『DOPE/ドープ!!』は何故90年代ヒップホップにオマージュを捧げているのか?

2016.08.09
洋画

Why So Serious ?

侍功夫

ヒップホップ・プロデュース集団のネプチューンズやN*E*R*Dの中心人物であるファレル・ウィリアムスがプロデュースを担当した映画DOPE/ドープ!!が日本公開されています。

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全編に渡りヒップホップが鳴り響き、ロサンゼルスの貧困層が住む地域で、ドラッグに関わる厄介事が描かれる作品ですが、他の多くの同様のテーマを扱った作品とは異なった“感触”になっています。その理由を劇中に多く使用される“90年代のヒップホップ”から紐解いていきます。

『DOPE/ドープ!!』 あらすじ

ロサンゼルス郊外、貧困層の多く住むイングルウッド。地域のガラの悪い公立高校に通いながら好成績の優等生でハーバード大学への進学を夢見るマルコムくんと2人のパンク・バンド仲間は、今日も今日とて不良からのカツアゲから逃げまわっています。

そんな中、ひょんなことからギャング団の誕生日パーティーに参加するのですが、そのパーティーの裏では大量のMDMA(エクスタシー)取り引きが行われていました。麻薬取締り局の急襲を受け、銃撃戦の大混乱となる中、ギャングのメンバーがマルコムのリュックにMDMAと自分の拳銃、スマホをこっそり忍ばせます。何のことやら解らぬまま、様々な偶然も重なり、大量のMDMAは宙に浮いた形でマルコムの手元に残ってしまうのです。

黒人が大量のMDMAを警察に持っていけば確実に疑われてしまうし、街に出て売りさばくにも治安が悪い地区で気弱なマルコムには部が悪い。大学入試の面接も近づいている。かわいい女の子も気になる。エッチなこともさらに気になる! さぁ、どうするマルコムくん!?

カウンターとしての「ニュー・スクール」

主人公のマルコムくんは90年代のヒップホップが大好きで、髪型も当時のヒップホップ・アーティストが好んだ“ハイトップフェイド”でキメています。日本ではEXILEの関口メンディーさんがしていたことでも有名だと思います。この設定は単なるノスタルジーではなく、物語やマルコムくんのスタンスを象徴しているのです。

1984年、Run-D.M.C.のデビューによりヒップホップ/ラップミュージックの爆発的なブームが到来し、LLクールJやパブリック・エネミーなど多くのアーティストがチャートを賑わすことになりました。

彼らは道端や空き家を占拠したパーティを開催するストリート発のアーティストたちで、当然のように不良感度は高くなり、ラップの歌詞(ライム)も攻撃的で傲慢なものでした。例えばRun-D.M.C.の初期代表曲「キング・オブ・ロック」は歌いだしからこんな調子です。

「オレはロックの王だ! オレより上はいねえ! マヌケなMCはオレを陛下と呼べ! オレの王国は堅牢だ! リタイヤするまでロックし続けるぜ!」

90年代に入ると、ヒップホップのサウンドやラップという手法には共感しつつも、攻撃性や尊大な態度には反発するアーティストが登場します。デ・ラ・ソウル、ア・トライブ・コールド・クエスト、ジャングル・ブラザースなどです。

彼らはビジュアル・イメージに可愛らしいイラストや花柄を使い、ライムも物語性のある情けない話だったりします。ア・トライブ・コールド・クエストの曲「I Left My Wallet In El Segundo」は“ヒマだったんで友達誘ってカルフォルニアのエル・セグンドに行ったら、美人に見とれて財布を忘れた”というものです。

彼らの新しいスタイルは「ニュー・スクール」と呼ばれ、Run-D.M.C.らのゴリゴリしたスタイルは相対的に「オールド・スクール」と呼ばれることになります。

ステレオタイプとの戦い

『DOPE/ドープ!!』劇中、不良にからかわれて逃げ惑うマルコムくんをギャングのリーダー格が呼び止めます。マルコムくんは恐々と近づくのですが、予想外な展開をしていきます。

「なんだ、その頭は? MCハマーみたいなズボンまで履いて。」

「……90年代のヒップホップが好きなんです。パブリック・エネミーの「It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back」やジェイZの「The Blueprint」は最高です!」

「「It Takes ~」は88年だし「The Blueprint」は2001年だぞ?」

「あ…… でも、2作とも90年代のスピリッツが入ってます!」

怖いギャングだと思っていたら自分よりもヒップホップに詳しくて、むやみに殴りかかったりしない。ということが笑える場面になっています。しかし、よく考えれば趣味で音楽に詳しいギャングだっているでしょう。ギャングだって呑気にしている時間もあるし、恋心を上手く伝えられずにドギマギもしているハズです。

『DOPE/ドープ!!』が描くのは、人間の多様性普遍性です。

近年、アメリカではただ黒人だと言うだけで警察官に撃ち殺される事件が多発しています。イスラム・ワッチをかぶっていただけでテロリスト呼ばわりされたり、不当な逮捕をされた人もいます。

人種や性別、宗教は人間性を見定める要因に、なる部分もあるかもしれませんが全てではありません。むしろ判断材料としては、ほんの僅かなヒントくらいにしかならないものです。

男だから女性が好きとは限らないし、逆もまたしかり。イスラム教徒はテロリストではないし、黒人だからギャングではない。美男美女だったら即ちブリブリのイケイケとも限りません。逆に、男女や人種に関わらず恋をすればドキドキしてしまうし、どんな強面なギャングでも恐ろしい出来事を前にすれば怖気づくこともあります。

『DOPE/ドープ!!』主人公のマルコムくんが好きな90年代ヒップホップの楽曲は「黒人でヒップホップだからって、オラオラした感じじゃないけど、ノリはハードコアな奴と同じくらいイイっすよ。」という多様性と普遍性、双方への賛美を象徴しているのです。

選ぶのはキミだ!

『DOPE/ドープ!!』は貧困層の住む地域でのドラッグ問題を題材に社会の偏見や無理解を描くといった、いくらでも重くなるテーマを持ちながら、あくまで軽くて楽しいコメディとして作られいるあたりも実に「ニュー・スクール」的です。

マルコムくんはのっぴきならない問題に対し暴力では無く、現代的なストリート・ワイズで切り抜けようと奮闘します。その滑稽で愉快な姿は大いに笑えながら、優しく心に響いていきます。

また、劇中にはマルコムくんが好きな90年代ヒップホップの名曲がひっきりなしにかかっています。中でもブラック・シープの「チョイス・イズ・ユアーズ(選ぶのはキミだ!)」は実に象徴的です。

基本的にはキマリのいいアジテーションを連呼しながら、韻を踏み倒しているダケのノリノリで楽しい曲ですが、端々に暴力性の否定を織り込んでいます。

楽しく上手く世渡りして困難に立ち向かうのか? カンタンだけどリスクも高くて人を傷つける暴力的な方法をとるのか?

『DOPE/ドープ!!』は、選択肢が常に私たちそれぞれの手の中にあると、説教臭さを完全に排して楽しく愉快にノリノリで訴えるのです。

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  • pecori
    2.9
    流し見だったからアレだけど、アレ?って感じだった。 リリーが良かった。キスの入りがエロい顔面舐められたい。
  • 青いむーみん
    3.0
     スラムのインテリギーク高校生がハーバード進学のためにダークサイドに堕ちる映画。  差別やイジメで真っ暗になるのではなく仲間三人で明るく乗り越えていくので辛い感じにはならない。ワル共も本当の極悪人は出てこないし、最初から最後まで辛い気分になんてならず楽しい気持ちで見られるのは間違いない。が、しかしなかなか残念な部分も多い。  この映画はバンドの絵面がメインでポスター制作などの宣伝がなされているがバンドシーンはそう多くない。ただその多くないバンドシーンがクソ。これがかなり痛い。本当に演奏していないどころか録音も本人達じゃなさそう。本人達が録音してなくても、それっぽく聴こえるようにはするべきなのに。そんなにいい加減にするなら本筋にバンドは全然関係ないからバンドの設定はなしでも良かったんじゃないだろうか。  映画的カタルシスな部分は理解はできるがあまり納得行かない。結局あれだけ悪いことをあの三人はやってるわけだし、最後はちゃんとしっぺ返しを食らってほしかった。このまま大学生になったらまた同じことを彼らはやるだろう。ピュアなまま悪の道に進まざるを得なくなったというバランスが崩れたらもう嫌な話になってしまう。  ヒップホップの知識は必要ない。というかあんまり音楽は関係ない。明るい気持ちにはなれるけど特に残ることはない映画だった。
  • 雲珍肛門之助
    3.5
    頑張るオタク達。
  • itomannnn
    3.6
    すんごい雑にいうとムーンライトドチャクソ明るくした版って感じ ファレルウィリアムズ?が制作に参加してるらしいです!
「DOPE/ドープ!!」
のレビュー(3913件)