日本映画界に欠かせない女優・蒼井優のおすすめ出演映画12本<『ニライカナイからの手紙』など>

2018.11.16
映画

映画マニアと呼ばないで

夏りょうこ

岩井俊二監督の映画『リリイ・シュシュのすべて』(01)で鮮烈なスクリーンデビューを果たして以来、数々の作品で強い存在感を残してきた蒼井優。33歳の現在、早くも日本映画界に欠かせない存在となった。
今回は、そんな蒼井優出演作品の中から、特におすすめの映画を12本紹介しよう。

蒼井優のプロフィール

蒼井優は1985年、福岡県生まれ。1999年、1万人の中からミュージカル「アニー」のポリー役に選ばれデビュー。その後、ティーン雑誌「ニコラ」にてモデルも経験した。

2001年、『リリイ・シュシュのすべて』で映画デビュー。2003年にTVドラマ『高校教師』で初レギュラー出演し、2005年には『ニライカナイからの手紙』で映画単独初主演を果たした。ちなみに翌年の『フラガール』(06)では、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をはじめとする数々の賞を総なめし、一気に注目を集めた。

リリイ・シュシュのすべて』(2001)

ヒリヒリしすぎて

リリィ

地方都市で暮らす中学2年生の主人公は、親友から突然いじめを受けるようになり、カリスマ歌手リリイ・シュシュの曲に唯一の救いを求めていた。

原作は監督自身がインターネットの掲示板を用いて制作した実験的小説。蒼井優だけでなく、俳優・市原隼人の映画デビュー作でもある。監督が「遺作にしたい」というほど思い入れの強い作品で、淡い光と瑞々しい田園風景とは裏腹に、行き場のないダークな世界が静かに描かれる。

鬱々とした日々の中で追い詰められていく主人公が、何とか息をしていられたのは、大好きなミュージシャンがいたから。そんな彼と、ほんの少しだけ心を通わせるクラスメイトを演じた蒼井優。しかし、支配される側という境遇は似ているものの、彼女は彼と孤独を舐めあうことはせず、別の道を歩むのであった。

1980(イチキューハチマル)』(2003)

あの頃は

1980

1980年、高校の教育実習にやってきた英語教師は、1年間失踪したのち芸能生活に見切りをつけた元B級アイドルだったが、その同じ学校には彼女の姉と妹がいた。

演劇人ケラリーノ・サンドロヴィッチによる初監督作品。登場人物の三姉妹がみんな問題を抱えているという設定で、同じく教師である姉は、夫のノーパン喫茶通いが原因でケンカ中だし、在学生の妹は、映研の映画でヌードになることが決まっているという。そこへ男にだらしのない主人公が現れ、生徒を巻き込んでの大騒動に。

“ノーパン喫茶”をはじめ、時代を感じさせるキーワードが盛りだくさん。監督の青春時代である1980年代の空気感がポップに、そしてノスタルジックに描かれるが、ちょっとナナメな視点に愛と自虐を感じさせる。懐かしさと新しさ。ドタバタする姉二人に囲まれ、ヌード出演に向けて微妙な心境になっていく蒼井優は、コメディの間合いもなかなかうまい。

花とアリス』(2004)

恋のためなら

花とアリス

女子高校生のアリスは、幼なじみで大親友のハナが、一目惚れした先輩にあるウソをついてしまったことから、奇妙な三角関係に巻き込まれてしまう。

2015年には、同監督による前日譚アニメ『花とアリス殺人事件』も製作された。あるサイトではコメディ映画というジャンルになっていたが、見方によってはホラーのような。片想いの相手に何とか振り向いてほしい彼女が、その場しのぎのウソをつき、それがまた新たなウソを呼んでしまって、ストーリーは次第にこんがらがっていく。

蒼井優は、自由奔放なアリスの方。いつもは内向的なハナを振り回しているのに、今度は彼女に翻弄される番になる。にしても、ハナのウソがあまりにも自分本位なのでハラハラ。さて、そのウソが破綻した暁には修羅場がやってくるのか。男性が妄想するような、女子高校生の罪深くも可愛らしい淡い恋物語。

ニライカナイからの手紙』(2005)

待ちわびて

ニライカイからの手紙

沖縄の竹富郵便局長の娘は、幼い頃に家を出て東京で働いている母から、年に1度、誕生日に届く手紙を楽しみにしていた。

美しい自然あふれる竹富島を舞台に、遠く離れて暮らす母の面影を胸に抱きながら、手紙を支えにして生きていく主人公を蒼井優が演じ、これが初単独主演映画となる。ニライカナイ。それは神様の名前。水平線の向こうに、ニライカナイが住む理想の国があるという。大切なのは、それを信じることなのだ。

カメラマンを目指して上京した彼女は、慌ただしい都会生活とうまくいかない母親探しで消耗してしまう。しかしそれは、自分に必要なものは何なのかを知るための時間だったのだろう。自分を守ろうとしてくれた人たち。母親の深い愛情。あんた、幸せだよ? 葛藤に揺れ動く姿が似合う蒼井優なのであった。

フラガール』(2006)

笑顔と涙と

フラガール

1965年、経済的な危機に陥った福島県の常磐炭鉱で、北国の寒村を常夏の楽園に変えようと立ち上がった村の少女たちは、フラダンスを必死で習い始める。

職場がなくなるという切実な問題に立ち向かい、町おこし事業として立ち上げた常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)の誕生秘話を描いた作品。素人が立ち上がるという実話の本質的メッセージを伝えるため、松雪泰子や蒼井優も含めたダンサー役は、ダンス経験のない女優をキャスティングしたそうだ。

ということは、蒼井優のあの優雅で激しい腰の動きも、本当に一から厳しいレッスンを受けた賜物なのか。そう思うと大変ありがたく、クライマックスのフラダンス・ショーは盛り上がるなあ。1人はみんなのために。みんなは1人のために。時代の流れには逆らえない。だが、反発や無理解を乗り越えたからこそ、たどり着ける場所がある。

クワイエットルームにようこそ』(2007)

食べないワケ

クワイエットルーム

何もかもうまくいかない28歳の女性フリーライターは、ある朝目覚めてみると、精神病院の閉鎖病棟にある白い部屋「クワイエットルーム」に強制入院させられていた。

ストレス解消で大量摂取してしまった睡眠薬。それが原因で意識を失った彼女は、そのままオーバードースを患った自殺志願者として、病院に放り込まれてしまう。そこは日常から離れた特異な場所。入院患者たちは、みなアクの強い個性的な面々だった。彼女から「面白い国の住人」と羨ましがられる夫を宮藤官九郎が好演し、相変わらず力が抜けていてよい。

蒼井優は、世界の仕組みに気づいたという理由で摂食障害に陥っている患者。役作りとして減量をしたそうで、きつきつのドレッドヘアにゴシックメイクという外見が痛々しく、また太々しい。エキセントリックな他の患者に比べるとクールだが、実はかなりこじらせているタイプだと思われ、こういう陰キャラもなかなかイケる。

人のセックスを笑うな』(2007)

恋の初体験

人のセックスを

美術学校に通う主人公は、20歳年上の奔放な非常勤講師と恋に落ちるが、実は彼女が既婚者であることがわかって混乱してしまう。

彼は純情なのである。そんな彼の人間らしい喜怒哀楽がリアルに、そして温かい目線で描かれ、誰かに恋をするってこういうことだよなあと思春期のような気持ちにさせられる。いわゆる年の差カップルなのだが、悶々とする初心な彼と違い、彼女の方はあっけらかんとしているのが可笑しい。

そんな大人の女性に夢中になっている彼に、人知れず想いを寄せているのが蒼井優である。叶わぬ恋だとわかっていても、彼を忘れることができない彼女は、スネた表情をしつつも彼のそばにいようとしたり、落ち込んでいる彼を誘ったりする。でもああ、鈍感な彼。観覧車のシーンが好き。

百万円と苦虫女』(2008)

そんなわけないか

百万円

就職浪人である主人公が、思いもかけず前科者になってしまい、実家にも居づらくなったことから、働いて100万円貯まったら新しい土地に引っ越すという生活を始める。

住み込みで働き、100万稼いだら次の場所へ。そんな根無し草のような暮らしも悪くないんじゃないか。そう思わせてくれるヒロインの蒼井優は、いつも機嫌が悪そうで、家族とのヤケクソな大喧嘩シーンが新鮮。賢くもなく不運な女の子だけど、自分で未来を切り拓いていこうとするたくましさが心地よい。

転々として仕事をこなしながら、彼女はいろいろな人と出会い、自分を見つめ直していく。余計なことは何も考えず、ただ目の前にある労働に身を任せる作業は、人を成長させるのかもしれない。ラストのホロ苦さに胸きゅん。今度は幸せを見逃さないで。

岸辺の旅』(2015)

死者との時間

岸辺の旅

ある日、3年間行方不明となっていた夫が妻の元へ帰ってきて、失踪してから帰宅するまでに関わってきた人々を訪ねる旅に誘う。

夫は幽霊である。妻はそう認識した上で、彼についていく。観客の方も、これは死者が導く旅路なのだと初めからわかっている。なので、二人の行く末をしみじみと見守っているうちに、あの世とこの世の境目にいるような気持ちになってしまう。

ところが、再会した彼らの夫婦愛が延々と描かれるのかと思いきや、そこはさすが黒沢清監督。劇薬のように1人の女性を登場させ、岸辺を流れる静かな水をざわめかせる。その女性が蒼井優だ。なんとまあ、想像を強くかきたてられる存在だろう。その要となるワンシーンに目が釘付け。キャスティングの巧さにうなる。

オーバー・フェンス』(2016)

幻のフェンス

オーバー・フェンス

妻に離婚届を渡した主人公は、故郷である函館に戻り、大工を目指して職業訓練校に通っていたが、仲間に紹介されて風変わりなホステスと出会う。

就職という大きな目標があるにも関わらず、自己嫌悪を抱えながら漫然と日々を過ごしている主人公。その淡いグレーのような日常が、1人の女性の存在によって少しずつ色づきはじめる。しかし、別れた妻子のことも気にかかり、あと一歩のところで踏み込めない男をオダギリジョーが好演。半笑いでうつむく姿が似合うね。

人前で鳥の鳴き真似をするとは、かなりのエキセントリックぶりである。そんな彼女もまた、愛を失うのが怖い人間で、蒼井優が心に傷を負った女性特有の危うさを全身で表現。ここから第2のキャリアがスタートしたと言ってもよいほど、やりきっております。

アズミ・ハルコは行方不明』(2016)

消えてみたい

アズミハルコ

郊外のありふれた街に住んでいる27歳・独身の主人公が、突然姿を消してしまい、彼女の行方不明ポスターをモチーフにしたグラフィティアートが町中に拡散されていく。

仕事中に喫煙しながらセクハラ発言をする男性職員。介護に無関心な父親。女を性欲の対象としか見ていない恋人。そんな男どもに人権を踏みにじられている女たちの怒りなのだろうか。女子高校生集団が無差別に男をリンチするという事件が勃発する。

アズミ・ハルコはなぜ失踪したのか。時系列を前後させながら、それまで彼女を取り巻いていた環境が描かれていく。これならもう、イチ抜けしたくなるよなあ。ただあまりにもわかりやすい構図なので、一体いつの時代なんだよとツッコミたくなる衝動もあり。この世に居場所がないのなら、いっぺん消えてみる?

彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)

恋人は1人

彼女の

15歳年上の男と暮らしている主人公は、8年前に別れた恋人のことが忘れられないでいたが、それでも自分は働かずに男の稼ぎで生活を送っていた。

そんなに激しく嫌悪している男とよく暮らせるなあ。しかしそれが、男と女というものなのであろう。下品。汚い。お金がない。出世の見込みなし。そんな彼が彼女に注ぐのは、無償の愛。どんなに罵倒されても軽蔑されても、彼は彼女にご飯を作り、お金を渡す。その男を演じる阿部サダヲが、息抜きのように時々ふっと笑わせてくれる。

愛を求めては裏切られ、悲しみと憎しみでぐちゃぐちゃになる蒼井優。嫌悪する男に尽くされれば尽くされるほどイライラし、他の男に気持ちがいってしまう愚かで哀れな女なのである。出ずっぱりの蒼井優はそれまでの総決算ともいえる演技力で、狂おしく愛し愛される女性を熱演。文学を読んだような気持ちになる作品だ。

いかがでしたか?

とにかく出演作が多い蒼井優。決して派手ではないルックスだからこそ、微妙に変化する表情で複雑な感情を表現できる女優ゆえ、主役から脇役まで幅広い役をこなしている。

蒼井優の最新出演映画は、11月24日(土)公開の時代劇『斬、』。江戸時代末期の農村を舞台にした時代劇で、池松壮亮演じる浪人が流れ着いた地の村娘を演じている。前作とは全く違うタイプの作品なだけに、ますます期待が高まる。

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