「ハッピーエンドじゃなくてもそれがリアリティ」板谷由夏&有村昆が『マンチェスター・バイ・ザ・シー』をすすめる4つの理由

2017.04.25
映画

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俳優・マット・デイモンがプロデュースし、今年のアカデミー賞にて主演男優賞・脚本賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の日本最速試写会が4月24日、Filmarksユーザー限定で行われ、上映後、女優の板谷由夏さん、映画コメンテーターの有村昆さんによるトークショーが行われました。

板谷由夏&有村昆

過去に朝の情報番組にて今年のアカデミー賞を予想する企画で共演したことのある2人。しかもそのとき板谷さんは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でケイシー・アフレックが主演男優賞を受賞するという予想を見事的中! 作品自体も応援していたとのことで、観てほしい理由や見どころを大いに語ってくれました。

上映後ということもあり、ネタバレもありましたが、公開を楽しみにしている方のためにもネタバレなしの2人のトークをご紹介します!

説明しすぎない、隙間があるからすごくいい!

有村昆(以下有村): ある男が再生していくお話なんですけど、僕的にはまさにこれはケイシー・アフレックの話だなと。ケイシー・アフレックって5年くらいキャリア的に不遇な時代も続いたんですけど、マット・デイモンやお兄さん(俳優のベン・アフレック)、まわりのサポートもあって再生していく。まさに彼のためにある映画だなと。板谷さんはこの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、どうご覧になったんですか? 激推ししてましたもんね。

板谷由夏(以下板谷): 最近観た映画の中でこんなにも人の心のひだに寄り添うっていう監督の才能プラス脚本のよさ、それがやっぱり、素晴らしいと思ったんですよね。だからこのケネス・ロナーガンの脚本を読んだ役者たちはその時点で多分心が震えたと思うんですよ。それで彼が監督、演出したっていうことで、マジックが起きたというか……。全部に感動してしまって。

有村: 隙間がすごくたくさんあるからよかったですよね? 説明しないっていう。

板谷: そう。リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)が雪かきをしてる雪のサクッという音を思い出しただけで、彼の背景を想像できるっていうか。でもそれって映画の醍醐味だと思うんですよね。

有村: そうですよね。しかも最初なんで(リーが)落ち込んでいるのかわからないじゃないですか。マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ることに何かあるのかなっていうのがだんだん回想劇でわかってくる。その回想劇の入れ方を観たときに、あるときにふと、そういえばこのときこうだったなとか、僕らの生活にもあるような時間軸の切り方をしていて、それがすごいなと思いましたね。あれ間違えちゃうと感動が半減するじゃないですか。

板谷: 過去未来、その葛藤、心の動き。シーンのパズルの組み立て方がやっぱりロナーガンが書いた脚本は完璧なんだと思います!

板谷由夏&有村昆

人生の重みを感じるけど、どこかユーモアがあるからぜひ観てほしい!

板谷: この映画を人に勧めるときに、いろんなことが起きるからあんまりネタバレとして言えないじゃないですか。その中でどう勧めるかなって悩んだときに重い映画だけど、考えすぎたり、重すぎたり、悲しい思いをしたりっていうそういう重さじゃないよって。確かに人生の重さをわかってる大人たちが出てくるけど、でもどこかにユーモアがあるからぜひ観てみてって私言ってるんです。

有村: 確かに。そのユーモアのアイコンとして、甥っ子のルーカス・ヘッジズを入れてますよね。

板谷: ケネス・ロナーガンのインタビューを読んだんですけど、絶対に人生にユーモアって必要だと。悲しくても笑うことだってきっとあるし、明日になるのが怖いなっていうくらい落ち込んでもやっぱり笑うことってある。それがあるから人の人生はおもしろいし、それを描くのがおもしろいっていうことが書いてあって。確かにそうじゃないですか! すごい大変な毎日でもやっぱりユーモアがないと、ね?

有村: そうですよね(笑)。

淡々と描かれた物語を読み解いていく上質な映画!

板谷: (劇中で主人公は)とんでもなく悲しい思いをしたけど、その悲しいことだけじゃ終わらない、人生は続いていくよっていうことを映画では表現している気がしていて。だから特別「よし、今日からがんばろう」とか「明日からピースだ」みたいな終わり方じゃないじゃないですか。まだ多分このテンションは淡々ときっと続いていく。でもそれが人生だし、「その中にかすかな光みたいなのがあるんじゃないの?」という終わり方な気がして。「ハッピーエンドなの?」ってよく聞かれるんですよ、この映画。でもハッピーエンドじゃなくてもそれがリアリティなんじゃないかなっていうのを教えてくれた気がします。

有村: まさに板谷さんがおっしゃっていたように監督自身がインタビューで、僕はあくまで事実を淡々と伝えるだけでいいと思ってる。そこに作家性の主張を入れたりはしたくない。だからそこに「これは喜んでくださいね」っていう演出を入れたり、「楽しんでくださいね」っていうのはあえて入れたくないってことを言ってるんですね。だから隙間があって、その隙間を我々がどう読み解くのかっていうところだと思うんですよね。

板谷: だから受け取り側にお任せっていう。

有村: そうなんですよ。

板谷: だから映画として上質というか、大人の映画というか。

板谷由夏&有村昆

監督からの宿題!? これからの人生を考えたくなる作品

板谷: きっとこの映画って、「ああだったね、こうだったね」って語れる映画ですよね。

有村: 語りたくなりますよね。観終わったあとに「あれはさぁ」っていう。隙間を埋めるために、僕らが確認作業したくなる感じしません? それに監督から宿題をもらった気がするというか……。「(描かれた人物の)今後の人生はあなたたちです」っていうメッセージもあるのかな。

板谷: そうですね。でも大きな変化はなかったけど、ささやかな幸せをきっとリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)も甥っ子(ルーカス・ヘッジズ)も手にできるんだろうなぁっていう、ゆるやかなやさしい希望を残して終わるじゃないですか。あれが観ている側である私たちの、人生も日々も日常として流れていくけど、ささやかな何かがあるかもしれないって思わせてくれるというか。そういう意味ではラストはハッピーなのかもしれないなって。

有村: あえてそういうちょっとふわっとさせてるところがまたオシャレだな。

板谷: そうそうそう! そう思いますね。

2人が言うように、隙間を味わい、そして語り合いたくなる大人な映画が『マンチェスター・バイ・ザ・シー』です。5月13日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー。気になった人はぜひ劇場へ!

マンチェスター・バイ・ザ・シー


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    4.3
    ボストンで便利屋として働くリー(ケイシー・アフレック)は、仕事の腕は良いが性格に難のある男。かつて故郷で暮らしていた頃、自身の過失によって家族を失ってしまったという過去があり、それ以来他者に心を閉ざしてしまっていた。 しかし兄のジョー(カイル・チャンドラー)が病死したという報せが届き、辛い思い出の残る故郷へと向かうことになる。 更には自分がジョーの息子・パトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人として選ばれていたことを知り困惑する。 その地で暮らし続けたいパトリックと故郷に戻ることを拒むリーの、葛藤の日々が始まった。 過去の出来事を悔やみながらも罰を受けることすら許されずに孤独を抱えるリーは、社会的にも感情的にも行き場のない男です。『行き場のないまま』でいることで自分を罰しているようにも見えました。 そんな彼に対してパトリックは、16歳という若い年齢の割に地に足の着いた少年でした。趣味もスポーツも友人関係も充実していて、更には2人も恋人がいます。 予期せず重要な責任義務を与えられた上に、その子どもが(ある意味リーよりも)成熟した人間だという現実は、ふらついた生活をしていたリーにとって非常に酷なことであると言えます。 リーが町を出た理由を知っているはずのジョーはなぜ、彼が苦しむことを分かっていながら息子を託そうと思ったのか。 ジョーは生前、誠実で誰からも好かれる人間でした。そんな人物が実の弟をわざわざ苦しめるための道を選ぶとは考えられません。 ジョーのリーに対する情は、とても深いものであったと思います。 それと並んで、ジョーは息子のパトリックのことも愛し、誇りに感じていたはずです。 だからこそ愛する2人を信頼していたのではないかなと考えます。それは「リーにパトリックを守らせなければ」だとか「パトリックにリーを救ってほしい」などの責任観念というよりも、ただ純粋に自分が愛した2人が、共に助け合い生きてゆく未来を望んだのではないか。そんな風に解釈しています。 飄々とした性格のパトリックが、冷たい場所に安置されている父をふと思い出して取り乱すシーンや、 再会した元妻のランディ(ミシェル・ウィリアムズ)が涙ながらにリーと対話するシーンが、暗闇の中にそっと浮かび上がる小さな炎のようで、物哀しかったです。 リーはパトリックとの日々によって少しずつ心情を変えて行くものの、その人格に強い変化は見えません。 リーは『良い人間にならないこと』によって自分の心を守っているのかもしれません。それこそ痛みを抱えた今のままの自分としてこの先を生きてゆくことが彼にとって重要なのだとしたら、たとえ親族であろうともその領域に踏み込むことはできないように思います。 しかし賢いパトリックならば、そんなリーをありのままに汲んでくれるかも知れません。 永遠にふさがることのない傷口に潮風が触れてしまったような、そんな"滲みる"作品でした。
  • MitsunobuMaeya
    3.5
    ケイシー・アフレックが「俺には乗り越えられない」と言ったけど、さすがにこんな状況簡単に乗り越えられる訳がないよなー。乗り越えられないままそれでも生きていかなきゃいかない。つらい、、 マンチェスターってこんな綺麗なとこなんだなー。
  • McLovin
    3.5
    俺なら耐えられないような挫折に向かわざる得ない状況に心がヒリヒリした。綺麗な海と素敵な思い出に対して、グレーな寒空と突き付けてくる現実の対比が見事。
  • ナツミント
    4.5
    逃げる事は悪い事ではない。
  • かなり悪いオヤジ
    4.0
    喪失感に覆われた映画だ。 小津安二郎がもしもハリウッドで映画を撮るとしたら、本作で主人公リーを演じたケイシー・アフレックを笠智衆の代わりに起用するだろう。それほど芝居臭くない自然な佇まいは実兄ベン・アンフレックを超える抜群の存在感。ケイシーは本作での演技が認められ見事アカデミー主演男優賞に輝いている。 ボストンで便利屋を営むリー(ケイシー・アフレック)は、腕はいいが人間関係を築くのが大の苦手。顧客とのトラブルも後を絶たない。バーで女に粉をかけられても話が続かず、男性客とは目があっただけでぶち切れるかなりの問題男。そんなリーの元に故郷マンチェスターに住む兄ジョーの訃報が届くのだが… 水回りの修理の合間に一人せっせと雪かきをするリー。人付き合いをさけるこの孤独な男リーにも、実は愛妻や子供にも恵まれた時代があったようなのだ。そんな幸福な過去と、兄ジョーが死んで一人残された甥パトリックの面倒をみることになった現在が交互に映し出され、映画はリーを襲ったある悲劇へと観客をみちびいていく。 イギリスではなくアメリカの北東部にある小さな港街マンチェスター。ボストンでは修理に訪れる度に聞きたくもない愚痴を住民に聞かされていたリーだったが、リーの過去を噂で知っているマンチェスターの人々はどこかよそよそしく他人行儀。両市とも雪深いという共通点がありながら、カメラが映し出す街の雰囲気はきわめて対照的である。 友人がたくさんいるマンチェスターを離れたくないパトリックを連れて、すぐにでもボストンに逃げ帰りたくなるほどの悲劇とはいったい?監督のケネス・ロナーガンは、主人公のリーに無理やりその悲しみを乗り越えさせるようなシナリオはあえて書かなかった。マンチェスターの住人に会うたびに過去へと引き戻されるリーは、親父を喪った悲しみから立ち直ったパトリックを残して一人ボストンへ帰ることを決めるのだ。 マンチェスター時代の兄が自分にとても良くしてくれたように、甥の希望通り何とかこのマンチェスターで仕事を見つけようと努力するリー。しかし人生を変えてしまうほどの悲劇を経験したリーにとって、その思い出がたくさん詰まった街で暮らすのはいうなれば生き地獄だ。人間乗り越えられない悲しみの一つや二つあったっていいじゃないその方がむしろ自然でしょ、とロナーガンは優しい口調で観客に語りかける。 マンチェスター・バイ・ザ・シーにつもった雪は当分の間消えそうにないが、(海に囲まれた街のように)他人の悲しみに寄り添う経験をしたリーの中ではきっと何かが変わったはず。そんな明るい予感さえ感じさせるラストシーンの台詞が秀逸だ。 「まだこの(しみったれた)話を続けるのか」「いいや」
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
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