ハリウッドで活躍中の日本人キャラクタークリエイター・片桐裕司の仕事に迫る【インタビュー】

2018.07.31
映画

「映画」を主軸に活動中のフリーライター

春錵かつら

ハリウッド映画のエンドロールに日本人の名前を見つけることが多くなってきた昨今。ハリウッドでも活躍する日本人が増えてきた。

A.I.』や『宇宙戦争』、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』などなど、ハリウッドの名だたる作品で多くの特殊メイクや特殊造形を手がけてきたキャラクタークリエイター、片桐裕司もそんなハリウッドで活躍するひとりだ。

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今回初長編監督作となる『ゲヘナ~死の生ける場所~』が7月30日(月)〜8月5日(日)、東京都渋谷区のユーロライブで上映されるにあたり、日本に帰省中の片桐監督が開催する「彫刻セミナー キャラクター造形クラス」にお邪魔し、インタビューに応じていただいた。

――​まず、キャラクタークリエイターを目指したきっかけは何だったのでしょうか?

とにかく映画が好きで将来映画に携わる仕事……と考えた時に、日本ではイメージが湧かず、アメリカに行ってやればいいんじゃないかと思いました。

僕が小学校高学年から中学校の頃の80年代、マイケル・ジャクソンの「スリラー」や『ハウリング』など、ハリウッドで特殊メイクがクローズアップされた時期があったんです。その頃に観た多くの作品に影響されて、特殊メイクの仕事をしたいと思いました。

timemachine_making映画『タイムマシン』より

――高校を卒業してすぐに渡米されたとのことですが、言葉の壁などはなかったのでしょうか。

高校2年の終わりにはアメリカに行くことを決めていましたから、そこからアルバイトをしてお金を貯めつつ、英会話の学校に行ったりと準備を始めていました。

もともと英語の勉強は大嫌いでしたが英会話を学ぶことは楽しくて、本当に一生懸命勉強しました。多くの人が感じているように、当時の日本の高校の英語教育自体が、いちいち日本語に訳して理解するという過程があって英語の習得にはまるで適していない。とにかく英語を英語のまま聴いて理解しようとする練習をしました。高校での英語の授業もイヤホンでシャットアウトし、ひたすら英会話を聞いたり。渡米時にはある程度コミュニケーションを取れるくらいにはなっていましたが、それでも言葉の壁はもちろんありました。

アメリカで通った特殊メイクの学校の授業では、聞いたことのない単語を耳にすることも度々ありました。でもその時に理解できなかったら、それは自分のスキル不足なので仕方がない。手探りながらもあの時何を言っていたのか想像力を駆使して導くのですが、所詮英語は目的ではなく手段ですから。英語の理解より、技術の向上に集中してじわじわと理解度を上げて習得していったという感じですね。

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――スクリーミング・マッド・ジョージ氏のところで働くようになったきっかけは?

ロサンジェルスの特殊メイクの学校ではとても真面目な生徒でしたが、学校を出ると卒業生は色々な仕事の紹介を受けるんです。その中のひとつで、お店に訪れたお客さんにハロウィンで傷のメイクをするアルバイトをしたときに、たまたま出会った日本の方が知人の映画プロデューサーの電話番号をくれました。思いきって連絡を取ってみると、その人は日本の漫画「強殖装甲ガイバー」をハリウッドで映画化した『ガイバー』という映画のプロデューサーをしていて、その作品で監督を務めた“ある人物”に僕を紹介してくれました。

それは特殊メイクと特殊造形の第一人者、スクリーミング・マッド・ジョージ氏でした。そこで「なんでもします!」と言ってすぐ工房で働くようになりました。

19、20歳でいきなりハリウッド映画の現場に携わることになり、スクリーンの向こうに観ていた有名な人たちと直接会ったりすることになって、夢のようでした。とても嬉しかったのを覚えています。

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――ハリウッドで色々なエピソードがありそうですね。

初めて携わった作品はアレック・スウィンターが主演を務めた『ミュータント・フリークス』という作品でした。もうハチャメチャなコメディで、ミスター・Tもヒゲ女役でドレスを着てフリークショーに出たり、ブルック・シールズもフリークの役で出演した、とても思い出深い作品です。

工房にはいいろいろな俳優や監督が出入りします。『アンドリューNDR114』の時、ロビン・ウィリアムズは、まるで彼の出演作『ミセス・ダウト』で彼がやったように、次々と色々なキャラクターを演じてスタッフを笑わせてくれました。誰もが言うようにスクリーンの中だけでなく、カメラが回っていない時も四六時中人を笑わせるためにジョークを言っているような楽しい人でした。今でも彼があんな形で亡くなったのは信じられません。

『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』の時に会ったヒュー・ジャックマンは本当に紳士でした。穏やかで、話している間中、相手をリスペクトしている感じが伝わってくる。「男が惚れる男」って感じです。

ヘンリー・カヴィルと一緒に仕事をしたときは「僕がスーパーマンをやるなんて、今でも信じられない!!」とずっと言っていました。トム・クルーズがバイクでひとりで工房に訪れたりしたこともありました。

スティーヴン・スピルバーグ監督と『A.I.』で仕事をした時には、目を見て「good  job!」と言ってもらったり、ロブ・マーシャル監督もきちんと目を見て話してくれ、「こういう人たちが一流なんだな」と思いました。ブログなどでも触れていますが、アメリカでのエピソードには事欠きません。

ai_making映画『A.I.』より

――仕事をするうえで、壁にぶつかることはありましたか? 仕事で文化の壁や差別、誰かのやっかみといった問題にぶつかったこともあるのでしょうか。

まず、壁にはもちろんぶつかりました。ですが、その壁は自分自身のものでした。27、28歳の頃のことですが伸び悩んでしまい、「自分には才能がなかったんだ、もう仕事をやめよう」と思った時期があります。なにか事件があったというわけではないのですが、努力は人一倍しているという自負はあったのに、その割にはとてつもなく上手い人には追いつかないとか。ちょうど仕事が途切れた時期で、そういう時ってネガティブになりがちですよね。

文化の壁や差別についてですが、仕事上での差別というものはありませんね。そこがアメリカの偉いなあと思うところですが、本当に実力社会で「アメリカン・ドリーム」というのは未だに存在し、「出来る人は出られる」という土壌が整っています。なので出来れば人種関係なく尊敬されるし、受け入れられます。出来る人に対する嫉妬ややっかみのようなものは、過去にあったのかもしれないけれどあまり覚えていません。僕が仕事を通して学んだのは、さきほどのハリウッドのエピソードにも関わってきますが、すごい人ほど人間性も素晴らしいということです。差別ややっかみなどで行動するようなその程度の人は自然と消えて行きますから、さほど問題ではありません。時としてゴネたり文句を言う人もいますが、そういう人はたいがい、ちょっとだけ有名、という人。上に行く人はやっぱりそれなりの人柄です。

――今回、『ゲヘナ~死の生ける場所~』を作るにあたっても沢山の壁や課題などがあったと思うのですが、どうやってこの作品を完成させたのでしょうか。

最初に映画を作りたいと思ったときに、脚本については英語やニュアンスを何度も直して書き上げたものがありました。知り合ったプロデューサーに渡して待っても何も起こらない。じゃあ日本で映画化しようと、再び邦画用の脚本に書き直してアプローチしてもダメでした。

そこでシド・フィールドの脚本術を読んだのですが、目からうろこが落ちる思いで「本当に勉強しなきゃダメだ」と、これまで書いたものを全部捨てました。その頃、世界最大のクラウドファンディング「キックスターター」で、知人が38万ドルを自主製作映画のために集めたのを目の当たりにしたんです。「これだ!」と思った僕は、すぐに友人のダグ・ジョーンズ氏に協力をお願いしました。なのでダグ・ジョーンズ氏だけは早いうちから映画に参加してもらいたい俳優に確定していました。

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一度目の挑戦はたった一人で取り組んだために、膨大な反応に対応することが出来ず失敗に終わりました。しかし、このチャレンジがきっかけでマーケティングの人と出会い、再チャレンジでは目標額を見事達成。僕はキャンペーンの間中、キャンペーン動画の制作をはじめ、あらゆることをしました。集まった金額は当初の目標金額22万ドルを超える、24万ドルでした。

よく聞かれるのですが、特別ホラーが好きというわけではなく、自分が映画を撮るとしたらどんなものが作れるか、どんなものだったら期待度が高まるかを考えると、今まで培ってきた技術を発揮できるホラーがいいと思ったんです。

あの時脚本を捨てた後、僕は「ココでこういうことが起きる」といった構成だけ作り、僕自身が脚本を書かないことに決めました。アメリカ人じゃない僕が、アメリカ人である登場人物のセリフの詳細まで決めてしまうと、流れに無理が出てきてしまうということに気付いたからです。僕が作った構成を渡して脚本を書いてもらった方がいいものが出来ると思いました。脚本の最終稿が上がったのは本当にクランクインギリギリ。この作品にかかりきりだったわけではありませんが、映画製作の実現まで7年という年月を要しました。

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――「細部まで決めない」というお話は、今日拝見した授業の時におっしゃっていたアドバイスと同じですね。生徒さん達が粘土で作りたいものを制作する際に、「細部を見ると囚われてしまうので、大きな輪郭で見る」というお話をされていました。

本当にそうですね。“構成”という全体の枠組みですね。「いきなりセリフを書く」というのは、制作で「いきなりディティールを始める」というのと同じなんですね。作るものは違えども、方法は同じですね。

「土地を探しに来て、日本軍の基地を見つける」というのは最初からあった設定です。「そこで老人に会う」というのも当初から変わっていません。キックスターターの最中に調べた情報や舞台となるサイパンにロケハンに行ったりしたことで、細かい設定が何度も変わって最終的に完成作のようなかたちになりました。

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――日本でこうしたセミナーを開催されていますが、海外でも指導したりされたのでしょうか。アメリカと日本とでは生徒の様子は違いますか? 日本人の方が器用だとか。

技術面ではほとんど違いませんが、国民性でしょうか、日本人の方が責任感は強いような気がします。(実際、授業は終了したのにこの時、セミナー会場には何人もの生徒が残って制作を続けていた)僕が日本でこういったセミナーを開催する理由のひとつに、「日本を元気にしていきたい」というのがあります。きっかけは東日本大震災でした。

周りが寄付や色々なことしている中で、自分にしか出来ないことが何かあるんじゃないか、と。今、日本では若い人たちに堂々と「好きなことをやっていいんだよ」と言える大人が少ない。結果、生活のための仕事に甘んじている人が多いのが現状です。僕はそれをすごく不幸だと思っていて、それを説得力をもって訴えていこうとこのセミナーを開催しています。実際、僕のセミナーの多くは技術ややり方をほとんど教えません。「出来ない理由」は技術面ではなく、実は考え方や性格といった精神面にあることが多いんです。

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先ほど壁にぶつかった話をしましたが、その壁を乗り越えたというプロセスを僕は実体験として持っているので、出来ない気持ちも、なぜ出来ないのかもよく分かります。それをセミナーを通して伝えていけたらと思うんです。やりがいは日本の方が感じますね、病んでる人が多いから(笑)。

――これから夢を目指す人たちにメッセージをお願いします。

やりたいと思ったら、とにかくやるべきです。「仕事が出来るようになる」ということは、実は思うほど大変なことじゃない。僕自身、「才能がある」と自分のことを思ったことは一度もありません。なのに、やりたいことを躊躇してしまう人が大半なので、良い意味での図々しさが絶対必要です。誰かが助けてくれると待っていても助けが来るわけはないので、自分でやってみること。そしてやるからには「どうやったらもっと出来るようになるのか」を常に考えて行動に移してみることです。そうするうちに能力がつく。

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途中で夢が変わることもいくらでもあります。だから最初に思い描いたものに辿りつかなかったら失敗かと言えば、そんなことは決してない。もし目指したものに辿りつかなくても、能力が付いていれば人間的にも成長しているので、他のことが出来るようになっています。とにかく「やってみること」です。

――現在夢を追っていて、くじけそうな人にもメッセージをお願いします。

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どんな状況でも「その日、今、できること」があります。悩んでいる時というのは大抵が何もしていないとき。悩みは頭の中に発生するので何かをすれば減るんです。だから行動を起こすことがキツかったとしても、たとえば歩くだけでも変わってくる。気持ちというのは頭の中でいくら頑張っても変わらないんです。ところが身体を変えると気持ちも変わってくる。だから悩んでいる人も、簡単なことからでも良いので、とりあえず何かを「やってみる」。それが大切です。(インタビュー・文:春錵かつら)

グローバルに活躍してきた片桐監督の言葉のひとつひとつには、対峙するものへの誠実さと経験に培われた頼もしい希望がこぼれる。

ゲヘナ~死の生ける場所~』は、リゾートホテル建設のためにサイパン島を訪れた土地開発会社の社員をはじめとする5人が、候補地のジャングルの中で見つけた謎の施設に閉じ込められ、太古から続く呪いに翻弄される物語。

第90回アカデミー賞で4冠に輝いた『シェイプ・オブ・ウォーター』で半魚人役を務めたダグ・ジョーンズや、『エイリアン2』のビショップ役で知られるランス・ヘンリクセンらが出演し、コンセプト・アートは田島光二が務めている。

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日本の漫画が大好きな片桐監督は、本作を作るうえで、手塚治虫の「火の鳥」に大きな影響を受けたとのこと。笑えて楽しくて最後にジーンとするという大好きな作品『ミッドナイト・ラン』のような映画を撮りたいと、現在も新たな脚本を執筆中だ。

すでに次作にはホラーやSF作品の監督が決定している片桐裕司監督のこれからの活躍がとても楽しみだ。

<片桐裕司/Hiroshi Katagiri>
東京生まれ。ハリウッドを拠点に、キャラクタークリエイターとして活躍。1990年、高校卒業後18歳で渡米。1998年、TVシリーズ「Xファイル」にてエミー賞メイクアップ賞を受賞。 1999年、世界屈指の工房であるスタン・ウィンストン・スタジオのメインアーティストに就任。『A.I.』(01)、『ジュラシック・パーク III』(01)、『宇宙戦争』(05)など、数多くの作品の特殊造形を担当。主な代表作は『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(11)、『パシフィック・リム』(13)、『マン・オブ・スティール』(13)など。

近年、日本において後進を育成するため彫刻セミナーを各地で開催。造形家のみならずCGアーティストをはじめ、様々な分野のクリエイター達に示唆を与え、その参加人数はのべ1,000人を超えている。

クラウドファンディングのキックスターターで資金を集め、『ゲヘナ~死の生ける場所~』で長年の夢であった長編監督デビューを果たす。

本作は、2018年5月4日全米10都市で公開された。現在、マーベルの超大作『キャプテン・マーベル』(2019年公開予定)のエイリアン制作、並びに『アバター2』に携わっている。また、次回監督作の製作も決定している。

ゲヘナ~死の生ける場所~』は7月30日(月)より渋谷ユーロライブにて公開中。

上映後にはスペシャルトークライブも開催、スクリーミング・マッド・ジョージをはじめ、『アバター』などに携わったマットアーティスト上杉裕世、海洋堂の名物社長宮脇修一など豪華なゲストが登壇する。
チケットはチケットぴあ(https://t.pia.jp/)、映画公式HP(http://gehennafilm.jp)にて販売中。

(C)Hunter Killer Studio
配給:ファイブツールデザイン

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