【来日公演開催!】股間にわだかまるロックな怒り!『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』

2017.10.13
洋画

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

LGBTQミュージカル映画の金字塔

ヘドウィグ4

今年は、アカデミー賞最多受賞で話題をさらった『ラ・ラ・ランド』に、「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」とのキャッチコピーで売り出した『ベイビー・ドライバー』に……と、ミュージカル要素のある映画の当たり年ですね。
残念ながら私の管轄ジャンルではミュージカル映画の新作はありませんでしたが、今日は代わりに、不動の人気を誇るLGBTQテーマのミュージカル映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(01)をご紹介したいと思います。

オフ・ブロードウェイで人気を博したミュージカルをベースに、ミュージカルでも主人公ヘドウィグを演じる脚本のジョン・キャメロン・ミッチェルが自ら監督・主演した作品です。
映画版・ミュージカル版ともにカルト的人気を誇る本作、日本のミュージカル版では、山本耕史・森山未來と、中性的な魅力の俳優陣が、トランスジェンダーのヘドウィグを演じています。
(以下ネタバレしていますので、未見の方はご注意ください。)

ストーリー

本作の主人公ヘドウィグは、東西冷戦当時の東ベルリン生まれ。
生まれた時は男性だったヘドウィグですが、アメリカ人の軍曹に見初められ、アメリカで結婚するため性転換して女性に
ところが、性転換手術は微妙に失敗し、ヘドウィグの股間には1インチ(約2.5cm)の「男性」の名残り(ヘドウィグが言うところの「アングリーインチ(怒りの1インチ)」)が残ってしまいます。

その上、渡米後、夫の愛は新たな美少年へと移ろい、あっさり離別。
呆然としながらも、生きていくため歌手として活動を始めた彼女は、ベビーシッターとして働いていたアルバイト先で美少年トミー(マイケル・ピット)と運命的な出会いを果たし、トミーにのめりこみます。

音楽好きのトミーと意気投合してバンドを結成、2人の歌は瞬く間にヒットし、成功への道が見え始めた幸福な日々……しかしそれも束の間、ヘドウィグの股間の「アングリーインチ」の存在に気づいたトミーは、ヘドウィグから逃げ出したばかりか、彼女の曲を盗んで一人スターダムを駆け上がり……。

なぜ人間は恋愛体質なのか?

ヘドウィグ2

太古、人間は2つの顔と4本ずつの手足を持っていたが、あまりに力を持ちすぎたがために、神に2つに引き裂かれた……というプラトンの「饗宴」に登場する神話、ご存知でしょうか?
以来、人は皆、失った自分の半身(ミッシング・ハーフ)を探し続けることに……その喪失感が、人が人を愛する心の起源なのだとか。

ジョン・キャメロン・ミッチェルは、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の映画化にあたり、この神話をモチーフに加えています。

ミッシング・ハーフの物語と、第二次世界大戦後「壁」によって東と西に引き裂かれたベルリンとを重ね合わせ、満たされない想いを抱えながら人生をさまようヘドウィグの物語が描かれていくわけです。

「ベルリンの壁」はロック・ミュージックの聖地でもある

1989年の「ベルリンの壁崩壊」へのムーブメントの中で、デヴィッド・ボウイがベルリンの壁を背に東西ドイツの再統一を訴えるコンサートを催したことは多くの人の記憶に残るレジスタンスのひとつ。
昨年デヴィッド・ボウイが亡くなった際、ドイツ外務省から「壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」とのメッセージが贈られました。

東西世界を分断する壁への怒りは、ロック・ミュージックが持つ体制・マジョリティへの怒りにも通じるものがあります。つまり、この作品の中で「ベルリンの壁」は、引き裂かれた魂のメタファーというだけでなく、ロック魂の象徴・ロックの聖地でもあります。
デヴィッド・ボウイは『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を観てジョン・キャメロン・ミッチェルに賞賛の言葉を贈ったそうですが、それには「ベルリンの壁」というキーワードに共感した、という要素も大きかったのかもしれません。

思い切り自虐的なストーリーが、逆にヘドウィグの魅力を引き立てるという裏ワザ

ヘドウィグ3

音楽の面では誰よりも共鳴しあっていたヘドウィグとトミー。
それってもう、ある意味恋愛以上のパートナーと呼べる関係じゃないでしょうか?
唯一無二に見えた2人の関係……しかし、2人の間にはまさかのセクシュアリティの壁が……ベルリンの壁は崩壊しても、ヘドウィグの股間に残ったアングリーインチは、ヘドウィグとミッシング・ハーフのはずのトミーとを引き裂きます。

ここからは、バンド分裂につきものの著作権問題も絡めて、ドロドロの確執。
トミーを愛していただけに、憎しみにとらわれたヘドウィグは、スターになったトミーのツアー先をストーカーさながらに追い続けます。
そんなヘドウィグの持ち歌は、惨めな自分をネタにした自虐まみれの曲!
コメディ要素も随所に詰め込んだノリのいいエンターテインメントでありながら、主人公ヘドウィグの周囲には負のオーラが渦巻いています。

ところが、そんな憎しみにとらわれて堕ちていくヘドウィグに、どういうわけかぐいぐい惹きつけられ、魅せられてしまうんですよね。
グラマラスなメイクや派手な衣装がジョン・キャメロン・ミッチェルの中性的な容姿に映えて、どのシーンでもヘドウィグはとても美しいんですが、憎悪や苦悩の表情にはひときわ魔性を感じます。
ヘドウィグの人物像には、ゲイであるジョン・キャメロン・ミッチェル自身の半生が投影されているのだとか。
演者本人の心情に裏打ちされたキャラであることもまた、ヘドウィグの姿に心打たれる一因なのかもしれません。

音楽のように行間に余白がたっぷり残されたストーリー。その余白に観る人それぞれの人生が映し込まれて、それぞれの答えへと導かれていく……そんな、人の数だけ答えがあるタイプの物語だと思います。

愛とセクシュアリティにどう向き合うか

いつもの例に漏れず、本作もまたさまざまなセクシュアリティが交錯する物語です。
そもそもヘドウィグ自身、アメリカ人男性と結婚して東ドイツを出国するために性転換手術を受けたものの、彼は本当にトランスジェンダーだったんでしょうか?
股間の1インチは、手術の失敗というだけではない、何かを訴え続けている気がします。

そして、ヘドウィグのバンドメンバー兼(トミーなき後の)恋人・イツハク(ミリアム・ショア)が、一見男性でありながら精神の性別は女性だということにも注目!
イツハクの登場で、ヘドウィグのセクシュアリティは一層混迷を深めます。

ヘドウィグ5

セクシュアリティは人にとって譲れない大切なアイデンティティ。しかし、とても複雑で、しかも生涯不変ではなく、変化しうるものでもあります。
それにこだわることにどれほどの意味があるのか……このセクシュアリティのカオスの世界に放り込まれると、そんな疑問がふつふつと沸いてきます。
愛とセクシュアリティの矛盾に満ちた関係性に悩み、苦しみ、彷徨うヘドウィグの姿は、私たちに愛の本質について問いかけているようにも思えますね。

心に響くオリジナル曲が詰まった、充実のロック・ミュージカル映画。
音楽とポップな映像を軽く楽しみたい時にもオススメですが、愛とセクシュアリティについて考えてみたいという人には、もっとオススメの1作。
ぜひ、怒れるヘドウィグの音楽を体験してください。

ヘドウィグ6
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
(C)2001 New Line Productions, Inc. (C)2001 Fine Line Features. All rights reserved.

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  • MoemiY
    4.0
    one of my favorite movie. origin of love.
  • たけぞう
    3.7
    記録。
  • youreyescream
    4.6
    以前からずっと気になっていて今回監督の最新作が公開されるタイミングでやっと鑑賞 根底にカルトっぽさもありつつロックミュージカル調で進んで行く本編は一人のオカマの愛と哲学を存分に感じさせる 特筆すべきは劇中の音楽が本当に良い、サントラまるごと聴きたくなる程 そして所々に様々な要素を感じるし演出やカメラワーク等面白いと感じさせる場面が多くて勉強にもなる 監督自身が演じるヘドウィグは女よりも女らしい恋愛に溺れ、本当に驚くべき程に可愛い、更に圧倒的に格好良い 久し振りの人生で五本の指に入るレベルの映画だった
  • にゃるらとぽとふ
    4.0
    サントラは何年経っても聴ける
  • minacco
    4.0
    今まで何となく避けてきてしまった本作。『パーティーで女の子に話しかけるには』を鑑賞前にやはり観ておくべきかという判断で鑑賞。 結果、なぜ今まで観ておかなかったのかと後悔。 数年前に森山未來くんがヘドウィグを演じた舞台のチケットがとれずに諦めてしまったことにも激しく後悔。 映像がとにかくスタイリッシュ。 マイケルピットが幼くてかわいい。たまに登場するアニメーションがいい。 映画としても見応えはあるけれど、これは舞台で観て観たかった。
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」
のレビュー(6887件)