『楽園』綾野剛×瀬々敬久監督「臨界点ギリギリに立つ綾野くんを見たくて」【独占インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

映画史に残る前後編2部作の感動巨編『64-ロクヨン- 前編/後編』(以下、『64』表記)以来、俳優・綾野剛と監督・瀬々敬久の組み合わせが実現した映画『楽園』が10月18日、公開される。

楽園

「悪人」、「怒り」などで知られる吉田修一による「犯罪小説集」を、瀬々監督が脚本を書き上げ、タイトルを『楽園』として監督を務めた。物語は、12年前に起きた未解決の少女失踪事件と同じように少女が消息を絶ち、容疑者として疑われ追い詰められる中村豪士、かつて被害者の少女と一緒にいたため罪悪感を抱えたまま成人した湯川紡、事件現場付近の限界集落に生活しながら村八分になってしまう田中善次郎と、3人それぞれの人生が交錯する。

綾野は、慎ましやかに暮らしながらも、やがて周囲から憎悪の目を向けられ行き場をなくす中村豪士(たけし)を演じた。集団心理が引き起こす惨劇を濃密な人間描写で迫った本作は、ぞっとするほど真に迫り、観る者の心を離れなくする。FILMAGAでは、主演を務めた綾野と瀬々監督に、独占でインタビューした。

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――まずは瀬々監督に。中村豪士という役を綾野さんに託した理由から教えていただけますか?

瀬々監督 すごく繊細な役だと思うんですよ。この人の出自的な在り方が、いわゆる幼少の頃から差別の視線をみんなから受けて生きてきたというもので。その中で、事件そのものを彼がやったかどうか、疑心暗鬼の中で、ある臨界点にいくわけですよね。この主人公で、臨界値というか、瀬戸際までというものを、綾野くんにやってもらいたいなと思ったことが大きな理由です。臨界点のギリギリのところに立つ綾野くんを見たかった、とでもいいますかね(笑)。

――綾野さんは、どのような思いで臨まれたんでしょうか? 具体的な準備に関しても伺いたいです。

綾野 瀬々さんと吉田修一さんだったら、断る理由がありませんでした。話がきたと言われた時点で、僕は「受けます」と言って、その後に本を読んだら、「……これ、大変だ」と思いまして。そして、こう言ったら語弊があるかもしれないけれど、特別何か大きい役作りをした、ということはないんです。それよりも、土地から吸い上げることが一番かかってくるだろうなと。僕は昔から瀬々さんの作品を観ていて、『64』のときもそうでしたけど、「よくこんなところを見つけてくるな」という場所で撮影しているので、瀬々さんのロケーションに対する高い熱量を(信頼していた)。結局、その土地に僕たちは助けられている感じがしているんです。一応ロケセットではあるんですけど、「もともとこうだったようにしか思えない」ようなものが組まれているので、そこに対する圧倒的なジャーナリズムというか、瀬々さんのそういった目線がすごく好きなんです。

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瀬々監督 僕らは、役者さんに動いてもらう場所を作ることが、一番最初の重要なことだと思っているんです。演出というよりは、やっぱりそういうところからしか、なかなか始められない気はしています。

――ロケーションの力も大きく感じながら、豪士ができあがっていった。

綾野 今回、台本の中では、僕がたぶん時間もシーン数的にも一番出ていない。だからこそ、脳裏に焼きつけなくちゃいけない。そこは瀬々さんが考える切り取り方や演出に信頼があるので、不安もありませんでした。あとは、どこまで自分が上げるか、上げられないかを、瀬々さんに相談しながらやっていた感じです。

――上げられるか、上げられないか、というのは?

綾野 追い込もうと思えばどこまでも追い込めますし、狂おうと思えばどこまでも狂えるので。瀬々さんは、頭の中で最低限組み立てられているシーンの構成があること、映画が前に進んでいくための必要なニュアンスやディテールのことを、本当に分け隔てなく話してくださいました。それがやっぱりすごく素敵だなと現場でずっと思っていましたし、ストレスもまったくなくて……逆に言えば、僕のひげで、ちょっと迷惑をかけたぐらい。

瀬々監督 (笑)。

綾野 豪士は現在の姿が無精ひげで、過去の姿ではツルッとしているんですよ。

瀬々監督 そうそう。

綾野 つけひげの案もあったんですけど、「瀬々さんと吉田さんの作品でフェイクはしたくない」と言ったら、すぐ快諾してくださって。ただでさえ映画はリアルではないかもしれないけど、「自分から生えてきたものでやらせてもらえませんか?」と言って、現場も尽力してスケジュールを合わせてくれたので、申し訳なかったなって。

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――フェイクの姿は極力排除したいという、綾野さんならではのご提案ですね。

綾野 瀬々さんがそうさせるんですよ。

瀬々監督 いやあ、別にあれですけど。でも……、今でもよく覚えているのは、本当はこのY字路は作って建てているんですよ。

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瀬々監督 綾野くんの最初は、この場所から始まったんですよね。綾野くんがここに立って、ジーッとここを見ている姿……別に撮影とかは始まっていないけど、すごく印象的だった。さっきも言っていたけど、そうしてここから発するものを感じ取ろうとしているというか、すくい取ろうとしているというか。そういう立ち方で、見えた感じはすごくしましたね。例えば、この映画の中で、綾野くんがちょっとX脚的に歩いたり、猫背的に歩いたりするんですけど、あらかじめそういうふうにしてみようと思ったことだと思うんです。でも、事前に用意したものに加えて、そこで感じてもらう、感じ取ったものとの両方で攻め込んできていて。それがすごくいいなという感じが、特に今回は印象的でした。

――この作品は、原作「犯罪小説集」から『楽園』へとタイトルが大きく変わっています。観終わった後に『楽園』の意味を反芻することにもなると思いますが、どのようにタイトルは決まったんですか?

綾野 タイトルって、すごく大事だと僕は思っています。『楽園』というタイトルは瀬々さんが命名されたのですが、本当に助かりました。はじめは『犯罪小説集(仮)』から始まって、瀬々さんが「タイトル、変えようと思っているんだ、考えてみよう」みたいな話になって。何だか、「『悪罪』は?」、「『悪』だけでもいいんじゃないですか?」とか、お酒を飲みながらひたすら話していたんですよ。瀬々さんも「いいね」なんて言いながら。

瀬々監督 (笑)。

綾野 そうしたら、あるとき「『楽園』になったよ」と言われて。「フフ」と言っている瀬々さんを見たときに、僕は本当にパーッと抜けたんです。もちろん『犯罪小説集』が悪いわけではなく、修一さんの原作物でいえば、『悪人』だったら人の話で、『怒り』は感情の話ですけど、『楽園』は場所の話じゃないですか。やっぱり土地が生み出す魔力や歪み、閉塞感、疎外されていく感じがあると思うので、「ああ、ちゃんと場所の映画になったんだな」と『楽園』のタイトルを聞いて思ったんです。

僕が今回芝居しているときは、「自分にとっての、豪士にとっての楽園って……」ということを考えさせてもらえることが安定剤になっていました。「もしかしたら、豪士にとっては明日がくる、朝日が昇ることが楽園だったかもしれない」と。このタイトルじゃなかったら、また全然違ったものに3人とも(豪士含め湯川紡、田中善次郎)なっていたんじゃないかな、というぐらいなので。だから、タイトルは最大の演出ですよね。修一さんも同じようなことを発言されていて、やっぱり瀬々さんと修一さんの相性ってすごくいいなあと思ってもいました。

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瀬々監督 なぜ『楽園』にしたかと言うと……、ふと「真逆のタイトルがいいな」と思ったんですよ。綾野くんがお話されたように、土地の話だし、土地のものがいいし。物語では、みんなそれぞれ登場人物が、後半はある種、純粋化していくんですよね。どんどん純化していくので、禍々しいものに向かっていくというよりは、もうちょっと純粋なものに向かっていくみたいなことだと思うんです。そういう意味では、「このタイトルでよかったんだろうな」、「支えてくれたな」という感じがすると思います。

綾野 支えられましたね、本当に。

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――『楽園』では限界集落における被害者と加害者、その境界線の曖昧さも描かれていて、誰もがどの立場にだってなり得ることや、人と人との関係性や交わりについて考えさせられます。そのあたりは、どのように感じていますか?

瀬々監督 僕は田舎出身で、それこそ15軒くらいの限界集落みたいなところで生まれ育ちましたけど、今はもう10軒以下になっているんです。そういうところでも、やっぱり田舎だけでは立ち行かないんですよ。田舎っていうだけじゃダメで、都会から人を呼んできて、農業をさせて、宿泊して、みたいなグリーンツーリズム運動とかもあったりもして。都会から人が来て、そこの交流がないとうまくいかないというか。日本というスケールで見たって、アジアの人たちがいっぱい観光客として来ているじゃないですか。最近は排除しようという運動もあるけど、もはや一緒に生きていかないとダメな時代になっていると思うんです。映画とは話が違うけれど、ここで行われているある種の悲劇は、やっぱり差別とか格差とか、そういうところで排除しようとする心が、こういう悲劇を生んでいるなという感じがするんです。そういうことではなくて、「もう少し一緒に生きよう」的なことが一番、今大切なんだろうなという気はしています。

綾野 今のお言葉を受けてもそうですけど、この映画の中には間違いなく希望が、最後差しかかるというか。僕は、陰惨なシーンをあえて見せていないところが、この映画の本当の意味ですごいところだと思っているんです。きっと瀬々さんの中で、はじめから決まっていたことだと思うんですけど。あるシーンで、殺人が起こっているのは明確なんだけれど、そのシーンを見せないで、その後に出てくる登場人物や生き物の感じこそが、いま瀬々さんが言っている言葉につながってくる。たぶん見せようと思ったら全然できたんでしょうけど、映画としての在り方みたいなものを、瀬々さんはすごく丁寧に紡いでいくんだな、と思ったんです。あのシーンを観て、あんなに自分が泣くと思っていなかったですし、でももし陰惨なシーンがあったら、俺はそんなところにも心が寄り添えていなかったかもしれない。やったことは事実として残っているけど、別に誰も肯定していない。でも、生きていると明日がくるという、そういうことですよね。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

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映画『楽園』は、2019年10月18日(金)より全国ロードショー。

楽園

出演:綾野剛、杉咲花、佐藤浩市 ほか
監督・脚本:瀬々敬久
原作:吉田修一「犯罪小説集」(角川文庫)
公式サイト:rakuen-movie.jp
(C)2019「楽園」製作委員会

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応募締切 2019年10月25日(金)23:59までのご応募分有効

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【応募方法および当選者の発表】
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