箸を使ったり、米を食べたり。韓国ドラマを観ていると、日本と似ているところもたくさんありますが、ほとんど見たことのない韓国のソウルフードやその食べ方に、より興味を惹かれます。
食べ物や食べ方は、世界的に共通する部分もあるけど、地域や文化圏によって大きく変わるもの。今まで知らなかったいろんな食文化と出会えるのも、他の国の映画やドラマを観る、楽しみのひとつだと思います。
今回は、身近だけど意外に知らない韓国のソウルフードについて、在韓歴17年の韓国語教育者「ゆうき先生」こと稲川右樹さんに解説していただきました。第1回は、あの『愛の不時着』でも印象的な「チキン」がテーマです。
稲川右樹(ゆうき先生)
滋賀県出身。現在、帝塚山学院大学准教授。専門は韓国語教育。2001年〜2018年まで韓国・ソウル在住。ソウル大学韓国語教育科博士課程単位満了中退(韓国語教育専攻)。韓国ではソウル大学言語教育院、弘益大学などで日本語教育に従事。近著「高校生からの韓国語入門」(Twitterアカウント:@yuki7979seoul)
ネトフリ編集部 岡田和美
欧米ドラマに韓ドラ、リアリティーショーまでいろいろ見る雑食。好きなネトフリ韓ドラ作品は『ヴィンチェンツォ』『賢い医師生活』『君は私の春』など。
ネトフリ編集部 YJ
韓国生まれ育ち、日本歴19年のネトフリ編集部メンバー。しばらく韓国の作品を観ていなかったことから最新の文化と長い間距離を置いてしまっていたが、『愛の不時着』と『梨泰院クラス』をはじめとする、韓国ドラマブームの再来をきっかけに韓国の文化にリコネクト中。ネトフリで観られる推しの韓国ドラマは『秘密の森 S1』『ライブ』。
日本とどこが違う?韓国のフライドチキン事情
稲川右樹(以下、ゆうき):韓国のチキンは、まず量が多いですね。1羽丸々食べたりもします。注文する時には「何羽にしますか?」と聞かれるほどです。一番基本的なのがクリスピーですが、味付けの種類も多くて、最近日本でも知られるようになった「ヤンニョムチキン」という甘辛いソースを絡めたものや、にんにく風味、醤油風味、ネギチキンなんていうのもあります。
岡田和美(以下、岡田):ネギチキンってどんなものですか?
ゆうき:チキンの上に、かんなで削ったような薄切りのネギが山盛りになっているんです。日本ではなかなか食べられないですね。そもそも「ヤンニョム」というのは、味付けした、という意味なんです。チキンを味付けしたものだから「ヤンニョムチキン」と呼ぶんですよ。
YJ:私が子どもの頃は、チキンといえばフライドかヤンニョムの二択でした。マンション団地暮らしが普及している韓国はデリバリー文化が以前から発達しているので、チキンの出前も頼めるんですが、注文するとバイクに乗った配達員の店員さんが、コーラと大根の漬物と一緒に持ってきてくれるんです。
岡田:チキンと大根の漬物がセットですか?
ゆうき:「チキンム」と言います。「ム」は大根という意味です。韓国ではチキンと大根の漬物は定番で、もしつけなかったらクレームがくるくらい。
YJ:日本の牛丼屋さんでいう紅生姜、お寿司で言うとガリのようなもので、チキンに大根がついてこないのは犯罪レベル(笑)。私が小さい頃は、チキンも二択しかなかったのが、どんどんメニューが増えて、ここ最近はどんどんプレミアム化が進んでいる気がします。ゆうき先生は韓国で長く暮らされて、そういった変化を感じることはありましたか?
ゆうき:チキンは最初、カンナムのちょっと感度の高い人たちの間で人気になって、そこから急激に増えていきましたね。ちなみに少し話は逸れますけど、景気が悪くなればなるほどチキン屋さんが増えるんですよ。
岡田:それは鶏肉が安いからでしょうか?
ゆうき:安いのもありますが、リストラされた人が始めるケースが多いんです。特に1997年のIMF危機(アジア通貨危機)の後は、一気に増えました。大きな設備投資も、高度な調理技術もいらないということで、リストラされた人たちが退職金でチキン屋さんを始めたんです。その後も韓国の景気が悪くなるたびに、雨後の筍のようにチキン屋さんが増えていきました。
YJ:ウェブ漫画をドラマ化した『サウンド・オブ・ハート』という作品で、主人公の父親がまさにその設定でした。リストラされてチキン屋さんを開くんだけど、全然お客が来ないという。
ゆうき:競合店の多い中で勝ち残るには、差別化しなくちゃいけない。だから味のバリエーションを増やしたり、あえて高めの価格設定でプレミアム感を出したり、色んな作戦を立てるんですね。おかげで消費者からすると、よりどりみどりの状態です。
岡田:日本では今、タピオカ屋さんがつぶれた代わりに唐揚げ屋さんが増えてますが、それに近いものがあるかもしれませんね。
ゆうき:チキン屋さんが潰れて、ちがうチキン屋さんになったり。店の内装がほぼ変わってないとか、経営者しか変わってないとか、そんなパターンもあります。
YJ:経済成長している国ならどこでも起こることですが、韓国でも大手企業のフランチャイズが増えていて、個人商店は消えつつあります。昔は団地の中に、こぢんまりとしたチキン屋さんやパン屋さんがあったのが、どんどんフランチャイズの店に置き換わってますね。
ゆうき:もっと昔だと、チキンはグリルが多かったんですよ。
YJ:ローストチキンに近かったですね。
ゆうき:そうそう、トラックの後ろに機械がのっていて、チキンが吊るされてぐるぐる回ってるんですよ。
岡田:焼きながら売るってことですか?
ゆうき:そうです、鶏がずらーっと並んでて。最近はだいぶ減りましたが。
YJ:私の親世代になるとそちらの方がなじみ深いらしく、フライドやヤンニョムよりローストの方がおいしいって言ってましたね。
ゆうき:鶏の丸焼き「トンダックイ」ですね。
YJ:今は完全にフライドチキンに置き換わりましたね。
岡田:ローストチキンも、一羽単位ですか?
ゆうき:そうですね。もともと韓国には鶏をむしゃむしゃ食べるっていう文化があって、伝統的なものが参鶏湯です。
岡田:韓ドラを観ていて、チキンがお皿に山盛りなのはびっくりしました。そういえば、ポテトのようなサイドメニューも出てきませんよね?
YJ:サイドメニューが大根の漬物です。
岡田:すごいですね(笑)。
▶︎第2回は「(韓国化した)中華料理」について語ります。お楽しみに。
転載元:Netflix note