男臭さむんむんジャック・スパロウ演じるジョニー・デップが女装!?
7月1日公開の『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』に向けて話題が盛り上がっている今日この頃。
「パイレーツ・オブ・カリビアン」と言えば、ジョニー・デップ演じるジャック・スパロウの個性抜きには語れません。
これまでの海賊船船長のイメージをくつがえしたジャック・スパロウ……独特の無国籍ファッション、奔放さ、陸に上がるとなぜかおぼつかない足取りになるクセまで、こだわりがいっぱい。
当初はディズニー上層部に不安を抱かれていたというジョニー・デップの役作りですが、結果は見事なまでの大ヒット!
シリーズ5作の平均予算が約250億円(Box Office Mojoによる)という超大作で自己流を押し通す度胸も凄いし、その上でしっかり観客の心を掴んだのも、さすがと言うほかはありません。
独特の役作りで、手がハサミの人造人間・頭にカラスをのっけた悪霊ハンターから、最近ではドナルド・トランプ現アメリカ大統領まで、個性あふれる役柄をこなしてきたジョニー・デップ。
今日は、そんなジョニー・デップが妖艶な女装姿を披露した貴重な映画『夜になるまえに』(00)をご紹介しましょう。
悲劇の詩人レイナルド・アレナスが獄中で出会う、ふたりのジョニー
『夜になるまえに』は、ゲイの詩人レイナルド・アレナス(1943〜1990)が書いた同名の自伝小説に基づいた作品。
レイナルドはキューバ人、主に1959年のキューバ革命とその後のカストロ政権の時代を描いています。
革命成功の熱狂もつかのま、その後到来した共産主義社会ではゲイは違法な存在に。
ゲイというだけでなく、影響力ある文筆家でもある主人公レイナルド(ハビエル・バルデム)は、体制批判に敏感なカストロ政権に「反革命分子」とみなされて犯罪者に、刑務所生活を送ることになります。
そこでジョニー・デップ演じる2人の人物に出会うことに――そうなんです、なんと彼、本作では一人二役を演じているんですよ。
男子刑務所でモンローウォークを見せつける「運び屋」のゲイ・ボンボン
ジョニー・デップ演じる人物の1人目は、レイナルドと同じく囚人で、ボンボンという名のゲイ。
月に一度、屋上での日光浴の日に、ボンボンは完璧な女装姿で屋上に現れ、確信に満ちたモンローウォークと流し目で囚人たちを挑発します。
(Youtubeより)
「女装」と言っても獄中のあり合わせのものをかき集めてのおめかし。ホルターネックの「ドレス」も、よく見るとあり合わせ感満載です。
しかしガラクタをまといながらも「絶世の美女オーラ」を全身からビシビシと発しているボンボンには、まぎれもない本物の貫禄が!
剃り残しの口ヒゲは、むしろ愛すべきチャームポイントでしかありません。
さらに、「運び屋」というプロフィールがまた意味深。厳しく管理された刑務所で運び屋と言ったら隠し場所はどこか? もうお分かりですよね。
ティム・バートン監督作『エド・ウッド』(94)でもジョニー・デップの女装姿は見られますが、妖艶さでは断然こちら。
このボンボン、どうやらレイナルドに気がある風なのも見どころです。
主人公を魅了する「美男の中尉」
ジョニー・デップが演じるもう一人の人物は、レイナルドが内心「美男の中尉」と呼んでいる政府の役人・ピクトル中尉。
ピクトル中尉はレイナルドに、今後政府に協力することを誓う反省文を書かせます。
もっとも、反省文を書く間も、レイナルドは目の前に座っている「美男の中尉」の下半身のことで頭が一杯!
変態? それも否定しませんが(笑)、レイナルドは表面では政府に屈したものの、その実は反省文を書いている間も変わらずゲイ=反体制の存在であり続けたという意味でもここは面白いところです。
書き続けることと同性に恋すること、それこそがレイナルドの反体制レジスタンスですから。
レイナルドを説得しようとするピクトル中尉が、レイナルドの口に銃を突っ込んで脅す場面も。
口に銃を突っ込むシーンは、基本的に性的な暗示を含んでいると考えてほぼ間違いありません。
本作の場合はレイナルドの願望のアナロジー。
このシーンのダブルミーニングがいい感じに匂ってくるのは、やはり中尉がジョニー・デップだからこそでしょう。
レイナルド・アレナスが収容されていたモーロ刑務所はもともとスペイン統治時代に築かれた要塞で、現在は世界遺産になっています。(C)Michael Toft Schmidt
よく考えるとジョニーらしい出演作
カストロ政権を批判した反体制文学の映画化ということで、カストロ存命中だった製作当時はかなり政治色の強い映画だったはずの本作。出演者を選ぶ内容です。
ジョニー・デップやショーン・ペン(キューバの農夫役)というリベラルな顔ぶれには、この映画のカラーがよく表われている気がします。
この当時のジョニー・デップにしてはチョイ役で登場しているのは、当時長女リリー=ローズ・デップが誕生したばかりで、育児のため仕事を減らしたかったという個人的な事情があったようですね。
ゲイであることを「証明」すればキューバ出国を許可された!
さて、その後のレイナルド、1980年についに念願のキューバ脱出が叶います。
反政府運動に手を焼いたカストロ政権は、アメリカが難民受け入れを許可するや、異端分子をアメリカに送り着けて一掃するという策に出ます。そんなわけで、ゲイであることを「証明」すれば出国できるという絶好の出国の機会が生まれたのです。
警察署で審査官にゲイかどうかを審査されることになったレイナルド。気になるその審査方法とは……
「ウォーク! ウォーク!」
つまり、歩き方でわかる、というわけです。
冗談みたいな話ですが、原作にもあるので恐らく実話でしょう。
レイナルドはこのウォーキング・テストに無事合格し、晴れてアメリカへと出国します。渡米後、相変わらず偏見や貧困に苦しめられながらも書き上げたのがこの映画の原作です。
カストロ政権への強い怒りが溢れた原作……実はかなりシリアスな内容です。
監督のジュリアン・シュナーベルは、原作の政治色を抑え、一方で原作に漂うキューバ人的楽観主義を映像に引き出して、シリアスな物語にほどよい抜け感を作っています。その抜け感という要素を、ジョニー・デップが1人2役でサービス精神たっぷりに盛り上げているというわけです。
それにしても、歩き方でセクシュアリティが分かるという話、この映画を観るまでは都市伝説だと思っていました。
本当にそれだけで見分けられるのかどうか?
ジャック・スパロウのあの風変わりなウォーキングを見せたら、当時のキューバの審査官はどう判定するのか……ちょっと気になりますね。
【参考】
※ Youtube
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