ミニシアター系映画監督たちの魅力:ガス・ヴァン・サントとアメリカのマイノリティ

2016.04.22
監督

愛と自由と無限が大好きな私と、映画

GATS

日本でも多くのファンを有し、デビュー公開から現在に至るまで彼らをずっとを魅了するアメリカ映画界の異端児、ガス・ヴァン・サント監督の新作『追憶の森』が4月29日(金)に公開されます。

ガスヴァンサント 追憶の森

(C)2015 Grand Experiment, LLC.

今作の撮影舞台の主は、なんと日本の自殺の名所として知られる富士山の麓、青木ヶ原樹海。さらにキャストは、オスカー俳優のマシュー・マコノヒーを主演に、渡辺謙、ナオミ・ワッツとこの豪華さ。

第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された作品でもあり、今年劇場公開される映画の中でも、期待値が高い作品の一つです。

配給は東宝東和によるものなので、比較的大作に近いですが、ガス・ヴァン・サント監督の魅力的な作品には、インディーズ系映画が多いです。

記事を読んでいる方の中には、ガス・ヴァン・サントって誰?と思われている方もいらっしゃると思いますので、代表作であり、ルーツ、そして原点であるアメリカポートランドで撮影された初期3作品、いわゆる青春のポートランド3部作をご紹介します。

ガス・ヴァン・サント監督とは

アメリカの異端児として、マイノリティの代弁者として、意を尽くしてきたガス・ヴァン・サントは、映画監督だけでなく、写真家、小説家といった創作もしてきました。

生まれはアメリカ、ケンタッキー州のルイヴィルですが、幼少期にオレゴン州ポートランドへ移ってからは、映画製作もその他のアート作品制作も含め、多くの作品をポートランドで創っています。

ファンの多い監督ですし、大衆的な人気作品も撮ってきた監督です。なので、もしガス・ヴァン・サントという名前を聞いたことがなくても、作品ならご存知かもしれません。

例えば、『グッド・ウィル・ハンティング』は大作を作っていた時期に発表されていたもので、レンタルビデオ店に行けば、レコメンドされていますし、内容も好まれやすく作られているので、ご存知の方も多いでしょう。

他には、第56回カンヌ国際映画祭の最高賞、パルムドール賞を獲得したエレファントや、日本人俳優加瀬亮を起用している永遠の僕たちは人気のある代表作です。

ここからは、私がピックアップしたおすすめ作品、ポートランド3部作と呼ばれる、彼のルーツになった初期の長編3作品をご紹介します。

ポートランドの最悪な夜、「マラノーチェ」

ガスヴァンサント マラノーチェ

IF YOU FUCK WITH THE BULL, YOU GET THE HORN.

雄牛に手出しすると、痛い目に遭う

1985年に発表されたガス・ヴァン・サントの処女作である本作、「マラノーチェ(スペイン語で、最悪の夜)」はシャープで荒いカメラ、そして刺激的な内容により、多くのファンを魅了することとなりました。

原作は、ビートジェネレーションの影響を色濃く受けたような印象の、ウォルト・カーティスによる自伝的小説。それを監督であるガス・ヴァン・サントが脚色し、モノクロフィルムで、シックに撮影されています。

酔っぱらい、ジャンキーらがこぞって集まるポートランドのある地区の食料品店で働くウォルターは、日曜日も店で働いています。そこにメキシコからの不法移民、ジョニーと出会うことからマラノーチェ(最悪な夜)は始まります。野性的な態度に、かわいらしい笑顔を見せる。自由奔放で、無邪気といった具合のジョニーを見た途端に、心臓がドキドキと激しく高鳴るウォルターは、この破滅的な愛に飲み込まれていきます。

どうにかジョニーをものにしようとするウォルターの献身的な愛とは裏腹に、ジョニーはその愛を知っていながらも、するりとかわし、またウォルターに曖昧な態度で返すのです。

ジョニーの友人のロベルトは、寝床もなく、金のために言う通りにした方がいいといった様子だが、事態は一変し、最悪の夜が訪れる。

今よりももっと日の当たらなかった、同性愛のマイノリティのセックスの描写。背中部分が裂かれたTシャツ、股の破けたジーンズなど気取っていないボロボロのファッションは印象深く、写実的に時代や環境を感じさせるものがある本作が、続くガス・ヴァン・サント作品のルーツ作品となったわけです。

若さによる反抗、狂奔、そして喪失。「ドラッグストア・カウボーイ」

ガスヴァンサント ドラッグストアカウボーイ

一般的に、彼の代表作の一つに挙げられるのが本作と言って間違いはないでしょう。この作品を見て、彼に惚れ込んだファンは数知れず。

次へ次へと薬を求め、ドラッグストアを襲い続ける若者ジャンキーたちの青春ドラマ。繊細で、どこか滑稽な残酷さを内に秘めるポートランドのジャンキーたちに目をつけたガス・ヴァン・サントが2作目に撮ったとされるこちらの作品は、前作からの期待を裏切らない出来栄えです。

ジャンキーグループのリーダー、ボブを演じるのは、多くの不良の役で知られるマット・ディロン。当時25歳くらいで、まだ若さの残る尖った不良のようなイメージと、大人になりつつある色気のある雰囲気とがぶつかり合い、はまり役です。

彼の表情に伺える、喪失感や虚無感の演技は、まさに当時の彼自身の自己投影とも言えます。

この時期には、反逆者や、アウトサイダーの役をこなしていた彼の俳優人生を、また一つ豊かにした作品ではないでしょうか。

ある不幸なジンクスにとらわれた、リーダーのボブはツキを良い方に変えようと、トラックで街を移動します。それは、決して警察から逃れる為ではありません。

いつか、破滅するとわかりつつ、突っ走ってったあの頃。人生は本当につらいのです。

人生は本当につらい。先のことは誰もわからない。

たいていの人は、一瞬の過ごし方に苦しんでる。だが、ヤク中は賢い。

でも、おれは生きてる。生きていたい。

このラストの台詞に、この映画の全てがスマートに総括されています。「激動」の人生にこの人間ありですが、これが皮肉にもリアルなのだと、そう感じさせられる残酷ですが、美しい青春映画です。

美しき俳優たちの熱くも切ない抱擁、「マイ・プライベート・アイダホ」

ガスヴァンサント マイプライベートアイダホ

最後にご紹介するこちらの作品は、ガス・ヴァン・サントの数ある作品の中でも一番のお勧め作品です。

発作的に深い眠りに襲われる病気、ナルコレプシーをもつ主役、マイクを演じたのは、『スタンド・バイ・ミー』で知られるリヴァー・フェニックス。彼の親友役、スコットを演じるのは、現在でも映画界で大活躍している、キアヌ・リーブスです。

ジャンキーと盗人、ストリートチルドレンたちが集まる、ポートランドのある地区のグループに出入りする二人。スコットはお金持ちのもとの生まれだが、マイクは廃れた服を着て、ゲイで自分の体を売って生活しています。この映画の中のマイノリティの象徴です。そしてその彼の虚無感を感じさせる顔と声は本当にリアル。親友への愛の葛藤、やるせなく行き場のない心の情感が見事に描かれ、無力と虚無をここまでかと言わんばかりに感じさせるものは過剰にリアルなのです。

俺は、金をもらわなくても、愛することが出来る。お前が好きだ。お前にキスしたい。

マイクがスコットに向かって言う台詞です。スコットはマイクを否定したり、また拒否する訳でもなく、何も考えないでこちらへ来いと言い、二人は熱く抱き合います。私は、こんなにも切ない抱擁を他に知りません。

余談ですが、このシーンのマイクに私は大きく共感し、涙があふれまくって、その晩は眠れませんでした。

他にも、風変わりなセックスの描写は、動画で静止画のように撮影し、シーンをいくつも並べるといったようなオシャレなもの。さらに、マイクの無力さをより引きだたせるような、広い草原や延々と続く荒野のショットやタイムラプスの演出には圧巻。

恋の苦さや、残酷さなどを繊細に描いた私の大好きな青春映画です。

おわりに

ガス・ヴァン・サント監督特集いかがでしたか。

このように、彼の作品にはマイノリティが多く取り上げられ、丁寧でリアルな感情を繊密に描くのが非常に得意な監督です。他の作品にも似たようなスタイルの描写が見られますので、1作品でも好きな作品があれば、他の作品も楽しめるはずです。ぜひご覧になってみて下さい。そして、新作『追憶の森』に期待しましょう。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • ユダヤ
    1.0
    なんで樹海にきたんでっか映画
  • 男飯
    3.0
    NHKで放送していた渡辺謙と山中伸弥教授の対談番組で追憶の森が紹介されていて、今までにない世界観の映画だなあと興味を持ったので観てみた。 森の映像、音、音楽、全てが凄く心地良い。詳しく調べてからまた改めて観てみたい。
  • Bunnyboy
    3.5
    2016
  • うっちぃ
    3.8
    動機は、マシューマコノヒーの作品が観たいという理由で選んだ作品だったんですが、よかった。 ある男性が何かを決意して、辿り着いた場所が日本、青木ヶ原樹海。そこで出会う謎の男性、そして妻との回想。 観る前と、観た後で全然違うイメージになる作品が映画を観る面白さであり、それが醍醐味だったりするんですが、この作品もそう感じました。 ありきたりと言えばありきたりかもしれないので、捉え方は色々あると思うが、個人的には、全体的な流れも好きで、最後もそこまで悪い終わり方ではない。 特に、注目する点は、マシューマコノヒーとナオミワッツの演技。 どこにでもある日常を、時には優しく、時には感情的に演じていて、観ている側は、自分達にも置き換えて観ることが出来る。 特に、途中出てくる、マシューの泣きの演技には心奪われました。 ナオミワッツも、最初に出てくる表情と、後半のシーンで出てくる表情の違いがあって、何でそんなに違うかは観た人は分かるんですが、そういう作り方にこだわってる所もいい。 映像、音楽、全体的な構成、どこか神秘的で不思議な雰囲気の作品ですが、好きな作品です。やっぱりマシューはかっこいい!
  • アイルトン
    4.0
    試写で見た時に、そういうオチかーってなったし、まぁまぁ面白かったことは覚えてるけど、はっきり思い出せない、、、 もう一回見ますたぶん
  • Ryuto
    2.8
    いい話である事は間違いない。のだけど〜。世にも不思議な物語っぽい。
  • KANEMON
    3.8
    深いね(*´꒳`*)
  • YoshikazuHomura
    3.8
    ナオミワッツハンパない
  • bowzZ
    3.3
    これはこのとあるワードでgoogle検索すると、ここがヒットしまくるが故にそれに気づいた人物の着想が製作の端緒になったのではないか、と勝手に勘ぐりたくもなる。今やこのとあるgoogle検索結果のせいかおかげか、日本国内のみならず世界的にそこがどういう場所なのか知れ渡っているのだろう。 kiiro&fuyuの伏線とかナベケンの正体とか結構うまいと思う。
  • Orange
    4.2
    映像、雰囲気、良かったです。 あたたかいきもちになる。 私にとってはお守りのような感じ。
  • coco
    -
    つまらなさすぎる
  • misato
    3.8
    カンヌでは大ブーイングを浴びたらしいが個人的には結構好きな作品だった。海外と日本との死生観の違いが見えて面白い。こういうスピリチュアルな場所に日本がえらば選ばれる、っていうポイントから海外から日本がどう見られてるかが少し分かるような気がするねー。なんだろうもう少し日本に行き着くまでのストーリーとか関連性とかあれば良かったのになあと思う
  • hiro
    3.5
    理想の 死に場所
  • さくらもち
    3.3
    富士の樹海で、現実とあの世をさまよう2人の男の話。 渡辺謙とマシュー・マコノヒーの演技がすごかった。 日本と欧米では死生観の違いを知れて面白い部分もあり、樹海の不気味な美しさもすごかった。最後の伏線の回収で、この物語が一気におとぎ話みたいに思えました。
  • カトリナ
    -
    マコナヘー・ミーツ・ケンワタナベ 自殺目的で訪れた日本の樹海で。精霊なる森の中で名俳優ふたりの演技を熟視する。静かな成り行きを追ううちにうつろうつろしてきたところで一度目の衝撃で眠気がぶっ飛び、二度目の衝撃で魂が揺さぶられる。森を彷徨う中でのふたりの交流、何故自殺を思い立ったかの回想シーン(主人公の気持ちを考えると自然と感情移入出来る情景)を挟みつつ自分を見つめていく。死にたいのか生きていたくなくなったのか生きていないのも同然なのか…シリアスな死生観を照らし出しながら迷って顧みるうちに導かれる意外な結末。神秘の風に包まれて言葉を失うことになるでしょう。 うーん…と思っていたら いいじゃないか!いいね!
  • YutaTakemoto
    3.6
    マコノヒーと渡辺謙が富士の樹海で出会う物語。 機内で見たけど、 不思議な小説読んでるような感覚だった。 予定調和に見えなくもないが、撮影場所の影響か演出か、予定調和が心地よい不気味さがあった。
  • MITSUKI
    3.7
    2017年8作目。
  • 花椒
    4.0
    記録
  • 貧家ピー
    3.8
    マシュー・マコノヒー目当てで。主人公がどうして青木ヶ原も目指したのかが、よくわからなかったが、渡辺謙との演技を見るだけでも値打ちがあった。カンヌ映画祭で大ブーイングを受けたみたいだが、こういう死生観が受け入れられないのか。あるかもしれないとすんなり受け入れたけど。
  • kumiko
    4.5
    マシュー・マコノヒーと渡辺謙さんだからこんなにいい映画になったのだと思う。 渡辺謙さんがテントで歌うシーンでなぜか心にきて涙が溢れてきた。
  • どらむすこ
    3.0
    この展開や回収の仕方が好きな人はいるだろうけど、肝心なとこで悉くやってほしくないことをやられてしまった感じ。命の尊さとか死生観を直接的に考えさせるようなものではなかった。なのでパニック映画として点数つけました。
  • yudji
    3.3
    青木ヶ原樹海という自殺の名所を舞台に、現実とあの世との境をさまよう、二人の男の話。独特な雰囲気は流石の樹海。 スピリチュアルだけど、聞いていたほどの悪い内容ではなかったし、不思議な映画。
  • あっつん
    3.3
    物語の話の流れ事態はとてもよかったのかなと思う。演出はとてもきれいなものだった。色々と考えさせられるものだが、わざわざ日本の富士山の樹海にシーンをおいたのはなんだろうと思う。なかなか唐突だなと思った。もっと、日本の樹海にこだわる理由があると話ももっと深いものになったかと感じる。
  • あじゃか
    3.9
    西洋にはない、日本の死後への考え方を表していて面白かった。 英語音声、日本語字幕で見ていたから、そういう訳し方をするのか、というのも文化間の違いが出ていて、興味深かった。 そして、最後にいろんな伏線が回収されてハッとした。奥さんのこととか。 世界観に引き込まれるような映画だった。 ただ、自殺した遺体がゴロゴロしてるのは、非現実的な感じがしたし、不自然なところはいろいろあった。
  • tonemuff
    3.4
    妻に先立たれた男が死に場所を探すために日本の樹海に訪れ、過去を振り返っていく話。 ただなぜ日本を舞台にしたのか、主人公全く日本に関係ないし、そもそも日本の死生観とかもろくに描かれてもいなかったためかなり違和感を感じた。
  • miyu
    3.7
    海外からは大ブーイング映画とのこと。 映画を見てから、ネット検索して知りました… 
 樹海イコール死に場所… 何故、アメリカから、わざさわざ日本に死にに行くのか… この辺りが、評価低かったみたいらしいですが、確かに、最高の死に場所を求めて、ネット検索の結果、日本をチョイスしたのは、唐突な感じが、否めませんでした。。。 日本に思い入れがあったり、妻との思い出が、日本にあるのなら、理解出来ますが… そこら辺りゎチョット違和感感じました! 
 でも、樹海へ来てからの展開… ワタシゎ好きでした。。。 
 日本人のワタシにとって、樹海ゎやはり、あの世への入口があるような、そんな感覚を覚えるからかもしれません! 
 登場人物が少なくて、淡々と話は進行していくのですが、不思議に飽きる事もなく、逆に話に引き込まれていったのは、マシュー マコノヒーや、渡辺謙、ナオミ ワッツの力量に担う部分が大きかったように思えます。。。 
 特に、後半からは、何故、彼が死にたくなったのか…ドンドン核心に迫り、見てひきこまれていきました。。。 
 死を間近で見つめることによって、ようやく、生きる力を得られたような… 今までの大切な愛がよみがえってくるような… そんな気持ちにさせてくれる映画でした!
  • s
    3.6
    マシューマコノヒーは森が似合う!
  • 癒しが欲しいトントン
    3.5
    富士の樹海 自殺の名所、心霊スポットで有名! 自分は行ったことないし、行きたいとも思わない場所ですけど… 失って気付く大切な人の大きさ 大切な人を二度と取り戻せない喪失感… 絶望の淵に立った時 生きるか?死ぬか? この2択になってしまうのか… なんか悲しいと思った。 けど、大切な人と長い人生を連れ添った人ほど、死という絶望から抜け出すことは難しいだろうね。 けど、乗り越えたとき何かが心の中で変わる!?変わらないといけないんだと思った。 それにしても、マシューマコノヒーと渡辺謙の演技の共演は凄かった!
  • パイの実
    3.0
    妻を失った男が死に場所を求めて樹海に入る話。 カンヌで前代未聞の大ブーイングをおこしたみたいだが、そこまでは悪くない思う。 分かりにくい話ではないし、役者陣の演技も良かったし。
  • リサ
    3.3
    自然の描写が多いのと、日本なりの死生観が描かれているからか、不思議と心が落ち着く映画でした。 伏線に関しても、あまりに明確にしすぎず、察せられるようにしてあるのが、日本ぽいなあという感じがして個人的に好きでした。
「追憶の森」
のレビュー(2120件)