【途中退席厳禁】モデル業界を描いた問題作『ネオン・デーモン』が解き放つ悪夢とは?

2017.01.28
洋画

映画と音楽は人生の主成分

みやしゅん

毎年、年明けには衝撃的な話題作が“必ず”と言っていいほど公開されます。今回ご紹介する『ネオン・デーモン』も、2016年の東京国際映画祭でチケットが即完売…さらに、公開前から様々なメディアに取り上げられていたほどの話題作です。

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(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

それもそのはず…この『ネオン・デーモン』は、ライアン・ゴズリング主演作『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督の最新作!本作は2016年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門にも出品されており、主演には『マレフィセント』で純真なプリンセスを演じたエル・ファニングが抜擢され、劇中では、今まで誰にも魅せたことのない彼女の新たな一面を覗かせています。

では「途中退席厳禁」とはどういうことなのでしょうか…今回は注目の衝撃作『ネオン・デーモン』について、掘り下げていきたいと思います。

その才能にひれ伏し、その才能に嫉妬するー。

田舎暮らしのジェシーは、トップモデルになることを夢見て、ロスへとやって来る。誰もが目を奪われる美しさを武器に、彼女は次々とチャンスを掴んでいく。

女の園とも言える業界でのし上がっていく彼女に、周囲の人々は次第に翻弄されていく。そして、彼女がトップに上りつめた時、悪魔の宴がはじまるー。

いくら努力をしても敵わない才能が目の前にあったら…今、あなたの想像力が"悪夢"を創り出す。

多くは語られない。あなたの想像力が"悪夢"を創り出す。

毎年、東京国際映画祭ではチケットが即完売する作品がいくつかあります。この『ネオン・デーモン』もその1つ…レフン監督の最新作ということもあって、期待値MAXの状態で2016年の東京国際映画祭に登場したのです。しかしながら、想像をはるかに超えた世界観に、映画祭にも関わらず途中退席をされた方も見受けられました

さらに「これは映画ではない」との声も数多く寄せられ、物議を醸し出しています。では、多くの観客が戸惑い、そして、映画の定義をも掻き乱す『ネオン・デーモン』とはどのような作品なのでしょうか?

悪趣味全開の"芸術的な"世界観がジャンルの区分を掻き乱す?

『ネオン・デーモン』は、簡潔にいえば、トップモデルを夢見るジェシーの物語です。モデル業界ということもあって、作品全体の映像・音楽もとにかくハイセンス…まさに芸術的な仕上がりになっています。オープニングからその世界観に惹き込まれるはずです。

そんなハイセンスな作品なのですが、ジャンルの区分をめぐっての議論も絶えません。サスペンスと区分されてはいますが、観ると分かるのですが、ホラーとみることも出来る…しかし、本作は通常のホラー作品とは異なり、霊的なものは一切登場しません。では、なぜホラーにジャンル分けすることが出来るのでしょうか?

「霊的なものが登場しないホラー」と聞けば、勘の鋭い方は気づくと思います…そう、本作では"人間"が恐怖の根源となっているのです。特に、モデル業界は典型的な"女の園"…妬み、憎しみ、様々な感情が渦巻く恐ろしい世界と言えます。

しかし、一番肝心なことはこの映画では「多くは語られない」ということです。本作では台詞はごく僅かなうえに、理解し難いシーンにも当たり前のように説明はありません。そのため、観客は目の前の出来事を想像するしかないのです。

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(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

その代表的な例が、このオープニングシーン…実はこのシーンが映画のポスターに使用されているのですが、このワンショットから私たちは物語の大枠を想像してしまいます。

全篇を通して、説明がない不可思議なシーンに、私たちは自らの想像力で説明を付け足していくしかありません。そのため『ネオン・デーモン』は私たちの想像力を介して恐怖を引き出し"悪夢"を創り上げていく作品だと言うことが出来ます。想像力を必要以上に掻き立てる“ホラー”という区分にジャンル分けされる理由はここにあるでしょう。

新たな"Cool"の代名詞が映画の定義を掻き乱す―。

"ネオン・サイン"と言うと皆さんはどのような色を思い浮かべるでしょうか?おそらく鮮やかなピンクやイエローなどの色ではないでしょうか?「人工的に創られた色」という表現が適切かは分かりませんが、本作では全篇がその色で埋め尽くされています。

眼がチカチカするだけで、表情の乏しそうな人工色ではありますが、不思議なことに秒単位で表情を変えていきます。時に美しく、ときには残酷に表情を変えていくその色に、そして圧倒的な映像美に、あなたは釘付けになることでしょう。

サブ1

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

さらに、その映像美を引き立てるのが、独特な映画音楽です。レフン監督の世界観にマッチする映画音楽は、映像美と相まって、ミュージック・ビデオを観ているかのような感覚を与えます。必要最低限な台詞しか存在しない本作において、映像と音楽、そのどちらが主役なのか分からなくなる場面が多々あるほどです。

ここが「これは映画ではない」と言われ、物議を醸し出している要素なのです。しかしながら、言葉は少なくても女優たちの微妙な表情や動きによって、感情の波が見事に表現されています。

映画は総合芸術と言われていますが、この『ネオン・デーモン』は映像と音楽…その黄金比率を指し示す作品であり、ミュージック・ビデオとは一線を画すものだと私は感じています。こういう作品を"Cool"と呼ぶのではないでしょうか?

美しい花には棘がある~計算し尽くされた"悪魔の宴"~

悪趣味全開とは言え『ネオン・デーモン』が"Cool"だと感じる人が多いのはなぜでしょうか。映像や音楽がスタイリッシュであることは言うまでもありませんが、この"悪魔の宴"…実は最初から最後まで綿密な計算がなされているのです

美しい花には棘がある

生まれながらの美人…言わば"ナチュラル・ビューティー"の主人公ジェシーは、思ったことを口にしてしまいます。

「そのままで綺麗なのにー。」

ある日、ジェシーは内に秘めていた心の声を、整形したことを自慢する周囲のモデルにぶつけてしまうのです。16歳の少女に「社会における御法度を理解しろ!」と言っても無理な話でしょう。しかし、彼女の長所であった純真無垢さが仇となり、自らを追い詰めることになります

しかしながら、彼女もヤワではありません。幼いながらも日に日に業界を理解していきます…そして、ランウェイが彼女の全てを変えてしまいます。そう、ジェシーは悪魔に魂を売ってしまうのです。

そう言い切れる理由は、印象的なランウェイのシーンに使われた音楽のタイトルが関係しています。タイトルは"The Demon dance(悪魔の舞)"…まさに、彼女の本性が露わになる瞬間を表現しているのです。

サブ2

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

このシーンのあと、しばらくして、映画で最も印象的な台詞「I'm dengerous...(私は危険な子)」が登場するのです。この台詞は予告篇でも使用されていますが、劇中で、彼女は、幼い時から母親に「あなたは危険な子だ」と言い聞かされてきたと告白しています。しかし、そう言われた理由や、彼女の過去は一切語られることはありません。

その言葉の真意は分かりませんが、もし、昔から自身で火種を巻いていくような“悪魔”だったのなら…たった16歳で、整形話を得意げに話すモデルたちを見下していたとしたのなら…。自分自身に対する周囲の嫉妬の情が強くなっていくこと…それも想定内だったのではないでしょうか?

では、分かっていたにも関わらず、煽ったのはなぜなのか…『ネオン・デーモン』は、一つ一つの言葉を拾って、考えれば考えるほど、奥が深まっていく作品だと言えるでしょう。

人工と自然。そして、異常を際立たせる平凡。

本作に凡人は存在するのでしょうか?きっと作品をすでに観た方は口を揃えて「ノー」と言うはずです…しかし、たった一人、凡人は存在します。それが、ロスでカメラマンになることを夢見る青年・ディーンです。

幻想的かつ妖艶なオープニングが終わった瞬間に、衝撃的な場面に切り替わるため、彼のことを凡人だと感じる人は非常に少ないと思います。特に、様々な異常事態が発生する本作では、無条件で全てが異常なものとして目に写ります。

しかし、一歩さがって冷静に観ていくと、ディーンの言動はとにかくまともです。観客が唯一安心することのできる存在が彼…しかし、とあることをきっかけに彼はスクリーンから姿を消します。そして、衝撃的な展開が私たちを待ち受けているのです。

本作には、人には言えないけれど、私たちが日常生活の中で一度は抱いたことのある感情が、ストレートに登場します。登場人物たちはそれを過剰に表現しているかもしれませんが、何となく他人事のように思えない部分も多々あります。もしかすると、私たちは全員、凡人ではないのかもしれない…そう考えてしまうほどです。

静が動へと変わる時。

何度も言っていますが、本作は台詞がごく僅かな作品です。これも計算されたものだと考えられます。

さらに、女性同士の会話が大半をしめるため、言葉だけでは本心がわかりにくい…そのため、とても淡々としていて静かな印象があります。しかし、1つ1つの動きや表情を見ると、感情が浮き彫り…一瞬たりとも見逃せないのです。

ですが、劇中には"静"から"動"へと劇的に変わる瞬間があります。ここがこの作品の肝と言っても過言ではないので、具体的には伏せますが、誰もが「ここだ!」と分かる場面が存在するのです。感情がむき出しとなる唯一の瞬間を見ずして、この作品を語ることはできません

サブ3

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

“I'm dengerous...”

ジェシーが放ったこの言葉…ロスへと出てきたばかりの彼女、そして、悪魔に魂を売った彼女…果たして、どちらが本当のジェシーだったのでしょうか?

新たな悪夢は、13日の金曜日からはじまる―。

レフン監督の作品はどれもそうなのですが、とにかく中毒性が高いものばかりです。今回の『ネオン・デーモン』は、その中でもかなり上位に食い込む中毒作…鑑賞後に映画の余韻が尾をひくようにして、ジワジワとせまってきます。

“Get Her out of Me...”

こんな言葉も劇中に登場しますが、ジェシーの姿や眼差しは鑑賞後も頭に刷り込まれるほどのもの…鑑賞後も、ジェシーが私たちの記憶に絡みつき、頭の中から離れることはないことでしょう

最後に…いくら努力をしても敵わない才能が目の前にあったら…あなたは"禁断の果実"に手を伸ばしますか?

狂気と美しさで満ちた芸術的な問題作『ネオン・デーモン』は、1月13日から絶賛公開中です。新たな悪夢は、13日の金曜日からはじまっています…皆さん、くれぐれもご用心を。

公式ホームページ:http://gaga.ne.jp/neondemon/

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  • ふくむら
    3.6
    容姿が良い人って人生イージーモードだけど、ハイリスクハイリターンなイメージがある。綺麗な分だけ、他の人より強く反感もかって憧れの対象にもなって。綺麗だってことで裏付けされた自信で、よりきれいに見えるから魅力的。劣等感も感じないから妬まない、卑屈にならない。 無垢な少女が自分の容姿が特別に美しく、人を魅了する力が才能があるとはっきりと自覚していく。夢を叶える力があることも。そして、業界の闇にのまれていく。次第に感じてなかった優越感が表に出て、水面下での嫉妬や敗北感が波打って彼女は足をすくわれて捕まってしまう。 あと、このポスタードストライク、、 すぐ惹かれてしまって上映してる映画館探して、でも地元のイオンシネマも109も上映してなかった。それでもレンタル待ちきれなくて、地元のコアな映画館にすぐ行きました。 ※※※ こっからネタバレありです ※※※ ネオンの光が眩しくてフラッシュが多いクラブのシーンとか、コントラストの強さとか苦手だなって思ったけどジェシーがバラを持って倒れるシーンほんとに綺麗だった。まじエモいです、モードな世界観は好きです。どのシーンでもエルファニングの色の白さが際立ってて他の作品より綺麗で魅力的に見える。 前半スタイリッシュなのに後半の死姦とか、カニバリズムのグロさが想像以上だったから、誘った友達のほう怖くて見れなかったです、、いやでも、前半もモデルたちの目つきやばいしキヌアリーブスのあの足元みて品定めするような屑っぷりも怖いんだけど。血まみれでシャワー浴びてるところは狂気的。最後の吐き出された目玉食べるとこも、なんかツッコミたいところいっぱいであのシーンだけ見たら笑うんだけど、見終わったあとはなんか言葉出なかった。 まだこの映画を見るには子供だったかも、面白いとは思ったけどストーリーからしてのメッセージ難しい、、その時点でいろいろと楽しめるところも体感できてないから余計にかな。もっと色んな映画見てから再挑戦したいです。とりあえずドライブもっかい見る。
  • 3.1
    観たことに後悔は全くしていないけれど、だから何???の作品だった。(笑) 前半はテンポもよくて、それなりに面白かった。 というか まさにエル・ファニングのための映画だった。 「今」でなければ撮れない映画だろう。 カメラマンもデザイナーも 誰もが、彼女に惚れ込む。 彼女は「ミューズ」なのだ。 …ところが 後半は女性として、イラッ! なんだって~?????! 「オンナ」の賞味期限は21歳??? 対象がモデルだから、それは仕方がないとしても その王道を目指すため、そんなコトする?????… 観ていて とても「オンナ」が馬鹿にされているように感じた。 まるで「オンナ」の価値が「美しさ」しかないみたいに思った。 が、しかし これは「オトコ」の社会に置き換えると やはり同じような映画ができるだろう  「出世」「功名」「稼ぎ」  それらが「オトコ」の価値のすべて であるような映画はたくさん 撮られているもんなぁ…苦笑  結論:この監督は、映像で見せるタイプなんだろうな。 キアヌ・リーブスの存在も、ただ映画の妖しさのため…? 妖しいグラビア写真集の好きな方は どうぞ。  2017.01.25 TOHOシネマズ名古屋ベイシティにて鑑賞  
  • Hiro
    3.3
    2017
  • ミドリン星人
    2.5
    ニコラス・ウィンディング・レフンということで、劇場へ。 エルファニングの危うい美貌とNWRの世界観の相性はバツグン。 ただしストーリーラインに納得はいかない。 客層がシネフィル的おじさん半数に対し、王様のブランチでも見てそうな女の子が半数近くいた。鑑賞後彼女たちは心底戸惑っていた様子(ちょっとブラックなプラダを着た悪魔的なのを想像してたんだろな)
  • S
    3.2
    公開前の期待が大きくて、実際に観たときはあまり衝撃がなかった。 だけど出演者たちがとても綺麗で目が離せなかった。 モデル業界の人たちのリアルな感情が伝わってきたのはおもしろかった。
「ネオン・デーモン」
のレビュー(4184件)