なぜ『ちはやふる』は起死回生出来たのか?心震える青春映画に隠された共感トリック

2016.05.25
邦画

映画と音楽は人生の主成分

みやしゅん

「今さら、ちはやふる?」と思った方も多いと思います…ですが、そんな皆さんにお聞きしたいことがあります…映画『ちはやふる』はもうご覧になったでしょうか?もし、観ていないようでしたら、絶対に損です!

原作コミックは“青春漫画の金字塔”と言われる、究極の青春漫画…累計1400万部を突破している超人気作です。

そうしたこともあり、映画『ちはやふる』は、大々的な宣伝が行われていましたが、その宣伝とは裏腹に前編『上の句』は“初登場4位”というパッとしないスタートでした…。週を重ねるごとにランクダウンをする本作に「まさかの期待はずれ」とのコメントさえ寄せられました。

上の句

(C) 2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C) 末次由紀/講談社

しかし、公開から数週間…本来ならば圏外へとランクダウンするはずが、まさかの再浮上という異例の起死回生を果たしました。さらに、後篇『下の句』の公開初日には続篇の制作決定が発表…映画『ちはやふる』は奇跡の返り咲きを果たした作品なのです

『上の句』が公開されてからかなり時間は経っていますが、口コミによる評判がジワジワと広がっているため、全国的に前後編両作の同時上映を行っている劇場がまだまだあります!観ていない人は今がチャンスです!

では、なぜ『ちはやふる』は起死回生することが出来たのでしょうか?今回は本作に隠された全ての人の心を揺さぶる共感トリックを解明しながら、改めて本作の魅力をお伝え致します。

つながれ つながれ!つながれ!!

今の自分には“ちは”しか見えない―。

千早・太一・新は幼い頃に「競技かるた」で繋がっていた仲間だった。しかし、新が福井へ行くことになったのをきっかけに、3人は離れ離れになってしまう。

「離れ離れになっても、かるたがあればまた会える」

その言葉だけを信じてきた千早は、高校で“競技かるた部”を創ることを決意する。そして、偶然再会した太一と新たな仲間と共に全国大会を目指す…果たして、千早たちは全国大会へ行くことができるのか?そして、新に再会することはできるのか―。

原作の壁を打ち砕く“共感”

原作がある映画作品は、いつの時代も原作と比較されてしまいます。特に、今回のようにアニメ化もされた“超”がつくほどの人気の原作があるものは、実写化自体のハードルが高くなる…そのため、映画『ちはやふる』も、実写化が発表されるや否やキャスティングやストーリー展開について様々な意見が飛び交っていました。

立ちはだかる原作の壁

実写映画化において、どのエピソードを選び、どのようにエンディングへとつなげていくかは重要なポイントとなります。特に今回のような原作が未だ完結していない作品を、2部作・約4時間でまとめることは至難の技…原作ファンを納得させる作品にするためには、相当な工夫が必要となるのです。実写化作品で納得させることのできる作品が少ないのはこのためだと考えられます。

実際、映画版『ちはやふる』でも、原作にあった幾つもの名場面やエピソードがカットされています。そこに愛着を持っていた原作ファンからすると満足出来るものではないかもしれません…。しかし、多くの原作ファンから「原作と別物としてここまで魅せられるのはすごい」とのコメントが寄せられています。

それもこれも、ストーリーの時系列が実にスマートに組み替えられており、前編・後編を通して印象的な創りになっているからでしょう。この工夫によって、原作とは異なる新たな魅力を携えた「ちはやふる」を誕生させたのです。

ちなみに、原作ファンにしか分からないちょっとした遊び心も『上の句』から登場しています。それが、ダディベアとスノー丸です。原作を知らない方は「なに、それ?」となっていると思いますが、ダディベアとスノー丸は主人公・千早が大好きなキャラクターのことで、とある人物との共通点として『下の句』ではしっかりと説明までされています。

『上の句』では、ダサいタオルとして登場しただけ…と思われがちですが、実は隠れミッキーのごとく、千早のスマホケースやTシャツ、大会までのカウントダウンが書かれた黒板など、様々な場面で登場しています。そうした監督の遊び心を探すのも、原作ファンならではの楽しみ方なのではないでしょうか?

壁を打ち砕く“共感”

少女漫画と言えば恋愛要素が主軸にあると思われがちですが、本作は少女漫画が原作であるにも関わらず、スポ根要素が前面に押し出された“青春モノ”となっています。スタートこそ失敗した『上の句』でしたが、眩しすぎる青春を絶賛する声が口コミとなって、性別や世代の垣根を超えて広まっています…では、どうしてここまで心が揺さぶれるのでしょうか?

映画で共感を生むためには「観ている人の経験や人生にどれだけリンクできるか?」という点がポイントとなってきます。そうした点からすると映画『ちはやふる』の評価がジワジワと高まっている最大の理由は「誰もが通る青春時代をテーマにしているから」だと言えます。

しかし、青春時代をテーマとした作品は山ほどあることは言うまでもありません…では、どこが他の作品と違うのでしょうか?さらに詳しく整理していきましょう。

競技かるたに隠された3つのトリック

「ちはやふる」は、漫画・アニメ・映画…その全てが、一人一人の青春とリンクする不思議な作品です。しかし、青春時代と言っても、その形は人それぞれ、部活に熱中した人もいれば、そうでない人もいます。もちろん、世代によっても違いは存在するため、全ての人が共感できるようには到底思えません。

そこで重要になってくるのが、小倉百人一首を用いた“競技かるた”という特異な性質を持つ競技に隠された共感を生み出す3つのトリックなのです。

呼び起こされる“和”の心

小倉百人一首と聞くと、何だか縁遠い存在のように感じますが、それは間違いです。小倉百人一首は、藤原定家が100人の歌人の和歌を集めて創った秀歌撰…この中には、誰もが一度は耳にしたことのある、有名な歌が存在します。

天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも

これは、奈良時代に唐朝に仕え、その生涯を終えた阿倍仲麻呂が故郷を想い詠んだもの…そう、中学・高校の古典や歴史の授業で必ず紹介される名歌で、実は百人一首は身近なところに存在していたのです

月

さらに、身近に感じられるのは100ある歌のうち43の歌が恋愛に関する歌だということです。原作・映画でもこのことは語られており、彼女たちの言葉を借りると「人を想う気持ちは今も昔も変わらない」ことを私たちに教えてくれます。

表題にもなっている「ちはやふる」の歌も実はその1つ…しかし、その本当の意味に千早も太一も気づいていません。このことは「いまの私、俺には“ちは”しか見えない」という『上の句』の冒頭と最後に登場する印象的なセリフからもわかります。この歌の本当の意味を理解出来る日が、2人には訪れるのでしょうか?

ちはやふる

ちなみに、競技かるたは、スピード感のある競技のため、歌の意味はさほど重要ではないと思われがちです。

しかし、5・7・5・7・7というわずか31音に、自身の想いを込めて歌われた歌たちは、日本人の心の奥底にある“和”の心を呼び覚ます美しいものばかり…本作では、そんな百人一首の魅力が余すことなく語られているので、あなたも虜になること間違いありません!

静と動が織り成す緊張感

多くの勝負ごとには大きく分けて2つの緊張があります。それが一瞬の緊張と持続する緊張です。

この一瞬の緊張と持続する緊張は、スポーツや芸術などの垣根を越えて、勝負ごと全般に通じるもの…きっと誰もが一度は味わったことがあるのではないでしょうか?

競技かるたに置き換えて言えば、詠まれた歌に対して正しい札を取る一瞬に対する緊張感と、約90分の試合を1日に5~6回行う持続する緊張感が存在することになります。この2つの緊張感が、青春時代に部活動やその他の様々な場面とリンクして、あの頃の気持ちを呼び起こすのです。

なお、劇中では緊張感が、映像や音の技術を最大限に活用して巧みに表現されています。歌が読まれるまでの張り詰めた緊張感を、時には無音によって、時にはアップの画によって表現されています。

また、詠まれた札をとるまでの緊張感を、スローモーションを用いて表現されています…この“静”と“動”の対比による表現こそが、スクリーン越しに観ている私たちに、息をすることすら忘れてしまうほどの緊張感を生み出し、映画の世界へと引き込むのです

全ての垣根を越える競技かるた

全ての人が共感できる最大の秘密は、実は競技かるたそのものにあります。と言うのも、競技かるたは、様々な要素を網羅している珍しい競技だからです。

かるた

小倉百人一首を用いる競技かるたは文化系のイメージが強い一方で、その競技自体は「畳の上の格闘技」と言われるほど気力・体力を求められる超・体育会系の競技です。さらに、試合では個人戦と団体戦が存在するため、個人競技を行ってきた人も団体競技を行ってきた人も共感できる部分が存在します。そして、最も重要なことは、競技かるたが性別や年齢の垣根を越える競技だということ…これにより、誰もがのめり込める究極の青春を描き出しているのです

様々な要素を網羅する競技かるたを通して、私たちは何かに打ち込んでいた“あの頃”を思い出し、青春独特の甘さや苦さを思い返して、目頭を熱くするのです。

あなたが感じるのは甘さ?それとも、苦さ?

いつしか、日本では「必死に頑張ること=カッコ悪い」という風潮が浸透してしまいました。何かに打ち込むことを格好悪いと思い、クールに装う現代人を象徴するのが太一です。クールに装っていた太一は、ある日、かるたの師匠である原田先生に悩みを打ち明けます…そこで原田先生に「(青春全部)かけてから言いなさい」と言われ、大事なことを思い出します。

しかし、前編・後編には太一以上に、私たちを映画の世界に引き込む大切な役割を持った登場人物たちが登場しています。

“悔しさ”と“寂しさ”の代弁者

『上の句』と『下の句』にはそれぞれ、重要な役割を果たす登場人物が存在します。

まず『上の句』で重要となるのが、机くんです。千早に「机くんしかいない」と言われたことをきっかけに、かるた部の一員となった彼ですが、練習を積んできたにも関わらず簡単には勝てない現実が目の前に立ちはだかります。

徐々に大きくなる不安は、試合で一勝もできない机くんを捨て駒として使おうとするチームメイトの心無い一言で爆発します。チームの中で取り残される“悔しさ”…誰もが経験したことのある苦い思い出…きっとあなたも、感情移入をしてしまうはずです。

一方、『下の句』で重要となるのが、松岡茉優演じる孤高のかるたクイーン・若宮詩暢です。映画では若宮詩暢の幼い頃の想いが描かれていませんが、彼女は心の奥底で“寂しさ”を押し殺して、かるたと一人で向き合い、クイーンの座を手に入れてきました。

下の句

(C) 2016 映画「ちはやふる」製作委員会 (C) 末次由紀/講談社

しかし、千早たちと出逢い、強さを保ってきた彼女も変化します…その気持ちを表現しているのが「いつ?」という言葉です。このセリフがどこで登場し、何を意味するのか…それは是非、映画でたしかめてみてください!続編では、原作のように2年生になった千早たちの姿と共に、今回描ききれなかった若宮詩暢の心境や、過去が描かれるのではないか…と筆者は予想しています。

大事なことは“つみかさね”

実は若宮詩暢というキャラクターは、現実でのかるたクイーン・楠木早紀さんをモデルにしているのではないか、と言われています。「つみかさね」という言葉を大切にする彼女は、大会で10連覇を成し遂げるだけでなく、史上最年少で3人目の永世クイーンとなった天才です。

「過去の様々な経験や日々の練習のつみかさねが今の自分を創っている」

そう語る楠木さんの言葉からは「どんな形の青春時代を送っていたとしても、無駄なことは1つもない。全てはつながっている」という想いが伝わってきます。そして、これは映画『ちはやふる』の持つ普遍的なメッセージとリンクするものだと言えます。

続編では原作のどのエピソードが取り上げられ、どのようなストーリーが展開されるのでしょうか?また、千早たちの後輩となる部員たちとして誰が選ばれるのか…今から楽しみですね!少しでも気になった方は是非、劇場に足を運んでみてください!

公式サイト:http://chihayafuru-movie.com/

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    2.4
    WOWOW
  • ハル
    4.9
    前編も良かったけど、どちらかというと後編がめちゃくちゃ良かった! 手に汗握る熱いたたかいだし、友情・恋愛とか色々入り交じってるけど、全部「青春!」みたいな。 ちはやふるは原作もいいけど、実写も良いです!実写の中で一番好きかも。
  • mao
    4.5
    しのぶれどを取ってから鳥肌が止まらない。 実写化の中で1番好きな作品になった。 ただ欲を言うなら太一のビジュアルをもう少しあげてほしい。 松岡茉優の若宮しのぶいい。 でも実写化のちはやふるで1番好きなのは机くん!
  • sakura
    3.2
    上・下の句、思いのほか楽しめました。 上の句のが面白かったかな。 かるたってあんなに激しいんですね^^;ちゃんと取れてるの?って感じでしたが。 高校生、若さとエネルギーが羨ましいな!
  • うめ
    3.9
    足掻く。 再び共にかるたをする事を夢見て一人で絆を守ろうとする者。 一歩踏み出す事を恐れて距離を置いていた者。 一人ぼっちになっても変わらずに名人の夢を追う者。 あえて孤独の道を選び孤高の存在を目指す者。 勉学だけしか興味のないふりをしたり、違う道を模索してみたり… どうしていいかわからずに、それぞれがただ進む道を探し一人で足掻く。 “荒ぶる魂”を隠して… しかし、かるたという一つの軸が全ての者を一つに引き寄せる。 その時、心は“ちはやぶる”のだ。 上の句に比べて、より幼馴染3人にクローズアップした下の句。 ずっと思い描いていた仲間を得て、前へ進み始めた千早の夢。 だが、新たな目標を見つけた時。 ここまで力を与えてくれたその仲間が別の葛藤を生み出す。 広瀬すずのコミカルながらも戸惑った時に見せる表情、目の動き… 流石です。 目標を見失い、止まってしまう新の時間。 真剣佑の朴訥ながらも、飾る事なく自分の思いを語る姿が素晴らしい。 躊躇わずに突き進んできた千早と新。 彼等に湧き上がる疑問。 相変わらず自然さのない野村周平の笑い… 別な意味でドキッとする(^^; そこに圧倒的な存在感で殴り込んできた松岡茉優がすごかった。 試合の時のあの服装に京都弁。 真綿で首を締めるとは、まさにあれですね。 たまらないです(*゚▽゚*) 瑞澤高校の肉まん、大江さん、机も見せ場は少ないながらもしっかりと存在感を出してましたね。 そして、まさかのあいつ! “ドS”なあいつに胸を熱くさせられるとはね… 団体戦だけど戦う時は一対一。 でも、部のメンバー全員で戦っている感覚。 学生時代に剣道をやっていた身としては、なんか分かるものがありました。 テンポ良く繰り出される泣き所に、毎回ウルウルしてしまう私(^^; あ〜、「結び」が楽しみでしょうがない。
「ちはやふる 下の句」
のレビュー(10907件)