映画『ジュラシック・パーク』巧みなサスペンス描写、画期的な特撮技術を時系列で徹底考察【ネタバレ解説】

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『ジュラシック・パーク』を徹底解説!不朽の名作を時系列で細かく観ると…?本作をもっと楽しみたい方必見!【ネタバレあり】

1993年6月11日にアメリカで公開されるやいなや、瞬く間に恐竜ブームを巻き起こし、『E.T.』(1982)を抜いて全世界興行収入ナンバーワンを記録(当時)。現在に至るまで多くのファンを魅了し続けているスティーヴン・スピルバーグの代表作が、『ジュラシック・パーク』だ。

筆者にとっても、本作は思い入れのある作品。どうしても公開初日に観に行きたくて、学校をサボって映画館に直行したことをよく覚えている(すいませんでした)。というわけで今回は、みんな大好き『ジュラシック・パーク』についてネタバレ解説していきましょう。

ちなみに、Netflix製作オリジナル・ドキュメンタリー『僕らを作った映画たち』でも『ジュラシック・パーク』について詳しく解説されているので、そちらも要チェックなり。

映画『ジュラシック・パーク』(1993)あらすじ

インジェン社を率いる大富豪ジョン・ハモンド(リチャード・アッテンボロー)の依頼で、古生物学者アラン・グラント(サム・ニール)、その研究助手エリー・サトラー(ローラ・ダーン)、数学者イアン・マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)は、コスタリカにある小さな島を訪れる。

そこでは、遺伝子操作によって現代に蘇った恐竜たちが暮らす「ジュラシック・パーク」が密かに建設されていた。その驚愕の光景に科学的好奇心を抑えきれない一同だったが、やがて予期せぬアクシデントにより、恐竜たちが人間に牙を剥き始める……。

※以下、映画『ジュラシック・パーク』のネタバレを含みます

映画会社の争奪戦となったマイケル・クライトンの原作

原作は、マイケル・クライトンが1990年に発表した同名小説。実はスティーブン・スピルバーグは、出版される前からこの小説の存在を知っていた。テレビドラマの企画(ちなみにこれが後の『ER緊急救命室』となる)を二人で練っているときに、クライトンから直接『ジュラシック・パーク』の話を聞いたのだ。

恐竜好きのスピルバーグはすっかり有頂天。ぜひ映画化したいと申し出たが、他の映画会社もこの企画を放っておくはずがない。20世紀フォックスはジョー・ダンテ監督(代表作:『グレムリン』、『インナースペース』)、ワーナー・ブラザーズはティム・バートン監督(代表作:『シザーハンズ』、『チャーリーとチョコレート工場』)、コロンビアはリチャード・ドナー監督(代表作:『スーパーマン』、『グーニーズ』)を擁して、権利獲得に名乗りを上げる。ちなみにジェームズ・キャメロンも、グラント役にアーノルド・シュワルツェネッガーを起用して映画を作りたかったとコメントしているが、コレはコレでだいぶテイストの違う映画になっていたことだろう。

クライトンがスピルバーグの手腕に全幅の信頼を置いていたこともあり、映画化権はユニバーサルが獲得。このときスピルバーグは、ユダヤ人である自分自身のアイデンティティーを見つめ直すために、『シンドラーのリスト』(1993)の映画化も希望していた。ユニバーサルは、『ジュラシック・パーク』を監督することを条件に、『シンドラーのリスト』の製作にもゴーサインを出す。

おかげでスピルバーグは、『ジュラシック・パーク』と撮り終わるとすぐに『シンドラーのリスト』のロケに向かうという、超強行スケジュールに。結果的に、最もカネを稼いだ映画と、アカデミー賞7部門を制覇する名作の2本を同じ年にリリースするという、誰も真似できない偉業を達成することになる。

ジュラシック・パーク』を時系列で徹底ネタバレ解説

では、ここからは時系列で『ジュラシック・パーク』を解説していこう。DVDの音声解説のようなノリで読んでいただければと。

イスラ・ヌブラル島(0:00:00〜)

舞台はコスタリカにあるという設定の架空の火山島、イスラ・ヌブラル島。森の奥から何かバカでかいものが近づいてくるので、「いきなりティラノサウルス登場か?」と身構えていると、ヴェロキラプトルの運搬車だった、という展開がいかにもスピルバーグ流。

そう言えば『未知との遭遇』(1977)のオープニングも、真っ黒な画面からいきなり真っ白になるので、「いきなりUFO登場か?」と思うと車のライトだった、というオチだった。

マノ・デ・ディオス琥珀鉱(0:03:33〜)

恐竜の血を吸ったであろう、琥珀に包まれた蚊を調べるシーン。発掘現場の責任者が、何やら謎のスペイン語を喋っているが、これは

「Qué lindo eres, vas hacer a mucha gente feliz(君はとても美しい、君は多くの人を幸せにするだろう)」

という意味。実際には、多くの人を不幸にしてしまいましたが。

バッドランドでの発掘作業(0:05:21〜)

グラント博士とサトラーが登場。グラントは子供が嫌いという謎の設定で、おそらく彼と結婚したいと思っているサトラーにとって、大きな障壁になっている(そして『ジュラシック・パークIII』(2001)では、二人が破局したことが判明する)。ラプトルの話を聞かされて震え上がっている子供、かわいそう。

ちなみにグラント博士役には当初ハリソン・フォードがオファーされていたが、「自分にはこの役は合わない」という判断で断ったという。彼が「アクションができる学者役」をやったら、それってもはやインディ・ジョーンズですから!!撮影開始の数週間前になって、ようやくサム・ニールがキャスティングされたそうな。

ジョン・ハモンドを演じたリチャード・アッテンボローは、『ガンジー』(1982)でアカデミー監督賞を受賞した名監督。業界デビューは俳優だったものの、監督業に専念してからは俳優業を引退していた。スピルバーグたってのオファーが実り、『チャップリン』(1992)のポスプロ作業を終えてから撮影に参加。時には、スピルバーグに演出の助言も行なっていたという。

ネドリーとドジスンの密会(0:13:14〜)

ところ変わって、コスタリカのサンホセ。わずかな給料で働かされているネドリー(ウェイン・ナイト)が、腹いせに恐竜の胚を盗み出すことを約束する。

ちなみにドジスン(キャメロン・ソア)は、インジェン社のライバル企業の社員という設定。原作の続編『ロスト・ワールド -ジュラシック・パーク2-』にも登場するが、本作での扱いがあまりにも小さかったために、映画『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』には出演していない。残念。

ジュラシック・パークへ〜ブラキオサウルスとの遭遇(0:15:18〜)

続編の『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)では主役を務めることになる、イアン・マルコム博士が登場。演じているのは、『ザ・フライ』(1986)や『インデペンデンス・デイ』(1996)で知られる個性派俳優、ジェフ・ゴールドブラムだ。この役にはジム・キャリーも候補に挙がっていたというが、それはそれで面白い映画になっていたかも。

ヘリコプターで着陸するとき、「シートベルトをうまく締めることができない」という小さなサスペンスが挿入されている。結局グルグル巻きにして難を逃れるという「緊張→緩和」のテクニックが、とってもスピルバーグっぽい。彼の映画では、恐怖と笑いはいつだって紙一重だ。

映画が始まって15分経過してから、遂に恐竜(ブラキオサウルス)がフルサイズで登場。グラント博士、サトラー、イアンたちが口をあんぐりさせて見上げる姿が印象的だが、実はこのあと恐竜は、人間の目の高さよりも低い位置で描かれる(ヴェロキラプトルの赤ちゃん、病気のトリケラトプス)。蘇った古代生物が人間のコントロール下にあることを示唆している訳だが、ティラノザウルスに襲撃されるシーン以降は、「恐竜を見上げる=人間がコントロールできない」という表現に切り替わる。

Mr.DNAによる説明(0:22:50〜)

生きている恐竜を見せられて、イアンが「(古生物学者の)グラント博士とサトラーの仕事は絶滅だな」とジョークをかますが、実はこのセリフには製作現場の想いが込められていた。

もともと『ジュラシック・パーク』は、ゴー・モーションと呼ばれる撮影方法で恐竜を表現する予定だった。これは特殊撮影の第一人者フィル・ティペットが編み出した手法。静止しているミニチュアを1コマごとに撮影するストップ・モーションというが、これだと「動きのブレ」が生まれないために、カクカクした動きになってしまう。それに対してゴー・モーションは、実際に動いているミニチュアを撮影することで「動きのブレ」を生み出すことができるのだ。

だが、スティーヴ・スパズ・ウィリアムズをはじめとする一部スタッフが、フィル・ティペットに反旗をひるがえす。彼らは当時馴染みのなかったCGを使って、より滑らかな恐竜の動きを再現してしまったのだ。感激したスピルバーグは、当初の予定を変更して大幅にCGを使うことを決定。落胆したフィル・ティペットは、思わず「自分の仕事は絶滅だ」と漏らしたという。それを聞いていたスピルバーグが、イアンのセリフとして採用したのが「グラント博士とサラーの仕事は絶滅だな」だったのだ。

Mr.DNAがホストとなって、どうやって現代に恐竜を蘇らせたのかを説明するアニメーションも、スピルバーグのアイディア。普通であれば尺を取るうえに単なる説明シーンになってしまうところを、アニメにすることで尺を短縮しつつ、面白おかしく描いている。巧みな計算だ。

ここでイアンが、「Life finds a way(生命は必ず道を見つける)」という有名なセリフを語る。

ラプトルの食事(0:31:41〜)

監視員のマルドゥーンが再登場し、ラプトルがいかに凶暴で狡猾かを語る。当初マルドゥーン役には、『シャイン』(1996)でアカデミー主演男優賞を受賞したジェフリー・ラッシュや、『ロジャー・ラビット』(1988)の主人公エディを演じたボブ・ホスキンスが候補に挙がっていたらしい。ジェフリー・ラッシュだとエキセントリック過ぎてクセが凄いし、ボブ・ホスキンスだとドタバタ・コメディ感が出てしまいそう。

ラプトルによって牛が食い荒らされたシーンの後に、グラントたちの食事に牛肉が出てくるのは、意地の悪いジョーク。

ジュラシック・パークに関する議論(0:34:13〜)

『ジュラシック・パーク』の本質的なテーマは、このシーンに集約されている。ここでイアンは、恐竜を復活させることに対して倫理的にアウト!と糾弾する。

「君らが用いている科学技術や知識は、誰も手軽に入手できる。誰かの本を読んで応用するだけ。自分たちの責任を問うこともしない」

イアンはさらに、ジュラシック・パークの研究員を「研究一筋で倫理的責任を考えない連中」と一刀両断。それはまるで、原子力が軍事利用されることで、結果的に原子爆弾の製造に加担してしまったアルベルト・アインシュタインのエピソードを思い起こさせる。ネドリーのデスクに、原子爆弾開発の指導者的役割を果たしたロバート・オッペンハイマーの写真が飾られているのは、非常に示唆的だ。

倫理観が欠如したテクノロジーは、人類を滅ぼす。誰よりも映像技術の革新に貢献してきたスピルバーグの作品だけに、説得力がある。

ツアー開始(0:38:08〜)

イアンがサトラーの手を取って、カオス理論について語り出す。どう考えてもナンパの手口だが、実は演じているジェフ・ゴールドブラムとローラ・ダーンは、この映画がきっかけで付き合うようになり、婚約までしていた(その後破局)。

ちなみにジェフ・ゴールドブラム、『ザ・フライ』や『ボクの彼女は地球人』(1988)で共演したジーナ・デイヴィスとも結婚→離婚を経験。なかなかの共演者キラーぶりである。

病気のトリケラトプス(0:49:11〜)

人気恐竜のトリケラトプスが登場。特撮スタッフによるアニマトロニクス(コンピュータ制御されたロボット)で、恐竜オタクの少年ティムを演じたジョゼフ・マゼロは、

最初に(恐竜を)見たのは、病気のために横たわっているトリケラトプス。信じられないほど生き生きとしていて、自分の目を疑ったよ

と、その精密さを語っている。

サトラーに病状を説明する獣医を演じているのは、この映画の共同プロデューサーを務めているジェラルド・R・モーレン。プロデューサー権限を発動して出演したのかどうかは定かではないが、完全に役得ですよね。

ちなみに、ティムの姉レックス(アリアナ・リチャーズ)がトリケラトプスの赤ちゃんに乗るシーンも撮影されていたのだが、映画のテンポが停滞するという判断で最終的にカットされている。

ネドリーの計画(0:054:13〜)

イスラ・ヌブラル島に暴風雨が接近、海岸に荒波が打ち寄せるショットがインサートされているが、これは本当に撮影現場のハワイにハリケーンが襲来し、スピルバーグが撮影監督のディーン・カンディを説得して急遽撮影したもの。荒れ狂う海のシーンは、CGなしの本物なのだ。

ネドリーが恐竜の胚を盗み出すミッションが発動。ステゴザウルス、メトリントサウルスなど全部で15種類の胚があるが、実際に映画に登場する恐竜はブラキオサウルス、パラサウロロフス、トリケラトプス、ティラノサウルス、ディロフォサウルス、ガリミムス、ヴェロキラプトルの7種類。予算の都合もあり、当時はこれが精一杯だったのだ。

またこのシーンで流れる「デニス冷凍胚を盗む」という曲には、尺八が使用されている。音楽を担当したジョン・ウィリアムズが日本を代表する作曲家・武満徹のファンで、日本の雅楽器を用いた彼の作風に敬意を表したんだとか。さすがジョン・ウィリアムズ、「恐竜映画に尺八を使う」という発想が凄すぎ!

ティラノザウルスの襲撃(1:00:25〜)

スピルバーグの天才的演出手腕が冴えまくり。はっきり言ってこのティラノザウルス襲撃シーン、めちゃめちゃ怖いです。

まず水の入ったカップが振動することで、ティラノサウルスの襲来を予感させる演出が素晴らしい。実はコレ、スピルバーグがアース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲を聴いている時に、重低音によって車のミラーが振動するのを見て思いついたという。

そして、ティラノサウルス登場。このとき、SUVの窓ガラス越しに恐竜の姿が見えるのがポイント。スピルバーグは、「観客もその場にいるような恐怖」を体感して欲しいという想いから、登場人物と同じ視点に設定したのだ。かつて『ジョーズ』(1975)で証明してみせたように、特に彼は恐怖描写においてとてつもない才能を発揮する。

ティラノザウルスは、原寸大のアニマトロニクスとCGを併用(基本的に、恐竜の一部しか映っていないものがアニマトロニクスで、全身が映っているものがCG)。雨が吹きすさぶなかレックスとティムを襲うという設定のため、水を吸い込んでアニマトロニクスが想定よりも体重が膨れがってしまい、せっかく完成したCGもそれに合わせてティラノザウルスを太らせる、という涙ぐましい努力があったとか。

もう一つのポイントは“鳴き声”。聴くものを震え上がらせるティラノザウルスの咆哮は、イルカ、セイウチ、ガチョウなどの鳴き声を混ぜ合わせたもの。それをコンピューターに取り込み、キーボードで再生したのだ。

ちなみにこのシーン、ジョン・ウィリアムズの音楽が全く使われていない。雨の音、人間たちの叫び声、恐竜の咆哮だけで構成されている。それが恐怖を盛り上げる最高のサウンド・トラックであることを、スピルバーグは知り抜いていたのである。

ネドリーの死(1:09:49〜)

エリマキトカゲのようなディロフォサウルスの襲撃によって、ネドリー死亡。ちなみに毒を吐くというのは完全にオリジナルの設定で、実際にはそのような能力は有していなかったとされる。

ティラノザウルス再度の襲撃(1:14:28〜)

ティラノサウルスがジープを追いかけるシーン。元々は足音を聞いて走り去るだけの予定だったが、「それではサスペンスが足りない」というスピルバーグの判断から、再び恐怖に見舞われるシーンに変貌した。

恐竜に追われている時にイアンは「must go faster!(もっと速く!)」と叫ぶが、なぜかこのセリフをローランド・エメリッヒが気に入り、自身が監督した『インデペンデンス・デイ』(1996)の「宇宙人の母船から脱出するシーン」で、全く同じセリフをゴールドブラムに言わせている。

ブラキオサウルスとの触れ合い、ハモンドとエリーの食事(1:24:49〜)

あれだけの恐怖体験を味わったにも関わらず、グラント博士は恐竜の鳴き声を真似してブラキオサウルスとの交流を図る。レックスは「モンスターを呼ぶの?」と動揺するが、「モンスターじゃない。草食動物さ」と答えるグラントの姿に、「恐竜は人間の敵ではない。クローン技術によって現代に蘇った彼らもまた、犠牲者である」というスピルバーグの強い想いを感じる。

それにしてもこの映画、やたら食事するシーンがよく出てくる。食物連鎖のイメージを表現したかったのかも。

恐竜の卵の発見、システムの再起動(1:30:10〜)

雌しかいないはずのパークで、恐竜の卵を発見。野外で繁殖していることに生命の逞しさを感じ、今度はグラントが感慨を込めて「Life finds a way(生命は必ず道を見つける)」のセリフを言う。

一方ハモンドたちは、システムのシャットダウン→再起動が成功。チーフ・エンジニアのアーノルド(サミュエル・L・ジャクソン)が、「ブレーカーを入れれば電話も警備装置も戻る。外の機械室に3分で行って直してきます」と語るが、この時点で「死亡フラグ立ったな」と思った観客は多いことだろう。

ガリミムスとの遭遇、電源の復旧(1:34:05〜)

ガリミムスの群れに遭遇。ティラノサウルスに食われるガリミムスの姿をみて、グラントが「あれが鳥の祖先だ」と自説を言い張るあたり、なかなかに大人げない。スピルバーグ映画での主人公たちは、そのほとんどが大人になりきれない者ばかりだ。

案の定アーノルドはラプトルに惨殺されてしまうが、その直接描写はナシ。サミュエル・L・ジャクソンはそのシーンを撮影するためにハワイへ飛ぶ予定だったのだが、前述のハリケーン襲来によってセットが破壊され、そのシーン自体がまるまるカットされてしまった。今でもサミュエルはそのことを苦々しく思っているんだとか。

ビジターセンターへの帰還、ラプトルの襲撃(1:46:12〜)

グラント博士一行は、なんとかビジターセンターに帰還。休む間もなく、今度はラプトルに襲われる。この撮影は、ティムを演じたジョゼフ・マゼロの9歳の誕生日に行われたんだとか。いろんな意味で、一生忘れられない誕生日になったことだろう。

ティムたちはキッチンへ避難。「ラプトルは一匹だけと思いきや、横からもう一匹がぬっと顔を出す」という演出がめっちゃ巧い。公開当時、筆者の隣に座っていたおばさんが「二匹もいるじゃん!」と思わず叫んだことを思い出します。

氷が張った床にラプトルが滑ってしまい、ティムたちが九死に一生を得るという展開に、ややご都合主義的なものを感じない訳でもないが、ちゃんとここには伏線が張られている。パークの電源が落ちてしまったことで、冷蔵庫の周りに霜が降り始めていた(ハモンドもそのことを知っていて、溶けてしまう前にアイスクリームを食べている)。水浸しになっていたであろうキッチンは、サトラーが電源を入れることで冷蔵庫が復旧し、床が凍ってしまったのだ。

最後の戦い(1:52:17〜)

実はスティーブン・スピルバーグ、撮影終了の数週間前にクライマックスを変更している。元々は、ビジターセンターのロビーに鎮座されているティラノサウルスの骨格をマリオネットのように操縦して、ラプトルを倒すというシナリオだった。だが、「映画の真の主役ティラノサウルスがクライマックスに登場しないのは、良ろしくない!」と思い直し、最後の戦いを差し替えてしまったのだ。

ティラノサウルスの骨格が本物によって破壊されてしまう、という皮肉。しかも「When the Dinosaurs Ruled The Earth(恐竜が地球を支配したとき)」と書かれた横断幕をバックに、ティラノサウルスは最後の咆哮をあげるのだ。スピルバーグはこの咆哮を、『キング・コング』(1933)のようにしたかったという。この映画を撮るにあたって、スピルバーグが最も参考にした作品こそが『キング・コング』だったのだ。

特撮技術の発展をリアルタイムで定点観測できる、『ジュラシック・パーク』シリーズ

ジュラシック・パーク』は、映画の歴史における大きな変換点となった。これまでにないリアルな恐竜描写は、これからの特撮はCGがメインストリームになるという高らかな宣言でもあった。事実ジョージ・ルーカスは、この映画をきっかけに「新しいスター・ウォーズ神話を語ることは、技術的に可能」と確信し、『スター・ウォーズ エピソード1/ ファントム・メナス』に取り掛かることになる(偶然だが、どちらの作品にもサミュエル・L・ジャクソンが出演している)。

2021年8月現在、『ジュラシック・パーク』シリーズは合計5作品作られている。

ジュラシック・パーク』(1993)
ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997)
ジュラシック・パーク III』(2001)
ジュラシック・ワールド』(2015)
ジュラシック・ワールド 炎の王国』(2018)

そして2022年には、シリーズ6作目となる『ジュラシック・ワールド/ドミニオン(原題)』が公開されることがアナウンスされている。このシリーズを観ることは、特撮技術の発展をリアルタイムで定点観測する行為でもある。さらに進化した恐竜表現を楽しみに、来年を待とう。

※2021年9月3日時点の情報です。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS