《連載③》鏡の中のダイバーシティ:白人偏重のハリウッドに楔を打ち込む『ワイルド・スピード』
本連載の1回目にも書いたことですが、筆者は5年間ロサンゼルスに住んでいたことがあります。渡米最初に感じたことは「映画で見るよりも非白人の人が多いんだな」というものでした。
ロスの大学には大抵どこにでも映画学科があるのですが、世界の映画の中心地であるハリウッドを擁する土地柄か、アメリカ内外からたくさんの学生が集まってきています。学生の作る作品は自身の身近なものを題材にすることが多いので、必然的にそれぞれの人種のアイデンティティがハッキリと感じられる作品が多く見られるんです。
日本からの留学生だったら、コミュニケーションの苦労話だったり、差別の問題などを取り上げたりしますし、メキシカンの学生の作品はロスが舞台でも全編スペイン語だったり。出演俳優も実にそれぞれ多種多様な人種で構成されています。
カリフォルニア州の人種構成比率は、2010年の調査で非ヒスパニック系の白人が過半数を割っています。それに加えて世界中からハリウッドを夢見て人が集まってきますので、本当にいろんな人種の人がいるのです。
でもプロのハリウッドの作品では、出演者の多くは白人ですよね。
南カリフォルニア大学(USC)アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム学部の研究者の発表によると、興行収入トップ100位にランクインする作品の出演者の73.1%が白人だそうですが、こうしたキャスティングにおける人種の偏りを問題視する声が近年大きくなってきています。
いわゆる「ホワイトウォッシュ」批判もそうしたところに端を発しているでしょうし、一昨年の「白すぎるオスカー」も同様に、そもそも役のほとんが白人役なので、賞レースに絡むチャンスも必然的に白人が多くなりますし、そもそも役を勝ち取れる機会自体に大きな差があるわけですね。
しかし、昨今のハリウッド映画のキャスティングにもだんだんと変化がしてきていて、いろんな人種を見かけるようになりましたよね。
その最も顕著な例は「ワイルド・スピード」シリーズでしょう。いまやハリウッドを代表する大ヒットシリーズとなりましたが、この映画は非常に多様な人種で構成されていて、それがシリーズの大きな魅力ともなっています。
世界中で愛されている「ワイルド・スピード」シリーズ
「ワイルド・スピード」シリーズは、ストリート・レースを題材にしたカーアクション映画で、2001年公開の1作目に始まり今年公開された『ワイルド・スピード ICE BREAK』で8作目となる長寿シリーズです。
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1作目の主役は今は亡きポール・ウォーカーと、シリーズの顔であるヴィン・ディーゼル。シリーズのメインヒロインともいえるミシェル・ロドリゲスも1作目から出演しています。シリーズを通して安定した興行成績を記録していますが、5作目の『ワイルド・スピード MEGA MAX』あたりから急激にその成績を伸ばしています。
『ワイルド・スピード MEGA MAX』は全米ボックオフィスではシリーズ初の2億ドルを突破。世界興行収入では、前作『ワイルド・スピード MAX』の2倍近い6億ドルを超える成績を叩き出しています。本シリーズの主要メンバー、作品内の言い方だと「ファミリー」が揃って活躍するのはこの「MEGA MAX」からで、この作品が現在のシリーズの原型になっていると言えるでしょう。
映画の中心となる「ファミリー」のメンバーは、ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースターの1作目から出演しているメンバーに加えて、タイリース・ギブソン、クリス・リュダクリス・ブリッジス、サン・カンにガル・ガドット、ドウェイン・ジョンソンやナタリー・エマニュエルなどがシリーズを重ねるごとに加わっていきます。
最も興行成績が良かったのは7作目の『ワイルド・スピード SKY MISSION』。世界興行収入では『アベンジャーズ』に匹敵する15億ドルを記録しており、歴代世界興行収入でも6位という成績です。
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このシリーズの世界興行収入で特筆すべきは、収入全体における「米国以外」の比率が高いことにあります。『SKY MISSION』では76.6%が北米以外での収入で、これが最新作の『Ice Break』だと81.9%となります。
他の大作映画では、『アベンジャーズ』は米国以外での興行収入比率が59%、『スターウォーズ フォースの覚醒』でも54.7%ですから、「ワイルド・スピード」シリーズがいかに世界中で人気があるのかを物語っていますね。
さらに、本シリーズは米国内でも多くの人種に人気があるようで、観客の75%が非白人だったというニュースもあります。「ワイルド・スピード」は、世界中で、しかも多くの人種に愛されているシリーズだと言えそうです。
観客にとって身近な存在が映画の中で活躍する
ハリウッド・リポーターの記事でボックスオフィスアナリストのPaul Dergarabedian氏は「このキャストの中には、(どの人種にとっても)観客にとって身近な存在がある。このことは本作の興行収入の成功に大きく貢献している(筆者意訳)」と語っています。
インターネット、とりわけSNSが発達した現代では、身近な共感が遠くの憧れを凌駕する価値を持つと言う意見があります。テレビのタレントよりもYoutuberやインスタグラマーといった、身近と思える存在の方が好きという人も若年層を中心に増えていますね。観客にとって身近な存在(自分たちと同じ人種)がスクリーンで活躍することに、現代の観客は共感を見出しているのかもしれません。
ミシェル・ロドリゲスもLA Timesのインタビューでこのシリーズのキャスト構成とヒットの関係についてこのように語っています。
「もしスクリーンの中の主役たちが白人ばかりだったら、多くの観客は自分たちが映画の世界に存在していないと感じるでしょう。多くの観客が見たいのは、自分たちもその世界の一員だと感じさせてくれる映画じゃないでしょうか(筆者意訳)」
タイリース・ギブソンとリュクリダスは黒人系、ミシェル・ロドリゲスはドミニカ人の母とプエルトリコの父を持ち、ジョーダナ・ブリュースターは母方がブラジル人です。6作目の『EURO MISSION』まで出演しているサン・カンは韓国系アメリカ人ですね。現在『ワンダーウーマン』役で注目されているガル・ガドットはイスラエル人で、彼女と入れ替わるようにシリーズに参加したナタリー・エマニュエルも、ドミニカとセントルシアの血を引いている中南米系の人です。白人のポール・ウォーカーもいますし、ドウェイン・ジョンソンはサモアと黒人の血を引いています。
シリーズの中心であるヴィン・ディーゼルは、正確な人種が不明です(生物学敵な父親が誰か不明だから)。白人の母親と黒人の育ての父親に育てられた彼は、自らの人種を「multi-racial(多人種)」で、「I have connections to many different cultures.(多くの文化と繋がっていた)」と語っています。彼のバックグラウンドはなんだかこのシリーズを象徴しているみたいに感じますね。
これら多様な人種が「ファミリー」として活躍するのが「ワイルド・スピード」のユニークな部分で、シリーズ全体の表現にも厚みを加えていると言えるでしょう。
本シリーズの生みの親とも言えるプロデューサー、脚本家のクリス・モーガンは「映画が成長していくにつれて、世界は狭くなり、我々はよりグローバルな視野を持つようになって、ファミリーの定義もそれに伴って拡がっていった(筆者意訳)」と語っています。
シリーズ1作目では、「ファミリー」はドムとミアの兄妹、それにドムの恋人であるレティくらいでした。それがシリーズを重ねていくうちに死線をともに乗り越えた者同士が絆を深めていき、時には敵だった者さえも仲間となっていきます。
このシリーズではみんなで集まってお祈りをして、食事をするシーンが必ず出てきます。この食事のシーンはカーレースと並んで本シリーズの重要なお約束となっています。
様々な人種が一同に集まって、祈って食事を共にする。人種の垣根なく、過去の諍いも水に流して一緒に食卓を囲むこのシーンは、どうしてド派手なアクションが売りのシリーズに必要なのでしょうか。
そこにこそ、アクションだけでない、この映画の魅力があるように思います。いろんな国で民族主義的な空気が立ち上るなか、人は分かり合えるということを体現しているのがこのシーンなのではないでしょうか。
世界中の誰もが身近に感じられる登場人物たちがスクリーンで大暴れし、また一同に介して幸せな食卓を囲む。ヒーローのような活躍ぶりも人種に関係なく絆を紡ぐことができることも、ともに身近に感じられるのがこのシリーズの素晴らしいところですね。
(C)Universal Pictures
※興行成績の数字はすべてmojoを参照しています。
※2020年12月17日時点のVOD配信情報です。