『ここは退屈迎えに来て』橋本愛×成田凌――切ない痛みに、覚えがあるから愛おしい【ロングインタビュー】

2018.10.17
映画

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

ここは退屈迎えに来て

「ここではないどこかへ行きたい」と思いながらも、「ここ」に居続けてしまったり、舞い戻ってしまったりすること。その居心地のよさ、悪さ、何でもなさを描いた映画『ここは退屈迎えに来て』は、かつて高校生だった同級生たちの27歳の今を描いた青春群像劇。主人公は、一度は東京に出たものの、10年を経て生まれ育った地方都市に戻ってきてしまった「私」。演じた橋本愛は、「すごく好きな小説だったので、映画化に関われたことが本当にうれしい」と、山内マリコによる同名連作小説集に思いを馳せながら、「私」像を丹念に捉えた演技をみせた。

そんな「私」の密かな憧れの君は、クラスメイトの「椎名くん」だった。「私」は主人公だがヒロインではない。本作でのそれは、成田凌が演じる「椎名くん」が当てはまる。人目を引くルックスと自由な空気感は、狭い田舎街で否が応でも目立つ存在だ。うっすら瞳の端で追ってしまいたくなる羨望の「椎名くん」を、成田は10年前の高校時代と10年後の今で確かな変化をつけ、作品にリアルな影を落とした。

もうひとりの主人公、「椎名くん」の元カノである「あたし」役の門脇麦や、とても地味だった同級生の「新保くん」を演じた渡辺大知、ファミレスで他愛もない会話を繰り広げる「山下南」の岸井ゆきのと「森繁あかね」の内田理央など、次世代の日本映画界を担うエース級俳優が、廣木隆一監督のもとにそろった。中心に立った橋本と成田に、侘しい街とシンクロするような、それぞれのパートでの撮影のことを振り返ってもらった。

ここは退屈迎えに来て

――初めて台本を読んだとき、全体の雰囲気や印象など、どのように感じられましたか?

橋本 私は、原作を発売当時に買って読んでいたんです。すごく好きな小説だったので、映画化に関われたことが本当にうれしくて。当時、何でこの小説が好きだったのかは、あまり覚えてはいないけれど、感覚としては突き抜けたカタルシスがあるわけでもなく、登場人物たちの欲望が叶うこともなく、終わるんですよね。

けれど、ちゃんと「ここから出たい」という欲望と、「出られない」壁みたいなものが、ずーっとガンガンガンガン当たっている感じで、その痛みがたぶん自分の身に覚えがあったんです。小説を読んでいるときに思い出されたその痛みが、すごく切ないんだけど、やっぱり愛おしいと思う気持ちがありました。映画を観ると、さらにもっと大きく自分にのしかかってきた感じがあったんです。だから、映画になってよかったな、と思いました。

ここは退屈迎えに来て

――「さらにもっと大きく自分にのしかかってきた」というのは、痛みと愛しさ、両方でしょうか?

橋本 そうです。本当に痛いし、きついなと思ったけど、映画が終わって、最後にフジファブリックさんの主題歌が流れたときに、めちゃくちゃ愛おしいという気持ちが、最後はすごく大きく残ったんです。誰も大きく救われた人はいないけど、とても小さな前進を感じられて、美しいものが残った感じがしました。

――成田さんは、いかがでしたか?

成田 僕は台本を最初に読んだときには、「椎名くん」を演ると決まっていなかったんです。「椎名か新保、どちらか」と言われていて、自分では「新保かなあ」と思っていたんですよ。だって、椎名は唯一、感情移入ができない男だったから。「新保、やるか」、「よし、新保やりたいです」と言ったら、「ダメです、椎名です」と言われて……。

――当てが外れた(笑)。

成田 「おお、そ、そうか……」と思って。改めて読むと、「そっか、俺だな」と思ったので、今では大分納得しています。でも、椎名は本当に周りのみんなが作ってくれる役なので、僕は、ただ騒いでいただけです。

ここは退屈迎えに来て

――「椎名くん」は原作を読んでも、みんなの理想を寄せ集めているだけに、人間らしさを見つけるのが難しいですよね。

成田 うん、そうなんですよ。何にもないですから。本当に、ただ表面だけで塗り固められた、みんなの虚像でできた人間なので、みんなが作ってくれました。椎名に何が必要かって、周りの目なんです。周りが気を遣うまではいかないけど、何かを言ったらチラッと見てしまうような人間でありたいなと思ったので、余計なことはしないようにやっていました。あとは、周りのテンションをとにかく上げるために、生徒役の子たちと遠慮なしに遊ぶようにしていましたね。

ここは退屈迎えに来て

――橋本さんは、「私」をどのように捉えていましたか?

橋本 タイトルは『ここは退屈迎えに来て』ですけど、「“私”は、どちらかと言うと“迎えに来て”という人じゃない」と、初日に廣木監督に言われたんです。確かに、「迎えに来て」と言うよりかは、能動的に自分から動いて行く人だな、と。だから東京にも行ったわけですし。けれど、東京で、自分が思い描いていた理想の生活とはちょっと違う現実になって、「うーん……」という。何かどこかヒットしないまま地元に帰ってきているので、演じていても、ちょっと浮遊感がありました。ここでもないし、あそこでもないし、どこでもないならどこに行こう、みたいな(笑)。

「私」は結局、何気ないもので救われたりする人でもあるから、何か大きな体験がなくても、そういう小さなところで、人は細かく救われながら、何とか生きていくんだな、と。そういう感じがサラッとしていて、好きだなと思いました。

――「椎名くん」に対してだけは、少し違った感情を見せたりもしますよね。

橋本 一番気にしていたのは、椎名くんを見る目でした。校内で、椎名くんの彼女然としている「あたし」が、椎名くんと廊下で話しているのを「私」が見て、ほんの少しだけ悠然としていられない気持ちが出てくる。でも、そこまで粘着したくないという思いもある、という……そういう椎名くんを見る目、反応のバランスは、意識していました。

ほかにも、ゲームセンターでのシーンで、椎名くんへのちょっとした心の浮き立つ瞬間とかは、浅ーい感情が出てくるというか。本当に無条件に存在だけでドキドキする、みたいな女の子特有の気持ちも大事にしながら、「“私”は “迎えに来て”という人じゃない」から、べたついた女性にはしたくないと思って、そこは一貫していましたね。

ここは退屈迎えに来て

――作品全体を通して、廣木監督らしい人物の切り取り方の作品だと感じました。おふたりが印象的だったシチュエーションは、どこでしたか?

橋本 私が好きなのは、登場人物の心が一番動いたときに、全然(カメラが)寄らないというところでした(笑)。

成田 わかる……!

橋本 麦ちゃん演じる「あたし」が歌うシーンがあるんですけど(※予告編に入っている)。もう心が泣きながら、歌いながら歩いて、というあのシーンで、「足まで映すんだ……!」と驚きました。わかりやすいものばかりを観ていると、どうしても「このときの顔、見たい」と思ってしまうけど、廣木さんの作品は全然寄らないし、見せてくれないんですよね。そのほうが、体の発するヒリヒリしたオーラや痛みを、ちゃんと感じ取れるから。それで、あそこはやっぱり顔じゃなくて、力強く踏みしめる足が必要だと気づいたんです。観る側の感受性みたいなものや、想像力が試されるなあ、とすごく思いました。廣木監督の、いい意味でドライな部分がすごく好きです。

ここは退屈迎えに来て

――演じる側は大変ではないですか?

橋本 長回しも本当、ひとつ間違えたらまたスタート地点に戻って、みたいな感じなので、正直大変でした。でも、廣木監督の、人の感情をわかりやすくすくい取るというより、時間や、その空気に流れている感情みたいなものを拾って傍観する、というところが魅力なんですよね。引いた画で、どれだけこちらがちゃんと落とさずに見せられるかというところも、すごく緊張感を持ってやっていた記憶があります。

成田 橋本さんが言う通り、本当にすごい緊張感で、ずーっと均衡を保っていたというか。すごく長いシーンでも、寄っていても、「ドキッ」と時が止まるような緊張感みたいなものがありました。ずっと保つことは結構難しいことですけど。

――どの場面ですか?

成田 校庭での椎名と新保のやり取りとかですね。ものすごく引いていて、こんなのなかなかないレベルの引き、というくらい! いいですよね? すごいなと思ったのが、人でもそうだし、車でもそうなんですよ。すごく引いているんだけど、ちゃんと(狙いのところに)目が行く。なんてことはない、マキタスポーツさん演じる皆川光司が運転している車とかでも目が行くので、引きでも目が行ってしまうモノを作れることは、本当にすごいと思いますね。

ここは退屈迎えに来て

――おふたりは、廣木監督からどんな演出を受けましたか?

成田 演出とはちょっと違うんですけど、最初、衣装合わせのときに廣木監督と意見がばっちり合ったんです。「制服の中には黄色いTシャツを着よう」とか、「教習所の先生になってからは半袖のシャツにしよう」、「ちょっとサイズを上げようか」というディティールまで。思い描いているイメージが同じだったので、そのときに、「もう大丈夫だ。椎名くんできました!」となりました。

実際の現場では……全然話していないんです。一言、二言ぐらいで、「これってこんな感じですか?」、「ああ」ぐらいでした(笑)。

橋本 私も何も言われませんでした(笑)。

――なんと、そんなこともあるんですね。

橋本 本当にそうなんです。これまで廣木さんの映画を観ていると、特に女優さんが今までと全く違う表情をされているのがすごく不思議で、とても輝いて見えたから、「私も魔法をかけられるのかな……!」と思っていたんです。いざ現場に行って、何にも言われなくて、「あれ……? 頑張ろう。うん、ひとりで頑張ろう……」と思っていました(笑)。

逆に言うと、柳ゆり菜ちゃんや大知くんとかが、廣木監督から「今のってどういう気持ちで言ったの?」みたいなことを言われていたんです。見ていて、「ちょっとうらやましいな」と思いつつ、必要があるときは、きっと言ってくださるんだろうなと思っていました。

ここは退屈迎えに来て

成田 ……僕、今思い出したんですけど、教習所のシーンの前日にお酒をたくさん飲みました。演じるにあたって、飲んだこともないウイスキーをガバガバ飲んで、挑みました。

――役作りとして、ということですよね?

成田 はい。しんどかったです……。今後は別のやり方をしようと思いました。

ここは退屈迎えに来て

――そのふり幅は、なぜ思いついたんでしょうか?

成田 キラキラ高校生だった椎名の10年後を演じるにあたって、きっとファンデーションを塗らないとか、髪がボサボサとかではないなと思って、「じゃあどうやるか」のやり方が見当たらなかったんです。心からしんどい気持ちでやるために、前日にお酒を飲むという選択肢を選びました。

橋本 そのシーンで、「私」は遠目から椎名くんを見つけるんですね。「私」をその場所に連れて行ってくれたカメラマンの須賀さん(村上淳)に、「なんちゅう顔してんだ」と言われるんですけど……。

成田 あれ、本当に「なんちゅう顔」の一番、正解の顔をしていたよね!

橋本 遠目から見ても「しょぼくれてる!」と本当に思わせてくれた成田さんの椎名がいてくれて、ありがたかったです。それこそ、髪がボサボサとか、ちょっと服がダサいとかのレベルではかったから(笑)。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=岩間辰徳)

ここは退屈迎えに来て

映画『ここは退屈迎えに来て』は、2018年10月19日(金)より全国ロードショー。

ここは退屈迎えに来て
(C)2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会

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応募締切 2018年10月24日(水)23:59までのご応募分有効

【応募資格】
・Filmarksの会員で日本在住の方

【応募方法および当選者の発表】
・応募フォームに必要事項をご記入の上ご応募ください
・当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます

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