【映画『何者』を3倍楽しむための原作ガイド】一対の物語「何者」と「何様」

2016.10.14
邦画

映画に夢中な書店員

ふじわらなお

10月15日公開映画『何者

何者 メイン

(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社

佐藤健有村架純菅田将暉二階堂ふみといった、今をときめく若手俳優陣競演の超話題作です。

監督は演劇ユニット「ポツドール」の主宰で、大きな反響を呼んだ池松壮亮主演映画『愛の渦』の監督である三浦大輔ということで、映画ファンは絶対に見逃せない作品となっています!

そして原作は朝井リョウの「何者」。ということで今回はこれから『何者』を見に行くかたに向けて、原作本「何者」と、8月末に新しく発売されたアナザーストーリー集「何様」を紹介したいと思います。

朝井リョウとは

朝井リョウといえば「桐島、部活やめるってよ」。2012年公開の映画は傑作でした。

桐島

平成生まれの作家として初の直木賞を受賞しています。大学卒業後は就職し、2015年までは会社員と作家を両立していました。

また主演の佐藤健とも親交があり、日本テレビ「ZIP!」の取材で、「拓人と朝井リョウがすごく僕の中で繋がったんです。朝井リョウを演じようと思って。」と佐藤健は語っています。

観察者・拓人の視点で就活を描いた「何者」

何者本

出典:「何者」:朝井リョウ:本:Amazon.co.jp

あらすじ

「何者」は、就職活動に臨む5人の男女の物語です。

ふとしたことがきっかけで1つの部屋に集まり、就活対策をすることになった5人。ルームシェアをしている拓人(佐藤健)と光太郎(菅田将暉、理香(二階堂ふみ)と隆良(岡田将生)のカップル、光太郎の元彼女で、拓人が思いを寄せている瑞月(有村架純)。

読んでいてヒリヒリしました。私自身が就活生だった数年前の気持ちは、5人の登場人物全てに当てはまるような気がしたからです。「何者」かになりたいとあがいている以上、今でも変わらないかもしれません。

しっかり準備して就活に臨んだ理香と瑞月、気楽に取り組む光太郎、一歩引いた目で見つめる拓人、就活自体を放棄している隆良と、それぞれスタートは違います。ですが、就活が進むにつれて、トントン拍子に進んでいく人とそうでない人がでてきます。

どうして自分は選ばれないのか、どうして彼(彼女)は選ばれたのか。

焦りや嫉妬、友情と恋愛、あらゆる感情が渦巻き、それが、SNSを通して露呈する時、彼らは自分自身を見つめることができるのでしょうか

観察者・拓人

この本は、常に拓人の視点から描かれています。

拓人は観察者です。瑞月から「出た、拓人くんの分析」と言われるように、周囲の人間を分析する癖があります。

だから、読者は常に拓人の目を通した登場人物たちを見つめることになります。彼の目から見た登場人物たちを見つめることで、「そう、いるよねそういう子」「うわ出た意識高い系~」と、登場人物たちをちょっと上から視点でカテゴライズすることができるのです。

映画『何者』のポスターに、それぞれの名前だけでなく、「地道素直系女子」、「意識高い系女子」、「空想クリエイター系男子」といったカテゴライズがなされています。

何者

(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社

日頃よく無数にいる同級生や同僚をカテゴライズしてわかったつもりになるのと同じように、観客がすんなりと彼らを「なるほどこんなタイプね」とポスターを見るだけで受け入れさせますポスターを見るだけで、彼らをわかったつもりになって、私たち観客は映画館に入っていってしまいます

それは、拓人の視点で物語を読み進めている原作読者と同じ状態です。

そして、最後、きっとあなたはズキリとさせられることでしょう。

何にズキリとさせられるかは、原作か映画を観てのお楽しみです。

拓人の知らない、反対側の世界を描いた「何様」

8月末に新しく発売された単行本「何様」。

何様

出典:「何様」:朝井リョウ:本:Amazon.co.jp

「何者」発売以降に「小説新潮」や「yomyom」で掲載された作品と、書き下ろし作品1篇をまとめた本です。のっぺらぼうの顔に、光にかざしたらようやく見える程度の輪郭が描かれていることが印象的な表紙です。

2つの始まり

天真爛漫でチャラそうに見えるけれど純粋。何も考えてなさそうなのに、誰よりも順調に就活を進めていく光太郎は、菅田将暉のイメージにぴったりで、もっと彼を見たい!と思いましたが、その欲求に応えてくれた1篇が、「水曜日の南階段はきれい」です。

原作ではさらっとしか扱われなかった、彼が出版社を目指した理由が、高校時代の瑞々しい青春物語として描かれていて、とても甘酸っぱいです。

そして、原作ではガツガツ就活を頑張る意識高い系女子と、インテリのアート系男子という、ちょっとニガテなタイプ・・・と感じてしまった理香と隆良の出会いが描かれる「それでは2人組を作ってください」。

留学、インターン、ボランティアに参加し、英語がペラペラという完璧すぎる女の子の本音と過去が明らかになります。そして、理香の視点から見た隆良は、なんだか不器用でかわいいのです。

なくてはならない存在、サワ先輩とギンジ

映画では山田孝之が演じるサワ先輩。拓人のことを静かに見守り、言うべきことはビシッと言う、絶対的な安定感がある存在です。社会人になったサワ先輩が、相変わらずのかっこよさと優しさを醸しだす「逆算」は、隠れファン必見です。

ギンジは、拓人が決別した元演劇仲間です。大学を中退し自分の劇団を立ち上げたギンジに対して拓人は歪んだ憎しみを募らせます。雑誌に取り上げられたりと有名になっていくギンジおじさんの演劇を観にきた甥の目からみたら、彼はどう見えるのか。唯一の書き下ろし「きみだけの絶対」。常にギンジという人間自体は描かれず、彼はいつも誰かの目を通して描かれているというのが面白いです。

大人になってしまった人たちの人生

瑞月の両親の別居が原因で、瑞月は就活の方針を変えざるをえませんでした。その両親になにが起こったのかを、瑞月の父親と関係を持った女性の視点で描いたのが「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」。

拓人を落とした面接官をはじめとした人事部と、新人面接官の苦悩を描いた「何様」。つい最近まで選ばれる側だった社会人が、人事部に配属され選ぶ側に回ることへの当惑、苦悩が描かれています。

前者の女性は、企業合同説明会などのマナー講師を務めています。つまり彼らは「何者」の主人公たちの対極の立場にいる人物です。就活生を教える立場であり、人生を左右する立場でもあり、その存在価値を揺さぶる立場でもある彼らもまた、悩み、葛藤しています。

「何者かになりたい」「何者なんだろう、私」の先に、「何様だよ、自分」と戸惑いながら仕事をしている大人がいます。「何様」は「何者」の数年後の姿なのかもしれません。

生きるとは、何者かになったつもりの自分に裏切られ続けること

何者 サブ12

(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社

「何様」の帯に書いていた言葉です。「何様」は作品集なので、描いている時間も人もバラバラのため一概にそうとは言えません。

ですが「何者」が、まだ何者にもなっていない登場人物たちが何者かになるために模索する物語なのだとしたら、「何様」は、「何者」かになったつもりで、あるいは何らかの役割を担わされた大人たちの戸惑いであり、何者でもない自分に戻ろうとするあがきでもあると感じました。

就活生だけでなく大人なら誰でも共感できる2つの「何者」

(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社

「何者」は就活生、もしくは就活前の学生へオススメ。そして、「何様」は、社会人にオススメです。

もちろん、映画『何者』を観たあとに、両方読んだら3倍楽しめます

より深く、映画を楽しむために、秋の夜長は2冊の「何者」で自分自身を探求してみませんか?

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【朝井リョウって一体“何者”?】鑑賞前に知っておきたい「朝井作品楽しみ方指南書」

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  • Ally
    3.9
    こわかった
  • omoriririri
    3.0
    登場人物誰ひとりとして共感できず、、、こんな人たち世の中にいるー? セリフといいカメラワークといいトーンといい最初1時間は発狂したくなるほどキモい。それを引きずり過ぎて、最後のカタルシスもちょっと生ぬるいまま終わり、すべてリアリティない感じがしてしまった。。 いい原作だし、いい役者ばかりなのに…大根監督か吉田監督がやったら絶対に良い作品になったはず。
  • HirokiYano
    3.7
    就活をリアルに描いてるようでそうでもない
  • アイリ
    3.0
    就活したことないしな
  • yuria
    3.5
    小説が先 話はおもろい 演出が微妙 就活はこわい
  • -
    就活を経験したからこそ面白い作品。 逆に、じゃないと何も面白くないんじゃないか?っていう疑問。 キャストはかなり忠実でよかった。 でも、山田孝之ずるくない? 院とはいえ大学生無理すぎじゃない?
  • 桃香
    2.5
    キャストで客集めしてる 期待していた分、残念な内容だった。
  • 中庭
    1.7
    佐藤健と有村架純は、外から見ると得体が知れなくて本当に良い役者だ。この映画にも「桐島」が登場する。
  • HarunaTanaka
    3.3
    就活を思い出してゾッとした。面接で落とされ、GDでやらかし、追い詰められていく感じ。どこかで誰かを否定して、自分を肯定してあげないと立っていられなくなる。そんな辛くて辛くて仕方ない感じがよく描かれてる。 この映画を観て思うのは、もう就活なんてしたくないってことです。
  • みさみさ
    4.2
    最後の展開がこわい
  • josiepussycats
    3.5
    現代の若者を容赦なく投影したような映画
  • ヤギミルク
    3.3
    就活生の意識の高さ(見栄と言った方が近いかな?)を描いた作品。十数年前の自身の大学生活を擬えているようでこっぱずかしくなり、スクリーンをあまり直視出来なかったw 登場人物全員「いるいる」だったし、Twitterが有ろうが無かろうが、一般的な大学生ってのはいつの時代もあまり変わりないのかも知れない。佐藤健にとって悪魔のような天使な有村架純ちゃんが印象的。
  • a
    -
    記録
  • よこちん
    3.0
    現代的でしたー
  • MoeKitagawa
    2.0
    ハマらなかった。
  • natsumare
    4.7
    就職活動を舞台に描くリアルすぎる物語に胃が痛くなるような映画でした。 SNS、人間関係、朝井リョウさんの描く小説の中のリアルは現実と変わらないし現代を鏡みたいにそのまま表現されるので恐ろしい。 汚い自分の裏の顔がバレたら? 小馬鹿にして笑って見下してたアイツのほうが優れていて、文句ばかり垂れる自分は何者にもなれない。 たぶん誰もがちょっとは持ってるそういう部分を汚いありのまま見せるところが、刺さるし、わかる、と思ってしまう。 何者かになりたくて足掻く若者のリアル。
  • すーさん
    4.0
    2016.11.1 冒頭のタイトルバックからしびれた。就活なのに。 自分は、彼らは「何者」を「演じていた」のか。 「青春が終わる。人生が始まる」。
  • ひロキ
    2.7
    記録
  • メルヘン
    3.5
    2016年公開。原作は映画鑑賞後に読破した。 主な登場人物は就活生5人とサポート役の先輩1人だけだ。就職活動を通して自らの存在価値について苦難するさまを、SNSとりわけTwitterを使って描く。個人が不特定多数に自分の存在を発信できることに慣れている世代は共感できるだろうが、その文化を知らない人はこの作品を理解するのは難しいだろう。ちなみに私自身は「裏アカウント」を所有している身というのもあり、十分に理解できたと自負できる。 過剰な説明台詞はなくストーリーはシンプル。登場人物の感情が揺れ動くところはしっかりと観客が分かるように間を置いている。いわゆる映画的な「見せ場」は後半にしかないため冗長に感じるかもしれないが、絶え間なく登場人物たちの感情を汲み取っているので地味ながらも退屈しなかった。それに上映時間は97分だ。 主人公のイメージを演劇を用いて視覚的に分かりやすく表現するのは映画ならではだ。ここで、彼自身の冷静に分析している自分を他人から評価されたいという欲が、また、有村架純演じる瑞月が彼のありのままを受け入れてくれる存在であることが明確になる。 映画は原作と違い決定的なシーンを新しく作っており、映画鑑賞後の原作は質素に感じられる。登場人物の設定などは説明的だとは思わないが、小説というものの特性上か主人公の思考を追うようにすべてが言葉で説明されている。長々と台詞を書くだけでも十分に理解できそうだが、それはタブーなのだろうか。対して映画では裏アカウントを用いることはあるが、基本的には登場人物間の会話や間合い、表情で感情表現しているため押し付けがましさを感じることがない。 印象強いのも原作から新たに加えたシーンばかりだ。二階堂ふみ演じる理香にコテンパンにされたあと家を出ようとしたとき、そこにはプライドを捨てて生まれ変わった彼氏がいる。『桐島、部活やめるってよ』のラストシーンを彷彿とさせるシーンだ。なお原作ではこの流れはまったくなく、代わって理香へ同情ができるようになっている。 そして今までずっと馬鹿にしてきた彼氏に先を越された主人公が向かった先は、ずっと自分の観客(=すべてを受け入れてくれた)存在である瑞月の元へ。ここで初めて「走る」という映画的なアクションがある。息を切らして何も喋らない主人公を前に、瑞月が演劇は面白かったと言うことで、完璧なものでなくても、格好悪くても、何か自分をさらけ出す行動(=演劇)をすることがこの物語における正解だと明示される。続く面接では着飾った言葉を捨ててありのままの自分で挑むさまがあるので、主張性が一貫していて解りやすい。 脚本が秀逸なだけに不満点が挙げられてしまうのが惜しい。これは原作でもそうだが、サポート役の先輩が何の前触れもなく完全なる「正解」として描かれていること。理香への酌量の余地がもっと欲しいところだ。 また、カメラワークからすると、必要以上にアップショットが多いことだ。大スクリーンで見ているので、引くことによる感情の見せ方もしてほしいと感じた。これが一番のマイナス点だ。
  • Shion
    -
    ☆☆
  • no
    -
    記録
  • 海月
    3.7
    過去に見た映画記録。 原作が圧倒的に面白すぎたので、映画はふつーって感じ。 演劇出身の監督ならではのラストシーンの演出は面白かった。
  • cffmn
    3.4
    記録
  • 山下大輔
    3.5
    就活で悩む大学生の話やったから入り込みやすかった。就活あんましてないけどww
  • ふじぱんだ
    4.3
    心をナイフでグリグリされるような嫌な映画。 それは自分に心当たりがあるからなのだけど。 就活は関係ない、何かの踏み絵になる映画だと思う、是非ご覧下さい。 おそらくほとんどの人はそう思わないでしょうが、有村架純が演じた瑞月はすごい嫌なやつだ。聖ぶってるのがたまらなく苦手。
  • みのむし
    3.3
    人間の嫌なところをよく描いているなって思ったけど、人間の嫌なところを描いているから余計むしゃくしゃなった。
  • fallback
    -
    岡田将生のウゼエ演技が好き。
  • りり
    -
    2016
  • azusa
    3.8
    就活する人は観ましょう。 夢を追いかける事に悩んでる人にもオススメ。
「何者」
のレビュー(18269件)