『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』タイトル・ロールの座をメル・ギブソンから引き継いだトム・ハーディは、ガッチリとした体躯と無骨な顔立ちでクリストファー・ノーラン監督作へ立て続けに出演し、人気を獲得しています。その彼が映画業界で注目されるきっかけとなったのが鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督作『ブロンソン』です。
実在の犯罪者、ブロンソン
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マイケル・ピーターソンはイギリスでもっとも有名な犯罪者として現在も服役中です。子供のころから当たるを幸い誰かれ構わず片っぱしから殴り倒すスーパー問題児でした。ついには強盗で逮捕され実刑を受けると、収監された先々で看守を殴り倒しイギリス中の刑務所をたらいまわしとなります。
あまりに無軌道な暴れっぷりに精神異常と診断されて、向精神薬をしこたま打たれ立ち上がるのもままならなくなりますが、それでも反逆の手はゆるめません。残された微かな力で看守に唾を吐きかけるのです。結局7年の懲役刑は伸びに伸びて倍の14年となります。
その刑期を終えてシャバに出ると地下ボクシングの選手となり、リングネーム「チャールズ・ブロンソン」を名乗るように。持ち前の腕っ節で試合を勝ち抜き人気者になりますが、惚れた相手にプレゼントをしようと宝石店を襲い、フラれた上にまたもや逮捕され、わずか69日で刑務所へ逆戻りとなり反抗と暴力の日々へ戻っていきます。
本作は意味不明なまでに徹底的な反抗をし続ける彼の“魂”に迫っていきます。
社会は自由を殺す
法を無視し、他人の迷惑を顧みないブロンソンは何にも囚われない自由な存在です。そして、自由と社会の相性はすこぶる悪いのです。『イージー・ライダー』の2人や『カッコーの巣の上で』のランドルなど、アメリカン・ニューシネマの作品リストはそのまま社会に殺された自由の墓標でもあります。
もちろん映画の中だけの話でも、過去に限った話でもありません。ネット上では匿名有志による私刑はまかりとおっています。電車の中では、化粧をしていると言っては金切り声が上がり、携帯電話を使用しているからと罵声を浴びせる人がいます。誰も幸せにならないし、かえって不便になる「マナー」という錦の御旗を掲げた良識的な人々による自由への弾圧は日々行われているのです。
息苦しいこの世界の、海の向こう、イギリスの檻の中には、剥き身の自由を体現するブロンソンが今日も看守を殴り倒しているのです。そう思うだけで希望が持てます。
公式トレイラー
※2022年8月27日時点のVOD配信情報です。