『愛なき森で叫べ』椎名桔平、33年のキャリア随一の怪演「新人のような気持ちで、園子温ワールドに染まった」【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

1986年に俳優デビューした椎名桔平は、今年でキャリア33年を迎えた。メインからポイントとなる役まで何でもござれのバラエティに富むフィルモグラフィーの中に、新たに加わるのがNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』だ。監督は『愛のむきだし』、『ヒミズ』などで知られる鬼才・園子温。園監督のもと、椎名の怪演がすでに話題を呼び、リリース前にして予告編トレーラーは3万回再生超えと、期待値高まる一作となっている。

愛なき森で叫べ

愛なき森で叫べ』は、実際に起きた猟奇殺人事件に着想を得た園監督によるオリジナル脚本作品。上京してきたばかりのシン(満島真之介)は、知り合った仲間たちと自主映画を作ることになり、メンバーの妙子(日南響子)を通して、友人の美津子(鎌滝えり)を狙う詐欺師・村田丈(椎名)の存在を知る。村田は見た目は明るく魅力的だが、巧みな話術と大胆な行動で他者の心を操る冷酷な人物。映画は村田をモデルに彼の罪を暴こうとするが、予想もつかない惨劇が始まってしまう。

『新宿スワンII』以来のタッグとなった椎名と園監督。以降、「オリジナルの脚本でご一緒したいと思っていた」という椎名に、園監督が用意したのはとびっきりのサイコパスといえる役どころ。主演俳優と監督という組み合わせとなった二人に、本作について語ってもらった。

愛なき森で叫べ

――『愛なき森で叫べ』を手掛けたきっかけは何でしたか?

園監督 6年前くらいには興味があったんですけど、去年「園さん、やりたいやつでしょう?」とこの話をもらったときには、すごくやりたくなくて。

――気持ちが変わっていたんですね(笑)。

園監督 「こういう暗い事件はちょっとな」って。でもプロデューサーに口説かれて「じゃあ、やりますか」と重い腰を上げて始めました。最初はドラマシリーズとして構成していて、脚本も監督も編集も全部自分でやるのはきつすぎるから、あり得ないと思っていたんだけど、いろいろと刺激のあるキャスティングを夢見ながらストーリーを書いていたら、そのうち「人に任せられないなと、やってみよう」となって。脚本については実際の事件をそのままやっても誰も観続けないと思ったので、まずはそこを変えていかないとと、ファンタジーを入れたりして書きましたね。

愛なき森で叫べ

――主演となる冷酷な犯罪者・村田役が椎名さんとは、意外でした。

園監督 この作品の企画のちょっと前に、海外を旅していたんです。そのとき、偶然、そこで椎名さんに会って。「今度一緒にやれるといいね」という話をしていた矢先だったので「この企画だったら、村田は椎名さんでいいなあ」と思って。

椎名 微妙~(笑)。

園監督 何で(笑)?

椎名 監督とご一緒したいとはずっと思っていましたけど、まさかこのキャラは想定していなかったので、微妙な感じ(笑)。

愛なき森で叫べ

――村田で、とオファーを受けて率直にどう思いましたか?

椎名 元にした事件は非常に凄惨なので、「これを映像化……ええ!?」と。けど台本を読むと、ファンタジー要素も入っているし、序盤はポップすぎるほどポップだけど、終盤は園さんの濃い世界に入っていく、という。崖から落とされるような落差は、やりながら面喰いましたね。頭の中に詰め込んで、毎日どう演じればいいかを考えていました。

愛なき森で叫べ

――狂気的でありながらユニークというか、どこかチャーミングさもあるのが椎名さんならではの仕上がりだと思いましたが、どう役を組み立てていかれたんですか?

園監督 軸が決まったらあとは走るだけだったので、ある程度お任せにしました。ほぼ毎日椎名さんは出ずっぱりだったから。

椎名 「村田がどういう人間か」という主軸だけは持ちながら、悪い側面だけだとつまらないので、どういう面が出せるんだろうというのは、シーンや脚本に合わせてやっていきました。いろいろなものを大きく考えて、カラーをいくつか作っていき、どういう人だろうという謎めいた部分がキャラクターにつながればいいかなと思いました。中には、監督をモデルにするようなときもありましたね。監督もいろいろ変わる人ですから(笑)、インスパイアを受けて、ちょっとポップにしてみようとか。

愛なき森で叫べ

――先ほど「ご一緒したい」というお話がありましたが、こうしてがっつりご一緒してみての感想も伺いたいです。

椎名 いやあ、苦しいんですけど、楽しかったです。「園ワールドに入ってみたい」という気持ちがすごくあったので、園さんのオリジナルの世界観にどっぷり入っていけたから、本当に充実した撮影期間でした。辛いこともたくさんありましたけどね(笑)。普段の撮影現場だったらリハーサルがあって、どうやるか話し合ったりして本番、という流れがあるんですけど、園さんはまったく関係なく、勢いのあるときにバーッといくんです。すごく疾走感があって、園さん自身が「どうなるか見てみたい」というときには、何ページもあるシーンをいきなり本番で回しちゃうし。

愛なき森で叫べ

椎名 演者としてはどこまで準備すればいいのか、あるいはそのテンションにすぐ入らないといけないので、非常に大変といえば大変だし、その分ほかの現場ではないライブ感が味わえた気がします。毎日、読めないんですよね。差し込みも結構入ってきますし、その日の監督が考えている思考が、想定ではない方向を挿すことが多かったので、自分も行って現場に立つまで読めないんです。今思うとエキサイティングな時間でした。

愛なき森で叫べ

園監督 テストとかしませんから。本番ばかりなのでね。……椎名さん、よく我慢してくれたなと思います。僕は撮影の合間に、どんどんシナリオを書き足しちゃうんです。シーンがどんどん追加されて、さすがに怖いなって……。さすがに(椎名さんが)怒るときが来るんじゃないかと思ったらなかったので、助かりました。

椎名 (笑)。

愛なき森で叫べ

――大変な中、指針になったものは何でしたか?

椎名 僕は20代から俳優を始めて、そこそこキャリアもあって、年齢も若手ではないので、自分なりの役の作り方とかはあるわけです。けど、今回だけは真っ白にして園ワールドに入っていく中で、「何を感じてどうやっていくのかな」と、ちょっと自分を放り投げる作業をしようと思ったんです。「右」と言われたら「右ですね」と。新人のような気持ちで、ピュアなハートで入っていこうとしました。疑念はなく、ただ目の前にある課題に対して向かっていくというか、乗り越えていかないと、というか。

――非常に稀有な体験をされた。

椎名 そういう気持ちで今更現場でやっていくことは、あまりないですからね。逆に「こういう役です。責任を持ってやってください」ということは最近多くなってきましたけど、今回は責任を持たなくていいんだ、というか(笑)。監督が責任を持ってくれるんだ、という気持ちでやっていく現場は、本当に少ないですからね。

愛なき森で叫べ

――それこそ今回は、フレッシュな若手俳優たちとも共演しています。ほかの現場と違った気持ちになったり、何か感じるものはありましたか?

椎名 新人ということもあって経験が足りないところはもちろんあるから、本番以外の時間で悩んでいる姿も見ました。僕が悩んでいるわけだから、悩むのも当然だと思いましたね。今回、アドバイス的なものを僕はほとんど言わなかったんです。そのほうが役柄に合っていると思うし、何より、新人の子たちが「とにかくすべてをかけて演技するんだ!」という姿に非常に感銘を受けたというか。監督が求めているフレッシュさ、技術ではなく気持ちから向かっていく気概、すごく応えようと頑張っている姿を僕は毎日現場で見ていて、自分の20代の若いときを思い浮かべたんです。もがきながら、模索しながら、役に向かっていく、という。こっちもいつ食われるかわからないので(笑)、いわばベテラン組も気が気じゃなかったです。活力を与えられる現場でした。

愛なき森で叫べ

――『愛なき森で叫べ』は、『冷たい熱帯魚』や『恋の罪』を上回るほどの衝撃がある作品です。凶悪な事件を題材にすることについて、観客もその現場を体験してしまうような感覚になることについて、なぜそういう気持ちになると思いますか?

園監督 難しいところですけど、実際に起きた事件を忠実に映画化すると、息が詰まってどうしようもないと思うんです。『冷たい熱帯魚』だと吹越(満)さんの役はフィクションです。あんないい人は事件現場にいなくて、実際にはひたすら非情な人ばかりがいた。ああいう観客になじみがある“普通の人”をフィクションで出すことで、少しガス抜きをしていくというか。そういう意味では、今回(満島)真之介とか、若者たちがガス抜きの役で犯人に絡んでいくわけです。とにかく実録ものは怖いです。僕はあまり好きじゃないです。血も怖いし、人も死ぬのも観たいと思わないので、何でこんなものを作ったんだろうなって思いますよね。……ちょっと後悔しています。

愛なき森で叫べ

――意外な発言です。凶悪な事件の裏側では、園監督自身をモチーフにした映画作りも絡めています。本作の世界も誰がイニシアチブを握るかでまったく違った方向に転がっていくあやふやさがありました。

園監督 映画の現場って、役者がすごく権力を持ってどんどん引っ張って監督が不在というか、監督がまったく存在感をなくす現場もあると、話でよく聞いたりします。そのことと、この事件で、勝手にひょろりと入ってきた男が、美津子のお父さんやお母さんになぜか権力をふるって、家で王様のようにふるまっていくのと似ていると思ったんです。そういう意味でも、映画の現場を乗っ取られていくことと進行することで、近いものを感じるというか。うまくシンクロできたのはありました。(取材・文=赤山恭子、撮影=You Ishii)

愛なき森で叫べ

Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』は、2019年10月11日(金)より全世界独占配信。

愛なき森で叫べ

出演:椎名桔平、満島真之介、日南響子、鎌滝えり、真飛聖、でんでん ほか
監督・脚本:園子温
公式サイト:https://www.netflix.com/theforestoflove
ヘアメイク<椎名桔平>:遠藤真稀子(UM)
スタイリスト<椎名桔平>:中川原寛(CaNN)

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  • あんじゅび
    3.0
    いーやー、なんだこりゃー。 いや逃げろよって思うんだけど、そうできないのが洗脳の怖さだ。ほんとに怖い。
  • 時化ちゃん
    -
    気持ち悪いし胸糞だけどさらっと観れるんだよなあ不思議 園子温世界観全開
  • ANO
    3.5
    この作品は実際に起こった北九州監禁殺人事件の人物像と内容をモティーフにしている箇所が割と多く見受けられて、実際の事件の内容をWikiとかで事前に読んでいると楽しめると言うと変だが、理解できると思う。 海外に向けて発信することに注力してるのか、英語の吹き替えも用意されていて、最後に英語でこの事件の結末が綴られていた。 でも、ロミオとジュリエットと連続銃乱射事件のストーリーで終盤キャラが渋滞しててそこがややこしかったかな。 あと、、まさか戸川純の『蛹化の女』が聞けるとは思わなかったから満足。
  • ます
    -
    園子温ワールド
  • ちまままま
    3.5
    園子温の今までの作品の要素全部詰めたかんじ 題材が北九州殺人事件ってだけでクソ楽しみだったのに椎名桔平の演技下手だしキスがコイキングすぎてあかん🙅🏻ウシジマ洗脳くんの中村倫也の演技見習ってほしい、クソきもいおっさんにみんなが洗脳されてく過程がわからなさすぎて話に入りこめねぇ あと拷問がビリビリ棒一択でぬるすぎ😢 でもでんでん出てくるとやっぱテンションあがる😃
「愛なき森で叫べ」
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