近年、『由美香』や『テレクラ・キャノンボール』シリーズなど、映画館で上映されるアダルト・ビデオが登場しています。本来「AV」は極めて“機能的”な役割を持っています。その一方で、他者への信じられないほど深い愛情や、ありえないほど滑稽な姿をセックスを通して引き出します。劇場公開されるAVはウソ偽りの無い人間の姿を捕えたドキュメンタリー映画として見られているのです。
ロマコメ永遠のテーマ「友情とセックス」
『恋するポルノ・グラフィティ』はオタクなことで有名なケビン・スミス監督によるロマンティック・コメディです。
兄妹のように仲の良い幼馴染みザックとミリは家賃を浮かすためにルーム・シェアの共同生活をしています。ただ、2人共だらしのない性格で家賃や光熱費を滞納し続けて、アパートから追い出される寸前です。そこで、手っ取り早く出来るハードコアポルノ映画製作であぶく銭を稼ごうと計画します。
ヒマな友人をスタッフとして集め、『スターウォーズ』を題材に『Star Whores(スター・ホーズ:星の売春婦たち)』とタイトルしたパロディ・ポルノを作り始めます。しかし、いざセックス・シーンの撮影を終えると、それまでお互い仲の良い友人だと思っていた感情が恋愛へと変化してしまうのです。
愛は下半身に宿る
セックスは基本的に絶対にウソのつけない生理現象を元にした行為です。愛情であれ、欲望であれ「相手が好ましい」という感情を持った時にしか起こらない肉体的な反応が現れなければセックスは出来ません(レイピストのような人物は相手を人間として認識できない深い病の持ち主なので除外します)。
映画でもセックスは「愛し合っている」記号として機能します。セックスと友情の不可侵性を描いた多くのロマンティック・コメディでは、その前提の上でプライドや立場上ウソをつくことで、本当は好きなのに別れてしまうメロドラマ要因が生まれます。
『恋するポルノ・グラフィティ』でも、セックスをしたことで2人は互いを愛していると確信するに至ります。ミリは受け入れますが、ザックは混乱のあまり彼女から離れてしまいます。そんな場面を観賞する私たちも「そりゃ情けない! 愛は確定しているのに!」と感情を誘導されるのです。
と、いうことは逆算的に大多数の人々は、セックスが行われた2人の間には分かち難い愛情が絶対的に存在すると思っているフシがあります。「愛の無いセックス」という常套句が悪い意味で多用されているのも、その証左と言えるでしょう。
石器時代から100万年以上、文明誕生から5000年以上経過した現在でも「愛」は極めて肉体的、原始的な感情なのです。
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