狂気的ストイックさを持つ努力家から、音楽に愛される天才まで。印象的なピアニストが登場する映画24本

映画マニアと呼ばないで

夏りょうこ

映画には音楽が欠かせないが、音楽家そのものを主人公にした作品も多く、中でもピアニストが登場する映画は人気が高い。

スクリーンに流れる名曲の数々に身をゆだねて、音楽の力を実感するだけでなく、演奏シーンではピアニストの指使いを見ることができるのも、楽しみの1つだ。

そんなピアニストたちは、みな個性派ぞろい。苦悩と喜びに彩られたドラマチックな、あるいは、天才のイメージ通りエキセントリックな人生を送っていたりして、1人の人間を描いた作品としても興味深い。

そこで今回は、いろいろなピアニストが登場するピアニスト映画24本をご紹介しよう。

ピアニスト』(2001)

抑圧からのいびつな解放

ピアニスト

音楽院の厳格なピアノ教授である主人公は、ある日若い学生から激しい愛を打ち明けられるが、思わず拒絶してしまう。

大人になっても過干渉な母親から監視され、幼児性を引きずったまま。しかも異常なほど禁欲的に生きてきた反動なのか、倒錯した性的趣味を持っている。そんな彼女のことを「欲求不満のイタイ処女」と笑うことはできない。抑圧と命令しかない世界で、彼女の人間性がどれほど歪められてきたのか。その恐ろしさと罪深さ。

彼は彼女のピアノが好き。年齢は離れているが、その音楽の才能に惹かれたのだろう。しかし、複雑で深刻な問題を抱える彼女を受け止められるわけもなく、二人の関係は愛憎にまみれていく。彼女の醜い表情は、狂気の一歩手前。どうすればよかったの? 愛憎の果てに見せる彼のさわやかな笑顔が憎たらしい。

パリに見出されたピアニスト』(2018)

ピアニストにならないか

パリに

警察官の目を盗みながら、パリの北駅にあるピアノを弾いていた主人公は、たまたま通りがかった音楽学校のディレクターから声をかけられる。

恵まれない生い立ち。貧しい家庭。親から見捨てられて育った彼には、未来が描けない。そんな行き詰まり状態でも何か突出した才能があれば、神様が手を差し伸べてくれることもあるのだ。現実から逃避するように駅のピアノを弾いていた彼の前に、突然ピアニストへの道が拓かれる。

押しつけられたチャンスに反発していた彼は、次第に本気モードになっていく。その目覚め。親のような愛情と信頼にとまどう姿に、彼が独りぼっちで生きてきたことがわかる。芸術は、過酷な現実からしか生まれないのかもしれない。ピアニストはアスリート。その指で明日への切符をつかめ! 

シャンドライの恋』(1998)

愛を見せて

シャンドライ

故郷アフリカから逃亡し、ローマで医者を目指しながらメイドの仕事をしているヒロインは、ある日突然屋敷の主人から求愛される。

その雇用主がピアニスト。寡黙で孤独で、ピアノだけが友だちのような男である。そんな彼が住み込みで働く彼女を愛するようになり、恐ろしいほどのストレートな愛の告白をする。しかし彼女には、政治犯として逮捕されてしまった夫がいた。

スクリーンに流れるクラシックとアフリカの音楽。彼女が作るエスニック料理のスパイシーな香り。二人のいる空間で異文化が混じりあい、彼の想いは思わぬ形で彼女に届けられる。ここまでされたら、女心は揺れちゃうよ。ラストの続きはあなたの胸に。

真夜中のピアニスト』(2005)

失われた遠い夢

真夜中の

父の跡を継いで不動産の裏ブローカーになった主人公が、恩師と再会したことをきっかけに、ピアニストになるという昔の夢を思い出す。

映画『マッド・フィンガーズ』(78)のリメイク。芸術家とは程遠いあこぎな仕事をしている彼に、そんな夢があったとは。昔の自分を知る教師から「オーディションを受けないか」と誘われ、忘れかけていたピアノ熱が再沸騰。寝る間も惜しんで、彼はレッスンにのめり込んでいく。

しかし彼にはブランクがあるし、そもそもそんな暴力的な世界に身を置きながら美しい音を奏でられるのだろうか。どう考えても状況は不利。なのに、彼は一筋の光をつかむように指を動かし続け、全身全霊でピアノに向かう。闇に消えていく彼の横顔が忘れられない。

ピアノ・レッスン』(1993)

鍵盤の数だけお願い

ピアノ

19世紀幼い娘を連れた主人公は、結婚するためにニュージーランドへやって来たが、婚約者に持ってきたピアノを浜辺に置き去りにされてしまう。

あんな重いピアノをわざわざ船で運んできたのは、口のきけない彼女にとって、ピアノは言葉の代わりに感情を表す大切なものだから。なので、その浜辺に通い詰めて飽きることなくピアノを弾く彼女。すると、その様子を見ていた男が現れ、彼女にピアノレッスンを申し出る。

レッスンといっても、男はピアノを弾く彼女の周りをウロウロするだけ。しかしそれは、秘密のレッスン。最初は粗野な彼を警戒していた彼女だったが、レッスンを重ねるうちに心を寄せていく。その傾き方が官能的でねえ。つまり、男と女に言葉はいらないってこと。まさかの裏切りも沈んだピアノも、今は遠い夢の中。

アート・オブ・トイピアノ/マーガレット・レン・タンの世界』(2004)

シュローダーここにあり

アート

オモチャのピアノでベートーヴェンやビートルズを演奏する世界唯一のトイ・ピアニストを10年間追ったドキュメンタリー。

その人の名は、マーガレット・レン・タン。彼女はずっと、スヌーピーに登場するシュローダーのように、トイピアノでベートーヴェンを弾いてみたかったのだという。トイピアノの小さな鍵盤を鳴らすだけでなく、グランドピアノの弦をつま弾いたりして、彼女はピアノ奏法の可能性を拡げていく。

巫女のような自分のパフォーマンスについて解説したり、恩師である現代音楽界の巨匠ジョン・ケージの作品を演奏するなど、彼女の音楽世界を知るには絶好の入門編。トイピアノの調子がはずれたような音色は、懐かしいような心がザワザワするような。トイピアノでどこまで行けるのか。彼女の孤高の挑戦は続く。

譜めくりの女』(2006)

根に持つ女

譜めくり

音楽学校の入学試験を受けた主人公は、1人の審査員の無神経な態度によって演奏ができなくなり、そのままピアニストになる夢を諦めてしまう。

その審査員は人気ピアニストで、彼女の憧れの人。それだけに、失望も大きかったのだろう。ところが、十数年後にそのピアニストと再会し、多大なる信頼を得た彼女は、コンサートの譜めくり役として雇われることになる。

譜めくり。それは、演奏の成功のカギを握る重要な役。気難しいピアニストとの“あうんの呼吸”を要求される難しい仕事だ。そうして彼女はピアニストの私生活にまで入り込み、強い絆を築き上げるのだが、ん? 何が目的? あの日のことを忘れない彼女のそこまでするんだという怖さ。滑稽さ。フランス映画だなあ。

蜜蜂と遠雷』(2019)

ライバルは仲間

蜜蜂

母親の死によってピアノが弾けなくなっていた元天才少女が、7年ぶりに国際ピアノコンクールへ出場することを決意する。

直木賞受賞小説の映画化。音大出身だが楽器店で働いていて、年齢的に最後の挑戦になる子。名門ジュリアード音楽院に在籍する優勝候補の子。世界最高峰のピアニストから推薦状をもらっているという子。予選会に挑むこの3人と主人公が、ライバルとして仲間として刺激しあいながら、熱い戦いを繰り広げる。

庶民派。天才系。トラウマ系。そして謎の存在。4つの「あるある」タイプの若者たちが、それぞれの物語を背負い、ただひたすら鍵盤に向かう。どの登場人物にも思い入れができるので、誰かを応援するということもできず。自分の音を極めるピアノ道は、とてつもなく孤独な世界。しかし、そこにしか見えない風景が確かにある。

4分間のピアニスト』(2006)

ピアノで未来をつかめるか

4分間

刑務所でピアノを教える老いた教師は、殺人罪の判決を受けた元天才ピアニストと出会い、彼女に特別レッスンを行うようになる。

獄中でのピアノレッスン。しかも相手は、反抗的で凶暴な若い囚人だ。父親からピアノの手ほどきを受け、将来を嘱望されていたにも関わらず、道を踏み外してしまったピアニスト。そんな手強い生徒に練習をさせようとするのだから、二人は当然激しくぶつかり合う。

その才能を武器にして更正してほしいという願いも虚しく、なぜそうまでしてピアノを弾かなければならないのかと、本人のモチベーションはぐらつく。でもピアノを嫌いになったわけじゃない。諦め。焦り。少しの希望。課題曲はシューマンのピアノコンチェルト。自由を求める彼女の叫びが、音楽となって鳴り響く。

ピアノマニア』(2009)

かかってこいピアニスト

ピアノマニア

ピアノ調律師シュテファン・クニュップファーが、名ピアニストたちの要求に応えようとする仕事ぶりを撮影したドキュメンタリー。

ピアニストたちから突きつけられる注文が無理難題であればあるほど、彼の職人としての意地とプライドが燃え上がる。何しろ相手は、コンサートホールや録音スタジオのピアノである。そこはピアニストにとっては戦場。一音一音の微妙な響きにまで徹底的にこだわり抜く彼らからOKが出るまで、調律師はピアノの位置にまで気を配る。

登場するピアニストは、ピエール=ローラン・エマール、ラン・ラン、アルフレート・ブレンデル。彼らが口にする抽象的で芸術家特有の表現を理解し、それを音で再現できる優秀な調律師がいてこそ、ピアニストたちは実力を発揮できるのである。ややこしい人種を支える縁の下の力持ち。彼らの知られざる血と涙と汗と喜びをご覧あれ。

戦場のピアニスト』(2002)

本当にピアニストなのか?

戦場の

1940年代ナチスドイツのユダヤ人迫害により、ユダヤ系ポーランド人ピアニストは家族と共に収容所へ送られそうになるが、運よくその場から逃れることができる。

主人公は、実在のピアニストがモデル。その後ゲットーからも逃げ出した彼は、反ナチス地下組織にかくまわれ、破壊されていくワルシャワの街を見つめながら、1人で隠れ家生活を続けていたが、ついにドイツ軍人に見つかってしまう。

その軍人と出くわした時、彼は死に物狂いで缶詰を開けようとしていた。ああ、戦争はピアニストにそんなことまでさせてしまうのか。恐ろしい。哀しい。クライマックスで流れるショパンのバラード第1番が息を飲むほど美しく、緊張と静寂に包まれた鎮魂歌のよう。

黙ってピアノを弾いてくれ』(2018)

おしゃべりも音楽のうち

黙って

ユニークなスタイルで多くのファンを持つ作曲家でピアニストのチリー・ゴンザレスの魅力に迫るドキュメンタリー。

クラシック、ジャズ、ラップ、エレクトロなどのジャンルを軽く飛び越えた彼の音楽は、聴く者を困惑させたり、惹きつけたり。その演奏スタイルも独特で、時にはグランドピアノの上に寝そべってしゃべり続けることも。わけがわからないが、一貫している。それが彼の大きな魅力かもしれない。

兄に対するコンプレックス。音楽で成功したいという野心。カナダからドイツ、フランスへ渡り、有名アーティストとのコラボレーションや大胆なパフォーマンスを繰り返し、その一方で、静かにピアノと向き合って録音したアルバムも発表する。音楽との関わり方は本当に人それぞれ。

ぼくを探しに』(2013)

過去が変われば今が変わる

ぼく

幼い頃に両親の死を目撃したショックで話すことができなくなった主人公は、二人の伯母のもとで、ピアニストになるように育てられる。

大人になった彼には友だちもおらず、もちろん女性とつきあったこともない。時々夢でうなされ、伯母たちのダンス教室でピアノを弾く日々。亡くなった父親よりも母親を慕い、誰にも心を開かない彼は、ピアノを弾くのが楽しいのかどうかもわからない。

そんな彼がひょんなことから謎のマダムと出会い、魔法のハーブティーを飲まされて、閉ざされていた記憶が呼び戻る。両親はどんな人だったのか。どんな死に方をしたのか。それは、つらいけど知っておかなきゃいけない過去。指が長いからピアニストにされたんだね。自分の人生を歩み始めるのに、手遅れということはない。

アルゲリッチ 私こそ、音楽!』(2012)

ピアニストではない時間

アルゲリッチ

世界的ピアニストであるマルタ・アルゲリッチの娘が監督を手がけ、母親の素顔をカメラにおさめた異色ドキュメンタリー。

アルゼンチン生まれのマルタ・アルゲリッチは、幼い頃からすでに天才ピアニストとして頭角を現し、24歳の時ショパン国際ピアノコンクールで優勝してからは、世界中にその名を知られるようになる。そんな彼女はメディアの取材を受けないことでも有名で、その素顔は神秘のベールに包まれていた。

それがどうだろう。この映画の中では演奏中の足元を映されたり、出産の思い出を語ったりして、初めてさらけ出す生身の姿。実の娘だからこそ撮れた貴重なシーンばかりだ。ちなみに3人の元夫も登場。奔放な母親の元で苦労したと思われる娘たちと、マニュキアを塗りながら女子トークをするアルゲリッチは、母の顔だった。

ピアニストを撃て』(1960)

それでも弾き続ける

ピアニストを撃て

パリのカフェでピアノを弾く主人公は天才ピアニストだったが、かつて妻との間に起こったある出来事のせいで、人生にすっかり絶望していた。

揺れるカメラ。細かいカット割り。意味がなさそうなセリフ。オシャレでスタイリッシュで、人生の悲劇を声高に叫びもせず。そして、運命の残酷さにハッとさせられるラスト。つまり、ヌーヴェルヴァーグらしい作品である。ハードボイルドだけどテンションは低め。登場人物たちの激しい感情は、表情からは読み取れない。

主人公は、なぜ有名なピアニストからカフェのピアノ弾きになったのか。彼が仕事にも恋愛にも諦め気味なのは、そうなってしまうだけのつらい過去があったから。そのせいで彼はピアノから離れたが、またピアノに戻ってきた。そして彼は、黙ってピアノを弾き始める。弾くのは明るい曲。彼を襲った2つの喪失を思うと、その賑やかなメロディがやるせない。

海の上のピアニスト』(1998)

人生は船と共に

海の上の

豪華客船に捨てられていた赤ん坊は、そのまま船の中で大切に育てられ、育ての親の葬儀で流れた音楽に魅了されてピアノを弾き始める。

彼の名は「1900」。生年にちなんだキラキラネームである。船酔い知らずの彼は、大嵐で船が揺れてピアノがグルグル回っていても、平然とピアノを弾くし、超絶技巧を駆使して鍵盤を叩きまくり、熱くなったピアノの弦でタバコに火をつけたりするクールなピアニストだ。

しかし、船から降りたことのない彼は、外の世界を知らないので臆病で内気。女性に対しても免疫がないのですぐ恋に落ちるが、奥手すぎて告白もできず。ああ、それでも彼女を想って奏でたピアノには、血と肉が通っていた。彼が陸に上がる日はやって来るのか。不思議な感動を呼び起こすおとぎ話。

グランドピアノ 狙われた黒鍵』(2013)

ミスしたら殺す

グランドピアノ

トラウマにより演奏から遠ざかっていたピアニストが、恩師の追悼コンサートで久しぶりに舞台に立ったところ、「1音でも間違えたら殺す」という脅迫文に気づく。

その脅迫を読んだのは、よりによって演奏が始まってから。そしてスナイパーから本当に命を狙われていることがわかると、彼はわけがわからないまま、命がけでピアノを弾かなければならなくなる。ただでさえ5年ぶりの舞台というプレッシャーがあるというのに、災難なピアニスト。

ところが彼は、ピアノ・パートがない時間に舞台を降り、ホール内を駆けずり回って犯人を突き止めようとする。確かにその時は弾いていないのだから、間違えようもないが……。ピアニストにとって悪夢のようなミスタッチが、殺人まで引き起こすという異色サスペンス。なのにちょっと笑えるのは、そういう突飛な設定のせいかも。

フジコ・ヘミングの時間』(2018)

猫とピアノと

フジコ

1999年のNHKドキュメント番組によって突如として知られるようになったピアニスト、フジコ・ヘミングの数奇な人生と人間性に迫るドキュメンタリー。

実質のデビューが60代という超遅咲きにして唯一無二のピアニスト。日本人ピアニストの母とスウェーデン人デザイナーの父を持ち、5歳からピアノを習い始めた彼女は、少女時代は天才と謳われていたが、貧しい留学生活を送る中で聴力を失い、失意の日々を送っていたという。

それが今やワールドツアーで世界を回り、パリに住居を構え、チケットが入手困難になるほどの人気ぶり。今の幸せは、人種差別や貧困に苦しんだ過去に耐えたからこそだろう。絵を描き、服を作り、猫たちと暮らす彼女は、個性的で率直な人柄。その指から紡ぎ出されるピアノの音色は魂にまで届くと言われる稀有なピアニストだ。

シャイン』(1996)

ピアノを弾くことしかできない

シャシン

厳格な父親からピアニストになるための英才教育を受けていた主人公は、アメリカ留学のチャンスに恵まれるが、父親が一方的に断ってしまう。

手塩にかけて育てた息子が、自分の元から去っていくのをよしとしない身勝手は父親。しかし次にイギリス留学の話が持ち上がると、今度は父親の反対を押し切って、息子は家を飛び出していく。しかしその後、コンクールで演奏が成功したにも関わらず、精神に異常をきたしてしまうのである。

精神病院の入院経験があり、身の回りのことは全くできず、ブツブツ喋ったり歌ったりしながらピアノを弾く彼は、実在のピアニストがモデル。映画の中で重要なモチーフとなるラフマニノフのピアノコンチェルト第3番は、実際に彼の得意なレパートリーだ。天真爛漫な彼のピアノは、正統派とは一味ちがう音楽への喜びに満ちていて感動的。

情熱のピアニズム』(2011)

全身がパッション

情熱

36歳で夭折した天才ピアニストの生涯を数々の証言で紡いだドキュメンタリー。

1962年全身の骨を骨折した状態で生まれたミシェル・ペトルチアーニは、大人になっても身長はわずか1メートルだったが、音楽の才能がずば抜けていた。デューク・エリントンに憧れてピアニストを志し、8歳で舞台デビュー。13歳でプロになった彼の神業テクニックと型破りな生き方は、多くの人々を魅了した。

彼は素顔も非凡だった。身体障害など何のその。赤ちゃんのように次々と美女たちに抱っこされ、ピアノを弾くたびに大喝采。どこに行っても、モテモテである。明るく奔放で超ポジティブなのがその秘訣なのだろうか。きわどい冗談を飛ばして笑いをとり、彼の周りはいつも音楽と笑顔があふれていて、人間的な魅力にも圧倒される。

僕のピアノコンチェルト』(2006)

天才はつらいよ

僕のピアノ

幼くしてピアノを弾きこなすだけでなく、天才的な頭脳を持つ主人公は、親の期待や周囲のプレッシャーを受け止めるたびに葛藤していた。

モーツァルトのような音楽の才能と、アインシュタインのような数学の才能を持って生まれてきた少年。しかし彼の心は、まだ子供のまま。いくら頭脳明晰でも、精神まで急速に大人になるわけではないのだ。

愛する両親の期待に応えたいが、自分にも正直に生きたい。そんなことを小さな頃から悩んできた彼は、良き理解者である祖父から人生のアドバイスを受ける。ピアノの名曲がふんだんに流れ、子役は本物の天才ピアニスト。天才とピアノに対する憧れがギュっと詰まったような作品だ。頭がいいっていいよなあと思わせる展開が見どころ。

グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』(2011)

彼も人間でした

グレン

斬新な解釈と大胆な演奏法で、クラシック界の異端児と呼ばれた天才ピアニスト、グレン・グールドの私生活に迫るドキュメンタリー。

グレン・グールドのアルバム「バッハ:ゴールドベルク変奏曲」は、それまでのバッハとは全く異なる画期的な演奏で世界中の度肝を抜き、クラシックでは異例の大ヒット。超ベストセラーとなる。しかしその後程なくして、コンサート活動を中止。レコードだけを発表するという異色のピアニストとなった。

真夏でも手袋とマフラーを身につけ、極端に数字にこだわり、異様に低い椅子に座って背中を丸め、歌いながらピアノを弾く……などなど、エキセントリックに我が道をゆく孤高のピアニスト。そのイメージは果たして本当なのか。恋愛生活は? 彼の日記や貴重な証言を紡ぎながら、その人間性を浮き彫りにしていくのだが、素顔を見たいような見たくないようなでドキドキ。

シーモアさんと、大人のための人生入門』(2014)

生きるヒントをください

シーモア

俳優として映画監督として活躍してきたイーサン・ホークは、87歳のピアノ教師シーモア・バーンスタインを知り、彼のピアノと人柄に魅了される。

人生の折り返し地点を過ぎ、仕事も私生活も充実しているはずなのに、人間として自信を失っていたイーサン・ホーク。そう、いわば中年クライシス状態だった彼の背中を押してくれたシーモア・バーンスタインに惚れ込み、彼のドキュメンタリー映画を作ることを決意したという。

成熟したピアノの音色。優しい語り口。さりげなく重みのある言葉。生活に音楽があるということが、どれほど人生を豊かにしてくれるのか。年老いた彼の幸福に満ちた表情を見ると、そんなことをひしひしと感じてしまう。でも、それが音楽でなくてもいいですか?

クララ・シューマン 愛の協奏曲』(2008)

タブーに切り込む

クララ

作曲家シューマンの妻クララは、人気ピアニストとしても多忙な生活を送っていたが、ある日若きピアニストであるブラームスと出会う。

監督は、なんとブラームス家の子孫。それゆえ、これまで正面切って描きにくかったクララとブラームスのデリケート関係に、血縁者ならではの遠慮のなさで大胆さに切り込んだストーリー。同じ女性として、クララの心情に寄り添うような展開が見どころである。

精神を病んだ夫と7人の子供を抱え、優秀なコンサート・ピアニストとしてバリバリ働いていたクララに激しい愛を捧げたブラームス。夫の才能を愛してはいるが、彼の支えなくしては立ち行かなかったであろう女の人生が、知的に淡々と描かれる。実在したとは信じがたいスーパーウーマンぶりに困っちゃう。

いかがでしたか?

実在のピアニストをモデルにした伝記映画あり。本人にスポットを当てたドキュメンタリーあり。

そんな作品では彼らの貴重な名演奏を聴くことができるし、たとえフィクションであっても、主人公がピアニストである意味を考えながら観るのも、また面白いだろう。

そして、登場するのは天才ばかりではなく、葛藤や挫折に苦しむピアニストもいて、その姿は私たちと何ら変わるところはない。

憧れの職業、ピアニスト。

芸術の秋に、いろいろなピアニスト映画をゆっくり味わってみては?

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