冷たく美しく、不穏で切ない、爆笑コメディ『フレンチアルプスで起きたこと』

Why So Serious ?

侍功夫

公園などで小さな子供が、楽しそうにおもちゃで遊ぶ隣の子供の姿に、嫉妬と妬ましさでウソの号泣を始める姿は、誰でも一度くらいは見たことがあるでしょう。

大人からすれば、あまりにあけすけな真意につい笑ってしまいがちですが、泣いている子供にとっては、それしか妬ましさを表現する手立てを知らない、いたって真剣な思いです。でも、やっぱり笑ってしまいます。

崩壊する家族の肖像

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フレンチ・アルプスの高級リゾートホテルに5日間の休暇に来たのは、いつも仕事に追われるお父さんトマス、彼を支えるお母さんエバ、お姉ちゃんヴェラと弟ハリーの4人。朝からスキーをして、クイーンサイズのベッドに4人並んで寝て、翌朝からまたスキーをする、家族水入らずのスキーざんまいな休みを過ごしていました。

2日目のお昼、ゲレンデを望む絶景のテラス・レストランで食事をしていると、ゲレンデでは事故を防ぐための計画的で小規模な雪崩を起こしているところでした。山肌を轟々と音を立てて崩れる雪と、次第に迫る雪けむりは予想を越えて、遂に彼らが食事をしているテラスまで覆います。レストランの客たちはパニックを起こし逃げていきます。お母さんは2人の子供の手を取り、その場にうずくまってしまいました。

その時、お父さんは家族を残して一人で逃げてしまったのです。

雪崩自体は元々計画的なものが多少大き目になっただけで、被害と言えばテラスに巻きあげた雪のかけらを降らせた程度でしたが、家族には深い爪痕を残してしまいました。しかも残り3日間、家族だけのバケーションはまだまだ始まったばかりです……

お父さんは「結局事故にはならなかったし、そもそもオレは逃げてない!」と強弁を押し通そうとします。お母さんは表面的には取り繕っていますが、釈然としない思いがちょくちょく顔を出します。2人の子供たちは両親の不穏な空気を感じとって、離婚しやしないかと気が気ではありません。

本作はそんな居心地の悪いバケーションの様子を淡々と覗き見していきます。

漆黒のコメディ

小学校高学年くらいのお姉ちゃんヴェラと低学年くらいの弟ハリーの2人はそのまま両親を象徴しています。

幼い弟は不安な感情をどう抑えたらイイのか解らず癇癪を起こすなど、直感的かつ本能的に行動します。姉弟のイニシアチブはお姉ちゃんが取っていますが、まだ自分の感情で手いっぱいで、弟のことまで考えられません。

それぞれ子供らしい感情です。しかし、幼い姉弟同様の心象が彼らの両親にも起こりますお父さんは不意の雪崩にパニックを起こして逃げてしまいましたが、その気まずさをどう解消したら良いのか解らないままです。お母さんはお父さんのバツの悪さを察してあげるよりも、杓子定規に認めさせようと意固地になってしまいます。

そんな居心地の悪い情景に、つい笑ってしまうのです。

本作はコメディ的な演出はされていません。あくまで、気まずい家族の様子を見せていくのみです。巻き込まれる友人たちも引っぱられる様に気まずくなっていきます。見ている観客も、いたたまれなく観賞することになります。それでもこみあげてくるのは笑いです。

真剣なおかしさ

公園で号泣する子供は誰かを笑わせようと泣き叫んでいるワケではありません。本人としては、そうする他無いと追い詰められて、真剣に泣き叫んでいるのです。しかし、そうした思惑はあさって方向へ吹っ飛び、傍目にはつい笑えてしまう姿です。

『フレンチアルプスで起きたこと』が描くのも、号泣する子供同様に真剣さに忍びよる拙いマヌケさの不可抗力なバカバカしさです。

静かで美しいフレンチアルプスに建つ瀟洒なリゾートホテルで、ひりひりする不穏な感情がぶつかった結果、どうしようもなく笑えてくるのです。そんな、ひょうたんから馬が飛び出すような心持ちを味わいたい方にお勧めの1作です。

公式トレイラー

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※2022年9月28日時点のVOD配信情報です。

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  • oyuwarix
    4
    画面の空気感がハネケ作品に似ていて、上品な画面の中に渦巻くブラックなユーモアがめちゃくちゃ楽しい作品。 父トマスと妻エバ、まだ幼い娘と息子の四人家族は久し振りの休暇でアルプスリゾートを訪れる。楽しく過ごしていたが2日目の朝に遭遇した雪崩の際、ついつい我先に逃げ出してしまったトマスの姿を観て、エバや子ども達は釈然としない。以降、亀裂は段々と広がっていく。 とにかく脚本が素晴らしい。誰も怪我を負うこともなかった雪崩をきっかけに家族の信頼関係が崩れていく様を中心に据えながら、リゾートで出会う様々な他のカップル達(浮気旅行であったり、20歳ほども歳の離れた組であったり)も巻き込んで織り成される人間模様の色々が、どの場面もほどよく笑えるビターなコントといった雰囲気で器用にまとめられていて、しっかりと面白い。 父としての権威の失墜をなんとか取り繕おうとしてより泥沼にはまっていくトマスと、そんな彼を見てますます失望を深めていくベラ。二人の雰囲気を察して落ち着かない子ども達。ラストに雪山で行われる家族再生の儀式はあまりにも陳腐だが、あの陳腐さをあえて引き受けてでも、それでも絆は取り戻されなければならないという切実な眼差しが、「家族」という共同体を皮肉りながらも暖かく見つめている。 と、しかしこの映画の楽しいのはそこで終わらないところ。本作ここまでは基本的に夫が株を下げる話なのに対し、最後の最後、だめ押しのように投下されるバスでのエピソードは、ここにきて妻のあれこれを嫌な感じで炸裂させていく。これで映画を閉じていく脚本家の意地の悪さに、自分はとても共感しつつ最後まで楽しかった。 あんまりカップルや夫婦では観ないほうがいいかもしれない。そして家族を含め共同体は何でもそうだけど、「ほどほど」がいいのかなと改めて思う。そんな作品。 ついつい脚本について語りたくなる本作だけど、ヨーロッパらしい綺麗で終始落ち着いた画作りや音楽の使い方もうまく、進行テンポの塩梅なんかも丁度良い。全方位にこれといった隙のない秀作。
  • goatbabe
    4.4
    これは、気まずい。家族で見ると、気まずいの
  • ちの
    3.3
    面白い。 地獄みたいな空気感、最高。
  • takanashi0928
    4
    この雰囲気、内容や原因違えど身につまされて見るのが辛かった。。雪崩や雪山のショット、ラストの捻った展開、音楽(ヴィヴァルディ四季)の使い方も印象的で見応えあった。
  • Irimuka
    -
    最高に面白い。
フレンチアルプスで起きたこと
のレビュー(8206件)