日本語吹替版の声優・野島裕史が語る、『ヴィンチェンツォ』が日本でヒットした理由

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Netflix Japan編集部

イタリアマフィアのコンシリエーリ、ヴィンチェンツォ・カサノ(ソン・ジュンギ)が、金塊を目当てに訪れた韓国で思いがけず、マフィアより危険な財閥と戦うことになるドラマ『ヴィンチェンツォ』。本作の日本語吹替版でヴィンチェンツォの声を担当するのは、声優の野島裕史さんです。

これまでも『スペース・スウィーパーズ』などでソン・ジュンギさんの日本語吹替えを担当されてきた野島さんですが、悪党を倒す悪党、しかもコメディシーンも多いという複雑な役どころを、どのように解釈して演じられたのでしょうか?
野島さんにインタビューを行い、ヴィンチェンツォの魅力やお気に入りのシーン、そしてアニメと吹替えの違いについても語ってもらいました。

野島裕史

1973年生まれ。東京都出身。声優・ナレーターとして活躍。代表作は『キングダム』『弱虫ペダル』『黒子のバスケ』など多数。『ヴィンチェンツォ』の他にも『スペース・スウィーパーズ』などソン・ジュンギの日本語吹替を多く担当している。

ヴィンツェンツォは悪は悪でも“ピュアな悪”

――主人公ヴィンチェンツォ・カサノは「悪だけど悪役ではない」という難しい役どころでしたが、演じられてみていかがでしたか?

珍しいタイプの主人公だなと感じました。ヴィンツェンツォは明らかな悪ではなくて、“ピュアな悪”なんじゃないか、というのが僕の印象です。企業の偉い人も政治家も、ピュアとは正反対の人ばかりが出てくるドラマの中で、ピュアな悪であるヴィンツェンツォは、悪なのにすごく正しいことをしているように見えました。

――今までも、悪党の主人公という作品がなかったわけではないんですが、ここまで容赦なくやり抜いた作品はなかったかもしれませんね。

ピュアな悪を最後まで貫き通しましたよね。でも「クズはやっつけるぞ」という心意気に共感できました。

――昨今の韓国ドラマでは、財閥や政治家を打ち負かすストーリーが多くなっています。『ヴィンチェンツォ』には、「悪の力を借りてでも正義を求めたい」という大衆の想いが反映されているのではないかと思うのですが、野島さんご自身は、そういう悪党を倒す悪党が現れて欲しいという気持ちはありますか?

そうですね、社会ってそもそもが混沌としていて白黒はっきりしているものじゃないじゃないですか。むしろ色んな色が混ざっている。そういう中で「悪をもって悪を制す」「毒をもって毒を制す」のも全然ありだと思います。リアルな社会はそちらのほうが多いのかもしれない。それこそ「勧善懲悪」はファンタジーの世界にしかないですから。

ヴィンチェンツォ』が日本で人気を集めた理由

――韓国らしい感情表現や人間関係が特徴的なドラマなのに、これだけ海外のファンに愛されていることを、ソン・ジュンギさんご本人も驚いていました。野島さんがこの作品の中で韓国らしさを感じたところはありましたか?

僕はそれほど異文化感は感じなかったです。役に入り込んでいたからかもしれないけど。

ただ、収録の時はみんなで韓国料理を持ち寄って食べたりしていました。作品の中に出てくる食べ物がみんな美味しそうじゃないですか。なので、収録するエピソードにちなんで、フナ焼きの回には鯛焼きを買って行ったり、収録が終わった後はそれぞれ家でマッコリを飲んだりしていましたね。

――日本で『ヴィンツェンツォ』がこれだけ人気を集めた理由は何だと思われますか?

やはり「悪をもって悪を制す」ことをテーマにした作品が少ないなか、そこに光を当てた作品が今までになかったからではないでしょうか。見方によってはアリなんだなというのを、改めて目の当たりにさせてもらった感じがしました。これは日本のみならず、世界的にもっとウケてもいいと思うぐらい、社会全体のテーマだと思います。

野島裕史さんが選ぶ、お気に入りのシーン

――これは野島さんが挙げてくださったお気に入りのシーンです。金塊が眠るクムガ・プラザの地下室をやっと開けたのに、その鍵となる虹彩データを地下に放り込んで閉めてしまい、もう開けることができないという話をする場面でした。住民の手前、お寺で祈るフリをしながら歯噛みするヴィンチェンツォが面白かったですね。この場面に象徴されるように、ヴィンチェンツォは韓国に来たばかりの頃から少しずつ変わっていきますが、彼を変えたのは何だったんでしょう?

そうですね、クムガ・プラザに来て、人間的なものが呼び起こされたんだと思います。ものすごく人間味のある住人たちと接することで、彼の中にある本来の人間らしさみたいなものが出てきたんじゃないのかな。このシーンはすごく面白いですね。いつかクムガ・ プラザに行って、地下室を探したいです(笑)。

――あの建物は実在していて、明洞から歩いて行けるぐらいの場所にあります。60年代に国が作った複合団地で、今も色々なお店が営業しているようです。

吹替えの現場では、こういう長い作品が終わった後、みんなで打ち上げ旅行に行くんです。日本だったら熱海や箱根あたりですかね。こんなご時世じゃなかったら「絶対に韓国に行ってるよね」とみんなで話していました。

野島裕史さんが選ぶ、名言シーン

――野島さんが選ばれた名言は、ヴィンチェンツォが元ウサン法律事務所の代表、この時点では検事長になっていたハン・スンヒョクに言い放った言葉「年齢とは、地位じゃなく責任の重さを表すものだ」でした。この言葉を選んだ理由は?

たくさんの名言がある中で、あえてここを選ぼうと思ったのは、僕が声優業界では年齢的にちょうど中堅ぐらいで、年齢のことを考えることが多くなったからです。そういう時に聞いたセリフだったので、すごくグッときたんですね。確かに年齢って、重ねても別に偉いわけでもないですよね。もちろん年上の人は尊敬して敬語で話しますけど。偉いとかそういものではなくて“責任の重さ”って聞いた時に、なるほどなと納得できることが多かったんです

――儒教社会の韓国ほどではないですが、日本でもまだまだ年功序列を感じることはありますね。

ちょうど年齢的に中堅、ベテランに足を一歩踏み入れたかな、というところで若手と接することも多いんですよ。でも僕は別に偉くなったわけでもないし、とモヤモヤ考えていた時にこのセリフがあって。確かに年を追うごとに責任は増していくなと感じたので、すごく共感できました。たぶん、僕の今のこの年齢だからこその共感だったのかもしれません。

アニメと吹替えの違い

――『ヴィンツェンツォ』はシリアスな場面とコミカルな場面の緩急が激しく、かなりのジェットコースタードラマですが、やはり今までの他の作品と比べて、演じるのは難しかったでしょうか?

ソン・ジュンギさんの吹替えは何度か担当させていただいていますが、この作品が一番振り幅が大きいと思いましたね。でも演じてみて、やりづらいと思ったことは一度もなかったです。

ソン・ジュンギさんがしっかりと役作りして演じられているのと、作品自体もよく仕上がっていたからだと思います。いち視聴者としても違和感なく受け止められたので、素直に演じることができました。

――アニメのキャラクターに声を当てるのと、実体のある俳優さんの吹替えをするのでは、演じ方は違いますか?

吹替えというのは、演じている役者さんの声真似をするわけではないし、その演技を真似るわけでもない、呼吸を合わせるという作業なんです。そういう意味で、今回は違和感のないストーリー展開だったので、素直に受け入れて吹替えることができました。

――ヴィンチェンツォはすごく複雑な人なので、演じにくいのかなと思ったのですが、ソン・ジュンギさんに呼吸を合わせることで、すんなり役に入れた、という感じですかね。

これがアニメ作品だったとしたら、役作りはすごく苦労したと思います。でもこの作品は視聴者として観て楽しんで、それから声を吹替えていったので、呼吸を合わせる作業も気持ちよくできました。

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