本当の彼はどこに?どんな役も演じきる阿部サダヲの出演映画15選<『舞妓Haaaan!!!』『彼女がその名を知らない鳥たち』など>

2018.10.16
映画

映画マニアと呼ばないで

夏りょうこ

主演から脇役まで、さまざまなキャラクターを演じきる天才・阿部サダヲがこれまでに出演した映画作品の中から、選りすぐりの15本を紹介。

10月12日に公開した映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』。本作で、驚異的な歌唱力をもつ世界的ロック・スターを、阿部サダヲが演じている。

阿部サダヲは1970年、千葉県生まれ。巨人の野球選手、原辰徳に憧れて野球を始めた阿部サダヲは、小学校から高校まで野球に没頭し、足が速くて盗塁が得意だったという。

しかし、自分の才能に見切りをつけてプロ野球選手の夢を諦めた阿部サダヲは、高校卒業後、トラック運転手などさまざまな仕事を経て、1992年、松尾スズキ主催の劇団「大人計画」に入団。当初はあまりの顔色の悪さから「死体写真」という芸名をつけられるところだった。 

同年、舞台デビュー。その後、温水洋一の代役として、TVドラマ『演歌なアイツは夜ごと不条理な夢を見る』でドラマデビューを果たす。

それからは、トントン拍子に舞台から映画まで幅広い分野で活躍している阿部サダヲだが、その一方で、大人計画のメンバーとパンクバンド「グループ魂」を結成。2005年にはNHK紅白歌合戦に出場している。

2019年のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』での主演が決定しており、今後、国民的俳優としてさらに知名度がアップすることは間違いなしだ。 

そこで今回は、阿部サダヲの数多い出演作の中から、選りすぐりの映画15本をご紹介しよう。

ワンダフルライフ』(1999)

思い出を選ぶ

ワンダフルライフ

天国の入り口にやって来た死者たちは、1週間のうちに人生の大切な思い出を1つだけ選び、それを抱いて天国に向かうように言い渡される。

彼らの思い出は職員たちによって映像化され、最終日に上映会が開かれる。そのため面談を受ける死者たちは、出産の喜びや大好きだったセスナのこと、戦争で捕虜になった時に食べた白米の味について、楽しそうに語りはじめる。

ドキュメンタリー出身の是枝裕和監督による演出らしく、出演者は思い出を即興で語っているとか。井浦新と伊勢谷友介の映画デビュー作。阿部サダヲは、ギリギリまで思い出を選べないおじいちゃんの青年時代を演じ、喫茶店でのぎこちないお見合いシーンや昭和風の新婚時代が初々しい。

妖怪大戦争』(2005)

大阪生まれの河童

妖怪大戦争

両親の離婚によって田舎暮らしをすることになった少年が、この世が危機に陥った時に人々を救うという麒麟送子に選ばれ、悪霊軍団と妖怪軍団の戦いに巻き込まれてゆく。

この頃から巻き込まれ上手な神木隆之助。いかにも都会っ子でひ弱な感じのする男の子が、小動物系妖怪・すねこすりを助けるべく、妖怪たちの力を借りて頑張るという子供映画だが、水木しげるや京極夏彦らが関わっているので作りは真剣。大人でも楽しめるエンターテインメントである。

特殊メイクで顔がほとんどわからない阿部サダヲは、関西弁をしゃべる河童だ。狂言回しのようにチョロチョロしながらストーリーにアクセントをつけ、非協力的な一反木綿に「鬼太郎の前では、いい顔しとるそうやないか」と毒づいたりする。岡村隆史演じる小豆洗いとのかけあいが絶妙。

ユメ十夜』(2007)

ユメは万華鏡

ユメ

実相寺昭雄や西川美和など11人の個性派監督が、夏目漱石の超短編小説集「夢十夜」を映像化したオムニバス作品。

といっても、原作の文章を必ず引用してその脚色の技を競うという異色な企画なので、テイストはバラバラ。神経衰弱に苦しむ漱石の無意識が反映されていると言われるだけに、どちらかというと病的で幻想的な物語ばかりだが、それを自由な発想と解釈でどう料理されているのかがみどころだ。

阿部サダヲが登場するのは、第六夜「運慶が仁王を刻む」。監督は松尾スズキでモノクロである。運慶を演じるストリートダンサーTOZAWAの独創的で激しい舞踏と、それを見守る観衆たち。彫刻の概念を打ち破るドトーのトランス状態に度肝を抜かれた同業者・阿部サダヲは、さて、どうする? オチが脱力。

舞妓Haaaan!!!』(2007)

舞妓命

舞妓

修学旅行で迷子になった時に舞妓さんに助けられたのをきっかけに、いつか舞妓さんと野球拳をしたいという夢を追いかけている主人公が、京都に転勤になって舞い上がる。

宮藤官九郎は京都に行くことをせず、旅の情報雑誌「るるぶ」を読んだだけでこの脚本を書き上げたという。大人になっても舞妓に対する情熱を持ち続けている男。そのテンションの高さは阿部サダヲのイメージそのもので、これが彼の映画初主演作であり、植木等の遺作となった。

舞妓を応援するブログを始めるほど舞妓に心酔している主人公は、柴崎コウ演じる恋人をあっさり捨てて京都に行く。その理不尽さに腹を立てた彼女が、彼を見返してやろうと舞妓になるというドタバタ系コメディ。堤真一が嫌味な役をしていて、これがなかなかよい。

なくもんか』(2009)

泣かない理由

なくもんか

幼少期に父親に捨てられ、生き別れた弟の顔も知らないで成長した主人公が、東京の下町でハムカツが名物の店を切り盛りする一方、弟の方は人気お笑い芸人になっていた。

主人公は、いつもニコニコして何でも引き受けてしまうバカがつくほどのお人よし。でもそれは、育ての親に捨てられるのではないかという恐怖心から。一生懸命店の手伝いをしてきたのも、泥棒をして逃げた父親の罪滅ぼしのためだ。

笑顔の裏に隠された不幸な生い立ち。つらい時には神社でこっそり泣くような健気なキャラクターを阿部サダヲが演じるのは新鮮だったが、これが意外としっくり。寂しい表情が似合うのである。心の痛みを知っているから優しいんだよなあ。本当にいい人なので、こっちが泣けてくる。

大奥』(2010)

僕を選んで

若い男性だけが感染する謎の疫病により、男性の数が激減してしまった江戸時代、女性が社会の中心を担うようになったため、ついに女性の将軍が誕生した。

社会の仕組みはそのままで、男女の役割だけが逆転。何とも奇想天外な話だが、ジェンダー問題を鋭く突いた人気漫画の実写化。緻密な時代考証に基づいているので、ひょっとしたらこっちが本当の歴史なのではないかという錯覚に陥ってしまう。

希少価値である若く美しい男性を集めた大奥。男だってこんな境遇になれば、女と同じようにドロドロしてくるのである。そんな愛憎うずまく大奥で、出世の見込みがないまま長く仕えている下っ端の男が阿部サダヲ。達観した口調で主人公にアドバイスをするなど一歩引いた役どころだが、抑えた演技がピリリと効いている。

莫逆家族 バクギャクファミーリア』(2012)

忘れていた怒り

莫逆家族 

かつて関東一の暴走族のトップだった主人公は、30歳を過ぎた今は社会人としてパッとしない日々を送っていた。そんなとき、昔の不良仲間の娘が暴行される事件が起きる。

大ヒット漫画の実写化。反抗期の息子さえしかることができない腑抜けな中年男になっていた彼は、くすぶっていた魂を燃え上がらせる。暴力には暴力で落とし前をつけようとするところがヤンキー的発想だが、若かりし頃の自分を取り戻したい気持ちはわかる。

暴行された娘の父親が、阿部サダヲである。彼もまた特攻服を着た暴走族だったとは思えぬほど静かな雰囲気になり、諦めを覚えた大人という感じ。理不尽なことには全身で怒っていたのに、妙に悟ってしまって疲れてしまって。そんな悲哀さえ漂う元ヤンキーを好演している。

ぱいかじ南海作戦』(2012)

大人のファンタジー

ぱいかじ

失業と離婚を同時に経験して失意のどん底にいた主人公は、人生のツキを変えるため南の島を訪れるが、そこで出会った4人のホームレスに騙され、荷物を全て奪われてしまう。

「ぱいかじ」とは、沖縄方言で「南風」のこと。確かに人生をリセットしたいとは思ったが、本当に全財産を失くしてゼロからのスタートである。しかし、いくら無一文とはいえ、孤島ではないのになぜ島から出ていかないのだろう。

サバイバル生活を送っていた主人公のところへ、余暇を過ごすために都会から若者たちがやってくるのだが、なんとなく共同生活を始める男女4人に恋愛が絡まず。ホームレスにリベンジしようと基地まで作ったりして、少年の夢みたいな冒険ファンタジーだ。

夢売るふたり』(2012)

二人三脚で騙す

夢売るふたり

順調に経営していた小料理屋を火事で失ってしまった若い夫婦が、店の再建資金を稼ぐために結婚詐欺を思いつく。

松たか子と阿部サダヲが夫婦? 阿部サダヲが結婚詐欺師? そんな違和感はあっという間に吹き飛んでしまう。また店を構えたいという切実な目的に向かい、孤独な独身女性を騙し続ける2人。もらったお金は開店後に返すつもりだから、罪の意識などない。

成功する結婚詐欺師とは、イケメンよりも阿部サダヲのような男なのだろう。女心をするりと掴んでしまう包容力。提案したのは妻だったが、わかっていてもやっぱり寂しいし嫉妬もするよね。忍び寄る影と危うさにドキドキ。阿部サダヲに夢中になる田中麗奈がよい。

奇跡のリンゴ』(2013)

汗と涙と希望と

奇跡のリンゴ

舞台は1975年、青森でリンゴを栽培している主人公が、農薬が原因で定期的に体調を崩してしまう妻のために、絶対不可能と言われていた無農薬栽培に挑む。

実話を映画化。試行錯誤を繰り返し、私財を投げ打ってチャレンジし続けた10年間。その間は借金がどんどん膨らむわ、超貧乏暮らしになってしまうわ、周囲からは白い目で見られるわで、本当につらい日々だったようだ。家族もエライ!

これだけの地道な研究と長年に及ぶ努力の賜物を、奇跡と呼んでいいの? でも、リンゴの花を見た瞬間はそう思えたんだろなあ。子供のような満面の笑顔が似合う阿部サダヲ。愛妻家で仕事熱心でひたむきで、この役がピッタリだ。

謝罪の王様』(2013)

謝罪あるある

謝罪の王様

依頼人の代理として、いかなる局面であろうと謝ってトラブルを収束させるプロが、さまざまな謝罪テクニックを駆使して問題を解決していく。

彼の肩書は謝罪師。もちろん架空の職業だが、今のご時世なら謝罪方法を指南するプロは存在するであろう。なので、社長や有名人が謝罪会見の参考にできそうなこの作品。土下座上手の阿部サダヲが主人公を演じて、バラエティに富んだ謝罪テクがみどころだ。

飲み会でのセクハラや息子が不祥事を起こした大物俳優を取り上げるなど、ブラックな社会風刺がリアル。久々のハイテンションぶりも「阿部サダヲが帰ってきた」という感じである。一歩間違えばコントになりかねないエピソードもあるが、笑いの共感は得られるだろう。

ジヌよさらば かむろば村へ』(2015)

お金は悪魔

ジヌ

銀行員なのにお金アレルギーという過去をもつ主人公が、お金を全く使わないで生きていこうと、東北にある限界集落寸前の村にやってくる。

「ジヌ」とは、東北の方言で「銭」のこと。「触れない、使えない、欲しくない」という厄介なお金アレルギーになってしまった彼は、タダ働きであってもレジの仕事ができない。自給自足ライフの現実は厳しく、東京に憧れる女子高校生から誘惑もされてもう大変だ。

阿部サダヲは、何かと彼の世話を焼く村長役。気のいいだけではなさそうなワケありの男である。妻役の松たか子との2回目コンビも、夫婦漫才みたいに息がピッタリ。実はただの田舎ではなかったその村には、謎の老人やアヤシイ訪問客が登場するのだが、最もウケたのが三谷幸喜の出演なのであった。

殿、利息でござる!』(2016)

一発逆転に賭ける

殿

江戸時代の仙台藩で、財政難のために年貢の取り立てや労役が厳しくなったことにより、疲弊してしまった宿場町を救うため、村人たちが前代未聞のある計画を思いつく。

お金のない藩に大金を貸し付け、その利息で宿場町を救う。封建時代とは思えぬ思い切った再建計画だが、これが実話だとは、日本もなかなか捨てたものではないのう。その貸付金を用意するために奔走し、私財を投げ打つ無私の姿に胸を打たれる。

阿部サダヲは時代劇初主演。町の行く末を憂いて行動を起こす商人として、村人たちの指導的役割を果たす。阿部サダヲも頼もしくなったものだ。仙台出身のフィギュアスケート選手である羽生結弦が、藩主役でワンシーン出演しているのはご愛敬。

彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)

こんな風に愛されたら

彼女が

建設会社に勤務する粗野な男と暮らしながら、数年前に別れた元恋人のことが忘れられない主人公は、彼と雰囲気の似た妻子のある男性と出会い、関係を持つようになる。

激しい嫌悪感と拒否反応をぶつけながらも、同居する男の収入に依存して自堕落に暮らす彼女。そんな身勝手な女に変わらぬ愛情を注ぎ、ひたすら尽し続ける男。う~ん。わからん。しかし、彼らの間に潜む秘密が明らかになるにつれ、得も言われぬ気持ちになってくる。

汚く日焼けした顔とボサボサの髪。彼は食べながら靴下を脱ぐような下品な男で、たまに狂気を感じさせる目つきに本性が見えず、執着心と包容力の落差が気味悪い。彼の愛はどこへ向かっているのか。今までにない阿部サダヲの当たり役で、「映画を観た」という満足感を得られる作品。

いかがでしたか?

体を張ったテンション高めのコメディ俳優としてブレイクした阿部サダヲだが、実はその本領が発揮されるのは、静かなたたずまいの男だったり、一途に愛を捧げる不器用な男だったり。

イケメンとは程遠い童顔だからこそ、幅広い役をこなすことができるのかも。

狂気と誠実さを矛盾なく併せ持つ魅力。そして、どんな役でも自然体でこなす演技力。

野球少年だったせいか身体能力バツグンの阿部サダヲは、舞台俳優としても活躍しており、今後もますます活動の幅を広げるだろう。

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