スティーヴン・ソダーバーグは何故、映画界に舞い戻ってきたのか?【フィルムメーカー列伝 第十回】

2017.11.25
監督

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

「スティーヴンという名前の映画監督といえば?」という質問に対して、「スピルバーグ!」ではなく「ソダーバーグ!」と答える人は一握りだろう。っていうか、「え? ソダーバーグ? 誰ソレ?」と首をかしげる紳士淑女の皆さまも、少なからずいらっしゃるかもしれない。

いや、ちょっと待って! スティーヴン・ソダーバーグってホントはすごい映画作家なんですよ! とっても重要なフィルムメーカーなんですよ! だってだって、

“史上最年少でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した天才!”
“『オーシャンズ11』などオールスター総出演のハリウッド大作を手がけるヒットメイカー!”
“監督のみならず脚本・プロデュース・撮影・編集も務めるマルチクリエイター!”
“テレビドラマにも進出し、数々の話題作を手がける映像界のフィクサー!”

なんですよー!!!!!!

その才能&実績と比べるとあまり語られる機会の少ない映画作家、スティーヴン・ソダーバーグ。せめて、映画感度の高いFILMAGA読者には彼のすごさを知っていただきたいと思います。という訳で【フィルムメーカー列伝 第十回】は、ソダーバーグについて考察していこう。

史上最年少の26歳でカンヌを制覇した“早熟の天才”

スティーヴン・ソダーバーグは1963年1月14日、ジョージア州アトランタ生まれ。まだ高校生だった15歳で大学のアニメーション科に入学し、16mmフィルムを製作していたというから、映画に関してはかなりの早熟! ちなみに父親のピーター・ソダーバーグはルイジアナ州立大学の教授で、スティーヴンもいくつかのクラスを受講していたらしい。

高校卒業後はハリウッドに移り、フリーランスの編集者として働いたあと、ロックバンド「YES」のライヴを収録した「9012ライヴ」を手がける。この作品はグラミー賞の最優秀短編ミュージックビデオ賞にノミネートされ、高い評価を得た。

1989年には、ソダーバーグにとって初めての長編映画『セックスと嘘とビデオテープ』を発表。一本のビデオテープによってある夫婦の真実が明らかになるという低予算のインディーズ映画だったが、いきなりカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞! しかも26歳という史上最年少での受賞だった。

っていうか皆さん、26歳ですよ! 26歳っていったら、日本の芸能人だと前田敦子さんと一緒なんですよ(その比較に何の意味があるのかは自分でもよく分かりませんが)!

かくして、早熟の天才・ソダーバーグは颯爽と映画界に登場したのである。

セックスと嘘とビデオテープ

低迷期を脱出、アカデミー監督賞受賞へ

その後ソダーバーグは、フランツ・カフカをモチーフにした不条理サスペンス『KAFKA/迷宮の悪夢』、大恐慌時代のセントルイスを舞台に12歳の少年のひと夏を描く『わが街 セントルイス』、1949年製作のフィルム・ノワール『裏切りの街角』をスタイリッシュにリメイクした『蒼い記憶』と、野心作を次々に発表。

しかしいずれの作品も商業的成功には至らず、華々しいデビューとは裏腹にその後は低迷期が続く。1996年には、資金節約のために監督・脚本・撮影のみならず自ら主演も務め、おまけに奥さんと子供も俳優として出演させ、わずか5人のスタッフで作り上げたという超低予算映画『スキゾポリス』を発表。

スキゾポリス

自己言及的でありながらスラップスティックでシュールな本作は、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』や、北野武の『TAKESHIS’』と同じく、映画監督ソダーバーグの内的葛藤をそのまま引き写した映画といってもいいかもしれない。ある意味でこれは、究極のプライベート・フィルム。ソダーバーグがネクスト・レベルへステップアップするために、『スキゾポリス』をつくることは不可欠だったのだ。

自分自身と正対したソダーバーグは、その才能を再び世に知らしめる。ジョージ・クルーニーを主演に迎えた『アウト・オブ・サイト』(全米映画批評家協会賞の作品賞を受賞)、名優テレンス・スタンプを主演に迎えた『イギリスから来た男』と、スタイリッシュなクライム・ムービーを立て続けに発表。クロスカッティングやフラッシュバックを多用する“ソダーバーグ”タッチはこの辺りから洗練を極め、批評家からも絶賛を浴びた。

アウト・オブ・サイト

イギリスから来た男

そして2000年には、PG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー)を相手に巨額の和解金を勝ち取った女性環境運動家の活躍を描いた『エリン・ブロコビッチ』、アメリカとメキシコを舞台に麻薬密輸に関わる闘争をサスペンスフルに描いた『トラフィック』を発表する。

ソダーバーグはこの2作でアカデミー監督賞にダブルノミネートを受け(監督賞でダブルノミネートを受けたのは、マイケル・カーティス以来62年ぶり2人目の快挙だった)、『トラフィック』でみごと受賞

長い低迷期を抜け、映画界の天才児は再び日の当たる場所に帰還を果たしたのだ。

トラフィック

ハリウッドを代表するヒットメーカーの座を手中に

その後の活躍は、周知の通り! あらゆる映画賞という映画賞をかっさらってきたソダーバーグは、アート系ムービーからエンターテインメント大作に舵を切り、映画マーケットで旋風を巻き起こす。その代表格は、やはり『オーシャンズ11』だろう。

オーシャンズ11

これは1960年に公開された『オーシャンと十一人の仲間』のリメイクで、ラスベガスの巨大金庫に眠る1億5,000万ドルを狙って、多士済々な犯罪のプロフェッショナル達が金庫破りに挑む痛快作。ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、ジュリア・ロバーツというスターが勢揃いしたことでも話題となった。

人気を博してその後も『オーシャンズ12』、『オーシャンズ13』と続編が作られ、2018年には主要キャラクターを全て女性キャストで固めたリブート作品『オーシャンズ8(原題)』が公開される予定だ(ソダーバーグは監督を離れてプロデュースにまわっている)。

スティーヴン・ソダーバーグは、複数の登場人物が入り乱れるオールスター・ムービーの手法を「オーシャンズ」シリーズで体得し、2014年のウイルス・パニック映画『コンテイジョン』でも、マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレットといったスター俳優たちを集めて、世界が未曾有の危機に陥る様子を描いている。ハリウッドを見渡しても、スター俳優をここまで操れる監督はそうはいない。

コンテイジョン

その後もソダーバーグは、革命家チェ・ゲバラの半生を描いた二部作『チェ 28歳の革命』&『チェ 39歳 別れの手紙』、総合格闘家のジーナ・カラーノを主演に迎えて撮ったスパイ・アクション『エージェント・マロリー』、男性ストリッパーのサクセスストーリー『マジック・マイク』などあらゆるジャンルを横断した映画を撮りまくる。

ソダーバーグが“あまり語られる機会の少ない映画作家”なのは、節操がないくらいにあらゆる題材を取り上げ、スタイリッシュに仕上げてしまうからだろう。もちろん映画の端々には彼の強烈な作家性が刻印されているのだが、あまりにも要領が良すぎるがために、映画作家としての語りしろが見当たらない。決して監督として議論に値しないからではなく、ちょっとイラッとするくらいに(笑)器用すぎるがゆえに語られにくいのだ。

撮影も編集も手がけるスーパー・マルチクリエイター

スティーヴン・ソダーバーグ監督、脚本、製作に止まらず、撮影も編集も手がけるスーパー・マルチクリエイターでもある。

アカデミー監督賞を受賞した『トラフィック』の撮影監督はピーター・アンドリュースだが、実はこれがソダーバーグ自身! ハリウッドではユニオン(組合)が力が非常に強く、その職分が侵されることを非常に嫌う。そこでわざわざソダーバーグは父親ピーターのファーストネームとミドルネームから名前を拝借し、ピーター・アンドリュースという別名義でクレジットさせたのだ。

編集にクレジットされているメアリー・アン・バーナードも、ソダーバーグの結婚前の母親の名前に因んだ別名義。とにかく、彼はなんでもやりたがるタイプなのだ。

ちなみに『マジック・マイク』の続編『マジック・マイクXXL』は、ソダーバーグの盟友グレゴリー・ジェイコブズがメガホンをとっているが、何とソダーバーグは撮影監督と編集を自ら買って出て担当している。ただでさえ監督業とプロデュース業で忙しいはずだが(しかも彼はシナリオも手がけているのだ)、ここまでくれはビョーキに近いワーカホリックぶり。っていうか、自分の師匠格が撮影と編集をやっている訳だから、グレコリー・ジェイコブズは相当やりにくかったことだろう……。

突然の引退宣言、そして映画界復帰作『ローガン・ラッキー』へ

順風満帆のクリエイティブ・ライフを謳歌していたソダーバーグだったが、2013年の『サイド・エフェクト』を最後に、「映画からしばらく離れたい」と突然の映画監督引退宣言!

サイド・エフェクト

ゆっくり過ごして充電期間に当てるのかと思いきや、活躍の場所をテレビに移し、さらなるワーカホリックぶりをスパークさせる。医療ドラマ「The Knick/ザ・ニック」、青春コメディ「レッド・オークス」、高級コールガールを主人公にすえたドラマ「ガールフレンド・エクスペリエンス」などで演出・プロデュースを担当。どんだけ働くんだソダーバーグ!!!

しかし彼は4年も経たないうちに映画の世界が懐かしくなったらしい。映画監督復帰作となる『ローガン・ラッキー』が、11月18日より公開中だ。レベッカ・ブラウンのオリジナル脚本を映画化した本作は、一攫千金計画に挑む強盗団をスリリングに、そしてちょぴりコメディタッチで描くクライム・ストーリー。

映画界に再び舞い戻ってきたソダーバーグ。その華麗なる復帰作を、ぜひ映画館で体感してみてはいかがだろうか?

ローガン・ラッキー

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  • Qちゃん
    3.0
    2004年2月7日、鑑賞。 有名俳優がたくさん出てくるが、ベニチオ・デル・トロの存在感が凄かった。 メキシコ国境付近というのも、ベニチオ・デル・トロの風貌にマッチしていたと思う。 麻薬がらみの物語だが、様々なシチュエーションがストーリーを面白くしていて、見応えある作品だった。
  • 茶一郎
    4.4
    【短】現代版『フレンチ・コネクション』などと呼び声高い、メキシコからの麻薬密輸にまつわる犯罪・人間ドラマを描いた作品。  フランスからの密輸麻薬を取り締まる刑事をドキュメンタリックに描いたのが『フレンチ・コネクション』である一方、今作『トラフィック』は麻薬の密輸元のメキシコから、その密輸された麻薬を取り締まるアメリカの警察、ひいては麻薬密輸に関する法を整備する行政のトップ、そして実際に密輸された麻薬を使用するジャンキーまで、ドキュメンタリックに全てを148分間で描いてしまうというトンデモない作品でした。三つの映像世界をフィルターを利用して撮影段階で描き分ける実験的な撮影に加え、ソダーバーグお得意の実験的な複雑すぎる編集による語り口が加わる、何とも凝りに凝っていますが全く混乱させないという傑作群像劇ではないでしょうか。  麻薬が密輸される根っこから、それが売られ、使われ、一般市民にまでその被害が及ぶという地獄の物語を語りながら、非常に感動的に着地するラストも素晴らしい。スティーブン・ソダーバーグ監督の語り手としての才能が遺憾無く発揮された彼の代表作と言える一本だと思います。
  • yuko
    -
    記録 2001.5.15 松竹遊楽館
  • junya
    2.5
    覚えてないが、鑑賞当時は面白くなかったという評価。
  • A1Q
    3.3
    娘がヤク中の麻薬撲滅補佐官候補判事とCAの夫が売人容疑で捕まった女とメヒコの警官が変えようと戦って変わらないけど個は変わるオハナシ。
「トラフィック」
のレビュー(1636件)