映画内で流れる挿入曲の意味って?知ってて損はしないパターン別に見る曲の活用方法

2016.02.10
雑学

気づいたら映画ファンになっていた

松平光冬

2月12日に日本公開される、アップル・インコーポレイテッドの設立者・スティーブ・ジョブズの半生を描いた注目作『スティーブ・ジョブズ』

1984年のアップル社初のパーソナル・コンピュータ「マッキントッシュ(マック)」、88年の「NeXTキューブ」、98年の「iMac」という3つの新作発表会の舞台裏を通しての、彼の素顔を描いています。

ジョブズ

(C)Universal Pictures

この作品で面白いのは劇中、ミュージシャンのボブ・ディランの曲が挿入曲として使われている点です。これは単にジョブズ本人がディラン信奉者だったから使用した、という単純な事ではなく、しっかりと演出に絡めた選曲がされています。

ここではそうした、既存のミュージシャンの曲やよく知られた曲を挿入曲として使う目的を、パターン別に紹介しましょう。

※以下、作品内容に触れる箇所がいくつかあります。

パターン①:登場人物の心情を代弁

挿入曲の使用方法で、最も多いパターンがこれでしょう。劇中の登場人物の心情を間接的に表す使い方で、セリフにすると説明的になってしまうところを、曲に代弁させる事で違和感なくスマートに演出効果を高められます。

『スティーブ・ジョブズ』もこのパターンになり、例えば劇中、1984年のジョブズがマックを披露する際の舞台裏のシーンで流れる曲は、ボブ・ディランの「時代は変る」です。

ボブ・ディラン「時代は変る」

この曲は、「父さん、母さん、そしてマスメディアの人たちよ。今まさに時代は変わろうとしている。これからの若い世代が時代を変えようとしている」という内容で、つまり、マックを若い世代の象徴とする事で、「これからの社会は我々が変えていく」というジョブズの決意表明をそのまま表しているわけです。

この作品ではこれ以外にもディランの曲が効果的に使われており、映画のサウンドトラックにも収録されているので(「時代は変る」は未収録)、映画本編と併せてチェックしてみてはいかがでしょうか。

『Dear ダニー 君へのうた』

ダニー

(C)2015 Danny Collins Productions LLC

挿入曲を分かりやすく活用している典型的な一本がこれです。

イギリスのフォークシンガー、スティーヴ・ティルストンに、生前のジョン・レノンが送っていた手紙が34年ぶりに届けられたという実話をベースに制作されたこの作品では、シーンに応じてレノンの曲が効果的に使用されています。

以下、箇条書きにすると――

  • 主人公のダニー(アル・パチーノ)が疎遠だった息子と打ち解けようと試みるシーン→ レノンが息子ショーンに捧げた曲「ビューティフル・ボーイ」
  • ダニーが家を出て心機一転、一人新天地へと向かうシーン→ レノンが自分自身を鼓舞するために歌った「しっかりジョン(Hold On)」
  • 無名から大スターになったダニーの成り上がり様を描写するシーン→ 労働者階級からのヒーロー誕生を提言する「ワーキング・クラス・ヒーロー」

これ以外にもたくさんレノンの曲が使われており、正直、曲ありきであらすじが練られている作品といえなくもないですが、これまで彼の曲に触れた事のない人向けの入門書的な役割も担っていると思われるので、興味を持ったら歌詞の意味を調べてレノンワールドに浸ってみるのもいいかもしれません。

ジョン・レノン「ビューティフル・ボーイ」

『スパイダーマン2』

スパイダーマン

アメコミヒーローのスパイダーマンの活躍を描いたシリーズ第二弾。

スパイダーマンの正体であるピーター・パーカーは、市民の安全を守るのと引き換えに自分の生活を犠牲にしなければならず、苦悩します。

そしてついにコスチュームを捨て、スパイダーマンを辞めてしまうのですが、その直後に流れるのが『明日に向って撃て!』の挿入歌「雨にぬれても」です。

B.J.トーマス「雨にぬれても」(『スパイダーマン2』より)

歌詞を要約すると、「いろんな憂うつが雨の滴のように落ち続けても、僕は負けない。僕はもう自由だから何の心配もしてないよ」というもので、つまり、スパイダーマンを辞めたピーターが自由に自分の生活を謳歌している心情を表しています。

また、『明日に向って撃て!』は、法の手から逃れようとするアウトローな主人公達を描いた作品なので、特殊能力を得ながらも、その力を放棄して逃げようとするピーターに重ねている、という見方もできるかもしれません。

『アンコール!!』

アンコール

病身の妻・マリオン(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)の代わりに合唱団に参加した偏屈な性格の夫・アーサー(テレンス・スタンプ)が、様々な出来事を通して人生の新たなスタートを切ろうとする、ハートウォーミング作品。

劇中、マリオンの所属する合唱団がコンクールのオーディションに挑戦する事になり、その際に彼女が歌うのがシンディ・ローパーの「トゥルー・カラーズ」です。

「自分はちっぽけ人間だと思うかもしれないけど、私にはあなたの本当の色(愛情)が見える。だから恐れずに心を開いて」という歌詞は、他人はおろか息子にも心を開こうとしないアーサーそのものに向けています。

そんなアーサーがクライマックスにアンサーソングとして歌う、ビリー・ジョエルの曲にも注目です。

パターン②:挿入曲が映画のテーマを伝える

映画全体のテーマを伝える曲といえば「主題曲」がありますが、挿入曲そのものが映画全体のテーマを担うケースもあります。

『ブロンソン』

ブロンソン

(C)Red Mist Distribution Limited 2008

19歳の時から服役して以降、ありとあらゆる刑務所で暴れまわり100回以上移転させられたという、“イギリスで最も有名な囚人”と云われた実在の男、チャールズ・ブロンソンを描いたバイオレンスアクション。

劇中、ブロンソンは暴れまわった末についに精神病棟へ送られるのですが、そこで設けられた自由時間の場で、他の院生たちが簡易的なミラーボールの下でペット・ショップ・ボーイズの「哀しみの天使(It's a Sin)」に合わせて踊ります。

ペット・ショップ・ボーイズ「It's a Sin」(『ブロンソン』より)

この曲は、ボーカルのニール・テナントが幼少時から受けてきた敬虔なカトリック教育への反発心を歌っているとされ、「自分はこれまで多くの罪を犯してきたが、その全ては自ら理解した上でやってきた事だ」という内容となっています。

つまりこれは、自分の行為を理解しながら暴れるのを止めないブロンソンの心情を表しており、同時に作品全体のテーマとなっています。

というのも監督のニコラス・ウィンディング・レフンは「僕は映画を、ある種の“曲”のように作る」と語っており、「『ブロンソン』という曲があるならペット・ショップ・ボーイズに歌ってもらう」との考えから当初、作品全般の楽曲制作を彼らに依頼しています。彼らは作曲自体は断ったものの、作品内容を気に入り格安料金で曲の使用を許可しました。

レフン監督は撮影時も常にペット・ショップ・ボーイズの曲を聴きながら行っており、ブロンソン役のトム・ハーディーにオペラ調の演技をさせたのも、彼らのPVを意識したとの事。

『ドライヴ』でも選曲のセンスが絶賛された、レフン監督の次回作に注目です。

『フライト』

フライト

最新作の『ザ・ウォーク』も話題の、ロバート・ゼメキス監督作品。

アルコール依存症かつドラッグ常用者のパイロット、ウィトカー(デンゼル・ワシントン)が、あわや大参事になりかねない飛行機事故を最小限で防いだ事でヒーローとなるも、操縦前に飲んでいたアルコールが検出された事で、一転して事故を招いた容疑者にされていく、という内容です。

とにかくこの作品、ありとあらゆるシーンで有名な曲が使われています。

例えば、劇中で2回流れてエンドクレジットでも流れる、ある意味映画全体のテーマ的に使われているのが、1960年代後半から70年代前半に活躍したブリティッシュ・ロックバンド、トラフィックの「フィーリン・オールライト」。

「俺には死ぬ前にやる事が沢山ある。俺は逃げられない事は分かっている」といった歌詞が流れる中、現実からの憂鬱から逃れたいかのようにウィトカーはコカインを吸うのです(「フライト」という言葉には「逃避」という意味もある)。

そんな彼にコカインを与える友人のメイズ(ジョン・グッドマン)が姿を現す度にかかる曲が、ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」。そのものズバリ、“災難を授ける悪魔=メイズ”の降臨を意味しています。

更に、メイズのコカインを吸った直後にウィトカーが乗り込んだエレベーター内で聴こえる曲は、ザ・ビートルズの「友人の助けをちょっと借りれば、僕はハイになれる」という歌詞の「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」と、細部に至るまで徹底しています。

これ以外にもマーヴィン・ゲイやジェフ・ベックといった名ミュージシャンの曲が使われているので、シーンと歌詞の意味を照らし合わせると面白さ倍増です。

トラフィック「フィーリン・オールライト」、ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」&ザ・ビートルズ「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」(『フライト』より)

パターン③:深い意味はないが、とにかく良ければOK

最後は、挿入曲自体に深い意味はないけど、シーンがカッコ良くなったり面白くなったりすればOK、というパターンです。

『トランスフォーマー』

トランスフォーマー

善と悪に分かれた金属生命体・トランスフォーマー達の戦いを描く、大ヒットシリーズの第一作目。

劇中、シボレー・カマロに変身したトランスフォーマー、バンブルビーが駆け抜けるシーンで一瞬、布袋寅泰の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」が流れます。

袋寅泰「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」(『トランスフォーマー』より)

この曲は元々、『新・仁義なき戦い。』のテーマ曲として作られましたが、クエンティン・タランティーノの『キル・ビル Vol.1』で、主人公役のユマ・サーマンが全身黄色のバイクスーツを着込んで夜の東京をバイクで滑走するシーンで流れた事で、一気に有名になりました。

そこでこのシーンを気に入った監督のマイケル・ベイが、カマロのボディーカラーが同じ黄色というだけで使用したのです。

理由はただそれだけ。このあたり、いかにもマイケル・ベイらしい選曲です。

ついでに言えば、タランティーノはこういった挿入曲の使い方の先駆者で、ここで列挙するとキリがないほどです。

気になった挿入曲があれば、エンドクレジットをチェック

劇場で映画を観ていて、近くに座っていた外国人客が挿入曲を聴いた途端に笑い出した、という経験をされた人もいるかと思います。それは彼らが、挿入曲の歌詞と劇中のシーンがリンクしているのを理解できたからです。

日本で外国映画を公開した際、挿入曲が流れても著作権の関係上、歌詞が字幕で表示されないケースが多いです。そのため歌詞がダイレクトに分かる客と、そうでない客とのリアクションのギャップが生じるのが残念なところです。

筆者の体験例だと、『アンコール!!』での「トゥルー・カラーズ」は歌詞が表示されたため、鑑賞していた有楽町の劇場では、年齢層が高めの客席からすすり泣く声が漏れていました。一方『Dear ダニー』の時は、ジョン・レノンの曲自体は聞き覚えがあっても歌詞が出なかったため、「あのシーンでかかってた曲はどういう意味だったの?」と上映後につぶやいていた人がいたほどです。

もし、挿入曲で気になった曲があったら、エンドクレジットを見てみましょう。分かりにくいとは思いますが、クレジット終盤の「MUSIC」や「SONGS」の項目で、使用曲が必ず出てきます。

挿入曲を知る事で映画の見方も広がり、更に面白くなりますよ。

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  • せいけ
    4.2
    本当に生き方が不器用だけど妻への愛情にはグッとくる
  • hasomo
    4.0
    冷たく接してしまうこともあるけど、やっぱり家族のつながりは大切だなと思った。 普通に感動した。
  • kocharo
    3.5
    ・素直に生きようと思える ・キッカケって大切 ・2人のやり取りが可愛い 1年ぐらい掛かってやっと観れた。 (自分の問題) 期待しすぎてしまってた感は あるものの、普通に感動した。 素直になるって いいこと。
  • Padawan
    3.0
    Apr.17
「アンコール!!」
のレビュー(5757件)