知れば知るほど解らなくなる映画の話(3)~モンタージュでゴリラは何を思うか?~

Why So Serious ?

侍功夫

どうも、侍功夫です。

まずはこの動画を……

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チーム★アメリカ ワールドポリス劇中。北朝鮮に囚われたメンバーを救出すべく、新米のゲイリーが所長の猛特訓を受ける場面。ノリの良い音楽に合わせ、細かなカットを重ねることで「長くて辛い特訓に耐えて成長した」ことを短く効率的に表している。のだが、実はロッキーシリーズやスポーツものなどで便利に多様され過ぎている手法を茶化したパロディでもある。この曲名が、その手法の名前ズバリそのまま「モンタージュ」だ。

一般的に「モンタージュ」で思い起こされるのは、最近はあまり見かけないが犯罪事件で目撃証言を元に継ぎ接ぎに作られた「モンタージュ写真」だろうか。

映画における「モンタージュ」とは「色々な場面を繋ぎ合わせて1つの印象を作る」という、ほぼ「映画編集」そのものの意味があり、「特訓場面」だけを指しているワケではない。

今回は映画編集全般の中から特に、「編集/モンタージュで出来る表現」について取り上げる。

 

時間の短縮

これは上の動画に代表されるように、編集の役割における代表格になるだろう。ほとんどの映画は上映時間ぴったりの出来事が描かれていない。ある出来事にまつわる、重要な部分が編集により抜粋され,、2時間ほどにまとめられている。

最も顕著な例は2001年宇宙の旅であろう。モノリスに触ったサルが骨を放り投げた次のカットで、人類は宇宙時代へ突入している。

また、リチャード・リンクレイター6才のボクが、大人になるまで。では6才の少年が18才になるまでの12年間を、実際に12年間かけて撮影している。膨大な映像素材は編集によって166分の作品にまとめられている。

 

時間の引き延ばし

インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説終盤。インディは採掘場で働かされている子供たちを助けるため、屈強な男たちと対決していく。しかし、呪い人形によって動きを封じられてしまい、石を粉砕するローラーに押し込まれそうになる。この場面は「モンタージュ」の視点で見ていくと面白いだろう。

迫るローラー! 押し込むターバン野郎! 人形にナイフを突き立てる王子! がんばれショートラウンド! 悲鳴を上げるウィリー!

というカットの連続が何度も何度も繰り返され、インディのピンチの瞬間が引き延ばされる。観ているコッチはジリジリとした瞬間を繰り返し見せられ、ハラハラとした瞬間が長く楽しめるワケだ。

 

ゴリラ+X=???

今度はこの2枚の写真を見て、どんな印象を持つか考えてほしい。

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「おいしい」「食事」「幸せ」といった印象ではないだろうか?

 

では、この2枚ではどうだろう?

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「環境破壊」「住処を追われる」「悲しさ」といった印象であろう。これら写真1枚々には感情を表す記号は無いが、組み合わせ次第で違った感情が立ち上がってくる。この現象は「クレショフ効果」と呼ばれる、映画編集が生み出す効果の中でも重要なものだ。

難解な作品だといわれる映画でも、この「クレショフ効果」を念頭に置いて観てみれば、実は「観て、感じたままの印象」こそが、表現しようとした印象そのものだという、当たり前な解釈が浮かび上がってくる。

ニコラス・ウィンディング・レフン監督の新作ネオン・デーモン。田舎から出てきたばかりの新人モデル、ジェシー(エル・ファニング)が大抜擢で大物デザイナーのショーに出演する場面。暗闇の中、煌めき瞬くネオンの光彩の中にジェシーが登場する。ここにネオンで出来た三角形がインサートされる。前後の場面に三角形にまつわる何かが語られたワケでもないし、後に三角形が何なのか説明もない。

しかし、三角形にはピラミッドに代表されるミステリーや「ピラミッド・パワー」といった人知を超えた超常的なイメージがある。また、レフンの過去作ドライブケネス・アンガー監督のスコーピオ・ライジングからイメージの引用をしていることを鑑みれば、同監督のルシファー・ライジングを思い起こすのも正しそうだ。

このように、ジェシーの艶かしい姿に三角形を合わせるだけで、ジェシーの魅力に「超常的」かつ「悪魔的」であるといった複合的な意味を思い起こさせるのだ。

 

まだまだいっぱいある役割

映画において編集が担う役割は上記に留まらない。

スターウォーズ ジェダイの帰還ではデス・スターでのルークとベイダーの戦い、エンドアでのハンソロやイウォークたちの戦い、宇宙でのランドの戦い、といった異なる場所で同時に起こっている出来事を交互に見せることでサスペンスを高めている。

かつてはタブー視されていたジャンプ・カットも「同じ場所で長い時間ヒマをつぶしている」といった怠惰さを表現するのによく用いられている。

オリヴィエ・メガトン監督作では、アクション場面で1秒以下のカットを矢継ぎ早につなぎ「なんかよくわからないけどスピーディー」といった印象を与えている。

 

編集に注目してみよう!

映画の感想を言い合うときに「あのスペクタクルが良かった!」「あの情念が良かった!」とはよく出るが「あの編集がよかった!」とは滅多にでない。しかし、「スペクタクル」も「情念」も編集/モンタージュによって形作られたものだ。面白いと思ったスペクタクルも、編集の力なしでは盛り上がりに欠ける場面だったかもしれない。強い情念を感じる場面も編集いかでボンヤリした場面だったかもしれない。

これから映画を観るときには「どんなタイミングでどんな場面へカットが変わっていったか」を気にいてみると良いかもしれない。

 

※2021年2月24日時点のVOD配信情報です。

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  • えいがむし
    3.7
    サイレントホラーで、色彩と映像が美しく際立つ作品は、とても好みではあるのですが、 分かる、と、分からないのギリギリのエッジを攻め込んでくるので、いつも感想が書きづらいなwと思いますよね。笑笑 実はこれを観てから1ヶ月以上が経ってからレビューを書いていますが、 今でも強烈に鮮やかに覚えているシーンの多さに驚きます。 "仕事なのだ"と思うと、倫理観や人として生きることを、いとも簡単に辞めてしまう瞬間って、ありますよね。 美を追求するあまり、正解もゴールもない永遠の問を追いかけ続けると、悲しきかな醜くただれていくという.. ちょっと大袈裟かもしれないですが、ファッションやモデル業界にはよくある構造の話だろうなぁ〜という後味の悪い現実味がありました。笑 ファッションやヘアスタイル、メイクなどビジュアルや構図は絶品、どこを切り抜いても絵になる映画でした! グロいのが苦手な方はには鳥肌モノですw
  • ヤマト
    3.5
    出演者を見ると、突然のキアヌ・リーブスにびっくりする人も多いのでは無いでしょうか。笑 私はびっくりした。気付かんかったwwwちょい役でキアヌ・リーブス本人とは真逆の人物だったため、余計気付かんかった。笑 そんな話はさておき、これはただのモデルの成り上がりサクセスストーリーではない。ジャンルがホラーなのにも気をつけて観て欲しい。 意味わからんと途中で観るのを辞めるのも良いけど、ラストスパートはとんでも展開でびっくりする。 簡単に説明すると両親を早くに亡くし、1人で生きていくためにトップモデルを目指す16歳の主人公。その美貌は誰もを魅了するもので、ライバルである先輩モデルから僻みを買う。メイク係の女性は親切にしてくれるが、重要な登場人物には皆裏の顔がある。 裏の顔…なのかな?笑 そのまんまではある気もするが。笑 とにかく主人公のエル・ファニングがめっちゃ可愛い。目の保養になる。 他の登場人物であるモデルさんたちも正直みんな可愛いと思う。悪役だから結構憎たらしく見えるかもしれないが、みんな美人だと思う。 もしかしたら、男性よりも女性のが楽しめる映画かもしれない。 このタイプの映画ではよく言ってるんだけど、こういう女性が好む派手なファッションやメイク、それをたくさん見れるという点では女性のが楽しめる映画ではある。 それから、モデルたちの争いということもあってか、女性のエロス?セクシーなヌードシーンがたくさん映し出されるので、絶対に1人で観るんだぞ! あとは突然とんでもない非現実なもんをぶっ込んで来たりするけど、こういう露骨な演出にはちゃんと意味があります。 あとで解説や考察を見ると色々わかるので、なんじゃこりゃと納得できなかった部分も少しは納得して補完できるんじゃないかなと思います。 そして、ラストスパートはそっち!?って感じの展開になります。 最初にも言ったように、ただのシンデレラストーリーではありません。 これはあくまでもジャンルはホラーです。 ホラーっつーかなんつーかな感じでもありますが。笑 個人的にはラストスパートに色々一気に展開変えてぶっ込んできて、最後は目まぐるしいスピードで場面が進んでいきましたが、この緩急差にもなんか意味あんのかな〜とか適当に思ってます。笑 私はラストの展開が斜め上だったこともあり、一般的平均評価は低いみたいですが、結構面白かったです。 怖いっていうかエグめの映画でしたね。 ちょっとしたグロシーンもありますが、苦手な人は気をつけて観た方が良いかも。めっちゃグロいってわけじゃないけど。
  • ありお
    -
    F
  • 真矢
    3
    この監督の前作「オンリーゴッド」の 路線をそのまま延長した創り方で 気になったからwikiを覗いてみたら 色覚障害があるんですね。納得しました それがこの監督の個性になり 作品は印象的に映りますね。色彩的に スローテンポに物語を進める事で 背景にも目が止まる 前見た作品のエル・ファニング が田舎チックなミーハーな役だったんで 全然印象違い同じ人に見えなかった あらすじを読んだら ナタリー・ポートマンの 「ブラック・スワン」的なのを想像してたけど 全然違って、深い描写もなく突然彼女は退場したりと 予想してた方面とは全然違う物語だったから 良い作品か?否か??は難しい… ただSiaのエンディング曲 「Waving Goodbye」はとても良い あと「ネオン・デーモン」タイトルも好き
  • ウナチコ
    4.5
    ずっと前に観た 今でも印象に残ってるシーンおおい
ネオン・デーモン
のレビュー(31817件)