映画『Arc アーク』永遠の命を通して生を見つめるー。二分化された世界の先にある物とは?魅力を徹底解説。

愚行録』や『蜜蜂と遠雷』など、映像力×物語力に秀でた力作を放ってきた石川慶監督。彼の新作映画『Arc アーク』が、6月25日(金)より劇場公開を迎える。「21世紀を代表するSF作家」と評されるケン・リュウの短篇小説「円弧(アーク)」を、芳根京子寺島しのぶ岡田将生ほか豪華キャストで映像化。本稿では、物語やキャストの魅力を中心に紹介する。

人類史上初「永遠の命」を手にした女性の物語

Arc アーク』は、遺体を永久保存する「プラスティネーション」という技術の応用によって、若い姿を保ったまま生きることが可能になった「人類初の不老不死を手にした女性」を描く物語。『累 -かさね-』や『ファーストラヴ』ほか難役を次々とものにしてきた若手実力派・芳根京子が、主人公・リナの17歳から100歳以上までを演じ切った。「見た目は年を取らない」という設定のため、自らの演技だけで年齢の変化、年月の流れを表さなければならないプレッシャーを見事に跳ねのけた一世一代の力演は、必見だ。

リナの師匠であり、プラスティネーションの真髄を伝えるキーキャラクターのエマを寺島しのぶ、その弟で天才科学者、そしてリナのパートナーとなる天音を岡田将生が演じている。様式美を体現したエマに隠された内面、一見クールだが、人類をアップデートさせようと情熱を燃やす天音など、人間くささを内包した魅力的なキャラクターにも注目いただきたい。

■この作品は、現代を描く邦画のようにも見えるほどに、無理な演出もメイクも衣装もなく、日常の生活に不老不死の主人公が当たり前のように溶け込む。これまでとまったく違うアプローチが、斬新だ。

■なにより主演の芳根京子さんが素晴らしい。不老不死の肉体を得ているのでビジュアルは変わらないけど、時が流れていることに説得力を持たせてくれる演技だった。

■枠にとらわれない生き生きとした女性を芳根京子が、感情を表に出さない無機質な男性には岡田将生というキャスティングも効いていた。

リアルでなぜか懐かしい?新感覚の近未来体験。

Arc アーク』で非常に興味深いのは、近未来の映像/言語表現だ。「近未来的」という言葉があるように、従来の映画では未来の世界を表現するにあたりメタリックかつサイバーなガジェットが入り乱れるものや、反対に荒廃しきったディストピア感満載の表現が多かったが、本作ではあくまで現代の延長線として「すぐそこにある未来」を描いている。

そのためにとられたアプローチが、「いまを懐かしくさせる」というもの。序盤はプラスティネーション等の“先の技術”や、「死ぬ」を「旧時代的な価値観」と言ってのけるセリフなど、斬新な表現で彩るのだが、時代が未来に進むほどフィルムカメラやおもちゃ、あるいは漁港や自然風景など、現代にもあるアナログな要素を増やしている。その結果、観客が「懐かしい」と思う感覚が未来の人々の価値観と一致する=いまを懐かしく感じることで観客が立つ時制を未来にスライドさせるという、極めて高度な未来の描写を構築しているのだ。

■SF映画にはお決まりの奇妙なデジタル機器やVFXは出てこず、むしろ終始ノスタルジックな雰囲気。近い将来本当に不老不死があるかもとリアルに感じられます。

■既存のハイセンスな建造物を上手に切り取り、ハイグレードな近未来を描き出している! (100年前、未来的なデザインは100年後も未来的!秀逸) 流行が出やすい腕時計などを排除したり、 細かな演出の積み重ねで映画全体のルックを高めるのは、さすが。

「持つ者」と「持たざる者」で二分化した世界の先にあるものとは?

「不老不死の技術」がもたらす功罪をリアリスティックに描いている点も、『Arc アーク』に深みをもたらした要因だ。「死」という万人に平等の“終わり”が回避可能なものになったことで、人類は「持つ者」と「持たざる者」に二分化されてしまう。本作は、その結果巻き起こる衝突や分断、暴動など、人の心の変化に伴う“事件”を説得力ある筆致で描いている。

やがて、時が流れるにつれ「不老不死を選ぶかどうか」が個々人の自由選択になる展開が待ち受けており、奇しくも近年のパンデミックによって「どう生きるか」を選択せざるをえない我々の状況とリンクするテーマに繋がる。観客は、後半に行くにしたがって実感を持って映画と向き合うことになるだろう。『Arc アーク』が描くのは、荒唐無稽な未来ではなく、私たちの身にも起こり得る“将来”なのだ――。

■不老不死が当たり前の世界で起こるカオスな描写が非常にリアル。しかし、その中でも一人ひとりの人間が持つ命の尊さ、人生の在り方とは何か、に焦点を当てており、真に温かい作風だと感じた。

■自分だったらどうするだろうか、と考える点が沢山あったが、最後まで答えは出なかった。何年、何十年か後には現実になっていてもおかしくないと思った。それくらいリアルで人間味のある作品だった。

■生きることの対極に死があるのではく、生きることの中に死がある。 老齢と死を克服した時に人は何を想うか、始まりと終わりのある人生という円弧上に浮かび上がる今この瞬間を生きることの素晴らしさ。 何の為に生きるかを観客に問う、今見るべき石川慶監督の新たな傑作。

◆『Arc アーク』infomation

あらすじ:17歳で自由を求めて生まれたばかりの息子と別れ、放浪生活を送っていたリナは、19歳で師となるエマと出会う。彼女は大手化粧品会社エターニティ社で、〈ボディワークス〉という仕事に就く。それは最愛の存在を亡くした人々のために、遺体を生きていた姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)するもので、悲しみを乗り越えたい人々からの依頼は絶えることがなかった。一方、エマの弟で天才科学者の天音は、その技術を発展させ、姉と対立しながらストップエイジングの研究を進めていた。30歳になったリナは天音と共に、「不老化処置」を受ける人類史上初の女性となり永遠の命を得た。やがて、不老不死が当たり前となった世界は、人類を二分化していくこととなり、同時に混乱と変化を産み出していった。果たして永遠の命が生み出した未来の先にリナが見たものとは・・?

 

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  • さなおりあ
    3
    死とは生とは ちょっと長く感じた。
  • KuriyamaMasaki
    3.2
    明日も変わらぬ人と、変わる人。
  • karen
    -
    生の対極に死があるわけではない 生の中に死があるんだ
  • よう
    3.5
    人類で初めて不老不死になる女性を主人公にしたSF。 ケン・リュウの原作『円弧』は未読。 石川慶監督作品、自分にとって『蜜蜂と遠雷』に続いて2作目。 全体的なルックに工夫が見られる。 特に衣装は、色味や形をちょっと変えてるだけで近未来的な印象をもたらしてる。 あと、撮影のピオトル・ニエミイスキさんとのコンビもあってか、なんか今ではない感がある。 プラスティネーションとダンスを文字通り紐で繋いだ描写はフレッシュ。 言語化しづらいけど、なんか美しいし奇妙だしで、ユニークなシーン。ちょっとあやとりを想起。 近未来の各年代を描いていて、さらなる未来のシーンは白黒に。 おそらく後から白黒にしたんだと思うけど、これについては、ありだとも思うし、他にやりようがなかったのかな?とも思った。 近未来を描くときに必ずしも見たことないガジェットを出す必要はなくて、だからこそ前半は「こういう近未来表現もあり」だと思った。 けど、「そっから50年経った時代で白黒ってどうなの?」と。 って思ってたら、さらに終盤があるので、そこから見れば過去だから、ありなのかな。 依頼者が連続して出てくるくだりは、もろにドキュメンタリーテイスト。 実際は役者の人と素人の人を半々でやったらしいのだけど、すごい自然。 不老不死をテーマにした話。 本題に入る前にプラスティネーションという身体の永久的保存の話をやって、ちゃんと段階を踏む形なのはロジカルでいいなと。 で、本題の不老不死。 主人公が人類初の不老不死を選択する理由がよくわからなかった。まあ不老不死って誰もが一度は夢想するものではあるけどね。 ただ、若さを過ぎた自分なんかは、不老不死については「自分は別になあ」っていう。タイムマシンと同様、「そんなの、ないじゃん」っていう。 若さというものはあっという間に過ぎ去るものだから羨ましいわけで。 生だって、いつか終わるものなのが確定してるからこそ貴いわけで。 ……ってなことを考えながら観てると、物語もそういう話になっていく。 なので、全体的には共感するというか、違和感のないストーリー。 不老不死をあえて選ばなかった人としてのあの人物。 この人物が急に明かしてくる事実には普通に「あっ」ってなった。 不老不死だとけっこうキツいこと多いと思うのだけど、そこらへんを主人公を通して描くってことがあんまないのは、もったいない気はした。 あと、主人公の17歳時のあの行動の経緯がないので、そこはけっこう気になる。やむをえない理由があるんだろうけど。 10代30代80代を見た目そのままで演じた芳根京子さんは、見た目だけでいくとお人形さんのような整った人ではあるので役にハマってる。 歩き方を含めたちょっとした動きに変化をつけている。 80代の時にやたら「よいしょ」って言ってるのはあえてなんだろうね。それって、人生経験増えると出る言葉かどうかは謎である。 最後の最後に、すごい子供っぽい演技をしていて、さすが。
  • ゆち
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Arc アーク
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