カンヌで男優賞受賞のヴァンサン・ランドンインタビュー!その抑制的な芝居の魅力とは

2016.08.25
女優・俳優

2015年のカンヌ国際映画祭でヴァンサン・ランドンに男優賞の栄冠をもたらした『ティエリー・トグルドーの憂鬱』がまもなく公開されます。『母の身終い』などで知られるヴァンサン・ランドンは、コメディからシリアスな作品まで幅広くこなすフランスを代表する名優。

今回ランドンが演じるのは失業中の51歳の中年。障害を持った息子と妻を養っていかなければいけないが希望の職にはつけず、やっとの思いで得た仕事はスーパーマーケットの監視員。自らも厳しい境遇にあるティエリーですが、スーパーで貧しい人々が起こす万引きなどを監視する立場に。淡々と仕事をこなしながらも自分と似たような境遇の人々を追い詰める立場に、次第にティエリーは苦しみを憶えるようになります。

そんなどこにでもいそうな男の苦しみをセリフも少なく、抑制された演技で体現したランドンはカンヌ国際映画祭男優賞とセザール賞主演男優賞を受賞しています。そんな彼の芝居の秘訣をインタビューしてきました。

ティエリー・トグルドーの憂鬱

普通の男を演じる難しさ

ーティエリーという役は役作りが非常に難しかったんじゃないでしょうか。ロダンのような彫刻家の役(ヴァンサン・ランドンの次回作はロダンの役)なら特徴をつかみやすいと思いますが、今回のような普通の男を演じるのは逆に難しさがあるように思います。

ヴァンサン・ランドン(以下ランドン):だからこそ、私はカンヌで男優賞をもらった時、とて嬉しかったです。大きな映画祭の賞は一般的に、(難病ものなど)とても難しい役に挑戦した役者に与えられることが多いですからね。オーギュスト・ロダンの役を演じた時には、私も8ヶ月間毎日8時間彫刻の勉強をしましたが、今回の映画ではそうではありません。ティエリーという役にはわかりやすい方向性がありませんでしたので、まるでそれは無人島で自分の内面を掘り下げるようなアプローチでしたね。

ティエリー・トグルドーの憂鬱メイン

すごく抑制された芝居でしたね。セリフもなく佇んでいる姿、あるいは背中だけしか映されていないのに何かを表現しているというか、絶えず観客が、ティエリーが何を考えているのか想像させるような芝居を心がけていたように見えます。

ランドン:おっしゃるように私はこうした、演技で観客がいろんなことを空想でき、想像力を掻き立てさせるような演技が好きなんです。観客がその人物に共感したり一体化するには、セリフは必ずしも必要ではないんです。この役を演じるにあたって私は受け入れること、なされるままに周りで起こっていることを傍観すること、そして内面で苦しむことを心がけました。

映画に真実味を持たせるために

今回プロではない俳優と共演でしたが、新しい刺激を得られましたか。

ランドン:そうですね、まずとても心地よかったです。彼らはとても真面目ですし。特に素人の俳優さんたちは映画の中で演じている人物と、プロの俳優よりも近い人たちです。そのおかげで映画にとても真実味や誠実な部分を与えることができたと思います。そして彼らとの撮影はほとんどワンカットで行われました。技術上の問題があった時のみテイクを重ねていますが、彼らのおかげで映画はとても実人生に近いものになったんじゃないでしょうか。

テイクを重ねることで芝居が嘘っぽくなってしまうのを避けたということなんでしょうか。また彼らをあなたはどのように彼らを助けていたんですか。

ランドン:私がなにかをしてあげなければいけないということはありませんでした。映画の撮影というより実際に人生を生きているような感じで彼らと接していました。彼らから自然に出てくるものを映像に残すのが重要でしたから、テイクを重ねると彼らの持っている自然さがなくなってしまいますし。それと彼ら素人に何度もテイクを重ねることの意味を納得してもらうのも難しい作業です。

ティエリー・トグルドーの憂鬱サブ2

自然な芝居を作るための様々な工夫にも関わることですが、どれだけ脚本に忠実に撮影が進められたのでしょうか。

ランドン:概ね忠実に作られていますよ。この役を演じるにあたって二週間はシナリオを読み込み、台詞を覚えましたが、後から監督がシナリオを取り上げてしまったんですよ。手元に脚本がない状態で、前日に監督からメールで翌日の撮影の指示がきます。動きの指示などがあって、この場所ではこの台詞というような感じでしたが、最終的にはオリジナルのシナリオに近い形に完成しました。

観る人はきっと、彼に共感する

ー演技も傍観することが大事だったと仰いましたが、ティエリーの寡黙さは日本人には理解しやすいものですが、欧米ではどのように受け止められたのでしょうか。

ランドン:この映画は欧州で大きく成功しました、特にフランスでは大ヒットしたんです。ティエリーは残酷なシステムには従わないと決意することによって、観客はシステムに抗う模範的な例を見て、自分もティエリーのようになりたいと思ったんじゃないでしょうか。

家庭の中でのティエリーが非常に印象深く、家族3人がとても美しいと思いました。夫婦でいがみあうこともないし、奥さんも彼のことをとてもよく支えています。

ランドン:この家族はとてもセクシーだと思います。妻は妻の役目を務め、夫は夫の役目を務め、互いに尊重しあっています。この2人はお互いがいるからいろんなことができるんだと思います。彼らは金銭的には貧しいかもしれませんが、心理的な面、感情的な面ではとても豊かな人たちだと思います。

ティエリー・トグルドーの憂鬱サブ1

障害を持った息子についても同様です。この家族は強く結びついています。最後にティエリーが決断をする時も、妻も彼の決断に同意してくれるだろうと確信を持っていたんです。ティエリーをとりまく環境は家庭の外では失業など非常に厳しい状態ですが、家庭の中では平和です。ですから家の外で何があっても彼は幸せなんです。

ティエリー・トグルドーの憂鬱』は8月27日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

(C)2015 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

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  • Haruka
    4.9
    私の感覚では この映画のテーマは尊厳死ではないのを前提に。 衝撃的だった。言いたいことはただ1つだし、序盤からそれは分かってる。分かってるのに、分かってるのに、分かるのに…そんな気持ちのまま迎えるラストシーンは号泣しすぎて、映画が終わってもずっと泣いていた。 たった1つの気持ちを伝え合うために 母にとっては、もうああするほかなかったんだよ。 また観たいです。
  • Risa
    3.9
    尊厳死。 私もむやみな延命は望んでない派だから 賛成かも。人生を、自分で選んで生きてきたと、自分を納得させる死に方と言えるかも。 人に流されず、自分の理性で折り目正しく生きた 人生に 終わりを告げる。 人によっては自殺と言うのも解るけど、私は賛成。醜い病床、醜い死を見た事ある人は理解できるはず。 始まってすぐの、台所のダイニングテーブルでの食事のシーンは『愛 アムール』の2人の食事の最初のシーンと重なってしまう。 美しい白髪。 わざとギリギリまで完成させないパズル 完成させるのは最後の楽しみ。 いつも さっぱりな母親だが、最期は 息子とのお別れに泣いて、 死を噛み締めて死ぬ。 死を受け入れる作業を静かに、丁寧に表現してある。 最初から最期まで、画面から伝わる色味は とても素直。 揺さぶられたなぁ。
  • Yuki
    3.0
    【字幕】 過去観賞 重いと言うか、でかいと言うか…。 生きる事、死ぬ事の考えや意味をもう少しだけ考えたくなるお話でした。 自分ならどうするか。 私はスイスに行きたい。
  • slow
    -
    出来心から過ちを犯し、前科を背負うことになった中年の息子。末期の脳腫瘍と宣告された初老の母。出所後行くあてのない息子は、1人暮らしの母の家に身を寄せることになった。 母は尊厳死に自らの終を委ねる覚悟をする。 親と子になったその時から、母は強い自尊心から上手く愛を伝えられず、息子は自分は愛されない人間なんだと卑屈から抜け出せなくなった。折り合わない2人が過ごすその時までの日々が、この作品には記録されている。 ステファヌ・ブリゼは怒りを言葉でダイレクトに表現するので、その前後の淡々としたシーンとのギャップが凄い。しかし、だからこそ繊細な部分も際立って見えてくる。 また、ハネケの『愛、アムール』と比べて観ると、内容以上に考えさせられるものがあった。愛する者に迷惑を掛けたくないという気持ち。その気持ちを受け取る側の選択。そこには1ミリでも希望や後悔があったのだろうか。見落としてはいまいか、という自らへの不信感と死の恐怖がぼうっと浮かぶ瞬間に鳥肌が立った。 両作ともとても静かで、人物の命と感情を大切にした映画だったように思う。
  • OneEyedJOKER
    -
    「身終い」(みじまい)これまた巧くてきれいな言葉を造ってタイトルにしたものだ。 この物語は、お互い愛し合いながらも、上手く意思が表せない母と子が、来たるべき別れの時までいかにその凍りついた関係を溶かせることができるかという一種のサスペンスを孕んだ"再生"の物語であって"死"についての映画ではない。 セリフもさほど多くない。 静かで、虚ろで 切なくて、それでいて最後に残る深い余韻は、晴れた空から降り注ぐ陽が染みわたるような不思議な充足感に満たされる。監督の特徴でもある「沈黙」の間合いが美しさを醸す秀作。
  • coro
    3.7
    哀しみで心が折れる…
  • chanmaru
    2.5
    どちらも折れない頑固な親子。 母親は息子を帰らせるために犬に殺虫剤をまぜたのか?それとも帰ってこないなら面倒みてくれる人がいなくなるから殺そうとしたのか、犬かわいそう。 尊厳死……自分の死だから好きなようにするのはわかる。病気で長くないのもわかってるなら苦しまずいきたいのもわかるけど、自殺だよなぁ……なっとくいかないなぁ………。
  • 紫色部
    3.0
    2016.5.14 CS ダルデンヌ兄弟に近いような即物的で静謐な描写の連なりが迎えるラストが良い。エマニュエル・セニエの役柄は結局何だったのだろう…
  • love1109
    3.8
    末期のがんに侵され「尊厳死」を望んだ母親が「あなたの人生は幸せでした?」という介在人の問いかけに言葉を詰まらせるシーンに息を呑んだ。いずれやってくる死の瞬間に訪れる究極の問いかけ。何のために生きるのか、誰のために生きるのかを自問せざるを得ない、心にいつまでも深く静かな余韻を残す映画だ。
  • Tor
    3.1
    自殺幇助が合法であるスイスで自殺しようとする母と息子の物語。重たいテーマで、淡々と話が進んでいく印象。もっと心に訴えるものがあると良かった。
  • だぶ
    3.0
    安楽死を希望してる母とムショ帰りの息子の最後の親子喧嘩映画
  • fleur
    4.1
    記録
  • moonystars
    2.0
    2015/2/28
  • かわとも
    2.6
    尊厳死。 どう捉えたらいいのか。 最善とは、だれにとって? 答えば出るのか。 選択の一つ。
  • 恵里
    1.0
    あの息子がクズすぎる。  当たり前のことを言われて「俺を怒らすから悪い」  んん??バカなのかこいつ!!  んでお母さんの動向を見てたらいきなり犬を殺そうとするし!  いやいや!自分は苦しまない死に方選んでおいて、犬は中途半端な殺鼠剤で苦しめるなんて!  尊厳死が認められる国なら犬の安楽死もしてくれるだろうよ!  結局自分のことしか考えない親からはそれなりの子しか育たないってことです。  たまたまボーリング場で会った女もすんなり泊まらせるし、誰一人として共感も出来なかったし興味も持てず、意地で最後まで観た。  ラストもそこでラストなの??って終わり方。
  • KanaeYokoyama
    3.0
    考える。母親との関係。
  • マッサージ屋
    4.0
    刑務所帰りの元トラック運転手のアラン(ヴァンサン・ランドン)は仲が良くない母親イヴェット(エレーヌ・ヴァンサン)の家で世話になる。 トラックの仕事にも就けず、母親とも喧嘩が絶えないアラン。 ある日、母親が使う戸棚の中に彼女が末期ガンでしかも尊厳死を幇助する協会の書類を見てしまう・・・。 フランス映画でしかもミニシアター系独特な静かな作品です。 説明のような台詞も無く、基本的には登場人物の表情や行動で感情を読み取る作業が必要な作品なんですよね。 厳格な母親といい歳してまともに仕事もしない息子の揉め事が繰り返される。 息子には途中でナンパで出会った彼女と良い仲になりますが、それも息子のしょーもないプライドが邪魔して云々…と、とてもイラつかせる(笑) そして終盤なんですけど…台詞が少なくアッサリした印象で見ていても「え?」となるんですが見終わった後ジワジワくるんです。 親子の絆って本来こういうものかな〜とも思う。言葉じゃないといいますかね。 その分、非常にリアルな感じがする作品でしたね。 日本では“尊厳死”は認められてませんが、考えさせられましたよ。
  • よしたか
    3.9
    [母の身終い] フランス映画です。 こちら、尊厳死、テーマの1つです。 でも、母と息子の親子関係、がメインテーマだと、ボクは思います。 脳腫瘍を患い、尊厳死、での死を決断する年老いた母と、顔をあわせれば 言い争いばかりしてしまう息子。 フランスでの法律では、尊厳死は、 認められていません。 スイスの施設での最後を選び、 母は、その為の準備を進めて行きます。 もし、自分の家族、親がそんな 選択をしたらどうするのかな… 必死で説得する?意思を尊重する? 突然の別れ、よりも、ちゃんと、 さよならが言えた方が幸せ? これを書いていて、思い出して、 また考えさせられました。。。 [母の身終い] 2014 1 浜松シネマイーラにて観賞しました。
  • かほ
    2.7
    あっさり。 尊厳死が認められてて良いなぁと思った。
  • 田邑麻依
    -
    母ちゃん死なないと、大事さわかんないバカ息子。涙よりイライラ。
  • 白猫
    3.5
    究極の選択を決心した母親と息子の絆を描いた人間ドラマ。尊厳死がテーマ、結末は考えさせられます。「生きている」と「生かされている」の違いは何か?自分で考え、自分で行動する、だから人は生きていると感じられる。延命治療で生かされるより、生きている間に選択した母の考えを尊重したいと思う。
  • updownthemovie
    3.4
    余韻が長く続く。自分の走馬灯がぐるぐる回るというか。2013年12月15日 名演小劇場
  • ちびまる
    3.5
    脳腫瘍を患い治療の施しようもない年老いた母、イヴェットは誰に相談するでもなく尊厳死を選ぶ。 静かに準備を進めていく彼女。意思確認の席で「あなたの人生は幸せなものでしたか?」と問われ答えられない母の姿に息子は何を思っただろう。 迷惑ばかりかけて、いがみあった母だからこそ辛いものがあっただろうな。 お隣さんとのお別れのシーンも静かで優しい時間が流れていて秀逸だな、と思った。手作りのちょっと焦げたパウンドケーキとコーヒーでの最期のお茶会。お別れのキスとハグ。 自分のままで数少ない愛する人たちに愛してると伝えて最期を迎えられた事はある意味幸せな事かもしれないけど…尊厳死って本当に難しいよ(p_-)
  • schwan
    4.0
    心に一本の蝋燭を灯していたい その静かに揺らめく炎のような意思を貫くことができたら... と、いつも思う。 吹き消すのもまた、自分の意思であれたらいい。
  • coco
    -
    フランス映画には欠かせないヴァンサンランドン。美しく過ごす母の、美しく死ぬ為の選択…。日本の美意識と同じようなものを感じた。カーディガンの着こなしまで美しいわ~。ヨーロッパ映画見ない人には物足りないエンドかも。所々のちょっと救いのある会話とか、雰囲気の変わるシーンの入れ方がうまい。樹木希林のコメントもよかった。
  • Yuya
    4.1
    "尊厳死"って 昨今度々話題になってる いわば人生の選択肢のひとつな訳で 賛否はあって当然なんだけど どんな状況下にせよ かなりの覚悟と強さは必要なんだなと思った 素直になれない互いの不器用さで微妙にすれ違う母と息子という関係の脆弱さを軸にする事で 下手に絵に描いた様にハッピーな家族のそれよりも よりリアルに1人の女性の決断として 観る事ができた 残された刹那の時を慈しむ姿には 自然と涙が零れて "尊厳死"の呼び名の意味を ちょっとだけ理解できたような気がした
  • ise
    4.0
    尊厳死の話。泣きました。
  • よよよ
    3.4
    犬が取り合えずかわいそすぎて。でも毒での尊厳死を選んだ自分がどうなるのか観たくて実験でもったのかなあと想像してみたり。 すごく説明の少ない映画だったけどそのおかげでただ尊厳死選んだ母と戸惑ってるけどどうしようもない息子の関係集中できた。
  • げろまる
    3.4
    息子を家に戻すために愛犬に毒を盛る母にドン引きした午後2時
「母の身終い」
のレビュー(157件)