渦巻く愛とカオスに翻弄される恋愛ミステリー10本

2018.08.07
映画

「映画」を主軸に活動中のフリーライター

春錵かつら

「愛」とは、与えるもの? 奪うもの? 育てるもの?

「愛」、それは人類の永遠のテーマだ。「愛」が一滴入っただけで、理屈や理論は一瞬で消え失せ、思いもよらない行動が思いもよらない結果を呼ぶ。

今回は、愛に翻弄される男女が織りなすミステリーをピックアップしてみたい。

ゴーン・ガール』(2014)

理想の夫婦が理想的であるために

イケメンの夫と美しい妻、誰もがうらやむ夫婦ニックとエイミー。結婚5周年を迎えたその日、エイミーが姿を消した。大量の血痕だけを残して。夫婦の平和な日常は突如崩れる。

センセーショナルな事件にマスコミの報道は過熱し、ニックは悲劇の夫として同情を集めると同時に、疑惑の目も向けられるようになってしまう。彼女を誘拐したのは、ひょっとしたら殺したのは、実はこの夫では?

アメリカの女流作家ギリアン・フリンの同名ベストセラー小説の映画化で、フリン自らが脚本を担当した本作。ニック役のベン・アフレックもエイミー役のロザムンド・パイクも素晴らしいのひと言。

本作の鍵は“理想の夫婦”。何不自由ない理想的な夫婦に一体何が起こったのか、その目に映るのは、愛か狂気か執着か。

ある天文学者の恋文』(2016)

多元宇宙の無限性の中に10人の別の君がいる

本作は『ニュー・シネマ・パラダイス』で知られるイタリアの巨匠ジュゼッペ・トルナトーレが描く、ロマンチックなミステリー。

ジェレミー・アイアンズ演じる著名な天文学者エドと、オルガ・キュリレンコ演じる教え子エイミーは、6年間に渡り秘密の恋愛を謳歌していた。ある日、エイミーはエドの訃報を知るが、現実を受け入れることができない。そんな中でも、エドからは相変わらず手紙やプレゼントが届く。本当に彼は死んだのか? エイミーはその謎を解き明かそうと、彼の痕跡の残る場所へと赴く。

親子ほどの年の差で、遠距離、そして不倫関係。だけど2人の間には、それはそれは深く強い愛がある。エドからの数々のサプライズは、宇宙のように壮大で星空のようにロマンチックな長い長い恋文。点と点を繋ぐと星座になるように、数々のメッセージから浮かび上がる真実とは、一体なんなのか。

鑑定士と顔のない依頼人』(2013)

偽物の中にも必ずひとつ本物が隠されている

今作も前作同様、ジュゼッペ・トルナトーレ監督による大人のミステリー。偏屈で優秀な美術鑑定士ヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)は、自身がオークショニアを務める競売で画家である友人ビリー(ドナルド・サザーランド)と共謀し、美術品の価格を操作している。ある日、邸宅にある美術品の鑑定を依頼されたヴァージルは、姿を現さない依頼人の正体が広場恐怖症の若い女性クレア(シルヴィア・フークス)ということを知り、何度も交流を重ねるうちに恋に落ちる。謎だらけの彼女は一体何者なのか。

肖像画の美女たちだけを愛してきた孤独な変人が、風変わりなひとりの女性に翻弄される様子は、可愛らしくもあり、寂しさと滑稽さも漂う。

嘘を愛する女』(2018)

愛する人のその嘘も、あなたは愛せますか

実際に起きた事件に着想を得た本作。勝気なキャリアウーマンの由加利(長澤まさみ)は、恋人の小出桔平(高橋一生)と同棲5年を迎え、結婚を意識するようになっていた。ある日、桔平が倒れたという知らせを受け、病院へ向かうと、くも膜下出血で昏睡状態となった桔平の姿がそこにあった。すると突然刑事が告げる。彼の所持していた運転免許証、研究所員IDは全て偽造されたもので、職業はおろか名前も偽りであったと。ショックも冷めやらぬままに由加利は、彼が書きかけていた700ページにも及ぶ小説を見つけ、誰だか分からないこん睡状態のこの男の正体を突き止めるため、私立探偵を雇うことにする。

もし彼の名前や肩書きが嘘だったら? それまで共に過ごした時間は、記憶は、確信は、一体どこに行ってしまうんだろう。

彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)

愛がもたらしたのは、執着と狂気と、そして呪い

沼田まほかるによる同名小説の映画化で、公開前から「登場人物は全員クズ」と評判だったサスペンス・ミステリー。

苛立つ女・十和子(蒼井優)は、野卑で不潔な男・陣治(阿部サダヲ)と同居している。十和子の頭の中には、かつてひどい仕打ちで自分を捨てた男・黒崎(竹野内豊)がいまだ棲み着いている。ある日、十和子はクレーム対応で訪れたデパートの従業員・水島(松坂桃李)に惹かれて関係を持ってしまう。時を同じくして訪れた刑事から、黒崎が5年も前から行方不明だと聞く。

思い返してみると、その頃の陣治の態度に不審な点があった。そう言えば最近水島の態度もおかしい……十和子は陣治への疑惑を大きくする。心の恋人、黒崎はなぜいなくなったのか。

正しいばかりが愛ではない。歪ではあってもそれも愛の形だと思い知らされる一作。

サード・パーソン』(2013)

サード・パーソンが導く3組の男女の愛の行方

『クラッシュ』のポール・ハギスが監督を務めた本作。パリ、ローマ、ニューヨークを舞台に一見関連のない3組の男女の物語が交錯する。著名な小説家(リーアム・ニーソン)と野心あふれる小説家志望の愛人(オリヴィア・ワイルド)、ビジネスマン(エイドリアン・ブロディ)と娘を誘拐された女(モラン・アティアス)、息子の親権を争う元女優(ミラ・クニス)と元夫(ジェームズ・フランコ)。

冒頭、執筆中の作家マイケルの後ろ姿から物語は始まる。物語が進むうちに、観客たちが感じる違和感が「真実」という名の確かな形となって現れる。虚構と憧憬、そして救済。後悔や諦念、逃避が本作では描かれている。

「サード・パーソン」とは三番目の人、あるいは三人称。何気なく進むこの3組の物語は、一体どう交わってゆくのか。

伊藤くん A to E』(2017)

女たちの心に住む「伊藤くん」という名のモンスター

かつては売れっ子の脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)は、彼女の講演会に参加した4人の女性A~Dに取材をし、新たに執筆する恋愛ドラマの脚本のネタにすることを思いつく。取材するうちに、彼女たちを悩ませているのはいずれも“容姿端麗”で“自意識過剰”、そして“無神経”な「伊藤」という男だった。

柚木麻子による小説の映像化である本作。2017年のテレビドラマ化では思い込み、承認欲求、嫉妬、執着、優越感……さまざまな欲望が渦巻く中、本物の「伊藤くん」へと迫っていったが、翌年に同じキャスティングで“伊藤くん視点”から描いた続編となる劇場版が製作された。

とらえどころのないミステリアスなクズ男・伊藤くん。魔性の超スーパー“痛男”・伊藤くん。女たちの毒は自らの首を絞め、今日も伊藤くんは傍若無人に女たちを振り回す。

ノクターナル・アニマルズ』(2016)

かつて愛した夫の隠れた才能が発露した理由

経営難のGUCCIを建て直し、サンローランのクリエイティヴ・ディレクターも兼任するファッションデザイナー、トム・フォードが監督を務めた静謐なミステリー。

何不自由なく暮らしているアートギャラリーのオーナー、スーザン(エイミー・アダムス)。ある日、元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から「ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)」と名付けられた書きかけの小説が届く。おそるおそるページをめくると、暴力的で衝撃的なその内容に加え、知ることのなかった才能を感じさせ、彼女はその物語を読み進めてゆく。

現在と過去、そして小説の中という3つの世界が進んでいく本作は、1回観ただけではその奥深さに気づけない。小説の中の登場人物はスーザンの想像でしかなく、観客が、観たモノをそのまま受け入れてしまうのは、真実に辿りつけないかもしれない怖さがある。この怖さは映像作品ならでは。その小説は果たして復讐なのか。それとも残り火のような愛なのか。

真夜中の五分前』(2014)

美しい姉妹を狂わせたのは、一卵性双生児という性

時計修理工のリョウ(三浦春馬)は、ひょんなことから美しい女性ルオラン(リウ・シーシー)と出会う。双子の妹ルーメイの婚約祝いを一緒に選んだことで親しくなった2人だが、ルオランの持つ心の闇にリョウは気付きつつも、惹かれてゆく。

日中合作の恋愛ミステリーで、主人公を演じた三浦春馬の中国語が時間の流れに合わせて流暢になる様子は特筆したいところ。

双子という性からか、妹の婚約者を愛してしまう姉。ゆらぐアイデンティティ。妹は言う。

「私たち お互いの真似なんて簡単にできるの」

一見仲の良い双子の姉妹だが、自由奔放で屈託のない妹、思慮深く遠慮がちな姉。積み重ねた嫉妬とそのタイミングで起きた事故が運命をあらぬ方向へ動かす。

鍵となるのは“5分”。刻む秒針の音は、今を生きたいと願う女の鼓動だ。

去年の冬、きみと別れ』(2018)

炎の中失われた真実をもう一度

三代目J Soul Brothersのメンバーであり、俳優としても人気の岩田剛典を主演に、ヒロインを山本美月が務め、話題になった芥川賞作家・中村文則の小説の映画化となるミステリー。

結婚を間近に控えた新進気鋭のルポライター耶雲恭介。ある日、彼が目にとまったのは天才写真家・木原坂雄大が撮影中に起こした火災で盲目のモデルが命を落とした事件。すでに執行猶予付きの判決が出て決着していた事件の真相を一から追ううちに、いつの間にか恭介は、事件の深みにはまっていく。

当初、映画化は不可能と言われていた原作小説を、物語の順序などを入れ替えることで実現した本作。「去年の冬、きみと別れ」たと言っている「きみ」、そして「僕」は一体誰なのか。

 

愛の外側にいる人は思う。「なんて愚かだ」と。愛の内側にいる人は想う。「愛してる。愛してる。愛してる」。愛の内側の人には外の人なんて見えていない。

さまざまな愛がもたらした、さまざまな謎。人の心こそ、最大のミステリーだ。

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