アカデミー賞「外国語映画賞」受賞!現代イランの社会を写し出す濃密な心理サスペンスとは?

2017.06.07
特集

FILMAGA編集部

フィルマーくま

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2009年の『彼女が消えた浜辺』でベルリン国際映画祭「銀熊賞」を受賞、2011年の『別離』でアカデミー賞「外国映画賞」、ベルリン国際映画祭「金熊賞」・「銀熊賞」を受賞。そして、2013年の『ある過去の行方』ではカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞。

手がけた作品が世界で絶賛を浴び、いま最も注目されるフィルムメーカーとなったアスガー・ファルハディ監督の最新作『セールスマン』が、6月10日(土)より全国順次ロードショーされます。

本作は、ふとしたことをきっかけにしてテヘランに住む若夫婦が衝撃的な事件に遭遇し、日常が激変する様子をヴィヴィッドに描いた濃密な心理サスペンス。この作品も世界中で賞賛を受け、見事に監督2度目となるアカデミー賞「外国語映画賞」を受賞。カンヌ国際映画祭でも脚本賞、男優賞をダブル受賞しました。

アスガー・ファルハディ監督による新たな傑作、『セールスマン』の魅力をご紹介しましょう!

 

授賞式ボイコットの渦中で受賞したアカデミー賞

『セールスマン』は、主演女優のタラネ・アリシュスティやファルハディ監督がアカデミー賞授賞式をボイコットすることを表明したことでも、すでに話題になっていました。

今年の1月24日、アカデミー賞外国映画賞に『セールスマン』がノミネートされたものの、ドナルド・トランプ大統領がイランを含む特定7カ国からの入国制限命令を検討しているというニュースを受け、それに抗議する形で授賞式の出席を拒否したのです。

そんな状況の中でも作品の評価が揺らぐことはなく、映画は見事アカデミー賞「外国語映画賞」を受賞。監督は受賞の際、こんなメッセージを寄せています。

「アメリカへの移住者の入国を禁止する非人道的な法律によって、敬意を払われていない私の国と他の6カ国の人々に対する尊重から、私は欠席することにしました。(中略)映画はカメラを通して国籍や宗教の固定概念を壊すことができます。これまで以上に共感が必要とされている今、映画は共感を生み出すことができるのです」

世界の枠組みが大きく変わろうとしている今こそ、「イランの今」をありのままに活写した『セールスマン』は、リアルタイムで観るべき映画なのです。

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  • ■イランの国情や文化に立脚しながらも、どの国でも起こりうる性的犯罪事件をキッカケに露呈する夫婦の価値観の違いや深層心理をえぐり出す、緻密なサスペンスドラマ(Terrraさん)
  • ■一般的に想像しているより遥かに現代的なイランに驚く。横軸には見事なサスペンスミステリーがあり、真相に近づいていく様に心臓が痛くなるほど惹き込まれました(湊さん)
  • ■よくあるアメリカ的な驚かしてやろう的サスペンスではなくて、ねっとりした伏線が余韻として残る。俳優たちの演技が逸品だった(kapoさん)
  • ■その夫婦役のシャハブ・ホセイニとタラネ・アリドゥスティの演技が素晴らしいし、スリリングなサスペンスタッチで、夫が犯人と対峙するクライマックスまで観る者を飽きさせない、監督・脚本のアスガー・ファルディも素晴らしいです(ママコさん)

近代化するテヘランを舞台に展開される、濃密な心理サスペンス

映画の舞台は、近代化が進むイランの首都テヘラン。地元の小さな劇団に参加している国語教師のエマッドとその妻ラナは、近隣の強引な建設工事によってアパートが倒壊寸前となり、急遽別のアパートに引っ越すことになります。

ところが、彼らが出演する舞台が初日を迎えた夜、新しいアパートで正体不明の侵入者にラナが襲われるという事件が発生。一命をとりとめた彼女はなぜか事件について多くを語ろうとせず、エマッドは犯人が置き忘れた携帯電話と鍵束から、その正体を掴もうと躍起になります。

無秩序に都市開発を行う行政。復讐心に燃える夫。他者の目を気にして、なるべく事件を公にしたくない妻。イランの社会状況、女性が置かれている立場が映画に巧みに織り込まれ、物語に深みを与えています

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  • ■まだまだ根強いイスラム社会の男尊女卑。なぜ警察に届けないのか、始めは歯痒く感じたけれどこの国ならばそれもあるのだ。それを細やかな演出で観客に納得させていくのが上手いと思う。脚本・監督・役者が揃うとこれだけのパンチのある作品になるんですね。2時間全くだれずに一気にエンドロール。素晴らしかったです(オトマイムさん)
  • ■この監督のすごいとこは、サスペンス映画としてただただ面白い!ということ。精神的にじりじり来るサスペンス。あまりにもイランのこと知らないけど、感情は人間共通なんだと教えてくれる(フクイヒロシさん)
  • ■アカデミー賞の(代読)スピーチで感動して絶対に観たいと思っていた作品。素晴らしかった。「たった一夜の出来事で、2人の運命が狂い出す」なーんてよくある文句は似合わない、上質なサスペンス(Kanoさん)
  • ■パートナーと観るのもいいかもしれない。男女の考え方の違い、隣にいるこの人が同じ経験をしたらどうなるのか…重ね合わせながら観るのもひとつだと思う(Shihoさん)

戦後アメリカを代表する戯曲『セールスマンの死』が表象するものとは?

エマッドとラナは、所属している劇団でも夫婦役を演じています。彼らが出演している舞台「セールスマンの死」は、アメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーによる全2幕の戯曲。「年老いたセールスマンが時代の波に取り残されて仕事を失い、夢を託した2人の息子も自立することができず、全てに絶望してついに自殺する」という物語です。

1949年に初演を迎えたこの作品は、戦後アメリカのニューヨークで資本主義社会に取り残された男の悲劇ですが、その状況を今のイランを重ね合わせています。

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ファルハディ監督自身、インタビューで「(「セールスマンの死」は)都会であるアメリカの突然の変化によって、ある社会階級が崩壊していく時代の社会批判です。(中略)その意味で、この戯曲は、私の国イランの現在の状況をうまく捉えています」と語っています。

映画内の物語と、劇中劇が重層的に交錯しているからこそ、『セールスマン』は単なるサスペンス映画ではなく、優れた社会派ドラマとしても機能しているのです。

観る者に先読みを許さない濃密な心理サスペンスの傑作をぜひ劇場でご覧ください。

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  • ■人間の性は深いです。赤い自転車が持つ意味に泣けてきました。今年のマイベスト映画です(KawaKurさん)
  • ■犯人は一体誰なのか?舞台と現実がリンクして実にスリリング。計算され尽くした細かい演出や小道具や伏線がニクイ!オスカー獲得も納得の上質なサスペンス(tkred204さん)
  • ■本作が纏っている夫婦の「仮面」と、舞台で「演じる」事の共鳴に気付くと、胃の辺りがグッと掴まれる様な気持ちで、居たたまれなくなる。ファルハディ先生、今回も本当に底意地悪いです(takeman75さん)
  • ■惹き込まれる。芝居と脚本に。決定的な部分を見せないような撮り方にも。心理描写が繊細で、役者のどの表情も見逃せない。鏡やガラスのどれをとっても重要な表現材料になっていて、映るもの全てで何かを表しているように見えた。一度見ただけでは追いきれてない部分がある気がしたので、もう一度見たい(れいかさん)

 

◆映画『セールスマン』information

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あらすじ:作家アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」の舞台に出演中の夫婦。夫は教師をしながら、小さなの劇団で妻とともに俳優としても活動している。 ある日、引っ越ししたばかりの自宅で、夫の留守中に妻が何者かに襲われ、ふたりの穏やかだった生活は一変する。事件を表沙汰にしたくないと警察への通報を拒否する妻の態度に納得できない夫は、自分自身で決着をつけるべくひそかに犯人捜しを続ける。 演劇と犯人探し、夫婦の感情のずれがスリリングに絡み合い、やがて物語は思わぬ展開に…。

上映時間:124分

〈2017年6月10日(土)、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー〉

公式サイト: http://www.thesalesman.jp/
配給:スターサンズ/ドマ

(C) MEMENTOFILMS PRODUCTION?ASGHAR FARHADI PRODUCTION?ARTE FRANCE CINEMA 2016

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  • MitsuhiroTani
    4.8
    映画を通じて僕らは、遠い国イランの市井の人々を知る。舞台劇を観たり、パスタを食べたり、プジョーに乗ったり。そして、微かに違う価値観に気づく。 傑作「別離」の感想で述べた言葉。「国や民族、そして宗教を超えて語り合うことのできる普遍的なテーマと、伝統的な宗教に根ざした価値観。その絶妙なバランスが本当に素晴らしい。」 本作でも、イラン映画の高い水準、監督の知性を強く感じた。
  • 3.9
    【相手を許しきることはできないのか】 エマッドとラナは劇団に属する夫婦。新居に引っ越したある日、ラナが侵入した男に暴行される。なかなか妻の心の傷が癒えない中エマッドは犯人探しを始める。 1つの事件をきっかけに変わってしまった夫婦の生活を軸に、憎しみと復讐やすれ違い、そしてイラン社会の問題を描く。妻ラナの暴行事件は夫婦に暗い影を落とし、すれ違いや思いがけない事件を生み出す。夫婦のすれ違いのや犯人捜しの行方が終盤までの主な争点だけど終盤犯人と直接対面する場面からは一気に各人の思惑が交錯し雰囲気は重くなりどう転んでもしこりが残る感じで見ていて辛かった。終盤のこの感覚は監督の「別離」を見た時の感覚と似ていた。 エマッドとラナは、住んでいたアパートの老朽化が原因で急遽新居を探すことになる。少しでも早く家を見つけたい状況で、彼らは劇団の同僚ババクがある物件を紹介する。事情により前の住人の持ち物が残っているが、彼らは家を見つけたい一心でその家に入居、これが悲劇の始まりだった。ラナは男に襲われ、心に深く傷を負う。彼女が事件を表沙汰にしたくない一方でエマッドは警察に通報し事件を決着させようとするのだ。 中盤は主にこの2人のすれ違いが描かれている。ラナにしてみれば、オートロックを開けて男を入れてしまったのは彼女自身というところに負い目がある。特にイスラム社会では姦通罪は重罪だし、警察沙汰にしたらラナにも問題があるとみられるかもしれない。それに心の傷が癒えてない。一方エマッドにしてみれば早く犯人を見つけたい。また、この2人の対立は、[男性:問題を解決したい、女性:共感してほしい]という男女の心理の違いもあるのかもしれない。 エマッドは犯人のトラックを手掛かりに犯人を見つけ、犯人捜しは終わる。これはこれで解決であるけど、怒りの収まらないエマッドが犯人に罰を与えようとすることで展開は混沌とする。許しを請う犯人と許したいラナ、そして許せないエマッド。彼は家族の前で犯人に恥をかかせようとするが、想定外の事件により未遂に終わる。それでも怒りの収まらないエマッドは"精算"をしようとするが、さらに取り返しがつかなくなる。どこかで相手を完全に許すことができたらこの連鎖を止められたのに、なぜ許しきれなかったのか。彼は"精算"とは言ったが、それは決して"精算"ではなくむしろ新たな"負債"を生んだ。ラストシーンでラナの顔の傷は治っていたけど、2人の表情は死んでいるようだし、心には永遠に負債が残るだろう。 印象に残ったシーン:ラナとエマッドが喧嘩をするシーン。エマッドが犯人と対面するシーン。犯人の家族を呼び寄せるシーン。 余談 ファルハディ監督は、この作品でアカデミー賞外国語作品賞を授賞しましたが、トランプ大統領の出したイスラム圏の人々の入国禁止令に反対して授賞式を欠席しました。代わりに式では、イラン系アメリカ人の女性宇宙飛行士がスピーチを代読しました。
  • ダフトパン子
    3.5
    「深く重く考えさせられる」内容なんだけれど、私個人には、この作品にでてくる人たちの文化や習慣の違いがつらくて厳しくて、主人公に対する嫌悪感が湧いてきてしまい集中できなくなってしまい。まず、奥さんが何者かに襲われていて…って話が核にあるから、こんなことが起こったら日常生活を前のようには送れないじゃん!当たり前じゃん!ってなるのに、旦那さんは自分のことしか考えない勝手な奴にしか見えないよ…なので、犯人が誰とかラストよりも、そこが引っかかりすぎました。
  • KazuyaNaganuma
    4.5
    フラジャイル。 セールスマンの死は残された人に自由を与えたが、喪失感を残した。パン職人の死も同様に。この二重構造の舞台装置として廃墟があり、それは壊れゆくものなのですね。
  • Daiki
    4.2
    2017年公開映画80本目。 時は前にしか進まない。 2017年アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。 冒頭でアパートに罅が入るように、二人の間にも徐々に罅が入っていく。 アスガー・ファルハディ監督作『別離』同様、ある事件をきっかけに夫婦の関係が崩壊していく様をリアルに描いた作品。 人生の落とし穴はふとしたところにあり、誰にでも起こりうる。 決して他人事ではない。 引っ越す必要がなければ。 前の住人のことを詳しく聞いていれば。 誰なのか確認もせずにドアを開けなければ。 時間を巻き戻せたらと願うような状況の描写が多い。 また、本作は事件の様子もラストの終わり方も明確には見せていない。 観客の想像に委ねる場面が多く、サスペンスとしても非常に巧みであった。 劇中に登場する舞台劇「セールスマンの死」と現実が絡み合い、絶妙にリンクする構成はお見事。 現代イランの世情を鋭く捉え、普遍的なテーマかつエンターティンメント要素もあるのに、静かで淡々と繰り広げられるギャップは素晴らしい。 あれだけ痛ましい事件があったにも関わらず、被害者の女性が見せたのは「怒り」ではなく「哀しみ」の表情だった。 どうしていいのかわからない、次第に関係性が崩れていく夫婦の切ない物語に心を打たれた。
「セールスマン」
のレビュー(1654件)