあ、と思いました。本当に、戦っていましたね。

――最後に、東日本大震災を背景に描いた映画に出演することについて、意義やメッセージ性のようなものは感じていますか?

瀧内:私は東京に住んでいて、いろいろな出来事で日々変わっていっていることを感じています。地震があったことですら、ちょっと忘れそうになっている世の中があるのも事実です。この作品を観ても、「ああ、そういうことくらい知ってるよ」と思う方もいるかもしれませんけど、それってすごい怖いことじゃないかなと、私は思っているんです。この先時間が経っても、作品があることで、「この時代はこうなっていて、今どうなっているんだろう」と、再確認できると思っています。

高良:震災は自然災害ですけど、福島の場合は原発というものがあるから、また違う。ずっと続いていくわけで、相手が自然ではないんですよね。廣木さんは福島県出身で、福島の現状に対して怒っていて、映画を武器にして廣木さんは表現していると思います。(取材・文:赤山恭子/撮影:You Ishii)

高良健吾×瀧内公美

『彼女の人生は間違いじゃない』は7月15日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開。

彼女の人生は間違いじゃない

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  • 深谷守
    4.0
    震災の時、今日は昨日と地続きの未来であるけれども、明日は必ずしも今日と地続きの未来ではないと感じた。震災という天災と原発事故という人災が同時に起きた不幸な出来事は、日本の中に空白の土地を作ってしまった。そこに住んでいた人の人生は一変し、生まれ育った故郷を失ってしまう。 そんな出来事に人はどう向き合っていくのか。無くなった家の代わりに仮設住宅が用意され、できなくなった農業に対し保証はされる。しかしそれは何の代償でもない。 主人公の女性はウィークデイは役所に勤め、週末は東京でデリヘル嬢として働く。そうして心と身体のバランスを保つ。人は危機に瀕すると自然に心と身体を守っていく。それが本能だ。主人公はデリヘルで自分を傷つけることで心と身体を守る。 究極の時、人がどう生きるのか、様々な人間をモデルに物語は紡がれていく。
  • Mii
    3.3
    どうして人は。 心に影が射せば射すほど。 自分を大切にしたくなくなるんだろう、 なんてことを思った。 前を向いて生き続けることは。 簡単なことではない、って。 改めて感じた。
  • パケほ
    3.8
    経験したことがないから分からないことも多い。 でも、自分たちの発言や考え方はもっと変えれることもあるように感じる。その人の立場から見ないと分からないことが良くわかる。 出来事1つで悪者になる。当事者にしか分からないこと。 東京での仕事は何かを埋めているのかな。自分に対する感情をコントロール出来ていないように感じた。 車での移動や何もしていないときの演技。福島と東京で着替える。自分とはちがうのかな? お風呂のシーンでは空と太陽が見えた気がした。 時間が経ったら解決する訳では無い。生きている間にはもう戻れない。取り返せないことが多くある。でも、自分のように体験していない人達は理解出来ていのだろうなと。同情しかできない。外部からの発言が観ていてしんどかった。 犬は弱っている自分と少し似ているようでそれを今度は守る側に少しでも近づいたのかなと。(みうらさんが受け入れてくれたように。) 受け入れて今でも苦しみながら進んでいる。現実にある問題ですね。
  • TaTumin
    3.0
    後部座席でやっと一息ついてる彼女の顔がハイライト。 波は一つの恋も攫ったろう。 週末のたびに、彼女はありふれた暴力の危険に身をささげ、窓越しに私たちを見ていた。 奇妙なことに、扉一つ隔てて私たちは私たちのありふれた現実を口にできずにいる。 あの日の痛みはもうほとんど感じられない。あの波は結局のところ扉一つをさえ乗り越えられなかった。
  • ミミナリうさぎ
    3.7
    震災に関する一種のドキュメントのように感じました、数年経つ度に“もう何年”って言われることが多いけど、実際に現地で生活している人と周りから見てる人の感覚は違う 私個人、阪神淡路も東北も本当の現地の感覚を知ることなく生きてきた為、とてもわかることは出来なくて、少し思うこともあったりします この映画の終わりとしてはペットっていう新しいものが、癒しとなり得るかと、少しの変化を大事に
「彼女の人生は間違いじゃない」
のレビュー(1206件)