「音楽の力」が人生を変える−『SING/シング』ガース・ジェニングス監督インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

取り壊し寸前の歌劇場を再起させるため、主人公らが奔走するアニメーション映画『SING/シング』は、劇場支配人がコアラ、シンガーはゴリラにゾウ、ブタなど、登場人物がすべて動物というユニークかつキュートな1作だ。

オリジナル版(日本語字幕版)では、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』で歌の才能を世に知らしめたリース・ウィザースプーンや、2016年度グラミー賞の最優秀新人賞にノミネートされたトリー・ケリーなどが声を務め、日本でも大ヒットした「Shake It Off」(テイラー・スウィフト)、「Firework」(ケイティ・ペリー)や往年の名曲「Don’t You Worry ’Bout a Thing」(スティーヴィー・ワンダー)まで計60曲以上を披露し、世界観を華やかに盛り上げた。

現在、プロモーションで世界中を回っているガース・ジェニングス監督に、単独インタビューを敢行し、演出の裏話ほか、音楽についての思い入れをじっくりと聞いた。

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――キャラクターたちに声を吹き込んだマシュー・マコノヒー、リース・ウィザースプーン、スカーレット・ヨハンソンたちには、どのような演出をされましたか?

非常に大切なのは、やっぱりリアルに感じられるかどうかです。特に声を入れる作業というのは全員別に録るし、それぞれのレコーディングが何か月か離れてしまうこともあるので、お互いが同じ部屋の同じシーンの中で話し合っているんだ、っていうのをきちんとリアルにするために気をつけました。

あとは、それぞれのセリフで、例えばジョニーだったらジョニー、ミーナだったらミーナっていう形で、誰だかきっちりわかるように、クリアにそのキャラクターに沿った声にすることも大切でした。結構大変だったよ(笑)。

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――キャラクターの描写が秀逸で、ミス・クローリー(トカゲのおばさん)のガクガクした首など、人間的特徴を絶妙に捉えていますが、何かにインスパイアされたのでしょうか?

何と言っても、そういうふうに言ってもらえたのがすごく嬉しいなあ。というのは、やっぱり一番大切にしているのは、こだわりに共感してもらえるかということなんです。動物ではあるけれども、こういった登場人物たちは人間のカリカチュア(戯画)であるし、だからこそ観客の方が共感して、そして普遍性を感じさせられるような、そんなキャラクターに演出することにこだわりました。

彼らそれぞれにストーリーがあるんだけれども、そこで大切になってくるのは実は小さなところなんですよね。例えば、ちょっとシャイすぎる、恥ずかしがり屋すぎる。あるいは、父親に思い切って自分の本音を打ち明けることができないとか。

もちろんこの『SING』の世界観というのはとても広いし、舞台も大きくてドラマも大きいし、音楽満載の作品ではあるんだけれども、実はキャラクターたちが対峙している問題っていうのは、人間が日々感じる、あるいはいまぶつかっている壁だったりして、それが誇張されているだけなんです。

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――ちなみに、普段アニメーション作品はご覧になります?

小さいときからアニメは大好きでした! 僕は4人の息子がいるんだけど、子供たちの成長過程にもたくさんのアニメを観てきましたね。一番好きなのは『アイアン・ジャイアント』。あと、『ピノキオ』は初めて子供のときに劇場で観たアニメーションで、死ぬほどビビった(笑)。そういう記憶がある、記憶に深いものです。

――本作しかり、前作の『リトル・ランボーズ』もすごく音楽が印象的な作品です。ガース監督は、普段、生活をしていて音楽の力を感じますか?

普段から音楽の力を感じています。一部始終聴いているのは、母の影響があると思う。母がまさに太陽が上った瞬間から日没まで、ずっとラジオをつけっぱなしにしているような女性だったので、僕自身だけはなく、家族の人生においても音楽というのはいつも重要であり続けてきました。

だから、僕のキャリアも最初の段階はミュージッククリップを監督することをしていたわけで。僕にとっては小さな物語と自分の愛する音楽を組み合わせる、パーフェクトな仕事でもあったからなんです。

この作品は、そういった意味ではその延長線上にあります。映画づくりとそれから音楽への自分の愛、恋愛の延長線上にあるというわけなんです。

――名曲揃いの中、とりわけ思い入れの深いナンバーはありますか?

自分にとっては全部重要で、意味があるトラックばかりです。数秒しか流れていなくてもそうだし、一番僕の気持ちの上でつながりのあるのは、「I’m Still Standing」(※エルトン・ジョンのアルバム「Too Low for Zero」(1983年)に収録されている楽曲で、根強い人気を誇るナンバー)かな。実は、母が「I’m Still Standing」が大好きで。母が60歳になったときに、その楽曲を愛する人々に歌ってもらうというアルバムを僕が作ってプレゼントしたんです。当時、89歳の祖母にも歌ってもらって、録音した思い出がある。今でも流れてくると、祖母の声で再生されるよ(笑)。ジョニーというキャラクターに歌ってもらっているけど、物語にもすごくピッタリの曲だと思っています。

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――劇中で、きゃりーぱみゅぱみゅの楽曲「にんじゃりばんばん」などが使われていて、日本人として静かな衝撃を受けました。監督は日本の音楽についても造詣が深いんですね。

J-POPのプロフェッサーみたいな博識があるわけではないんだけど、好きなんだ。きゃりーぱみゅぱみゅを知っていたのは、友人がMVの映画祭をやっていて、そこに行ったらたくさんMVが流れていたんだ。本当にきゃりーの楽曲はエネルギーや熱意がすごくって、見ているだけですごく感染してしまいそうな感じが好きなんだよ!

――ありがとうございました。日本で公開を楽しみにしている観客に向けて、最後にメッセージをお願いします。

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「とにかく楽しんでほしい!」の一言です。世界各国で公開してきて、たくさんの観客の方にめちゃくちゃ楽しんでもらっているので、同じように楽しんでいただきたいです。それに、『SING』という映画の道のり、旅の最終地点がこうやって日本であったっていうのが最高のエンディングだと思っています。(取材・文:赤山恭子)

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(C)Universal Studios.

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※2022年10月20日時点のVOD配信情報です。

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