【映画ファン必読】構想8年!是枝監督の全作品を振り返った圧巻の是枝本とは?

2016.08.23
映画

映画に夢中な書店員

ふじわらなお

今回は書店員らしく映画本のご紹介。

誰も知らない』『海街diary』を描いた是枝裕和監督の著作「映画を撮りながら考えたこと」(ミシマ社)。

映画を撮りながら

参照:「映画を撮りながら考えたこと」 : 是枝裕和 : 本 : Amazon.co.jp

こちら辞書みたいな分厚さも納得の質の高さ。なんと構想8年。今まで監督が作ってきた数々の作品を振り返るとともに彼自身の作り手としての人生を振り返った圧巻の是枝本です。

映画ファンは必読の本書の魅力を紹介します!

まず注目していただきたいのが装丁の面白さ!

一番に目に飛び込んでくるカバーには、「39 海猫食堂」「88 グラウンド すず」「107~ 幸と母」などの言葉がたくさんの四角の中に書き込まれています。映画をご覧になっている方はもうおわかりですね。カバーは、監督による海街diaryのハコ書きです。

※ハコ書きとは、シナリオを書く前に、構成を練り上げるために作成するフローチャートのようなものです。 (出典:「映像プロフェッショナル入門」,安藤紘平,フィルムアート社)

そしてそのカバーをめくった表紙は、阿部寛主演の2007年製作映画歩いても 歩いてもの制作ノート。表紙を開いてすぐの前見返しには、是枝監督の映画第1作目である江角マキコ主演映画幻の光の制作ノート。そして背表紙の内側、後見返しには福山雅治主演の映画そして父になる準備稿に書き込まれた監督のメモ。

このように装丁を見るだけで、監督が一つの映画を作る一過程を垣間見ることができるのです

ちょっと脱線♪書店員のススメ

余談ですが、最近の本のカバーは面白いものが多いのです。例えば、9月17日公開予定の映画『怒り』の原作、吉田修一の「怒り」(中公文庫)上下巻は、全面映画スチール帯になっています。その全面帯をめくって反対側を見てください。吉田修一による「映画『怒り』撮影現場訪問記」(以前雑誌「中央公論」で掲載されたもの)を読むことができます。

怒り

参照:怒り(上) : 吉田 修一 : 本 : Amazon.co.jp

内容も濃くて必見です。カップルを演じる綾野剛妻夫木聡の役作りの徹底ぶりにちょっと興奮しちゃいます。映画公開が待ちきれない方にオススメです。

さて、「映画を撮りながら考えたこと」を通して、是枝監督を追いかけてみましょう。

世界のコレエダを作ったドキュメンタリー番組制作の日々

是枝監督といえば、誰も知らない主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞したり、『そして父になる』で同映画祭の審査委員賞を受賞したり、世界各地の映画祭に招かれたりと世界的にも有名な監督ですが、スタートはテレビです。彼の作品の土台となっているのは、ドキュメンタリー制作で培った視点なのではないでしょうか。

是枝監督は、番組制作会社テレビマンユニオンに所属し、多くのドキュメンタリー番組を制作しました。

2章3章では、主にドキュメンタリー番組を制作する上で、監督はどう社会・人を見つめてきたのか、テレビを見つめてきたのかということが描かれています。それと同時に、ドキュメンタリー番組がどうやってできるのか、どんな人たちによって創られてきたのかということも描かれていて、テレビ業界で働きたいという人は必見です。

「演出」と「やらせ」の違いはなにかという大きな問題や、スポンサーとの関係性など、ドキュメンタリーとはなにかということについて深く考えさせられます。

ここで、個人的にイチオシの是枝映画3作品をご紹介。

残酷で美しい現代版オンディーヌ『空気人形』

空気人形

あらすじ

ヒロインは、ラブドール。つまり、性的な対象として使われる人形です。冴えない中年男(板尾創路)の家で大切に扱われていました。ある日、彼女(ペ・ドゥナ)は心を持ってしまいます。彼女は街に出て、一人の青年(井浦新:旧芸名、ARATA)に恋心を抱き、彼が働くレンタルビデオ店で働きはじめます。

名女優ペ・ドゥナの熱演と可能性としての「空虚」

思考のプロセスが何層もこの映画のなかにあって、「空虚は可能性である」というひとつのモチーフに沿っていろんなエピソードがポリフォニックに進んでいて、そこは強く伝わる作品になったのではないかと思います。ー「映画を撮りながら考えたこと」p.231

ジロドゥの「オンディーヌ」という物語があります。水の妖精が人間に恋をして、最終的に男は妖精を愛したがために死んでしまうという切なくて哀しい物語です。そして妖精は愛した記憶をなくし無邪気に元の世界に戻っていきます。この映画はそんなファンタジーです。「人魚姫」や「オズの魔法使い」などがモチーフになっているそうですよ。

傑作青春映画『リンダ・リンダ・リンダ』のヒロインを演じたペ・ドゥナの名演が光ります。

今イチオシの俳優・柳楽優弥 衝撃のデビュー作『誰も知らない』

誰も知らない

あらすじ

都内の2DKのアパートで母親と幸せに暮らす4人の兄妹がいました。しかし、彼らの父親はみんな別々で、学校にも通ったことがなく、アパートの住人は母親(YOU)と長男(柳楽優弥)以外の存在を認識していませんでした。ある日、母親はわずかな現金を残して家族を置いて出て行ってしまいます。

実話を基にした傑作!是枝監督が「自分なりのリアリティー」を追求した作品

この映画は、1988年に実際に起きた子供4人置き去り事件が題材となっています。

電気を止められたアパートの中で、存在を知られていない子供たちが必死で生活しなければならないというショッキングな物語なのですが、なにより凄いのが子役たちです。演技経験のないほとんど素人の子供たちがオーディションで選ばれました。

「映画を撮りながら考えたこと」には、子供たちの内発的な演技を引き出すために、撮影以外でも兄妹みんなで行動する時間を作り、それぞれの嗜好を脚本に反映させたことが書かれています。

東京は僕が生まれ育った街でもあるし、子どもたちの目を通して僕なりの「東京論」が描けるかもしれない。彼らが見上げた東京の空をアパートの内側から描いてみたいー。

ー「映画を撮りながら考えたこと」,p.171

現在公開中の映画「いしぶみ」も必見!是枝監督の映画を観れば今がわかる

「映画を撮りながら考えたこと」を読んで感じたのは、是枝監督がドキュメンタリー番組や映画を通して、常に現代の社会問題に着目し、その内面を描き続けているということです。

現在映画『いしぶみ』が、全国各地で上映されています。

いしぶみ

(C)広島テレビ

原子爆弾によって短い命を奪われた旧制・広島ニ中一年生が最後に残した手記を綾瀬はるかが朗読しています。戦後70周年特別番組として広島テレビで放送された番組を再編集した作品です。

戦争を知る世代が少なくなり、戦争とは何か、平和とは何かを考える機会がなくなっているように思います。これを機会に、人の命も夢も簡単に奪われてしまう「戦争」のことをしっかり考えてみませんか?

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  • KOZO
    3.5
    綾瀬はるかが広島の子供達の声を淡々と朗読していく。内容はすごく辛いものだけど、音楽が少ないから感情的に見るってこともなかった。 たまに綾瀬はるかがドアップになるのにも意味を感じる。ただの語り手でなく演者として立っているのだな。 セット、低予算に見えるけど...ここで豪華にしても全く意味がないことも分かる。
  • Taul
    3.0
    朗読劇『いしぶみ』録画鑑賞。綾瀬はるか朗読、是枝裕和演出。原爆投下の朝、本川の土手に集まっていた広島ニ中の一年生321人、その手記。綾瀬の凜とした読みに引き込まれ、夏の朝の今との地続き感と一瞬からの悲惨さに胸痛む。杉村春子と松山善三らによるオリジナル69年版も見てみたい。
  • mako
    -
    《2018#172》 ❴忘れない あなたたちのことを❵ 明日8月15日は終戦の日ということでこの作品を選びました。 今年6月深夜に放送されていたので録画していました。 今作は、1969年に広島テレビで放送された「碑」(構成 松山善三 朗読 杉村春子)をもとにしています。「碑」は広島二中一年生たちの遺族から寄せられた226通の手紙で構成されました。 今作は演出に是枝裕和、朗読は広島出身の綾瀬はるか。池上彰も出演しており、当時二中一年生で生き残った方のインタビューをしています。 本川の土手に碑があります。 そこには広島二中一年生321名、教師4名の名前が刻まれています。 広島記念公園のそばにあるようです。 遺族の手紙を淡々と朗読する綾瀬はるか。その内容に胸が痛み涙が溢れ出ました。まだ幼い子達。12~14歳。 同じ位の子を持つ親として悲しく辛かったです。 広島二中の一年生たちはこの日、建物疎開をするために本川に来ていました。 そのため原子爆弾で犠牲になりました。 原子爆弾で一瞬にして亡くなったのは1/3ほど。後は大火傷など重傷を負いながら生きていたそうです。 重傷を負いながらも家に辿り着いた者、親が探しにきて身元が判った者、探しにきてもとうとう見つからなかった者。 様々な手紙が朗読されました。 この手紙で知りましたが、県外から疎開に来ていた子達もいたそうです。 原子爆弾で多くの人たちが亡くなりました。数字だけみても凄い人数です。そしてその一人一人に生活がありました。 その人たちの生活を奪った原子爆弾。 忘れてはいけない事実だと思います。 多くの人に観てほしいと思いました。 そして二度とこんな事が起きないでほしいと思いました。 今作、スコアをつけることができませんでした。
  • MasayaJoe
    3.1
    是枝裕和。山崎裕のカメラはピントが合っていなかったり、粗雑であったりいろちろ散々なのだが、なんだか憎めないところが不思議だ。 作品としてはアンバランスで、ノイジーな要素が多かった。ぼやぼやしている。 朗読劇を映画で見せるとはどういうことか。神妙な顔つきで綾瀬はるかが朗読するだけの絵。スタジオでセンス悪い美術セット、良くない撮影。うーんいまいち。 面白かったのは生存者のインタビュー。 それぞれが”生き残ってしまった罪の意識”や”生かされている感覚”に戦後を生きて来た。 と、思いきや。 ある生存者は全くそうではなかった。 彼曰く、原爆だけが戦争じゃないでしょ?広島だけを特別に甘やかす必要はないと思う、ということらしい。 ここでドキュメンタリーがいっそう面白くなる。同級生たちの名前が刻まれるいしぶみの前に立って「始めてきました。へー、こんなのあったんですね」と。何か思うことはありますか、どうですか?と聞き手の池上に促されても「いや、特に思い入れはないんですよねえ」という。 被爆した人間で、安倍政権を支持して、戦争をすることも別に悪いことじゃないと考えている保守派のおじさんはいるのかな、と観ながら想像した。ドキュメンタリーを撮りながら、こうした想定外のキャラクターに出会ってしまった時、どうやって次の展開を考えるのか。とてもスリリングだとおもう。いしぶみでは、重厚なテーマにがんじがらめになって、そこまでは追求できていなふうに感じた。森達也であれば、作品が壊れるくらいにまで、あのおじいさんを突いたかもしれないと思う。 彼の言葉は我々が求めるものとは、ことこどとく違うものだ。原爆は小学校に入って3ヶ月での出来事だった、昔のことでよく覚えていないし、友人も少なかったので、思い入れも特にない。笑を浮かべて、初めてやってきたといういしぶみの前に立つ。
「いしぶみ」
のレビュー(113件)