【ネタバレ含む】話題作『エクス・マキナ』に練り込まれた“s.f”の味わい深さ

2016.07.02
洋画

映画館に頻繁に出没する横分けメガネゴリラ

YMG

突然ですが、スペキュレイティブ・フィクションSpeculative Fiction) という言葉を耳にしたことはありますか? 省略するとSFになります。
 
「いやいや、SFってサイエンス・フィクションScience Fiction)だろう? 」と多くの方が疑問を抱かれたと思います。実はこの二つの言葉は、昔から混同されてきたようです。
 
先日から公開されている『エクス・マキナ』は、人間と人口知能を持った機械との間のチューリング・テスト(イミテーション・ゲーム)を主軸に描いた映画です。そうなるとサイエンス・フィクション(以下SF)なのは言わずもがなですが、同時にそこに練り込まれているのがスペキュレイティブ・フィクション(以下s.f)でもあるのです。
 
今回は『エクス・マキナ』を題材に、この「s.f」について紹介していきたいと思います。
 
※本記事には一部『エクス・マキナ』のネタバレを含みます。
 

SFと哲学の切り離せない関係

人工知能

そもそもスペキュレイティブとは「思弁」を指しており、深く考えを巡らせる行為を意味しています。それは、哲学的考察を無視することができない行為です。
 
例えば、チューリング・テストの結果を機械が判断することができないように、機械の感情を「人間の感情のようだ」と判断するには、柔軟かつ規制のない人間の判断能力や感情が必要になります。また、それを作り上げるには人間の感情とは? 心とは何か? などを考え、プログラミングしなければ人口知能を作ることはできません。
 
本作には疑いようもなくそういった哲学的考察、スペキュレイティブが練り込まれています。
 
一方で大枠のSFというジャンルは、スケールの大きさ、多用されるCG、空想の設定や背景が描かれる、などの理由から「大衆的」で「一過性のジェットコースター映画」というイメージが強いのではないでしょうか。
 
そんなSFに、s.fが練り込まれるとあら不思議、一転して名作だらけです。
 

s.f 映画は名作だらけ

 
列挙しますと、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』をはじめ、『時計じかけのオレンジ』やスピルバーグが監督したキューブリック原案の『A.I.』もs.fです。
 
他にもジョセフ・サージェント監督の『地球爆破作戦』、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』、ジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター」シリーズ(個人的には3のラストは最高にs.f)、ハロルド・ライミス監督の『恋はデジャ・ブ』、元ウォシャウスキー兄弟の『マトリックス』、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『ロボコップ』や『インビジブル』、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『デッドゾーン』や『スキャナーズ』などなど。
 
挙げ出せば切りがありません。それらはSFであり、同時に深い深いs.fが練り込まれているのです。
 
少しだけ具体的に述べると、
 
『時計じかけのオレンジ』 → 自由意志
『恋はデジャ・ブ』→ 永劫回帰
『マトリックス』 → 懐疑論
『ロボコップ』 → 実存主義
『インビジブル』 → 善悪とは何か?
『デッドゾーン』 → 運命論
 
といったテーマに対して深い哲学的な考察が練りこまれています。
 

堂々たるs.fの傑作『エクス・マキナ

エクスマキナ

(C)Universal Pictures

そして本作『エクス・マキナ』も堂々たるSFであり、美しいs.f映画です。片手で数えられるほどの登場人物数だけでなく、CGもほとんど使わず、一つの敷地内でその物語のほぼ全てが描かれるにも関わらず、です。見下されるような「大衆的」要素は一切ありません。

あらすじ

13歳から作り始めた検索エンジンによって巨万の富を得たネイサンは、広大な土地で身を隠すように生きている。そんなネイサンのインターネット会社“ブルーブック”の社員ケイレブは抽選の結果、ネイサンの元へ訪れる権利を得た。到着したケイレブはネイサンに言われるがまま、人形人工知能“エヴァ”とのチューリング・テストを始める...。

天才ネイサンに誘われる凡人ケイレブ、そして出会うエヴァ

本作の物語はケイレブの見ること、体験することを通して進行します。ケイレブの驚きや喜び、不安や感動に観客は寄り添うわけです。

次第にネイサンの真意が別にあり、ケイレブは手のひらの上で踊らされていることに気付きます。疑問だらけの物語の中で観客は、ただただ宙ぶらりんにさせられるのです。

さらにエヴァとのチューリング・テストでも、エヴァはケイレブに好意があるように振る舞います。しかし、彼女の脳は検索エンジンです。過去に彼が検索した情報からエヴァは、ケイレブの好みや願望をガンガン突き、ケイレブを錯乱させます。他人の好意に疑心暗鬼を覚えがちな僕はブルブル震えていました。

本作が炙り出すのは「人の心」の複雑さとその豊かさです。それはまさしく劇中で出てくる人工知能の脳の造形が、宇宙を象徴していることからも理解できるように、「人の心」は掴み切れない無限の宇宙のようなものなのです。

置いてけぼりのケイレブと観客

物語は終盤にさしかかると一変し、主人公だったケイレブはエヴァによって閉じ込められ、物語そのものから置いてけぼりにされます。それは観客が信じ、願ったことさえも置いてけぼりにするような展開です。なぜエヴァはそんなことをしたのか、ただただ悶々と考え続けることしかできません。
 
チューリング・テストの判断結果、「人の心」を持っていると判断されながら、決して「人」として扱われなかったエヴァ。その尊厳が認められないなら尊厳とは一体なんなのか? なぜ人は自由を求めるのか? なぜエヴァはケイレブの自由を奪ったのか? なぜネイサンは、エヴァに痛覚を与えなかったのか?
 
「人の心」があるとされながら人ではないなら一体何を持っていれば人は、人になるのか? そもそも「人の心」とは一体なんなのか? 同時に、私が人だと言い切れる保証が一体どこにあるのか?
 
これもまた挙げ出せば切りがないほど、本作には多くのスペキュレイティブが練り込まれ、観る者に向かって投げ掛けられます。
 
その疑問に対する答えを本作は一切述べていません。
 
それはまるで彼女の存在そのものようです。もしかすると、横にいる「人」であることを疑いの余地もない人が「彼女」かも知れません。本作が描いたs.fは、それくらい現実の真横にあるものです。だからこそ本作のあの結末に強烈な恐ろしさと「心」の豊かさを強く強く感じることができます。
 
 

スペキュレイティブ・フィクションの圧倒的な味わい深さ

 
s.fは必ずしもSFとセットのものではありません。あらゆるジャンルと相性バッチリです。中でも顕著にs.fを感じられるのはホラーです。
 
ホラーというジャンルは、恐怖が感じられてナンボのものですが、それはSF同様、一過性のジェットコースターになる場合が多いジャンルでもあります。
 
例えば“ビックリ表現”は一過性のshockerであって、horrowではありません。恐怖は劇場を出てもなお、背後が気になるような普遍的なものです。それは『エクス・マキナ』の彼女のように「今この場所にいないと断定できない」ような落ち着かないものである必要があります。
 
そして「面白い・怖い」と感じられたホラーは往々にして「終わっていない」という結末を迎えます。それはSFとて同じです。それが真横にあることを無視しなければその恐怖や不安、疑問や面白さはずっとずっと付いて回るのです。それこそがスペキュレイティブ・フィクションの最大の魅力であり豊かさであって、圧倒的な味わい深さといえます。
 
大嘘なSFやホラーなどの物語が本当のことのように思えた時、そこにはきっとスペキュレイティブ・フィクションがあるはずです。

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  • lapita
    4.3
    近未来的で、興味深い話だと思いました。 面白いのですが、途中から怖さが増してきました。 人間が人工知能を開発し、技術を極めて行くとこんなことも起こり得るのだなと思うと、不安になりますね。
  • 武倉悠樹
    3.5
     人はAIに何を見るのか。  人の似姿でありながら人ならざる、他者を見るのか。  人ならざるモノでありながら共感できる、人間を見るのか。  人とAIが恋をする物語。  AIものとしては、さほど目新しいと言う感はなかった。第三次AIブームと言われている昨今、社会全体でAIに対する関心が高まっている中で消費されたことで少し下駄をはかせてもらって受容されているかな、と言う印象。未だ、AIと言うのは、人に理解できない、人を超えていく、そう言った「怪物」の様に描かれるのか。  この所の研究のトピックに合わせ更新されている所もいくつかあり、その点は興味深く見ることが出来た。  画期的なAIを作ろうとするのが世界一の検索エンジン(言うまでもなくGoogleだろう)を有するIT企業であり、その制作過程で検索エンジンを持つ企業だからこそ持つビッグデータをディープラーニングさせることで人間の意識、特徴なりを抽出していること。また、人間を、進化生物学と言った観点から見つめ直し、意識や愛と言った、これまである種の神秘主義やロマン主義のヴェールが被されていた所にも科学的知見から切り込んでいってること。その辺りはトレンドが盛り込まれている。  ただ、そもそもAIを巡るサスペンスとして絶望的にチープなのがいただけない。脱出サスペンスの為に密室を作り上げるためだったんだろうが、あそこまで突飛な隔離施設を仕立て上げるか。杜撰なセキュリティや仕掛けにも笑ってしまう。    結論としては、愛情を抱いているフリをして男を籠絡せしめ見事自由を勝ち取るほどの知性をAIは獲得していた、AIって怖いね、って話なんだけど、その程度の所にまで頭が及ばずに、人間同士で喧嘩してるエンジニア二人が馬鹿なんじゃないのといったところ。    キョウコなる人物が言語障害を持っている的な設定で、人じゃないのに人のように振る舞うエヴァと、人でありながら意思の疎通が図れないキョウコと言うところから、うまく対照的に描き、意識やコミュニケーションの本質のような所を見せるのかなぁと期待したのも裏切られた。  最後にキョウコがネイサンを刺した行動もよくわからん。キョウコはインプットアウトプットを封じられていただけでネイサンへの恨みを積もらせていたところにエヴァが引き金を引いたってことなんだろうか。  エヴァがキョウコに某かを吹き込んだシーンが詳細に描かれていないのも興ざめ。単に秘密めかして深みを持たせようというより、実態が無いのを煙に巻いたとだけなんではと思えてしまう。  つーか、そもそもロボット三原則と言うか、人に危害を加えない様なプログラミングをさせておくものなんではなかろうか。そうでないとプロダクトとして出来損ないもいいとこだろう。それが無いならないでその必然性を描かないと。  良かったところもあった。AIと対峙し続けたケイレブが、自らの自我を疑い始める所。  それと、もう一つは全編を通して描かれている静謐で自然の色彩を取り込んだ画作り。近未来って感じの白を基調とした研究所の画と、その周囲に広がる広大な自然の画との対比。文明の手に及ばない雄大な自然の中で、異質に囲われたシェルターの様な科学技術の橋頭堡の中で、人とは何かの極北を突き詰める研究が行われているセンスは嫌いではない。
  • mai
    3.5
    ほんとはどう思ってたのか、
  • さね
    3.6
    じんわり静かに絶望する話だった。。 オカルトじゃない類のホラーに思えた。。 SFだけどCGの派手な戦闘シーンとかはない。 ジャケットに書いてあったのと印象が違ったけど、ネタバレしないアオリがすごく難しいよねこれは… 雄大な自然の中に作られた研究施設ってロケーションは素敵。洞窟みたいで美しくて、何となく不気味。そんで金持ち感がすごい。 どうしてもネイサンが気になる。劇中で描かれなかった彼の人生を想像すると、、、頭が良すぎるのも大変そうだな。 ケイレブはすごくすごく運が悪い。 エヴァの所作がとても美しくて絶妙に機械的。好き。 ところでAIの動力源はどうなってるんだろうか。それによってラストが…
  • shunie
    3.8
    DVDのパッケージの我々に訴えかけている表情が観終わった後に、とても不気味と思えた。 AIが発展しすぎた先のありえそうな1つの事件。 最初ありがちなクサイフォールインラブ系かと思わせといてのクライマックスのどんでん返しっぷりが割とすごい。 社長は絶妙な天才さと悪さを交互に出していてIT企業でのし上がってきた感がばんばん出ていてイラっと来る雰囲気が俳優の演技のうまさを感じた。
「エクス・マキナ」
のレビュー(14127件)