今、人を描くということ。生きるということをもう一度考える映画『永い言い訳』

2016.10.28
邦画

ARC監督/脚本/映画祭ディレクター

篠原隼士

突然、愛する人(愛していた人)を失くした人々は、どんな感情になり、何を思い、どう生きていくのか。

生きることをもう一度やり直す男の物語に、我々は映画の骨頂を見ることになる。西川美和は、世界の映画界に絶対的に必要だと再認識させられる。そんな彼女の最新作『永い言い訳』の魅力を紹介したい。

メイン

妻が亡くなる、そこから永い永い言い訳が始まる。

人気小説家の津村啓、本名 衣笠幸夫(本木雅弘)は美容師である妻 夏子(深津絵里)に髪を切ってもらい、旅行へ行く彼女を見送る。その晩、別の女を激しく抱いて翌朝起きたら、夏子が死んだと連絡を受ける。

どうしても救いようのない男の生活、彼の妻となった女の死、そこまで淡々と見せつけられ『永い言い訳』とタイトルが登場。つまり我々は幸夫の言い訳を映画館で見て、2時間もの間、答えのない問題に頭を悩ませるのだ。

本木雅弘

子供というキーワード

灯と食事

私も映画を作るものだが、ここ数年は子供たちを描くことに力を注いでいる。子供というのは映画の中に「大人では見つけ出せない、あまりにも不思議な発見」をもたらしてくれたり、守るべきものという印象を強く与える。

本作では幸夫の妻、夏子と共に旅行に行き、命を落としてしまった ゆき(堀内敬子)の夫、陽一(竹原ピストル)と幸夫が一緒に食事に行くシーンがある。

陽一の留守中に彼の子供たちの面倒を幸夫が見るということになり、子供たちのシーンで溢れることになる。

その子供たちを演じた2人の子役たちが、素晴らしかった。

真平役=藤田健心

陽一の長男役を演じる。彼が演じた真平は、長男である=強くなくてはいけないという感情を持っている。母親の死に悲しむ様子も見せず、陽一の留守中は妹の面倒をみるとか、しっかり勉強するとか、料理を作るとか、大宮家の母親役を一手に引き受けている。

彼の中にある、本当はどうしたいという感情と、長男としての強さ、心も体も変わる時期、この難役を見事に演じきった。

灯役=白鳥玉季

真平の妹を演じる。彼女が演じた灯もまた、悲しさを胸の内に秘めている。アニメが好きで、カレーが好き。そして何よりもお父さんとお兄ちゃんが好き。だけど、嫌いなところもある。素直で、真っ直ぐで、その感情をコントロールしているようで、だけど全面に出し切ってしまい、お兄ちゃんと喧嘩する。

この子のお陰で、我々は一番安心感を得られたかもしれない。なぜなら、彼女は特に「自然体」であり、この映画の苦しさや悲しさを跳ね除ける笑顔、声、瞳をしている。

西川美和、小説家、映画監督。

原作「永い言い訳」を読んだ時、「この本は今年ナンバーワンだ」と思い、感情の高ぶりを様々な人にメールやFAXで送ったことを覚えている。一言で言うならば言葉がうますぎると感じた。この作品の映画化が決まったと知った時は、本当に嬉しかった。

映画を作るために脚本があり、その脚本家と監督は違う人が務める場合もあれば、脚本家と原作者が違う場合もある。

本作はそれらを西川美和が1人で担当した作品だ。原作、脚本、監督というものを1人の方が行うことは、ある意味とても効率的で、非効率的なのかもしれない。原作を書いた人が、それをもう一度映画の土台となる脚本に変身させる時、どんな感情なのか、想像するとその楽しさと辛さは計り知れない。

私の中で西川美和監督は映画と文字の天才であると思っており、過去に出版された「きのうの神さま」に出会った時、あまりの素晴らしさにしばらく熱が冷めなかったことも記憶に新しい。

初めて出会ったのは『ゆれる』をレンタルで拝見したとき。見終わった後の感情は、憎しみ、怒り、そんな類のもので、でも一瞬の光があったことを忘れない。あの一瞬の光に希望を感じ、生きて行くのだと10代だった私の心を強く揺さぶられた。

生きる強さと弱さ

大切な人が亡くなったら、どうすればいいのか? 泣けばいいのか、狂えばいいのか、笑えばいいのか、分からない。それが真実だと私は思う。例えば身内の死に涙を流さない人を他人は、冷たいやつだと言うだろう。しかし、人の悲しみなんて、誰にも決められない。

本作に登場する幸夫と真平は、劇中で唯一「大切な人が死んで泣かなかった」という言葉で明確に描かれる。幸夫と真平の出会いは、そんな大切な人の死を忘れるためのものだったのか。

真平と幸夫

私は、この映画でこの2人の関係が最も記憶に残った。彼らは互いを「真平くん!」「幸夫くん!」と呼び合う仲だ。2人とも妻が、母が死んでも泣かなかった。

劇場で是非、大切な人を突然失った彼らの生きる強さと弱さを見て欲しい。幸夫に訪れる突然の妻の死と、突然の子育て。求められる自分、子供たちから必要とされなくなったときのジェラシー。そしてもう一度、妻を愛する。

この映画は、愛の映画だ。

(C)2016「永い言い訳」製作委員会

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  • 4.1
    主人公、初め最低やなぁって思いながら観てたけど、物語が進むにつれ心がちゃんと大人になってく感じ、すごく良かった。 もっくんいいなぁ( ^ω^ )子供とのシーンはちょこちょこ笑えて、でも泣けて、とてもいい映画だった
  • cinema
    3.8
    不倫相手と科学の人が似ていたので自分で違うストーリーを作ってしまった…
  • tempra
    -
    安定の西川美和作品。終始続くヒリヒリとした緊張感はさすが。 とても一言では言えないような感情、関係性、過ごしてきた時間を、とても一言では言えないような描写で描き出す。 それは、人の醜さをさらけだすことに容赦がなく、それでいてあたたかさもあり、美しい。 本木さんは実に綺麗。 子役たちは出色の出来。 それにしても団地が出てきたり、子供たちが出てきたり、師匠(是枝裕和)に似てきましたな。
  • ググ
    3.8
    丁寧で繊細に描かれていて優しい。 でも根はしっかりしてる。 西川美和さんの作品見るたび胸の中が空気に押し込まれる気持ちになる。
  • つちやま
    4.0
    記録
  • まるぽちゃ
    4.0
    西川監督のストーリーは、普通の生活の中に一つ事件が起きて、そこからひとの心情が大きく動き出す。 その心情が細やかでいつも揺さぶられる。 やっぱり好きだー!西川監督! 女性なのにどうしてこんなに男性の心を表現するのがうまいんだろうか。
  • こんち。
    4.1
    上手すぎて、あいかわらず唸ってしまう。 キャラクターや生活水準の違いの描き方。子供との関わり方とか、師匠の是枝監督の「そして父になる」が思い出される作品ではあるけど、西川監督ならではのポイントは多々あって、以下ちょっと箇条書き。 ・挟まれるワンショットだけで季節の移り変わりを鮮やかに表現する ・そこだけ夢のようにまぶしく美しい海のシーン ・オープニングからタイトルまでの短いやり取りのシーンで完全に幸夫がどういう人かを見せ切る。 ・さらに自分のことしかみていない、幸夫のキャラクターの描き方、畳み掛け方。骨壷を持ってタクシーに乗り込むも気にするのは自分の前髪(それを横目で見ているマネージャーの池松壮亮)、エゴサーチという表現も今っぽくてよい。 でも、しかし。あえて何か言うとすれば、それでもモックンはかっこいい。いつなんどきでもかっこいい。それはちょっと誤算なのかもしれない。もちろん根っこにある素直さやチャーミングさを見せるチューニングはされている筈なのだけど、それでも。実は本木雅弘の演技をちゃんと観たのは初めてだったのでなんとも言えないけど、私はそう思ってしまった(何気にジャニーズ好きのアンテナが反応してるのかもしれないけど…どうなんだ)。 そして黒木華ちゃんはいつもかわいくて最高。完璧。けどすごい既視感。完全に岸辺の旅の蒼井優ちゃんの立ち位置であった。 途中、竹原ピストルと愛し合いはじめたらどうしようとちょっと思ったのは内緒。
  • ma
    4.0
    ふたりでお米を研いでるところでポロポロ泣いた。
  • 角本栞
    3.5
    こどもも本木雅弘もかわいい
  • dominokshark
    1.0
    2017-3-26
  • くわばらゆい
    3.4
    子供がめちゃくちゃかわいい。人間の心を考える映画でした。
  • わこ
    3.7
    長男の気持ちに1番泣けた。自分が母親だったらみたいな気持ちでずっと泣いてた。下の子は小さいからだけど、上の子ってしっかりしなきゃみたいな気持ちを自然と持っちゃうだよね。それを母親目線で見ると泣ける。母親なったことないけど、、笑 もっくんの人間味ある感じもよかったな。髪が伸びてたりする時間軸も映画としていいよね。
  • こぬき
    4.0
    泣いたわー! 西川美和監督はスゴイ! 子役スゴイわ。 男の子も女の子もスゴイ。 髪を切れなくて、ずっと伸ばしてたんだね。 竹原ピストルが熱いんだよな。 あーいう男は理想。 でも多分生まれ持った天性。 俺には努力してもなれない。 あんな男と暮らせば、妻は絶対に幸せになれると思う。
  • 3.4
    人と人のわかりあえなさが描かれた良作。だけどこれは幸夫と夏子の物語なのかな。大宮家の再生ばかりにフォーカスが当てられていて夏子が幸夫をどう思っていたのか、幸夫は夏子を愛し始めたのかが見えてこないなぁと思いながら観てました。 最後の涙、散髪が全てなのかな。ちょっと強引かなって思った。
  • osowa
    3.5
    監督も俳優さんも良いので、良い映画なんだろうなと思いつつ、なんか知らんが避けてきた。 映画館で見られてよかった。 モックンは本当に演技が上手い。 何度も「いやいや、これは演技だ」と思い直すんだけど、やっぱりイヤな男に見えてしまう。すごいね。
  • asuka
    4.5
    「人生は他者」 これってすごく深い言葉だと思うし、理解がまだ追いつかない。 主人公の幸夫くん、こと本木雅弘さんのクズっぷりに白目むきました。 ある意味人間臭いんだよね。 だけどらあることを転機に幸夫くんの変わって行く姿、本当に人が変わったようだった。 竹原ピストルさんの演じる陽一さんは本当にまっすぐな男の人で、本当に奥様を愛していたんだなと。 助演男優賞は納得。 そして何と言っても子役の2人。 しんちゃんに、あーちゃん。 可愛かったー!! ちゃぷちゃぷローリーが頭から離れなくなる謎の作品! youtubeに動画あってびっくりした(笑) 何度か泣いてしまうシーンはあったけど、ラストにかけてボロボロ泣けてしまった。 ぶっちゃけ予告を観た感じ 「えー、この主人公まじでクズじゃん!?あんま観る気しないなー」 って思ったのに、観てよかった! そんな作品。 このポスターの家族の光景…。 何だか切なくなります。 そして、私の職場でよく聞くチャイムの音がヘンデルの「調子のよい鍛冶屋」であることがこの作品を観たことで判明(笑)
  • KAZU
    4.0
    記録
  • さとうゆか
    -
    本木雅弘の台詞、ひとつひとつがめちゃめちゃエグかった… すべてのシーンが心にすっと入ってくるちょうどいい見せ方ですごくよかった
  • JunpeiUmetsu
    3.6
    つらい
  • ぬーの
    3.9
    衣笠祥雄。2215試合連続出場記録をもつ「鉄人」 よくこんな感じで紹介されるから、体が頑丈なだけだったおっさんと思ってる人も多いかもしれませぬが、通算安打歴代5位。通算本塁打歴代7位。通算得点歴代5位。通算打点歴代10位とまあ頑丈な上に打者としてもすげーおっさんだったんですわ。 これを機に自分の名前フルネームでググってみたのですが、全く知らない同姓同名の人のツイッターアカウントがヒットしただけでした笑 そんな鉄人と同じ名前の役で奮闘するもっくん。 このもっくんの心情をどう捉えるかが映画のポイント。 (ピッチャーの投げたボールを捉えて、スタンドに放り込むのが得意だった衣笠祥雄の話は一旦置いといて…笑) もっくんくそやろー!バカー!サイテー!深津絵里かわいそー!って思う人がいるのは分かります。とても。 でも自分はそこまでもっくん責める気にはなれなかったなー何ですかね。男だからですかね。 自分はどっちかっていうともっくん応援しちゃってましたね。 子供と触れ合って生き生きしてくるもっくん、もっくん居なくても大丈夫だよな雰囲気になる誕生日会で拗ねちゃうもっくんを微笑ましいのうと思って見てました笑 自分は結婚すらしたことないけど、子供好きだし、子供に懐かれたら嬉しいし、結構共感できたんだよな〜 助演男優賞、竹原ピストルさん初めまして。どうも〜いやー初めて演技見させて頂きましたけども、いい感じだったんじゃないですか? ゆくゆくはピエール瀧的ポジション狙っていく気ですか?このこのー! 別の作品で出会えることを楽しみにしてますよ〜 おやおや池松くん!ちょっと久しぶりじゃない? 一時は俺の観る邦画。 池松壮亮、菅田将暉。一回休んで、菅田将暉。一回休んで、池松壮亮。菅田将暉、池松壮亮、菅田将暉。 みたいな感じでしたけど笑 ディストラクションベイビーズ以来だから、今年会うのは初ですね。 あけおめ〜 元気してた〜? ディストラクションベイビーズの時といい、海よりもまだ深くの時といい、君は本当に脇役でも丁度いい感じ出すよね。 なんか、丁度いいんだよね。 監督が使いたくなる気持ちわかるよ。だって、丁度いいんだもん!(何がだよ笑) 今作でも丁度良かったですね!素晴らしい。 しかしまあちょっと期待値が高すぎたってのはあるのかな〜 よくわかんないけど、見終わった時にもっと何らかの感情を抱く様な気がしてたのですが、何だかフンワリ、ボンヤリとしているなう笑 映画の内容も作りもまっっったく違うけど、リップヴァンウィンクル見終わった時の感覚に近いものがありますね。なぜか。 リップヴァンウィンクル見終わったあとにフンワリボンヤリするのは自分の中でも何となーく分かる気はするんですけど、これ見てフワボヤしてる自分は何なんですかねえ。 フンワリボンヤリをフワボヤとか言っちゃってる自分何なんですかねえ笑 ゆれるの時もそうだったけど、やっぱり自分は分かりやすいハッキリした映画が好きなんだと思います! 視聴者の想像にお任せしないで! 視聴者に考えさせないで!考えるの苦手だから!難しいの嫌いだから!笑 子供がすーげー良かった。助演男優賞は長男に。助演女優賞は妹ちゃんにあげたいです。 あんな子供なら、そりゃもっくんだって奮闘しますわ!! 男性女性で意見が分かれそうな映画。 いろんな人のレビューを漁る旅にちょいと出発しようと思いやす。 ほな、また!
  • 乙郎さん
    3.5
    http://otsurourevue.hatenablog.com/entry/2016/12/15/182935
  • wamarkta900
    4.3
    自分に同じことが起きたらどうなるのだろう。 そう思わず、見続けるのは無理でした。
  • aya
    -
    しょたんと
  • 萌々さん
    5.0
    記録
  • 3.5
    人生は他者である!
  • downy
    3.9
    やっぱり西川美和監督好きです
  • miaow.
    4.0
    待望の西川美和作品。 なのに開始数分でモックンのクズっぷりに挫折しそうになるもなんとか堪えてよかった。 途中で、モックンが色々飛び越えて母性やら何やらが芽生えて継母になるつもりでいるんじゃないかとハラハラしたけどそういう方向性じゃなくて安心。 大宮兄妹素晴らしいよ!!
  • ハル
    4.2
    子役が良い。
  • 4.5
    幸夫は自分の悪を認めたくないというプライドそして罪悪感によって、妻の死から目を背け、必死に逃げようとする。亡くなった妻の友人の子どもの面倒を一生懸命見たのもある種の現実逃避であったのかもしれない。でも陽一さんや子どもたちと関わっていく中で、他人と真剣に向き合おうとする幸夫さんの再生物語。結局どれもこれも言い訳に過ぎないのですが、、、子役の自然な演技?がより一層この作品を深めていました。
「永い言い訳」
のレビュー(5320件)