【トークイベント】岩井俊二×真鍋昌平が『リップヴァンウィンクルの花嫁』を紐解く!

2016.11.02
邦画

映画と現実を行ったり来たり

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独自の美学でファンを魅了し続ける、岩井俊二監督。

小説家、作曲家など、多彩な顔を持ち、最近は海外にも活動の幅を広げています。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』BD、DVDも発売され、また今年の東京国際映画祭にて同映画を含む岩井俊二監督の作品の特集上映も行われるなど、今もなお監督の映画が注目されています。今回、代官山「蔦屋書店」にて対談形式のトークイベントが開催された模様をお伝えします。

対談者には「闇金ウシジマくん」シリーズの原作者でもあり、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』が公開中の漫画家の真鍋昌平さん。

共通の友人でもある脚本家・北川悦吏子さんを介して知り合い、お酒も酌み交わした事のあるほどプライベートでも親交のあるお二人。現代を切り取った作品を生み出す二人が両者の作品に対してどう観ているのか?熱烈したトークイベントの様子をご紹介します。

誰でも主体性を持って生きているというわけではない

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岩井俊二監督(以下岩井監督):僕、本当にウシジマくんのファンなんです。最初読んだ時は衝撃を受けました。1年後くらいにもう一度読み返したのですが、「LGBT」をテーマにした内容があり、これはやられた!傑作だと感じました。一見闇金のヤンキーものに見えつつ、実はとてもデリケートな人間観察と人間描写を含んだ奇跡のような作品に魅了されました。

真鍋昌平さん(以下真鍋さん):今、サングラスの中で泣いてますよ(笑)中学校を卒業し、漫画家になる事は決めていたけれど、親や教師に高校だけは卒業した方が良いといわれ、工業高校に通いましたが、そこに僕の居場所はありませんでした。周りは不良のようなクラスメイトばかりで、毎日勝手に弁当食べられたり(笑) 

あるとき勇気を出して、本気で抵抗しました。その時相手には鼻で笑われてしまったのですが、その後からはいやがらせがなくなりました。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観ましたが、黒木華さん演じる主人公の七海って、主体性がなく、どう生きていいか分からない中で、綾野剛さん演じる安室にどんどん巻き込まれていくじゃないですか。

父親はあまり口うるさく言うタイプではないし、母親は天然で、いつも親の顔色をうかがいながら、自我を出さずにバランスを保って生きてきた。

そんな状態で社会に出て、人に合わせる事でなんとか生きていくしかない感じ、人に利用されてしまう感じが、七海だからって言うよりは誰にでも起こり得ることだと思いました。本人は主体性を持って生きているって思うのだけれど、本当はそうではない。

岩井監督:まさしくそうです。この映画を観た一定層の方で、“なんで彼女はこんなにも主体性が無いのかとイライラした”って言われますが、僕が観察している限り、実は世の中のほとんどの人が、大学受験にしろ、結婚式にしろ、葬式にしろ、それが自分の人生の大切な節目であったとしても、自覚なしに、うっかりいろんなサービスにのっかって生きてしまっていると思います。

大企業の社長だって何か重要な決定事項を霊媒師に聞いてしまったりもするだろうし、そういう弱さって誰もが持っていると思うんですよね。

真鍋さん:僕も占い師にみてもらって、運気を上げる為に白いタキシードをきて花で書道した事あります(笑)

岩井監督:その描写ってウシジマくんにもありますよね(笑)人ってみんなそれくらい弱かったりするんですよね。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』のタイトルの由来とは?

岩井俊二監督トークイベント1

真鍋さん:「リップヴァンウィンクル」て、元々アメリカの小説の主人公ですよね?慣用句だと【眠っている人】とか、【時代遅れの人】とか…その言葉には、具体的なイメージはあったのですか?

岩井監督:はじめは特にイメージとかはなくて、ふと看板で見かけた言葉を切り取って、とりあえず書いてました。『野獣死すべし』という映画作品の中で、松田優作さんが刑事に銃を突きつけながら、そのアメリカの小説の「リップ・ヴァン・ウィンクル」を語るシーンがあるのですが、その内容において浦島太郎的な部分など、重なるイメージがあり、作品を書き終わった後にリンクする部分が見つかりました。

真鍋さん:後から、それが繋がったのですね!

岩井監督:この作品ってお酒を飲むシーンがいくつかありますが、元々他の作品で描いていたお酒を飲むエピソードのモチーフを持って来ています。お酒のシーンをきっかけにその都度世界が変わっていくような所はすごく繋がったと思います。最初から何かをシンボル化するのは難しくて、制作していくうちに偶発的に見えて来ることってあるんです。

【ネタバレ注意!】『リップヴァンウィンクルの花嫁』の気になるあのシーンの意図とは?

リップヴァンウィンクルの花嫁

(C)RVWフィルムパートナーズ

真鍋さん:お酒と言えば、とても印象的なシーンがあって、僕の勝手な解釈なのですが、安室がお酒を飲みながら裸になるシーンについて、はじめは笑っていますが、途中から泣いているじゃないですか。

そもそもあの人物自体は悪魔的な存在で、いくつも偽名を持っていて、どういう人間なのか分からないような感じだけれど、あのシーンで彼自身が自分自身をさらけ出したような印象を受けました。僕はあのシーンで七海と安室と母親が通じ合ったように感じたんですが、実際はどういう意図でつくられていたのですか?

岩井監督:元々、あのシーンは泣くとは決まっていたものではありませんでした。撮影を進めていくうちに綾野君のことをよく知るようになって、もしかしたらこのシーンで彼は泣くかもしれないと感じ、それをそのまま彼に話してみました。そしたらそのことについて彼もしっくりきたみたいで。物語中には描かれていない安室の過去が見えるような気がしていて、そこの解釈は観客に委ねている部分もあります。

この作品自体が四季の流れを描いているので、そういった部分で、撮りながらいろいろ話し合って変えていく事も出来た所は良かったです。

今の時代に合った技術で、求められているものを作ること

岩井俊二監督トークイベント2

真鍋さん:実写は制約が多いんですよね?役者のスケジュールや、プロダクションの考え方を受けとめたりといろんな制約がある中で、作家性を持つことは重要だけれど、そういう過程も含めて実写制作が出来る人と出来ない人の差は何でしょうか?

岩井監督:何をもって作家性というかにもよるのですが、分かりやすいのは、自分で物語を考えているかどうかという部分だと思います。

僕は、ウシジマ君のLGBTの話は心を込めて1カットカット撮れますよ(笑)「ウシジマ君」もそうですが、漫画を実写化する時に人間の絵と背景の絵をどういったレンズ感でみせるかという課題があるのですが、実写の場合はワイドレンズで背景がいい感じにぼけてくれますが、漫画でうかつにそれをしてしまうと何も伝わらなかったり、なくなってしまうから、やっぱり描き込むしかない。だから、その1場面1場面を実写化するとき、制作者がどれだけそこを理解しているかってとても重要です。

真鍋さん:すごい!そのとおりです。また涙出そうです(笑)今回の岩井さんの作品は場面に応じて背景の印象を大きく変えている印象でした。それは意図していたのですか?

岩井監督:最近はカメラの機能が良いから、その部分はうまく写るんですよね。昔は奥行きを出す為に現場でいろいろ工夫して、鏡越しに撮っていました。世界的には当たり前のことでも日本の場合は技術音痴なところもあって、あまりそういった部分を考えていない人も多いと思います。新しい技術の勉強会などでも、そういう場所で全然興味を示さない技術者も多かったんです。

真鍋さん:機材の進歩に現場の人間が追いついていない部分があるのですね。

岩井監督: 新しい編集のソフトも、「周りが使い始めたから使うか」って感じで、実写の世界はオタク性が弱くて、オタク性の強い人はアニメの業界にいってしまっている感じがします。

ただ、アニメ業界にも問題はあって、『花とアリス殺人事件』っていう作品を作ったのですが、それも4Kの表現って今では普通に出来るのに、日本で使ったのは僕が初めてでした。機械的には問題なくできるのですが、昔ながらの慣習みたいなものがあって難しい部分もありました。

真鍋さん:撮る技術が変わっていく中で、作品を伝える方法に変化はありますか?

岩井監督:個人的にはお客さんがどこに集まるかという部分にこちらが対応していくしかないと思います。劇場が減っている中で、お客さんが求めている物、集まる場所に対して私たちが濃密な物をその場所に送り込んでいく事が大事だと思います。

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普段は異なるフィールドで活躍する二人の貴重な対談は、終始ユーモアを交えながらも、それぞれの制作への熱い想いが垣間見える貴重な時間となりました。今後もお二人それぞれの今後の活躍から目が離せません。

リップヴァンウィンクルの花嫁』はBD&DVD発売中。『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』大ヒット上映中。

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  • マチカ
    4.8
    あらすじを前に見た気もするのだけど、全く次の展開が読めなくて、どうなるのかハラハラしながら長さを感じさせず、最後まで見ずにはいられなかった。 面白さと美しい映像と素敵な役者。やっぱりすごいなあ。
  • 5.0
    凄く美しい。 世界は残酷だと思う。この世界を、しあわせだと、そう感じてしまうひとが居るということさえ、残酷だと思う。その残酷さを美しいと言えたら、もうどこにも帰れない恋なのだと思う。 こんなに現実的なのに、こんなに絵本の中みたい。愛だけが夢を見させる。夢から覚めさせるのも、愛だけだ。 肌蹴たシャツの襟元をそっと直したり、涙をキスで拭いたりとか、そんなきえてしまいそうな愛が、くっきりと刻まれた街。 荷造りされた過去はそっと解かれていく。自分とは真反対の、美しいひとの指先によって。 ゆっくりと紐解かれた私という存在の、あなたという証明。触れてくれた指の温度、きっと忘れないだろう。心に触れられたことだけは、いつまでたってもおぼえているものだから。 題名もすごく好きだなあ。 カムパネルラ、すてきだなあ。私も銀河鉄道の夜が大好きで、ジョバンニって一時期ハンドルネーム使ってたんだ。 涙が印象的。こんな泣き方をさせられるのは、皆がそこに居るからなんだと思う。七海も真白も居る。そこに。 映画でCoccoさんを観るのは二度目なんだけど、やっぱり私の大切だった友人にかぶってしまって、胸が苦しい。特に今回のCoccoさんの姿は、すごくすごく、彼女に似ていた。七海が、真白を好きな気持ちと、似ているなってそう思った。生き写しみたいな恋だった。あんなふうに私も彼女を好きだったんだ。だからとても、苦しかった。 私たちが居なくても世界は回っていくことについて、いつも話していた。そんなとき彼女も言ったんだ。「幸せすぎるとだめになる」って言っていた。だから私とは居られないとそう言っていた。遠くの街を二人で歩いた夜だった。そのことを凄く鮮明に、思い出して、確かな言葉に、美しいすがたに、傷つけられた。 思えば切ない恋だった。きっと一生忘れない恋なんだろう。私にとっても。彼女は、どうだろう。 今までずっと苦しくて、泣きたいばかりだった想い出が、美しく姿を変えてくれた気もしてて、 Coccoさんの姿と、彼女の姿が重なって、少しだけ自分のことも今までより愛せそうな気がした。 だからCoccoさんは凄いなって思った。真白はほんとうに、とても、そこに居るみたいだった。ほんとうに七海のそばに居て、無邪気に笑っているみたいだった。 そんな想い出もいっしょにこめて、いっぱいの星をあげておきます。 Coccoさんの歌は凄く良いな。なんとなく、ダンサー・イン・ザ・ダークのビョークを思い出す。ぜんぜん、ちがうのかもだけど。 黒木華さん、はじめて映画を観たのだけれど、ああ好きだなって思った。映画だけで、そのひとまで好きだと思えるって、やっぱり素敵な映画ってことなんだと思う。 あっ、あと、ラッドのボーカルの野田さんが出演していたのに驚いた。 私ね本当に久々に、一万年振りくらいに我が国の映画を観たのだけれど、こんなに良い映画があるんだなってほっとした。少し愛国心が育った。また我が国の映画を観たい。 それからやっぱり女は最高だなって思う。女の人が好きとも思えて、女でよかったとも思えた。常に思ってるけどあらためて。しあわせである。女に生まれてよかった。 2017/7/28
  • じゅんこ
    -
    はじめはハラハラしたけどいつのまにか映画に引き込まれていた
  • たいき
    2.0
    これはもうホントにわけわからん 笑
  • しきぶ
    4.5
    3時間もあったなんて忘れるくらい引き込まれた。華ちゃんだからできた演技なんじゃないかと思います。ウェデイングドレスのシーンも美しいけど、最後空に見えない婚約指輪をはめた手をかざすシーンがなんとも印象的。綾野剛の役ははまったくもっていい人じゃないんだけどなんか憎めなくてやっぱり好きになってしまう。
「リップヴァンウィンクルの花嫁」
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