母親の偉大さを考えさせる傑作『湯を沸かすほどの熱い愛』は日本中を包み込む愛の映画

2016.10.28
邦画

ARC監督/脚本/映画祭ディレクター

篠原隼士

いよいよ10月29日に公開が迫った『湯を沸かすほどの熱い愛』。この映画の見所を「母親の愛」という視点から紹介したいと思う。あなたもきっと宮沢りえ扮するお母さんに癒されること間違い無し。こんな映画見たかった!!

余命2ヶ月。宣告を受けた母親の最後の愛情。

湯をメインポスター

自主映画『チチを撮りに』で注目を浴びた中野量太監督の商業映画デビュー作となった本作。とにかく明るくて元気な双葉(宮沢りえ)は突然の余命宣告を受ける。双葉はその現実を受け止め、残された時間でやるべきことの実行にうつる。

双葉の決めたやるべきことは大きく3つ。

①家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる

②気が優しすぎる娘を独り立ちさせる

③娘をある人に会わせる

物語はこの3つの実行に奮闘する双葉と共に進行することになるが、何より注目して頂きたいのが、双葉の愛の溢れ方だ。母親というのは、太陽のようであり、常に笑顔で、優しく、包み込んでくれる・・・ なんていうのは、あまりにも理想的で、現実的には受け入れがたいキャラクターに思える。

しかし宮沢りえ演じた双葉は、すんなりとそのキャラクターを超える母親の強さを示しており、観客である私たちはいつの間にか、双葉の子供になっているような感覚になってしまう。これは凄い!

母親の溢れるほどの愛

湯を①

男性が描く「母親」像

まず本作のポイントは、監督が男性であるということ。女性監督は男性を描くのがうまいと私は思う。反対に男性監督は女性を描くのがうまい。異性を描くということは、同性を描くことよりも観察力が問われることなのだ。

本作で監督は「強くたくましい母親」を描いた。具体的に伝えるならば、以下のような母親像だ。

●どんなときでも笑顔
●誰にでも優しく、誰にでも本気でしかる
●自分の弱い部分を見せない

こうやって並べると、母親に求めるものが大きすぎて、甘えているような気がしてならない。しかしこれは見方を変えると、母親という存在は代々、様々な人に頼られる大きな存在であったということ他ならない。

「当たり前の存在」に感謝を伝えた映画

人間が本能的に母親の愛を求めるのは、すべての人間が母親から生まれたという当たり前のことに行き着く。自分という一人の人間がここに生きているのは、どんなに屁理屈をこねても母親のお陰であることは確かだ。

そんな「当たり前の存在」に感謝を伝えた映画映画の中で母親に対して何度も「ありがとう」と言っているような錯覚をさえも起こせた

母親の愛に包み込まれた本作の登場人物に関して以下紹介する。

映画を彩った、男と女。

湯を②

宮沢りえ

宮沢りえは、優しさ、冷たさ、女性らしさ、何より人間らしさを持つ女優だと思う。ベテラン女優のたくましい母親役は違和感を感じることなく、こんなお母さんいたな〜と懐かしさを覚えるほど役にぴったりはまっていた。

私が宮沢りえという女優に特に驚いたのは、「余命宣告後の姿」。

体は生きる力を失ってきているのに関わらず、信じられないことに双葉からはどんどん生きる力が湧いてくる。この絶妙な芝居が完璧なのだ。これは見事だった。

何よりも彼女からは、女性としての美しさが溢れている。

杉咲花

湯を③

また現れてしまった・・・ 衝撃的な女優。双葉の娘、安澄を演じた杉咲花。学校ではいじめられ、家では甘えん坊。そんな彼女に迫り来る様々な残酷な現実。現代を何とか生き抜く女の子を見事に演じた。

未成年の女子というのは、感情のコントロールが自分では出来ているつもりで、実はすごく不安定なものだ。そういうリアルな現代の10代が杉咲花という女優の手により、真っ直ぐ画面からはみ出るほど伝わってくる

オダギリジョー

私の年代では、オダギリジョーーといえば「仮面ライダー クウガ」がはじめに出てくる。仮面ライダー好きの男子にとっては、クウガは革命だ。平成ライダーシリーズの幕開けという記念すべき作品だが、過去の仮面ライダーと何が違ったのか? それは主人公=オダギリジョーが弱いということ。平成版仮面ライダーは「弱い男が正義の味方になる」という過去のヒーローの根底を覆したのだ。

本作でオダギリジョーが演じるのは双葉の夫、一浩。彼は双葉の元から離れ、別の家庭で父親として暮らしていた。オダギリジョーの持つ最高の芝居=怒りたいが、憎めない、なんとなくいい男が全開だ。一浩以外はみんな女の新生幸野家。オダギリジョーのそんなイケメン具合がこの一家に波風を起こす。

松坂桃李

松坂桃李もまた、スーパーヒーローデビューだ。本作では茶髪全開の、悩める若い男、拓海を演じる。北海道からヒッチハイクをして旅を続ける中、高速道路のパーキングエリアで双葉に出会う。たった数時間共にした彼でさえ、双葉はギュッと抱きしめることになる。

強がり続けた拓海はその温もりを忘れられない。自分が何をしたいのか、何を求めているのかも分からない拓海は双葉から生きる目標を得るのだ。そんな拓海の再出発を、松坂桃李は輝かしい笑顔で演じてみせる。

今年、あなたを包み込む大切な映画となる。

以上書き終わり振り返ると、本作の魅力以上に「母親」という存在の偉大さを書いていたのかもしれないと感じた。涙を流した回数など、こういった場合記述する必要はないと思うが、あえて伝える。私は終始泣いていた。

なぜ、こんなにも温かな気持ちで涙を流すのだろうか。なぜ劇場を出ると、母親に電話したくなるのだろうか。

映画は、時として私と家族を繋げてくれる。

それを私は「映画の奇跡」と呼ぶ。みなさんにも是非、映画の奇跡を感じて欲しい

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

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  • yu
    2.5
    素敵なお話です。 出演者最高。宮沢りえの表情の演技がいい。 言葉で言い表せない感情が滲み出てる。 人に愛を惜しげもなく与えられる人。 それは、きっと誰より強く愛を求めている人なんだろう。 辛くて悲しい思いを受け止めてきたからこその、強さと、優しさ溢れる皆んなのかぁちゃんだった。 愛は伝染しますね。ただ、甘えられる関係では無く、共に育つもんなんだって感じた。 出演者の演技が良いせいか、 少しストーリーが単純に感じたのは私だけか。 特にオダギリジョーは、なんか違和感があったなぁ。。 それぞれ俳優のポテンシャルが、もう少し生かされたものになればいいのに。 あと、 葬式を銭湯でやったら、後から人来なくなるやろなぁとか、考えてしまった。 ちょっと話が綺麗すぎる気もする。綺麗すぎてちょっと嘘くささを感じる場面も。 タイトルどおり、『熱い愛』は感じました。 す
  • あつみ
    5.0
    泣きたくなったらこれ。
  • カナヘ
    -
    記録✔️
  • 7
    4.0
    母強し。
  • もとも
    4.4
    泣いた。 サマーウォーズみてる家族の隣でひっそりと泣いてたよ! 予備知識なしで、泣けるって情報だけやったからまさか余命宣告系やったとは…苦手分野やった。 でもそれ以上に宮沢りえ演じる双葉の愛が!!! 登場人物もそんな好きな人じゃなかったんやけど、みんな好きになるよ!杉咲花の自然な感じ、あとオダギリジョー!さすがやった。 最後の展開よかった。 湯を沸かすほどの熱い愛!! デーン
「湯を沸かすほどの熱い愛」
のレビュー(20751件)