「辛いのは自分だけじゃない」映画とつながれる瞬間を感じてほしい『生きてるだけで、愛』趣里【インタビュー】

2018.11.07
映画

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

劇作家で小説家の本谷有希子が2006年に発表した同名小説を、テレビドラマ『ブラックペアン』の好演も記憶に新しい趣里を主演に実写化した『生きてるだけで、愛。』が公開となる。
趣里演じる寧子は、自分にも他人にも嘘がつけず、真っ直ぐすぎるためにエキセントリックな言動に走ってしまうが、そんな彼女の葛藤を、「現実との折り合いが上手くつけられない」という、ある種一般的な事象に近づけて共感を誘う力作だ。
自身も人生で大きな挫折を経験したという趣里は、寧子をどのような想いで演じたのか。本人に聞いた。

趣里

ーーとても高い評価を得ている原作ですが、読まれてみていかがでしたか?

趣里 これまでにも本谷有希子さんの作品は何冊か手に取ったことがありますが、「生きてるだけで、愛。」は読んでいませんでした。先に脚本をいただいてから原作本を読ませて頂きました。本谷さんの描くキャラクターはエキセントリックで、一見するとエッジが効いていることが多い印象です。とても人間味があって共感する部分が多くあり、この作品でも同じように感じました。

ーー津奈木役の菅田将暉さんと共演していかがでしたか?

趣里 菅田さんがとても自然体な方なので、特に演技についてどうこうという会話はなく、自然と津奈木と寧子の関係を現場で段取りしていました。1日だけ、読み合わせはありましたが、自然に会話のように演技が成り立った感覚があります

生きてるだけで、愛。

ーー演じられた寧子というキャラクターについては、どう思いましたか?

趣里 生きていると楽しいことだけではなく、苦しいことや、変わりたいと思っているけれども変われないことがあるじゃないですか。だから彼女は“過眠”になっているのですが、そういう人間の心理はよくわかりました。津奈木との生活もそうですが、その日常の中に倦怠感を持っていることも、よくある普遍的な物語のようにも感じました。

生きてるだけで、愛。

ーー彼女の挫折を乗り越えて生きていかなくてはいけない姿は、ご自身の経験に照らして共感されたそうですね。

趣里 そうですね。以前わたしはバレエのことだけを考えていましたが、けがをして、1日で将来の目標を失ってしまいました。自分は何のためにいるのかという思いに襲われました。前には進まなくてはいけないけれど、どうしていいのかわからない状態も寧子が感じている壁みたいだなあと感じて、自然に共感することが出来ました。

ーーけがをされた後、エンターテインメントに救われたそうですが、具体的には?

趣里 もともとバレエをやっている時から、舞台はよく観に行っていました。けがをしてバレエが出来なくなってから何度も舞台を観に行きました。その時だけ現実を忘れられて違う世界に連れて行ってもらうことが出来て、女優に興味を持ちました。辛い目に遭っている登場人物を見ると、自分だけじゃないなって思ったし、エンターテインメントって、私たちの生活に本当に必要なものだなって、その時に強く思いました。

趣里

ーー寧子が直面している壁の種類とは違うと思いますが、自分と似た経験のあるキャラクターを演じることって、すごくエネルギーが必要になると聞いたことがあるのですが。

趣里 わたしの場合、寧子と似てはいないのですが、自分なりに、その役柄に命を与えるには、自分の経験や、自分が想像していることを出していくのかなと思っています。

ーー今回、どのような準備をしたのですか?

趣里 とにかく脚本を読み、寧子の感情を、ただただ想像するという時間を過ごしました。そうすることで必然的に自分と置き換えて考え、自然と思い出されてきました。自然と自分のことと重ね合わせていた時間が多かったのかなとは思いますね。監督は「自由でいてください」と言ってくださいました。

ーー監督は当初、寧子は“嫌われる存在”であってもいいみたいなスタンスだったそうですね。

趣里 監督は(寧子は)最後にちゃんと自分の気持ちを言うので「大丈夫でしょう」とおっしゃってました。人間誰しも嫌われたいと思って生きてはいなくて、一方でどうしようもないことってあるから、理由もなくまき散らしているということではないんです。

生きてるだけで、愛。

ーーところで現在の仕事についてですが、看護師役が話題となったドラマ『ブラックペアン』の反響などをみていると、それこそ挫折があってこそ、いま現在のご活躍にもつながっているわけで、人生の皮肉みたいなことは感じますか?

趣里 とてもありがたく思っていますが、すごく心配性でいまが一番だとは思えていないところが正直な気持ちですね。もちろん新人賞をいただくことなど、いいことがあればすごくうれしいですが、まだまだだと思います。もうちょっとうまく楽に生きられたらいいなあとは、ずっと思っています。

趣里

ーー世間の反応を冷静に受け止めているのですね。

趣里 とてもありがたいですし、とても励みになっているのですが、どうしても一歩引いて見ている自分もいます。まだまだ人間としてやるべきことはあるだろうなとは思いますし、お芝居はものすごく好きなので、真摯に向き合いたいとは思っています。バレエを突然断念する事になったので、正直なところ、何があるかわからないから、とはずっと思っています。

ーー岩松さんの舞台のように、映画で衝撃を受けたことはありますか?

趣里 何作品かありますが、小学生くらいの時に『アイ・アム・サム』を、その後『ミスティック・リバー』などを拝見して、ショーン・ペンさんという同じ俳優さんなのにまったく違う演技をしていることに衝撃を受け、すごく感動しました。彼の演技に泣いて泣いて熱が出てしまい、次の日学校をお休みしたことを覚えています(笑)。後は『ゴッドファーザー』や、邦画では『蒲田行進曲』なども影響を受けました。

ーー当時の映画には、猛烈なエネルギーがありましたよね。

趣里 そうなんです。当時の勢いというか、においまで伝わってくる感じがありますよね。そういう、引き込まれちゃう映画が好きですね。最近では『セッション』です。映画館で観た時に、客席から拍手が起こり、いい体験をしました。

生きてるだけで、愛。

ーーさて今作『生きてるだけで、愛。』ですが、観たほうがいい人たちが定数いそうな作品ですよね。どういう人たちに観てほしいですか?

趣里 わたしはいろいろな方向から観られる映画だなと思っています。私がエンターテインメントを観ていて、「辛いのは自分だけじゃない」と思えて、映画とつながれる瞬間があったので、そういうことを感じてもらえたらうれしいです。倦怠期のカップルでもお友達同士でもご夫婦でも、シチュエーションは違うけれどそれぞれ感情移入できるところがあると思うので、色々な方に観て頂きたいです。

趣里

ーーこの映画の主人公は、「映画を観ているあなた」的なタイプの作品かもしれないですね。

趣里 “これはあなた自身の物語”みたいなこと、ですよね。原作も、そう思った方たちが多かったから、支持されたのかもしれません。自分の想いを代弁してくれたと思ってくれるかもしれない。映画の感想が早く聞きたいです。(取材・文=鴇田崇/写真=林孝典)

映画『生きてるだけで、愛。』は2018年11月9日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー。

生きてるだけで、愛。
(C)2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

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  • おへびまる
    3.8
    予告編に釣られて、、、 やっと観れたー!と言いながらも 観る時ぞ来たり、 観た映画 、、、なのかもしれない…。 体質か否か、徹底された 主人公そのものだった 主演女優「趣里」さんの演技は 初めて観ました。圧巻。 そして幾度観ようと、 又は魅せてるのか分からないですが 「菅田将暉」を表現する映像美を痛感。 映像、構成、脚本よりも 「横顔」を映す一本でした。 私が泣かなかったのは 客観的に観れたかもしれない。 疲れた人に、そかはかとなく 見てほしい映画だなと思いました。 レビューは高いけれど 合う合わない、大きく分かれる 映画だと思います。
  • 花心
    3.4
    出演者が皆、いい演技をしているなあと思いました。(小並感) 2018年 劇場鑑賞 92本目(通算183本目)
  • umi
    4.0
    鬱で過眠症の寧子。恋人でゴシップ誌の編集部に勤める津奈木と同棲しているが、働かずに家で寝てばかりで、姉にメールや電話で心配や説教をされる日々を送っている。不満を感じると感情をすぐ表に出してしまう性格で、津奈木には毎日のように怒りをぶつけている。 映画が始まった当初は、何て勝手で嫌な女なんだ...と思ったが、物語が進むにつれて、寧子の内の心情が紐解かれていき、彼女に対しての印象が変わっていく。彼女は世の中で「常識」と言われていることや、人間関係に馴染むことができず、生きづらさを感じており、また、そんな自分が嫌で仕方なくも思っているのだ。 物語終盤の「津奈木はいいなぁ。私と別れられて」という台詞に、そんな寧子の思いのすべてが詰まっていて、泣きそうになった。 「働きもせずに家で寝てるだけ。甘ったれてるのよ」 「結局寂しかったんでしょ?鬱なんて皆で集まって賑やかにしてればあっという間に治っちゃうわよ」 津奈木の元カノの安堂や、寧子が勤めることになるカフェのオーナーの妻がかけた言葉(細かい言い回しは曖昧)にも、色々考えさせられるものがあった。これらの言葉は正しく、「常識」の軌道に乗って生きている人には当たり前のものなのだろう。だが、寧子には当たり前ではなく、心に突き刺さるナイフのようなものなのだろうと、観ていて彼女の立場に感情移入してしまい、何ともいえない気持ちになった。 津奈木は何故寧子と付き合い続けているのかも疑問だったが、「世の中に生きづらさを感じている」という心根の部分が同じで、寄り添っていたのだなと解釈できた。また、感情をあまり表に出さない性分の彼は、感情をむき出しにして生きているー自分と同じなのに正反対な寧子を、尊く綺麗な人間だと思っていたのだろう。
  • ktm
    4.5
    2018.045
  • こみもん
    3.9
    ・趣里の演技が良かった。本当に良かった。 ・言葉にすれば溢れ落ちてしまう情緒と言葉にしなければ伝わらないリアリティと。 ・寧子が買い物に行くシーン、本当に辛かった。一人暮らしの経験があるから、あの世界の何もかもが自分に悪意を持っているような感覚が非常にわかった。 ・最近、わたしとあなたの間にある絶望的な距離を見つめる作品を頻繁に観ていて、観るたびに悲しくなって、同時に一粒の希望を見つける。時空の経過にも耐えうるだけの自信、あの時一瞬だけでも溶けあえたという確信の持つ力にひどく共感した。
「生きてるだけで、愛。」
のレビュー(1563件)