YEN TOWN BAND復活!日本映画界の奇才、岩井俊二が描く音と映像の世界

2015.10.28
監督

映画も音楽も本も好き。

みずき

みなさんは岩井俊二監督の映画を見たことがありますでしょうか。

『花とアリス』のような青春ラブコメもあれば、異国情緒が漂う日本が舞台の『スワロウテイル』のような不思議な世界観の作品もあります。

近ごろでは同作の劇中に登場する「YEN TOWN BAND」というバンドが新潟で開催された「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」の出演を機に活動を再開することでも話題になりました。

作品のジャンルも様々、撮影には実験的な手法も取り入れ、既存の映画制作の枠に捉われない、まさに奇才と言うべき監督。今回は岩井俊二監督の作品を紐解くとともに、その魅力をご紹介いたします!

独特の世界観

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『スワロウテイル』は日本が舞台なのですが、アジアのどこかの町という雰囲気で、日本らしい風景はあまり映りません。実際、ロケは海外でもおこなわれたそうです。

しかし、そこかしこに絶妙に日本らしいエッセンスも見られるので、それがこの作品のおもしろいところ。移民たちの物語ということもあり、日本語、英語、中国語が入り乱れ、無国籍風な世界観にも説得力があります

ありえない物事を事実のように見せることがフィクションの醍醐味ですが、岩井俊二監督の作品は空想と現実の境目が曖昧です。

どちらかに偏ったときに物語の均衡は崩れ、途端に胡散臭くなるでしょう。作り込んだ設定は世界観を具体化し、構築するためには欠かせない要素のひとつです。

岩井俊二監督の作品には海外の映画へのコンプレックスを感じるものも多く、『スワロウテイル』はそれが顕著です。前述のように日本を日本ではないどこかに見せようとしているのはもちろん、エンドロールのキャストやスタッフの名前が英語表記なのは、もはやおなじみです。

Jam Films』というショートフィルムのオムニバス作品に収められている『ARITA』という作品も、現実に空想が紛れ込んだようなメルヘンチックな作品ですので、こちらもオススメ。

岩井俊二監督はどの作品を見てもジャンルは違えど、彼らしさを感じられます。ミュージックビデオやCMを見たときに「もしや?」とおもうと、やっぱり岩井俊二監督が撮ったものだったなんてこともしばしばあります。

実験的な手法

2015年の2月に公開された岩井俊二監督の最新作『花とアリス殺人事件』。

岩井俊二作品の中でも人気のある『花とアリス』の前日譚を描いた物語ですが、これがまさかのアニメ化。蒼井優と鈴木杏が当時と同じように学生を演じるのが難しいとはいえ、これには驚かされました。

この作品では「ロトスコープ」という手法が用いられています。これは実写で人物の動きを撮影し、それをなぞってアニメーションにするという手法。技術自体は昔からあり、古くは1937年に制作されたディズニーの『白雪姫』でも使われていたのだとか。

アニメ業界的にはタブーとも言われている賛否両論の技術ですが、『花とアリス殺人事件』においては、顔だけをデフォルメで手描きするなど、試行錯誤されています。

また、日本でAVIDによるノンリニア編集を取り入れた映画作品は岩井俊二監督の『undo』が最初でした。ノンリニア編集とは簡単に言えばパソコンを使用した映像編集方式のこと。当時は映像の編集にパソコンを使用することは当たり前とは言えず、フィルムを物理的につなぐ作業が必要でした。

そういった画期的な技術に対し、当時は風当たりも強かったらしく、岩井俊二監督は著書『トラッシュバスケット・シアター』でこのように語っています。

いずれにしても日本はハリウッドに比べたら遥かに遅れている。少なくとも『ラヴレター』のころは掛須秀一という異端を除いたら誰もAVIDの編集をやっていなかったのだ。関心すら持っていなかった。<中略>新しい技術に対して拒絶反応を起こしてしまう日本の映画業界の体質。僕はそういう人たちにとやかく言うつもりもないが、そんな中から新しいものが生まれてこなくて当たり前である。

新たな技術を取り入れる積極性は岩井俊二監督のひとつの才能だとおもいます。映像の編集でも、表現の手法でも、新たなことに挑戦するのは、新たな可能性を生み出すことと同義です。今後、どのような技術を用いた岩井俊二作品が撮られるのか、いまから楽しみです。

十代の心象風景と映像美

岩井俊二作品では主人公を十代半ばくらいの男女に設定することが多いです。『花とアリス』や『リリイ・シュシュのすべて』は学校生活を主軸に。『PiCNiC』や『スワロウテイル』は学生ではありませんが、これらも多感な時期の子どもたちを描いた作品です。

どの作品に登場する子どもたちも置かれた環境は様々ですが、彼らの心象とリンクさせた映像は岩井俊二特有のものです

『花とアリス』では、やわらかい光に包まれたような穏やかな映像が魅力的。女子高生という青春真っ只中の女の子たちが生きる世界の空気感を映像に落とし込んでいるのはさすがです。

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なかでも蒼井優演じるアリスがバレエを踊るシーンは圧巻。まだあどけなさの残る彼女の瑞々しさと軽やかさには惚れ惚れしてしまいます。

そんな学園生活とは真逆とも言える鬱屈した少年少女たちを描いたのは『リリイ・シュシュのすべて』。いわゆる「鬱映画」と呼ばれる映画の常連のような作品

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家庭崩壊、援助交際、自殺、殺人などのいじめ問題の闇をすべて孕んだような作品ですが、物語と対比されるように映し出される映像は美しく、冒頭の田園風景に心を奪われたひとも多いでしょう

この作品は、見ているときは気持ちが落ち込むのですが、のちに思い出したときのイメージは「綺麗だったな」という感想なんですよね。少し異質な作品です。

日本・アメリカ・カナダの合作である『ヴァンパイア』という作品は、これまでの岩井俊二作品の美しさとは少々異なるようにおもいます。全体的に青白く、生気の無さが感じられるのですが、血液の赤は鮮やかに映像を彩ります。

なおかつ、神経質なくらいに繊細で丁寧な演出は主人公のサイモンの心象とも重なる。新たな境地とも言える作品でしょう。

音楽×映画

自身でも音楽を担当するほどですので、岩井俊二作品に音楽は不可欠なもの。とりわけ、音楽にフォーカスされているのは『リリイ・シュシュのすべて』と『スワロウテイル』のふたつの作品でしょう。

前者では、架空でもあり実在するとも言える「リリイ・シュシュ」というミュージシャンが物語のキーになります。後者では、冒頭でも述べた「YEN TOWN BAND」を描いた物語が展開されます。

「リリイ・シュシュ」の正体はミュージシャンのSalyu。『リリイ・シュシュのすべて』のストーリーにおいて、彼女は物語の核を担う重要な人物ですが、実際に登場することはなく、ミュージックビデオに映るわずかなシーンのみ。

しかし、登場するすべての人物はリリイ・シュシュの音楽を通じて絡み合います。巫女やシャーマンを彷彿させる神々しさを感じる歌唱は唯一無二のものです。リリイ・シュシュの役に抜擢されたのも頷ける声の持ち主です。

そんなリリイ・シュシュもひさしぶりにライブをおこないました。しかも、YEN TOWN BANDとの共演とのことで、メモリアルなライブになったことでしょう。

『スワロウテイル』の劇中に登場する「YEN TOWN BAND」は、娼婦のグリコを演じる、Charaが歌をうたうバンドです。まずはこちらの映像を。

これはリリイ・シュシュも同様ですが、どちらも劇中のミュージシャンであるにもかかわらず、そこだけでは完結させず実際にCDを販売しています。岩井俊二監督はこういった映画と現実の垣根を取り払うような試みを好んでいるみたいですね。

また、YEN TOWN BANDは楽曲のクオリティも高く、彼らのシングル「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は85万枚を売り上げる大ヒット。もしかしたら聴いたことがあるひともいるかもしれません。

岩井俊二の描く世界

正直なところ、岩井俊二というひとはその独特な世界観や新たな挑戦に試みる姿勢など、どこか敬遠しがちな監督のひとりだとおもいます。映像の美しさに定評があるにもかかわらず、暴力的だったり過激な描写があることで、避けているというひともいるでしょう。

ただ、そういった描写を含めて、他の日本人監督にはない魅力があるともわたしはおもうのです。YEN TOWN BANDとリリイ・シュシュの復活をひとつの契機とし、音楽が気になったから映画を見てみたというのも全然ありです。断片的にでも興味が湧いたのなら、ぜひ、岩井俊二作品をご覧になってみてくださいね。

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  • 松田耕太郎
    4.5
    久々に見た。岩井俊二の映画って謎の余韻残るよなあ
  • chie
    -
    今もどこかに円都(イェンタウン)があって、アゲハたちが生きて暮らしてる気がする。 見終わってしばらく現実に戻りきれてない感じでふわふわしてて、そこで初めてものすごく入り込んでたことに気付いた。 私さっきまで円都にいた…?みたいな。
  • もな
    4.0
    群像劇。 舞台が日本でありながら、あの多国籍感を出すことで、ファンタジーということがより現実味をもたせて苦しくなった。 映画全体の空気から漂うのは 未完成な危うさ。 我々の少年性をついてくるので90年代の作品なのに褪せることを知らない。 グリコは歌を愛さず、結局流されるまま歌を歌ったのもフェイホンの愛を求めていたから。自主性が全く見えない。 フェイホンは彼女の歌を愛したが、彼女までは愛せなかった。野心家で、金を求めイェンタウンを捨てた。 アゲハはイェンタウンでの過去を愛していた。しかしそれは金で買えない。最後のシーンは印象的。 気づけばお互いの求めるものがすれ違い、胸に刺さる。 余韻 余韻 余韻
  • 相馬カグヤ
    4.8
    全て素晴らしいよ~( ・∇・) 《脚本》   円都(エンタウン) 3国の言葉の使い方 グロさ エロ 音源(CHARA) バタフライの使い方 日本の価値観  全て素晴らしいです。 《映像》 カメラアングル 色の使い方 町の様子 オッパイの撮り方 アクションの様 日本円の使い方 世界観の作り方 全てが素晴らしいです。 《キャスト》 歌手のCHARA様を、始め… 江口洋介様 桃井かおり様など… 豪華俳優33人以上の皆さん 全て素晴らしかった 《まとめ》 全て素晴らしい作品 日本に、誇るべき作品 世界にも、誇るべき作品と… 私は、思いましたですね~!! 傑作でしょ( ・∇・) 
  • まいす
    3.5
    10代で見れてよかった。 マオフウに一目惚れしてた。
  • rina6
    3.9
    その空気が全て伝わった。
  • cacao
    3.5
    記録
  • mysugarview
    3.8
    いつか現実にイェンタウンは生まれそう。 もしかしたら、もう存在したりして😟
  • siranon
    5.0
    影響たくさん受けたなあシリーズ
  • こたつ
    -
    遠い昔に観た記憶。charaの歌うシーンが好きだったな。また観たいな。
  • Masaki
    4.3
    (複数回鑑賞済み)。国籍を持たない人達が住む街"円都(イェンタウン)"。登場人物が日本語、中国語、英語を使っていて、街の雰囲気も含めて異国感が出ておる 岩井監督しか出せない雰囲気に取り込まれていきますね〜 チャラの歌声が映画の雰囲気に合っていてとてもいい 無国籍の人達の共生の物語と、バンドの物語と、アヘン街のゾンビ映画感と、 長いので少し体力いるけど、異世界に取り込まれていく感じがするのよ
  • 4.0
    あんた今日厄日だな
  • アビィ
    4.6
    swallowtail butterfly〜あいのうた〜が好き過ぎて見ました! グリコが可愛すぎて憧れの女性の1人です❤️ 日本でもこうゆう映画が撮れるんだなぁととにかく感動。日本とは思えない異国感とゆうかとにかく雰囲気が好き。色んなカルチャーがごちゃごちゃになった感じが。アメリカのスラムっぽいところもあれば中国のブラック・マーケットみたいなところもあったり。 キャストもとにかく豪華ですよね😄 この頃まだ8歳でしたがこの曲は一生忘れない、名曲です。
  • マカロニの食感
    4.6
    「凄い映画を観れた…!」 これがまず観終わって最初に思ったこと。 台北のスラム街のようなイェンタウン、バブル期のような日本の街、ゾンビ映画のようなアヘン街、全く違う街を行き来する様子は広大感がもの凄いし、何よりこの3つの世界観が 廃墟・80年代・ゾンビ という「こういうのが好きなんだろ〜」と見抜かれたように、隈無く画面に映し出され圧倒された。 その世界観の凄さの他に、もう1つ凄いと感じた部分があった。それは切なさや感動する部分が自分でも何故そこで感動したり切なくなるのか分からない所でそのように感じてしまう部分があったことだ。決してサウンドミュージックやストーリーによって誘導された感動や切なさではなく、なんていうか、いつの間にか切なさを感じてしまっている感覚。この感覚は初めてだったので上手く表現できないが、とにかくそこが凄いと思った。 完全に魅了された作品だった。もう一度観たい
  • メルヘン
    4.5
    1996年に制作された、岩井俊二が監督した日本映画。 しかし言語としては日本語以外に中国語、英語、およびそれらを混ぜた言語が使われている。 世界観が独特で引き込まれる。 照明や美術を始めとして、音楽、カメラワーク、演出がマッチしているのだろうか、常に面白いと思える。 ストーリーが良い意味でごちゃごちゃしており、これを構成する頭が理解できない。 上映時間が149分だが、観賞後にはそれ以上が印象が残り、かなり長く感じる。 しかしそれは退屈だから長く感じたということではない。 しかし冒頭のナレーションを後半にもう一度挿入するのは気に入らない。 岩井俊二は雰囲気作りが巧いだけかと思っていたが、頭が良いことも分かった一作になった。 当監督の作品をある程度鑑賞したところで、落ち着いて何度も鑑賞したい。 ---------- 2014年12月 1996年公開の岩井俊二が監督した日本映画。 新宿ミラノ座にて35mmフィルム上映。 監督が厳選したフィルムであり、一部欠陥があり10分間のインターミッションがある。 当作品は二度目の鑑賞。 前回とは印象が異なり、ごちゃごちゃというよりはふらふらと、ストーリーが展開する。 しかし伏線などがきちんと張られており、主役がブレながらも統一感がある。 フェイホンが亡くなる直前に回想して何を見ていたのかをネタバラシするが、あれはネタバラシというよりはアゲハチョウが天へ舞うことで死を示唆しているのか。 後半のタクシージャックから青空でのランの活躍シーンはコミカルに描かれるが、これもまた緩急があり良い。 なんといってもカメラワークが素晴らしい。 手振れでアゲハチョウ目線さえ表現する。 なにを映したいのか良く分からない部分が多いが、映像ならではの表現で観客に感じさせることができている。 編集とうまく相談しなければ実現できないことをしている。 スローモーションやストップモーションも巧い。 逆光やカラーグレーディングも良い。
  • すずきけいた
    3.8
    種田陽平の見事な美術によるリアルなパラレルワールドと、CHARAの耳に残る歌声、そして日本語と中国語と英語の入り乱れた会話が、混沌とした世界観を生んでいる。 荒廃した世界を撮るのにも、常にもやがかかっているような優しい光のライティングで映されていて、ただそれが綺麗なのではなく、そこに希望や救い、ノスタルジーといったものを感じられた。 主役の伊藤歩だけでなく、脇役の子どもの演技にももう少し拘って欲しかった。
  • Ellie
    5.0
    ちょうど渡部さんを知って好きになった頃の渡部さん、かっこよすぎ。 山口智子とのあのシーン最高にシビれた。。 Charaかわいすぎ。桃井かおり最高。 大塚寧々のぶっ飛んだ感じ最高。 キャスティング最高すぎ。 Yen town bandのswallowtail butterfly大好きだったなぁ。懐かしい。
  • ちゃっきー
    4.5
    映像は暴力的で退廃的なのに優しくて切ない作品。クセになる。
  • chee
    -
    記録*
  • まつり
    4.8
    言葉の響きが美しい作品だった。 イェンタウン、アゲハ、そしてスワロウテイル。 岩井監督の作品に共通することですが、一度観ただけでは掴みきれないなぁ、と。 全然掴みきれてないけど、それでも面白いと感じられる作品だった。
  • いくみ
    3.8
    江口洋介の4-2=2だバーン!のとこと、渡部篤郎のあんた今日厄日だなバーン!と、charaの退廃的なえろさが最高にかっこよかった
  • K9614
    -
    ❤️❤️❤️❤️❤️🖤 トラウマ
  • CHITALO
    4.2
    おすすめの通り、凄い好きだった 序盤の、聞き取れるようなよく分からないような入り混じった多言語が印象的だった。だんだんとこの世界になじむようにそれも無くなってたことに見終えた後に気がついた。 すっかり入り込んでた感じ グリコの歌と、アゲハの胸のスワロウテイル ランとリョウリャンキの格好良さ痺れた
  • ちえ
    3.5
    もちろん一緒にyen town bandのCDも借りた。若かりし頃の渡部篤郎のかっこよさよ…
  • sao
    4.0
    記録
  • Kazuchan
    3.9
    なんなんだろ?つい観てしまう✨
  • IK
    3.5
    そんなに好きじゃないけどなんか奥が深い映画だと思う。後味が悪かったかな。
「スワロウテイル」
のレビュー(12266件)