【映画『エルネスト』特別試写会リポート】渡部陽一さん×吉木りささん トークショー 今明かされる!チェ・ゲバラが名前を託した日系人の真実

2017.10.03
特集

FILMAGA編集部

フィルマーくま

キューバ革命の歴史的英雄エルネスト・チェ・ゲバラと共に戦った<もう一人のゲバラ>である日系2世フレディ前村の数奇な運命を描いた映画エルネスト。10月6日(金)の公開を前にして9月26日に都内で行われた特別試写会では、戦場カメラマン渡部陽一さんとタレント吉木りささんのトークショーを実施。2人は本作の魅力とみどころを存分に語り合った。

エルネスト

ゲバラの詩人としての一面が丁寧に描かれた傑作です

エルネスト
戦場カメラマン・渡部陽一さん

わたなべ・よういち/ 1972年静岡県生まれ。
学生時代から世界の紛争地域の取材を続ける。これまでの主な取材現場はイラク戦争、チェチェン紛争、アフガニスタン紛争など多数。
著書「戦場カメラマンの仕事術」など。

魂で結ばれたゲバラとフレディ。その関係に胸が熱くなりました

エルネスト
タレント・吉木りささん

よしき・りさ/ 1987年千葉県生まれ。
2004 年にデビューし、雑誌やテレビで活躍。NHK Eテレ「コレナンデ商会」で人形のキーウィちゃんの声を担当しているほか、NHK-FM「吉木りさのタミウタ」にレギュラー出演中。

チェ・ゲバラが広島を訪れていた事実に驚愕

渡部) ゲバラと言うとヒゲとベレー帽など、そのスタイルで注目されがちですが、映画エルネストでは、ゲバラの詩人としての一面が色濃く表現されているなと思いました。彼が大切にしていた、自分の思いを言葉で伝えるということがしっかりと描かれていたからです。それが映画全体の力になっている気がしました。

吉木) 私もゲバラにはTシャツに描かれた顔などの印象が強かったのですが、変わりましたね。ゲバラと人々とのふれ合いが丁寧に描かれていて、とても親しみのある、愛される革命家だったんだと知り、感銘を受けました。

渡部) ゲバラは写真家でもあり、作品を数多く残しています。単に瞬発的に撮るのではなく、被写体に語りかけて話を聞き、生活を共にしつつ、相手を理解した上で一番向き合えたと思う瞬間に全てを注いでシャッターを切っていた。まさに「一撮入魂」です。

吉木) 渡部さんは、実際にキューバやボリビアを訪れたことはあるんですか?

渡部) はい。ゲバラの軌跡を追いかけて撮影したことがあります。その際、ゲバラと会ったことのある人たちから話も聞きました。ゲバラは寡黙で穏やか。ゆっくりと言葉を紡ぐ人だったそうです。革命家としての厳しさと人としての優しさ、両方を併せ持った魅力的な方なんだと思いました。

吉木) ゲバラと渡部さんって眉毛やヒゲがそっくり。帽子に星がついていたら完璧です(笑)。でも一番似ているのは、その行動力と内に秘めた熱い思いかもしれませんね。

渡部) ゲバラが1959年に広島を訪問していた、という事実を本作で知ることができたのは大きな収穫でした。なぜ来日し広島へ行ったのか? おそらく彼は革命や戦争によって人々から自由が奪われていくのが許せなかった。それがあったから、大きな戦争を乗り越えた歴史を持つ日本を、キューバ革命の指導者としてまず見ておこうと自然に思ったのではないでしょうか。

ゲバラがフレディに自分の名を与えた理由

吉木) ゲバラからファーストネーム「エルネスト」を戦士名として授けられた日系人フレディが本作の主人公です。演じたオダリギジョーさんがスペイン語を本当に流暢に話されていて、ボリビアの誠実な青年にどんどん見えていきました。キューバの俳優さんやスタッフさんたちともちゃんとコミュニケーションを取って、絆を深めていたんだろうなっていうのがスクリーンから伝わってきましたね。

渡部) ゲバラの革命活動に日系人が関わっていたことも、実は今回初めて知りました。フレディはボリビア戦線でゲバラと行軍していたんですね。

吉木) そのフレディがゲバラに「なぜそんなにも自信があるんですか?」と聞くシーンがあります。すると「自信ではなく怒りなんだ、でも怒りであって憎しみではない。憎しみから始まる戦いでは絶対に勝てない」というようなことを言うんです。それを聞いてゲバラが誰よりも人のことを思い、生きていたのかが分かりました。それにしても、なぜゲバラは自分のファーストネームをフレディに与えたんだと思われますか?

渡部) フレディという青年の誠実さ、正直さに自身と重なる一面を感じ取ったからではないでしょうか。そして自分の名前を与えることで、フレディに懸け橋となってもらい、自分の思いを次代につなげたいと直感的に思ったのではないかと想像しています。ラテン系の人は情熱的で何でもズバズバと言う印象があるのですが、ゲバラはあえて言葉に出さなくても態度で分かってほしいという、どこか日本的な感性を持っていたのかもしれません。

吉木) エルネストという名前を授けられた時のオダギリジョーさんの顔がもう忘れられなくて。ゲバラとフレディの2人は深く魂でつながっているんだとその表情だけで十分分かりました。映画を観た後、ゲバラについて調べたのですが、戦いの後は医師として敵軍の兵士も治療していたそうです。そんな素晴らしい人から名前をもらったフレディもきっとステキな人だったに違いないと思いました。

渡部) 僕もゲバラに魅せられた一人なのでフレディの気持ちはよく分かります。

ゲバラとフレディが生きるヒントをくれる

吉木) 映画の中でカストロ将軍にフレディが「今、自分がやるべきことは?」と質問したら、「いつか君の心が教えてくれるよ」と言います。渡部さんにとってやるべきことは何ですか?

渡部) 僕には夢があります。世界中から戦争や紛争、衝突が全てなくなったら、戦場カメラマンはいらない。その時に、僕は学校カメラマンになろうと思ってます。世界中の子どもたちを撮っていきたい。世界から衝突や戦闘がなくなれば実現できる。その日を心待ちにしているところです。

吉木) 私はタレントとして、あまり知られていないことやモノを伝えていきたいという思いがずっとあります。この映画『エルネスト』もその一つ。20代30代でゲバラを知らない人たちに、こんなに素晴らしい人がいたこと、そしてフレディという日系の勇敢な戦士がいたことを伝えていけたらと思います。

渡部) 世界情勢が今、大きくうねっていて、世界中が厳しい局面に立たされています。これから先、私たちが歩んでいく上で必要な選択肢は歴史の中にあるのかもしれないと思うことがあります。この映画からはキューバがたどってきた歴史やゲバラの生き様、フレディの声など当時の人々の思いをしっかりと知ることができます。そして、私たちがこれからの未来を生きていくための大切なヒントがそこにあり、大きな力を与えてくれます。

吉木) この映画を観るとゲバラやフレディはもちろん、キューバの人々の国や家族に対する愛情の深さも感じ取ることができます。ぜひたくさんの方々に観て頂きたいと思いますね。

エルネスト

ストーリー:1959 年、チェ・ゲバラ(ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ)は広島を訪れていた。数年後、医者を志して祖国ボリビアからキューバへ留学した日系2世のフレディ前村ウルタード(オダギリジョー)。キューバ危機の状況下でゲバラと出会い、彼の魅力に心酔したフレディは、ゲバラの部隊に参加。ゲバラのファーストネーム「エルネスト」を戦士名として授けられ、ボリビア軍事政権に立ち向かっていく。

フレディ前村ウルタード
1941年10月18日ボリビア生まれ。父は日本人、母はボリビア人で5人兄弟の次男。62年4月医師を目指し、キューバへ留学。ヒロン浜勝利医学校で医学の予備課程を学ぶ。10月にキューバ核ミサイル危機が勃発。66年10月ボリビアへ密入国し、翌月ゲバラ部隊に合流。67年8月31日ボリビア軍に捕まり処刑される。享年25歳。

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  • 映画漬廃人伊波興一
    3.9
    玄人の誇りに満ちた阪本順治「エルネスト もう一人のゲバラ」の挑発にのせられて 阪本順治が南米を舞台に映画を撮り始めたという報せを聞いたとき、 どれだけワクワクしたことか。 その思いをまずは先回りして申し上げます。 デビュー作「どついたるねん」以前の「父」「鉄腕仮面」などの自主映画から一貫して阪本作品を足掛け30年追い続けてきた者にとって、阪本順治ほど新作に接するたびにかくも(外された)と思わせてくれる日本映画人はおりませぬ。 それは「どついたるねん」の感動をもう一度味わいたく接して(外して)くれた第二作「鉄拳」や劇作術を大胆に(外した)孤高の傑作「トカレフ」、こちらの喜劇の想定を悉く(外してくれた)「ビリケン」「ぼくんち」「愚か者」「顔」から「大鹿村騒動記」や「団地」に至るまで変わることなし。 「エルネスト もう一人のゲバラ」の素晴らしさはその予告内容から誰しもの頭によぎるスティーブン某の「チェ」二部作への想起など木端みじんに(外して)くれる政治映画でも、啓蒙映画でも、伝記映画でさえない、純粋に(戦う男)の映画であり、 純粋に活劇であること。 そして監督ご自身が好む孤立無援の映画であること。 オダギリジョーが革命戦士であるのは、赤井英和が単にボクサーや賭け将棋棋士であったことと何ら変わりありません。 深作欣二+笠原和男に準ずる活劇魂を堪能できたのは昨年の大収穫でしたが、 映画ジャーナリズム自体がこの玄人の誇りに満ちた挑発に何らかの抑圧を感じなかった気がするのは私だけでしょうか? やはり、いつの時代も阪本作品は孤立無援なのかもしれません。
  • 0naiii
    3.6
    モーターサイクルダイアリーズ、チェ・28歳の革命、13デイズを鑑賞済みだったのが良かった。 キューバ革命、当時のボリビア情勢下で人々の暮らしにどのような影響がもたらされたのか。がよく分かる。 “何をすべきか、など人に聞くものじゃない。それはいつか自分の心が教えてくれる。”
  • こめみそ
    2.4
    キューバに行く前に鑑賞… うん、でもあんまり… 観てもあんまりだった… ちょっとよくわかんなかったな… ゲバラの人生を知りたいなら ドキュメント見た方が良かったかな… 日系人ではあるものの、 彼はボリビア人であり、 なんだか無理に日本映画にしなくても良かったのではと思ってしまった。
  • ベルサイユ製麺
    3.3
    キューバ革命〜キューバ危機辺りはなんとなくは知った気ではあり、なまじちょっとは分かるが故にゲバラのTシャツなんて着れない訳ですが(因みに彼を主人公にしたテレビゲームが有ります!単なるシューティング…。)、ゲバラから彼自身のファーストネームを名乗る事を許された日系人の戦士がいた、となると完全に初耳です。 映画の語り口はとても静かで、言い方はなんですが淡々としています。実話系の上等手法の“第三者の述懐を挟んでの時間シャッフル”みたいなのは全く無くて、全編規則正しく時系列で描かれていきます。 フレディを演じるのはオダギリジョー。肌の色艶もカーリーなヘアもなかなかの説得力で、何より南米の人間に見劣りしない体躯、四肢の長さが良い。いや、好き。実際にフレディ自身がそうであったのかは存じませんが、物静かで物腰も柔らかく、声を荒げる様な場面は殆ど有りません。しかし信念は誰よりも強く実直で、実際に革命を志すのはこの様なタイプの人であって欲しいものです。 史実に文句のつけようも有りませんが、展開がことごとく盛り上がりに欠きます。リアルといえばリアルだし、下賤な興味を持って鑑賞し始めてしまった自分が間違っているのですが…。 キューバ、ボリビアの為に命をかけた日系人が居た、という部分がいちばんの引きになっていて、彼が何か大きな事を成し遂げた訳では無いのです。それは間違いない。きっと本人も自分に大それた事が成せるなんて思ってなかったろう。でもやるんだよ。 常に彼等の屍の上に我々の今がある。その事を意識出来なければ、この作品からは得るものは殆ど無いと思います。 日本・キューバの合作では有りますが、スタッフ周りはほぼ日本人でその為、南米の人々しか映っていないシーンでも何故か日本映画に見えてしまう。個人的には“フレームの角度と範囲”“会話の為に立ち止まる人々”が日本映画的なのではないかと思いました。また冒頭に当時の実際の映像をつかうものだから、クライマックスの(ここだけは絶対に凄惨に見えないといけない)戦闘シーン、続く惨たらしい出来事の描写の緊張感の無さが際立ってしまったのは、制作上止む無くなのでしょうが残念でした。 一番最初のパート、ゲバラが広島を訪れる原爆ドームや資料館を巡るシーン。彼の言葉がどの程度史実に合っているのかは分かりませんが、ここに作品の一番具体的なメッセージが込められていると思います。何度も頭の中で反芻、咀嚼してみます。
  • ayamaru8
    3.2
「エルネスト」
のレビュー(906件)