思わず食べたくなる!「もやしスープ」が魅力の映画『よく知りもしないくせに』

映画のミカタ、ここにアリ!

青空ホナミ

—彼らは何を食べ、そこにどんなドラマがもたらされるのだろうか—。

映画の楽しみのひとつに、登場人物たちが口にする料理があります。家族団欒での夕飯のひととき、恋仲ふたりの仲睦まじいディナーなど、料理はさまざまな映画のワンシーンに色とりどりの花を添えることでしょう。

そこで今回は「ごはんがおいしそうな映画」をテーマに、このワンシーンを見れば思わず「食べてみたい!」と唸ってしまう、『よく知りもしないくせに』(2009、ホン・サンス)という作品をご紹介したいと思います。

『よく知りもしないくせに』あらすじ

映画祭に審査員として呼ばれた映画監督ギョンナムは、かつての親友であるサンヨンと遭遇する。サンヨンや彼の妻と共に飲み明かすギョンナムだったが、なぜか翌日にサンヨンから絶交を言い渡されてしまう。訳もわからず映画祭からも逃げ出したギョンナムは、ほどなくして済州島へと向かい、先輩の妻となった元恋人のスンと再会することになるのだが……。

よく知りもしないくせに

誰もがイチコロ!? ホン・サンス映画のお酒と料理

韓国を代表するホン・サンスの映画には、複数の人物たちによる飲酒の場面が多く登場します。マッコリやチャミスルに酔いしれた彼らは、そのほとんどが恋愛に翻弄されてしまうダメ人間たち。だけど不思議とそこに魅力を感じてしまうのがホン・サンス映画の見どころでもあります。

そんな魔法のような映画を見た私たちも、彼らのようについついお酒を飲みたくなってしまうかもしれません。しかし今回ご紹介する『よく知りもしないくせに』という映画には、お酒だけではなく、「あ、食べたい!」と思わせる料理が登場することを忘れてはならないのです。

『よく知りもしないくせに』のもやしスープ

その料理が登場するのは、主人公の映画監督・ギョンナム(キム・テウ)が済州島にある画家の先輩の自宅へ招待される場面です。タバコを吸いながら先輩と迎えの車を待つギョンナムは、車が到着した瞬間に思わず唖然としてしまいます。先輩の奥さんとは、何と学生時代にギョンナムと恋仲であった後輩のスン(コ・ヒョンジョン)だったのです。

過去の出来事が先輩にバレないようギョンナムとスンが立ち回るなか、「何でも作らせるから食べたいものを言ってくれ」と先輩がギョンナムに尋ねます。すると彼は「もやしスープが食べたい」とリクエスト。手間のかからない料理に失笑する先輩とスンですが、元カレのギョンナムのために彼女はもやしスープを作り始めます。

もやしスープが食べたくなるワケ

この作品がホン・サンス作品の中でも珍しいのは、画面に映る料理の調理過程を見せていく点にあります。その状況は大胆なカメラワークで見せられていくわけではありませんが、スンがネギを包丁で切り、透明の鍋にもやしを入れていくといった丹念な過程を見守るだけでも、湯気の立つスープの匂いが画面全体を覆うのです。

そして極めつけは、できたもやしスープに大量のコチュジャンと白ご飯を混ぜ合わせ、口へとかき込むギョンナムの姿。決して豪勢な料理ではありませんが、スンの作ったもやしスープは、こうして見ている私たちの食欲を自然とそそっていくのです。

料理は映画と記憶のスパイスだ!

過去にワケアリのふたりを再び結び合わせたもやしスープは、さらにその後の動向を醸し出し、私たちを新たな展開へと引き込んでいくことでしょう。物語の結末はDVDで確認いただくとして、映画の中の料理は私たちの食欲をそそると同時に、映画そのもののドラマさえも引き立ててくれるのです。

しかしこの『よく知りもしないくせに』を見ると、もやしスープのほかに過去の恋愛経験を思い出してしまう方もいらっしゃるのでは。そんなとき映画の中の料理とは、忘れかけていた私たちの記憶を思い起こすスパイスのような存在なのかもしれません。

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