映画で中央ヨーロッパを旅しませんか?芸術の都ウィーンから魔都プラハ・ドナウの真珠ブダペストまで

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

ウィーン・プラハ・ブダペストを映画ファン目線で旅するエアな企画です。

映画ファン目線で中欧をエアに旅する

日本人が映画館で観る映画の数は平均すると年1~2本だそうですが、FILMAGA読者の皆さんはいかがでしょうか? 映画好きの皆さんのことですから、もしかしたら、年間100本以上という人も少なくないかもしれませんね。

映画をより深く理解するには、舞台となった国を知ること。できればその国に行ってみるのが一番です。勿論そんなこと分かってはいても、仕事もあるしお金もかかるしで、実現は難しいもの。

そこで今回は、映画ファン目線で巡る中欧三都のエアな旅~ウィーン・プラハ・ブダペスト編~を企画してみました。「世界一美しい街」の名を競うこの三都の旅は世界的に人気の高いコースです。さあ、エアなら中欧までひとっ飛び。いざ、三都の旅に出かけましょう!

ハプスブルグ家の繁栄が築き上げた芸術の都・ウィーン

シュテファン大聖堂
▲シュテファン大聖堂(画像提供:株式会社旅工房

三都巡りのスタートはウィーンから。昔のウィーンは、ドナウ河畔にある丸い城壁都市。19世紀になって街を取り囲んでいた城壁は取り壊されたものの、「壁」の痕跡は「リング通り」と呼ばれる環状道路に今も残っています。この「丸いウィーン」の中心にあるのが、13世紀から20世紀初頭まで続いたハプスブルグ家の王宮(ホーフブルク)と、歴代皇帝の葬儀が行われたシュテファン大聖堂。「ゴシック建築の街」と言われるウィーンの中でもひときわ壮麗なこの寺院の南塔は、65年の歳月をかけて建設されたもので、高さはなんと136.7メートル!

聖堂の地下墓地(カタコンベ)には、歴代皇帝の内臓を納めた壺が……心臓と遺体はそれぞれ別の教会に安置されています。ヨーロッパ人の死生観、日本人とは全く違っていて興味深いですね。

ウィーンを舞台にした名作映画『アマデウス』(1984)

アマデウス

アマデウス』は、音楽の都ウィーンで活躍した天才音楽家モーツァルトの生涯を、彼のライバルでベートーベンやシューベルトなど名だたる音楽家の師匠でもあったアントニオ・サリエリの眼を通して描いた作品。

モーツァルトを見るサリエリの嫉妬と憎悪に満ちた表情、それとは裏腹に、抑えようとしても溢れ出てくるモーツァルトの音楽への心酔……サリエリ役のF・マーレイ・エイブラハムが、二律背反するサリエリの心理を見事に演じ切っています。

この映画の中でモーツァルトがオペラ『フィガロの結婚』を作曲する場面がありますが、まさにその当時彼が住んでいた家が、シュテファン大聖堂のすぐ近くにある通称「フィガロハウス」。現在はモーツァルト記念館になっていて、当時の内装を再現した内部には遺品や楽譜などが展示されています。

2015年の映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』に登場するユダヤ人街(ユーデン・プラッツ)も、この近くにあります。

黄金のアデーレ 名画の帰還』(2015)

黄金のアデーレ

本作は、ウィーン世紀末芸術の巨匠グスタフ・クリムトの名画に秘められた、悲しい実話を描いたもの。ヒロインのマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、ウィーンでも有数のユダヤ人の豪商の家に生まれますが、第二次世界大戦時のナチスドイツの侵攻により家族も財産も奪われ、叔父がクリムトに描かせた叔母アデーレの肖像画もその際に失われます。

命だけは助かったマリアが、戦後、家族の思い出が詰まった絵画を取り戻すための訴訟を起こしたことをきっかけに、第二次世界大戦中ウィーンのユダヤ人たちに起きた悲劇が紐解かれていく構成です。

黄金のアデーレ 名画の帰還

ウィーンでモーツァルトと並んで観光客に人気の高い歴史上の人物と言ったら、やはり「シシー」の愛称で親しまれたエリザベート皇妃(1837-1898)でしょうか。

「プリンセス・シシー」三部作(1955-1957)

プリンセス・シシー

プリンセス・シシー』(1955)、『エリザベート2 若き皇后』(1956)、『エリザベート3 運命の歳月』(1957)の「プリンセス・シシー」シリーズは、不穏な時代にヨーゼフ・フランツ一世の皇妃となり、波乱万丈の人生の末にアナーキストに惨殺された、悲劇の皇妃エリザベートを題材に製作された作品。

ヨーゼフ・フランツ一世との結婚までのラブ・ストーリーを描いた映画『プリンセス・シシー』でシシー役を演じたロミー・シュナイダーは、おてんばで美貌のシシーのイメージにハマり、一躍国民的スターに。

そんなエリザベート皇妃についてもっと詳しく知るには、ホーフブルク(王宮)へ。王宮内の「シシー・ミュージアム」で豪華絢爛な衣裳や食器に見惚れながら、彼女の生きた時代に想いを馳せましょう。王宮内には日中しか入れませんが、夜には外観がライトアップされて、壮麗な建築美を味わうことができます。

ホーフブルク
▲夜のホーフブルク宮殿(画像提供:株式会社旅工房

ウィーンの夜には、オペラを楽しむのもいいですね。

ウィーン国立歌劇場
▲ウィーン国立歌劇場(画像提供:株式会社旅工房

せっかくなら『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015)で、豪快なアクションが繰り広げられたウィーン国立歌劇場でのオペラ観劇はいかがでしょうか? 幕間にはお酒と軽食を味わいながらおしゃべり。芸術の都ウィーンの空気をたっぷりと満喫してください。

ルドルフ二世のDNAを継ぐ「魔都」プラハ

カレル橋
▲カレル橋から望むプラハ城(画像提供:株式会社旅工房

さあ、ウィーンの次は列車でプラハへと向かいます。ウィーンからプラハまで約4時間。同じEU内、まるで同じ国のような気軽さで移動できてしまいますが、プラハに下り立つと言葉も貨幣も全く変わり、別の国だということを実感します。

現代であって中世……まるで絵本の世界に迷い込んだかのような、お伽の国の情緒がありますよね。14世紀に建設されたこの橋は、丘の上の城への玄関口であると同時に、古い時代には斬首刑の執行場でもあったとか。刑が執り行われていた場所には、今は十字架のキリスト像が。橋に並べられたたくさんの聖人像にも、この街に生きた人々の祈りを感じます。

この美しい街・プラハが、何故「魔都」と呼ばれるのか? ボヘミア王・ルドルフ二世(1552-1612)の時代に遡ります。政治よりも芸術や魔術に熱烈な関心を寄せた彼は、名だたる芸術家や天文学者、占星術師、魔術師、錬金術師などをプラハに集め、この地を一大文化センターに仕立てました。この王が築いた神秘主義的文化の土壌が、プラハがまとう魔術的な空気のルーツなんです。

こうしたプラハの文化的バックグラウンドを知ると、社会主義政権下の60年代に、この地でチェコ・ヌーヴェルヴァーグと呼ばれる優れた映画作品群が生まれたのも、決して偶然ではないということがよく分かります。

チェコ・ヌーヴェルヴァーグ作品の中で人気の高い作品『ひなぎく』(1966)

ひなぎく

社会主義体制下で製作された作品とはとても思えない高感度なファッション感覚が支持され、渋谷系カルチャーにも影響を与えたと言われるカルト映画です。マリエⅠ・マリエⅡなる少女たちの、破壊的なまでに突き抜けた奔放さが印象的。しかし、実はこの作品は体制批判を秘めた社会派作品でもあります。チェコでは一旦公開されたものの、その後発禁処分になっていますが、当時の検閲の網をかいくぐるために本来のテーマを暗喩でくるんだ結果、日本では政治とは無縁のガールズ・ムービーとしてロングセラーに。

ひなぎく

チェコ・ヌーヴェルヴァーグを生んだ「プラハの春」(自由化運動)は、1968年のソ連の弾圧によって突然終わりを告げます。ソ連が主導するワルシャワ機構軍の戦車隊がプラハに乗り込み、民衆に発砲したいわゆる「チェコ事件」が起きたのが、プラハ本駅の前にあるヴァーツラフ広場。

ヴァーツラフ広場
▲プラハ本駅の前のヴァーツラフ広場(画像提供:株式会社旅工房

この後、映画作家たちも国外へ脱出したり、長期間にわたって活動を停止させられたりと、チェコでは自由な創作活動ができなくなってしまいます。

言論弾圧のため亡命した作家の小説を原作にした『存在の耐えられない軽さ』(1988)

存在の耐えられない軽さ

本作では、多くの死者も出たチェコ事件を、主人公トマシュ(ダニエル・デイ=ルイス)とその恋人テレーザ(ジュリエット・ビノシュ)が目撃するシーンがあります。やがて、体制批判をしていたトマシュもまた、悲惨な運命に。冒頭は、自信家の医師トマシュが次々に女を口説き、女たちは面白いように落ちていく……という始まり方で、当時のダニエル・デイ=ルイスのしたたるような男の色気に魅せられるんですが、物語は意外な方向に進んでいきます。

さて、プラハを訪れたら観ておきたいもののひとつに、人形(マリオネット)劇があります。チェコの人形劇は旅芸人が伝えてきた伝統芸能。ハプスブルグ家の支配下でチェコ語の使用が禁止されていた時代も、人形劇だけはチェコ語が許されていたこともあり、民族復興の象徴としても尊重されてきたのだそうです。

人形劇を映画に取り入れたパペット・アニメーション『アリス』(1988)

アリス

シュルレアリスト(超現実主義)を名乗るシュヴァンクマイエル監督作『アリス』は、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を実写の少女+パペットで映像化し、不条理や幻想という「魔都」プラハの正当な遺伝子を受け継いだ作品といえる。原作には登場しない骸骨など、不気味でダークな味付けもシュヴァンクマイエルならではです。

エキゾチシズムの都・「ドナウの真珠」ブダペスト

国会議事堂
▲ドナウ河畔に建てられたゴシック・リヴァイヴァル建築の国会議事堂(画像提供:株式会社旅工房

プラハからブダペストへは列車でも半日がかりになるため、ユーロナイト(夜行列車)を利用するのが便利。翌朝には、「ドナウの真珠」「ドナウの薔薇」などの名で知られるハンガリーの首都・ブダペストに着きます。

ブダペストの美しさを際立たせる要素をいくつか挙げるとすれば、まずは東西のさまざまな異文化の洗礼を受けてきた歴史が生み出す、独特の異国情緒。また、19世紀末に建てられた世紀末建築の数々も、ブダペストの美しさに磨きをかけています。世紀末の建設ラッシュは、民族主義、つまりハプスブルグ家の支配からの独立の気運が盛り上がる中で開催されたハンガリー建国千年祭(1896年)に向けて起こったもの。ウィーンを凌ぐ壮麗な首都建設を目指した当時のハンガリーの人々の意気込みが、華麗なる建築群からもしのばれます。

しかし、やはりなんといっても街の中央を流れるドナウ川を抜きにしてブダペストを語ることはできません。ドナウ川は日によって濃い霧を発生させ、これがまたブダペストに得も言われぬ情感をまとわせます。

霧に包まれたドナウ河畔で、美しい女の死体が発見されるシーンが印象的な『薔薇は死んだ』(2015)

薔薇は死んだ

第一次世界対戦前夜、ドナウ川に大きなバスケットが流れ着く。中には、高級娼婦から女優にのし上がった美しい女性の死体が……。彼女は何故殺されなければならなかったのか。男と女、女と女の愛憎が激しく交錯し破綻に向かっていくさま、その一部始終を、小間使いの少女が目撃します。第一次世界大戦前夜の美しく不穏なブダペストの雰囲気の中で味わう、異国情緒サスペンス。とても雰囲気がある作品です。

ドナウ川にかかるセーチェーニ鎖橋も、さまざまな映画に登場するこの街のランドマークのひとつです。そんなセーチェーニ鎖橋が印象的な映画を2本ご紹介。

セーチェーニ鎖橋が登場する作品『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』​(2014)

ホワイト・ゴッド

独特の世界観の作品で知られるコーネル・ムンドルッツォ監督の『ホワイト・ゴッド』には、冒頭、主人公の少女リリが人影のない鎖橋で自転車を走らせるシーンが。橋の上には無造作に乗り捨てられた車が一台……不穏な空気を感じさせるオープニングです。この作品で描かれていくのは、飼い犬の人間への逆襲。リリの犬・ハーゲンの中に生まれた人間への憎悪が、街中の犬たちの怒りを呼び覚まし、結集した犬たちは群れをなして人間を襲い始めます。ブダペストの街を怒りに狂った犬の大群が駆け抜けるシーンは圧巻! 劇中流れるリストの『ハンガリー狂詩曲』が、ハンガリー的異国情緒を盛り上げています。

セーチェーニ鎖橋印象的に使った映画『暗い日曜日』(1999)

暗い日曜日

本作は、同名曲を作曲したピアニスト・アンドラーシュと、彼が演奏するレストランの経営者であるユダヤ人のラズロ、そして2人の「共有の恋人」イロナの三角関係を、第二次世界大戦下の暗い時代背景の中に描いた作品です。「暗い日曜日」は実在の曲で、映画のモデルになったレストラン「キシュピパ」は今もユダヤ人街近くにあります。

ユダヤ人街は、ハンガリーの初代国王・聖イシュトバーンを祀った聖イシュトバーン大聖堂からも近い場所。

聖イシュトヴァーン大聖堂
▲聖イシュトヴァーン大聖堂(画像提供:株式会社旅工房

聖イシュトバーン大聖堂には聖イシュトバーンの「聖なる右手」が祀られていて、年に一度この手を乗せた輿が市内をねり歩くのだそうです。

このように、ドナウ河畔には鎖橋の他にも旧王宮がある「王宮の丘」など、見どころがいっぱい。王宮の丘にあるマーチャーシュ教会は、上のウィーンの項でご紹介した皇妃エリザベートが夫ヨーゼフ・フランツ一世と共にオーストリア・ハンガリー二重帝国の戴冠式を行った場所。ハンガリーびいきだった皇妃エリザベートは、ハプスブルク家で唯一ハンガリー国民に愛された人でもあるそうです。王宮の丘から眺めるドナウ河畔の夜景も必見です。

そして、ブダペストで忘れてはならないのが、温泉です。ローマ人がこの地を支配した頃、風呂好きの彼らによってもたらされた温泉文化が、オスマントルコ時代にさらに発展したのだとか。同じ温泉好きの日本人としては、体験しない手はありませんよね。

セーチェニ温泉
▲セーチェニ温泉の概観(画像提供:株式会社旅工房

ゆったりと温泉に浸かって旅の疲れを癒した後は、ちょっと贅沢に、ハンガリー名物のトカイワインと、ハンガリー式の豪快なフォアグラ料理など味わってみてはいかがでしょうか?

帰りの飛行機でまどろみつつ……

皆さん無事に帰りの飛行機にご搭乗いただけましたか? 駆け足の旅行にお付き合いいただき、お疲れ様でした。どの街をとっても魅力が尽きない三都の旅、皆さんの中ではどの街が最も心に刻まれたでしょうか? エアでも楽しい旅ですが、お気に召したら、ぜひリアル中欧の旅へ。旅を終えて映画を観直した時、きっと新しい発見に出会えるはずです。

写真協力:株式会社 旅工房

(C)THE WEINSTEIN COMPANY / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ORIGIN PICTURES (WOMAN IN GOLD) LIMITED 2015、(C)Bonton a.s.

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